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見習い魔法剣士の英雄譚  作者: 清水 悠燈
魔法界の危機編
53/66

-霧の実力-

 意識が危うかった身体は自己強化魔法『リジェネレーション』で何とか回復出来た。

 だが、今の状況は最悪だ。

 戦闘の次元が違い過ぎる……

 凜華とその兄貴の実力。

 2人とも圧倒的な速度だ。

『バーサク』を使っている俺でも『魔力視』でうっすらと魔力の跡が見える程度。

 それ以外姿すら見えない。

 刀同士が激突した衝撃で何度も吹き飛ばされている。

 これは災害級だぞ……

 建物も、畑も何もかもが吹き飛んでいた。

 辞めさせなければ……

 俺に止められるのか……?

 いや、無理でもやるんだ。


「"剣よ"……ッ!」


 覚醒魔法『ディバイン』。

『魔法剣デュランダル』に宿る天使と悪魔の力を借りて、通常より遥かに強力な力を得る魔法。

 ただし、天使か悪魔かはランダムだ。

 俺の予想では今回は悪魔。


『さァ、その身を委ねロ!』


 あぁいいさ。

 お前の力でこの2人を止められるなら止めてみろ!


『オレっちを舐めるナ! 見せてやるヨ! 悪魔の力をナ!』


 バチンッと黒い稲妻が俺の身体を纏う。

 そのまま真っ黒の鎧が俺を包んだ。

 タウラスを倒した天使のディバインを『天使モード』とするならさしずめこれは『悪魔モード』だ。

 問題は、この悪魔に主導権を握られると何をされるか分からないこと。

 タウラスを倒した後、幾度か『ディバイン』を行使して天使と悪魔と話してきた。

 天使はルールに厳しいけれど優しい奴。

 悪魔は自分勝手でやりたい放題のバカ野郎。

 それでも、どちらも頼りになる俺の相棒に変わりない。


「ハハッ……やっぱり人間の身体ってのはいいなぁ……さて、やる事やりますか……ッ!」


 何度体験しても身体が勝手に動く感覚というのは気持ち悪いものだ。

 これも慣れなければいけないのだが……

 面倒なのは主導権は握られているのに、五感は共有状態にある事だ。

 悪魔がヘマをすれば俺も痛い。

 ヘマしたら許さん。


「"穿て、黒雷よ"ッ!」

「「ッ!」」


 魔力が一気に高ぶったのを感じた。

 身体の底から魔力を搾り取られた気分だ。

 だが、その甲斐あってか凜華と兄貴の動きは止まった。

 見ると、凜華の身体の至る所から血が出ている。

 過剰な魔力に身体が限界を訴えているのだ。

 一刻も早く辞めさせないと……!


「分かってるよ主。野郎の方を止めればいいんだろう……?」


 あぁ!

 気を付けろよ……あいつは人間の次元にいない……!


「あいよ……ッ!」


 黒い稲妻を纏ったまま兄貴に激突する。

 バチバチとスパークしながら相手の刀をデュランダルで抑え込む。


「あぁ痺れる……さっきも痺れたんや……もう飽きたわ」

「ハッ! 人間風情が抜かしやがるッ!」

「凜華も人間なんやけどなぁ……ひょっとして君、多重人格かなんか?」

「だったらどうしたぁッ!」

「いや、多重人格なら斬り捨ててもいいんかなって。だってほら、君が本体やなかったら罪の無い人間を殺すことになるやろ? うーん、弱ったなぁ……」

「舐めんなッ!」


 うわぁ、悪魔が煽られてる。

 でも、死なれては困る。

 それ俺の身体だし。

 しかし、急に腹に激痛が走った。

 それがトリガーになって悪魔の主導権が俺に返ってくる。

 野郎……最悪のタイミングで逃げやがって……!

 自由になった身体で激痛の走る腹を見た。

 かなり深く斬られている。

 これ、はらわた出てきたりしないよな……?

 胃から血が上がってくる。


「ゲボッ! オェ……」

「見るに堪えへんな。凜華もそろそろ限界やし、返してもらうな?」

「やめ……ろ……グゥッ!」

「黙っとき? 下手したらはらわた出てくるで?」

「凜華は……俺達の……仲間……だ……」


 顔を思い切り踏みつけられても、諦められない。

 凜華は絶対に渡さない。

 仲間が……親友が嫌がっているんだ……

 助けを……求めているんだ……

 それを助けない友達がいてたまるか……ッ!


