-異界へ-
時刻は3時の真夜中。
俺は睡眠を取らないつもりで考えていた。
凜華を救い出す方法を。
相手はたった1人。
それも魔法を使えない人間だ。
それなのに団の精鋭だけでなく、俺や王専属魔法使いのティルすらも戦闘不能へ追いやった。
多分フラムですら勝てない。
いくら最強の魔法使いでも、あの速度は捉えられないだろう。
ならばどのようにして凜華を救う?
視認出来ない速度、魔法への恐怖が全くない根性、何よりあの剣術。
どれを取っても俺達に勝ち目は無い。
更に不運は重なっている。
霧と名乗った凜華の兄の目的が凜華の奪還だとすれば、凜華達は既に人間界に戻っている可能性が高い。
そうなれば本当に終わりだ。
なぜなら、人間界には魔力が無い。
よって人間界で魔法を使って魔力を消費しても、魔法界の様に空間に魔力が漂っていないため魔力が自然回復しないのだ。
それに、俺が得意な自己強化魔法は発動している間にジワジワと魔力を消費する。
かと言って、瞬時に発動しても意味が無い魔法が多い。
だから、魔力が自然回復しない場所では、他の魔法よりも消費魔力が多くなるのだ。
不利だ、圧倒的に。
俺が悩んで机に突っ伏していると、正面に座る人影があった。
服装は相変わらずの女子力の無さだが、フラムに違いない。
「どうした、お前らしくないな。ふむ、凜華を助ける方法でも考えていたいたんだろう?」
「あぁ……うん。でも、どう考えても無理だ。凜華はもう人間界にいる可能性が高いから……」
「なら行けばいいじゃないか、人間界に」
「その手も考えたけど、人間界の環境じゃあ尚更霧には勝てない」
フラムの事だから、人間界への転移は提案してくるとは思っていた。
事は深刻だなのだ。
考えろ……霧に勝たずとも凜華を救う手段を……
フラムは俺をいつもの興味無さそうな目で見た。
「余計なお世話じゃないのか? もしかしたら凜華は人間界に戻って、それが幸せなのかもしれないんだぞ?」
「……ッ! それは……そうかもしれないけど……!」
「まあ、好きにするといい。お前の団員だからな。それと、私は今回も助けないぞ。人間界への転移門程度なら開いてやる。その時になれば呼べ」
「ま、待てよフラム……!」
フラムは俺の静止の声を無視して消えた。
よく考えたらフラムの言った言葉は間違っていない。
凜華は人間界にいた方が良い……
もしそうだったとして、俺達が無理矢理凜華を連れ戻したら、凜華はどう思う?
余計なお世話、そう思うだろう。
「くそ……ッ! 俺は一体どうすれば……!」
怒鳴っても意味が無いのは分かっている。
けれど、そうしなければ気が狂いそうだった。
凜華に対する矛盾だけじゃない。
霧に見せつけられたあの圧倒的な実力。
俺があのレベルに達するには、後20年は必要だ。
それほどの実力差。
そんな敵に勝たなければならないという自ら課した責任に押し潰されそうなのだ。
結局その日、俺は一睡もせずに朝を迎えた。
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翌朝、俺は拠点に《魔法騎士団》全員を集めた。
寝ていないからか、体はいつもより重い。
「凜華のことだけど……全員では行かないことにした」
「行くって、人間界にか?」
「あぁ」
「おぉ! 久しぶりの人間界!」
人間界に戻れると聞いた悠斗のテンションがやたらと高い。
まあ、それもそうだろう。
故郷に帰る様なものだ。
凜華を救い出した後、時間があれば学校を覗きに行くのもいいかもしれないな……
「人間界に行くのは俺と悠斗、あとベルの3人。この3人が一番連携を取りやすいから」
「「了解!」」
「私達はどうしればいいんですか?」
「残ったアナスタシア達はいつも通り王国の警戒を頼む。またいつ《背理教会》が現れるか分からない」
「分かりました」
「出発は2時間後ここで。出来るだけ魔力は温存しておいてくれ」
集合時間になった。
拠点には先程のメンバーとフラムがいる。
全員、準備は出来ているようだ。
「セナ、帰り用のインスタントだ。失くすなよ?」
「うん。ありがとう」
「それとこれを。私と凜華が出会った場所だ。恐らくそこが凜華の家だ」
「あ、あぁ。助かるよ」
助けないと言っておきながらこれだ。
本当に親バカなのか。
でも、助かる。
これで捜索範囲は一気に絞られた。
俺達の装備は私服と腰に巻くタイプのポーチ。
鎧やローブを着ないのは、人間界では不自然だから。
ポーチの中には人間界で役立つであろう物が色々と入っている。
よし、いつでもいける。
「フラム、頼む」
「あぁ。"開け、異界の扉。翔べ、未来へ"」
「行ってくる」「師匠! 行ってきます!」「行ってきますフラム様」
「必ず凜華を救ってこい」
「「「了解!」」」
人間界への扉が開かれた。
フラムも凜華がいないのは嫌なのだろう。
みんな同じ気持ちだ。
絶対に助け出す。
全員が揃わないと《魔法騎士団》じゃない。
もう少しだけ待っててくれ、凜華!
俺達は覚悟を決めてゲートを潜った。




