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見習い魔法剣士の英雄譚  作者: 清水 悠燈
魔法界の危機編
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-決意の力-

 

「お前ッ! よくもセナを……ッ!」

「悠斗、待って……!」


 躊躇してはいけない。

 この少女は危険だ。

 今度はベルと自分の身が危ない。

 魔力で矢を生み出し、一気に3射放つ。

 だが、それも尽く弾かれる。


「弓兵は引っ込んでいた方が良かったか?」

「吐かせ……ッ!」

「相当の実力者だと思ってはいたがその程度とは……見損なったな」

「チッ!」


 セナは戦闘不能。

 ベルはその治癒で戦えない。

 せめてセナが逃げられるくらいに回復するまでは俺が何とかしなければ。

 そう思えば思うほど思い通りに事が運ばない。

 やや左に1射。

 回避するであろう右方向にもう1射。

 ダメ押しで跳躍回避を考えたやや上への1射。

 何度矢を放てども、マツリにはかすりすらしない。

 むしろ遊ばれている。

 いくら矢の生成に必要な魔力が少ないとはいえ、このままではジリ貧だ。

 一か八か大技で相手を怯ませ、その間にセナを担いで逃げるか……?

 いや、相手は必ず追ってくる。

 逃げ続けていては勝利はありえない。

 俺達と同じ魔法を使える人間。

 枠は同じはずなのに、どうしてここまでの差が。

 俺だって鍛錬はしてきた。

 嫌でも血反吐を吐いてでもだ。

 それでも、目の前の少女だけでなく、霧という剣士にも威圧だけで敗北した。

 無意識に「俺なんかじゃ……」と零す。

 俺なんかじゃ誰も守れやしない。

 また響也のような犠牲を目の当たりにしてしまう。


「その目、お前に刃を向ける価値は無くなった。敬意を払う必要もない。早々に失せろ。戦いに意味を見いだせない奴を斬り捨てた所で私の刀が汚れるだけだ」

「違っ……俺は……!」

「違わん。同じ人間として、同じ戦士として恥ずかしいと思え。お前の様な弱者の腹は見据えている」


 攻撃を受けた訳でもない。

 それなのに、俺の体はピクリとも動かない。

 それは恐らくマツリの口調が師であるフラムに酷似しているからだろう。

 実の所、誰がなんと言おうが悠斗は強い。

 だけど、足りな物が一つだけ。

 彼の心は自分よりも強い者に弱い。

 かつてのように目の前で友達を失うかと思うと戦意を失ってしまう。

 強くなると決めたのに……


「悠斗……立てよ……」


 ギリギリ聞き取れるようなか細い声が聞こえた。

 それは正真正銘セナのものだ。

 セナは満身創痍にも関わらず叫んだ。


「もう誰も……失わないんだろ……!」

「ッ! そうだな……凛華を取り戻す……! じゃないと響也に顔向けできねぇッ!」

「ほう……? だが所詮は仮初の勇気。真の強者は挫けん」

「だろうな……だけど、俺は強くなんてない! だからこそ守るんだよッ!」


 身体から魔力が溢れ出す。

 否、これは魔力ではなく闘気。

 決意の力だ。

 それに応えるかの如く、相棒であるアポロンが姿を変えた。

 圧倒的な存在感を放つ神々しい二丁拳銃。

 それがアポロンの新たな姿だった。


「少しは評価しよう。お前の決意の強さは伝わった。だが、私の決意の比ではないッ!」

「お前の決意が何だか知らねぇけどッ! 俺はもう逃げねぇッ! 障害物があるなら全部跳ね除けてぶち抜いてやるッ!」

「せぇあああああッ!」

「おぉおおおおおッ!」


 悠斗の弾丸はマツリの刀に阻まれ、マツリの剣術は悠斗の銃身に受け流される。

 とてつもない高レベルの近距離戦闘。

 恐ろしいのはその速度だけではない。

 2人とも、魔法を一切使っていない。

 弾丸を例外として、悠斗は自己強化魔法『クイック』『バーサク』を一切発動していないのだ。

 対するマツリも然り。

 ただ剣気しか感じない。

 ベルが唖然として2人の激突を見ている。

 その目は焦点を定めきれていない。

 セナもギリギリ見えているといったところだ。


「そうか……これが……」

「セナ……?」

「これがティルの言っていた『覚醒』……」

「『覚醒』……? 魔法じゃないの……?」

「違う、多分だけど。あれは一種の境地だ……」

「境地……」


 推測ではあったものの、セナの考えは概ね正しかった。

 これが武の境地であり、決意の力の究極。

 魔力を一切用いない『覚醒』である。

 悠斗とマツリ、お互い覚醒に辿り着いている者同士の戦い。

 それは予想外に一瞬で決着が着いた。


「俺の……勝ちだッ!」


 悠斗が地面に伏したマツリの額に右手のアポロンの照準を合わせている。

 セナが手も足も出なかったマツリに王手を指したのだ。

 マツリは驚きと悔しさの混じった表情を浮かべているが抵抗はしない。

 彼女は戦士として筋の通った生き方をしているようだ。


「凛華はどこだ」

「答える必要は……無いな」

「いいから答えろッ!」

「知りたければ見渡せ。彼はそこにいる」

「彼だと……?」


 そう言われて周囲に目を向ける。

 そして、拍手する人影を見つけた。

 いくら戦闘に集中していたからといって、ここまで接近されて気づかなかったなんて……

 そこにいたのは満面の笑みを浮かべる剣士霧。

 ベルに治療されているセナも気づいていなかったらしく呆然としている。


「へぇ……すごいやん君。正直言って驚いた。次はオレと手合わせ願える? オレに勝てたら凛華は返したるわ」

「上等だ……あんまり舐めんなよ……? 痛い目にあっても知らねぇぞ」

「こりゃ大きく出たなぁ。その言葉……そっくりそのまま返したるわ」


 悠斗は再度アポロンを構え直す。

 対する霧は刀を鞘に納めたまま、グッと腰を落として構えをとった。

 一触即発の雰囲気。

 風が一瞬止んだ。

 それを合図にお互い攻撃を開始した。

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