「周りを見てみ? 全員殺してもええんやで? 今は眠ってもらってるだけやけど、オレと凜華の障害になるんやったら……殺すから」

「く……そ……」


 俺が地面にへばりついている間に凜華にも限界が来た様だ。

 力無く倒れた。

 それを自称兄貴が肩に担ぐ。

 そして、王国の門の方へと歩いていく。


「あ、そうや。オレの名前言ってなかったな? 真田霧。覚えとってもええで」


 霧はそう言い残して去っていった。




 ───────────────────────




「凜華を誘拐された上にこの有様か……ティルに限っては王専属魔法使いのくせに瞬殺されるとは……」

「んだとテメェッ! 戦ってねぇ奴に何が分かるッ!」

「はぁ……で、ベル、セナの様子は?」

「かなりの大怪我でしたが、無事です。後遺症もありません」

「そうか。よくやった」


 真田霧による強襲の被害は中々に甚大だった。

 あの場に集った各団の古参魔法使い達はほぼ全員が斬られている。

 誰も死んではいないが、心をやられた魔法使いが何人か。

 そういった魔法使いは記憶を消されるなどの処置をされるだろう。

 それでも王国の戦力は大きく削られた。

 あの野郎……次会った時は必ず……!

 と、心を憎悪に囚われかけていた俺の目を覚まさせる様にベッドを囲うカーテンが開かれた。

 開けたのはバスケットを持ち、麦わら帽子と白色のワンピースを着たアナスタシアだ。

 少し寒いのか薄めの上着を羽織っている。


「セナ様、ご無事で何よりです。何かお食べになった方が良いかと思いまして、リンゴを持ってきました! 食べられますか……?」

「ありがとう、頂くよ……」


 そういえば、もうすぐ夏も終わるな……

 忙しい夏だった。

 それなのに……秋は凜華奪還か。

 人間界にいた頃は、食欲の秋、読書の秋だの静かなイメージだったのに、魔法界の秋は忙しいままらしい。

 アナスタシアが隣で危なっかしくフルーツナイフを使ってリンゴの皮を剥いている。


「出来ないの……?」

「で、出来ますよ! ただ……今までお手伝いさんにやって頂いていたので……」

「一応お姫様だもんね……」

「むー……一応ではなく正式な王族ですよ? セナ様は意地悪なんですから……」


 アナスタシアがムスッと頬を膨らませる。

 可愛いと思ってしまったが、口に出すわけにはいかない。

 俺にはベルが……!

 いや、ベルにはマナトがいるか……はぁ……


「はい、剥けましたよ」

「ありがとう。いただきます」

「そういえば、セナ様。ベルちゃんとキスしたそうじゃないですかー?」

「ブーッ! ゲホッゲホッ!ど、どうしてそれをッ!?」

「セイレーンが見てしまったらしくて……この子、自由な子ですからー」


 思わずリンゴを吹き出してしまった。

 セイレーンめ……余計なことを……!

 次出てきた時ぶん殴ってやる。

 アナスタシアはまたムスッと頬を膨らませた。

 どう言い訳したものか……

 いや、あれは別にそういう変な意味があった訳では無い。

 ちゃんと説明しなければ……


「あ、あれは『契約』に必要な事だったわけで……! そ、そういうキスじゃないから!」

「本当ですか……?」

「ほ、本当ですとも!」

「じゃあ……」


 アナスタシアはいきなり俺の肩に手を置いた。

 一体何をするつもりだ……!

 そのままアナスタシアの顔がグングン近づいてくる。

 照れているのか、顔が赤い。

 それが色っぽくて可愛い……

 そんな事に気を取られていて、思考が一瞬ぶっ飛んでいた。

 気づいた時には既に遅し。

 アナスタシアの唇が俺の唇を塞いでいた。

 それもかなり長い時間。

 息が限界になったのか、アナスタシアの唇が離れる。


「ふぅ……これがセナ様のファーストキスですよ……?」

「な……!」

「ベルちゃんとの『契約』のキスはそういうのではないんでしょう?」

「そう……だけど……」

「私ではご不満でしたか……?」


 息を荒らげて頬を紅く染めたアナスタシアは先程よりもずっと色っぽい。

 それに、そういう質問はずるいと思う。

 そんな事言われてときめかない奴は男じゃない。


「では、私はこれで……カーテンの向こうにはまだ皆さんおいでですから……」

「あ、あぁ……」

「好きですよ、セナ様……」


 アナスタシアはそう言い残してカーテンの向こうへと消えていく。


「どうしろっていうんだ……本当に……」


 俺はそう呟きながらも心の中ではドキドキが止まらなかった。

 一応俺だって思春期の男子だし、仕方ない。

 アナスタシアのことは幼い頃から一緒にいた幼馴染だからよく知っている。

 他人思いで優しくて、勇気のある子だ。

 前からそういうアピールはあったものの、面と向かって言われると混乱してしまう。

 今も頭の中でアナスタシアの言葉が響いていた。

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