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見習い魔法剣士の英雄譚  作者: 清水 悠燈
魔法界変革編
5/66

-ふたりのメイド-

 

「セナ様、朝食の用意ができましたよ」

「んん……ベル? おはよう」

「はい、ベルです。おはようございます」


 俺を目覚めさせた声の主はベルという同い年くらいの少女だ。

 鏡のような銀髪を腰まで伸ばし、少しだけ三つ編みの部分がある。

 そして、その妖精のような少女が身にまとっているのがメイド服。

 そう、ベルはフラムに仕えるメイドなのだ。

 フラムが不在の間、主に俺の世話と隠れ家の警備を行っている。


「どうしました? そんなに見られると照れてしまいます」

「あ、いや、見てたわけでは……」

「そ、そうですか。それは失礼しました。私は戻りますので朝食の冷めないうちにリビングへどうぞ」

「あ、ああ。ありがとうベル」

「いえ、これがメイドの本分ですから」


 ベルはそう言って丁寧にお辞儀し、俺の部屋を後にした。

 口調からわかるおっとりとした性格といい、薄いと言えばそれこそ失礼だが、そんな胸に両手を重ねて照れる仕草といい、なかなかにかわいい。

 いや、嘘をついた。とてもかわいい。

 さらに、フラム曰く、ベルは戦闘もこなせるバトルメイド的存在らしい。

 いざとなればフラムが後衛、ベルが前衛として戦えるそうだ。

 あまり詳しくは知らないのだが……


「まあ、朝ごはん食べよ……」


 そう言って俺は立ち上がりリビングを目指した。




 リビングにはもうすでに悠斗が朝食の並んだテーブルのイスに腰掛けていた。

 その近くにはベルとは別のメイドがひとり。

 ライトブラウンの髪を肩まで伸ばし、ベルと同じように三つ編みが少し。

 胸は結構ある。

 ついベルと見比べてしまうと、ベルがそれに気づいて両手で胸を隠した。かわいい。

 彼女はベルと同じくフラムに仕えるメイドであり、名前は凜華(りんか)

 なぜ和名なのかというと、凜華もまた悠斗と同じように人間界から来た人間だからだ。

 フラムの事だ。どうせ面白そうだからと言って連れてきたに違いない。

 だが、凜華自身それに不満は無いらしく楽しそうにメイドをしている。


「おはよう悠斗、凜華。早起きだな」

「おはよーセナ。早寝しすぎたんだよ多分」

「おはようございますセナ様。うちはメイドやから早いんは当たり前や!です」

「凜華もベルも敬語はいらないって言ってるのになぁ」


 凜華は人間界の大阪という都市から来たらしく、話し方が独特なのだ。

 確か関西弁?と言っていたような。

 しかも、敬語に不慣れなのか変な感じになっている。

 それに、2人とも仲間として仲良くやっていきたい。

 だからメイドでも敬語は抜いてほしいのだ。


「わ、わかった……セナ……くん……」

「んー! その方がうちも助かる! ありがとセナ!」


 ベルがかわいい。とてもかわいい。

 満面の笑みを浮かべる凜華もかわいい。ベルに負けじとかわいい。

 あれ、いつからこんなに素晴らしい環境になったのだろうか。

 少し前までは男しかいなかったような……


「あ……ッ! フラムって女じゃん!!」

「なっ! セナ、お前なぁ! 師匠は立派な淑女じゃねぇか!」

「うん、失礼だよセナくん!」

「せやなぁ、最低やわセナ」


 喋り方に女性らしさの微塵もないし、戦闘スタイルも男勝りのゴリ押しだから完全に忘れていた。

 よくよく思い返せばフラムもなかなかの美人なのだ。

 たしかにこれは俺が悪かった。

 でも、悪く言い過ぎじゃないかこれ。

 そんな平凡な会話の最中に、大きな音をたてたものがあった。

 魔力の相互通信によって連絡を取り合うことの出来る『魔力通信機』だ。

 これは他者との遠隔通信を行う効果を付与する自己強化魔法『コミュニケイト』に秀でた職人だけが付与魔法で作成できる魔法具のひとつ。

 しかもこれが阻害魔法の影響を受けないという優れ物でもある。


「こんな場所に通信だなんて……いったい何かな……?」

「さあ? イタズラとかじゃないのか?」


 不安になりながら恐る恐る音のなる通信機の通話ボタンに触れるベル。

 すると、目の前に小さな魔法陣が展開され、『コミュニケイト』が発動した。


『フラムさんのお宅ですかッ!』

「そ、そうですが……何か御用でしょうか……?」


 魔法陣から聞こえてきたのはかなり焦った様子の男性の声だった。

 ベルがその勢いに少し驚く。


『急いで王都の病院へ来てくださいッ! フラムさんが大変な事にッ!』

「「「ッ!!」」」

「わかりました……! すぐに向かいます!」


 フラム……あのバカ親がッ!

 あれだけひとりは危険と言ったのに……!

 見渡せば全員の顔が真っ青になっていた。

 とりあえず今は急いでフラムの元に向かわなければ。


「みんな、急いで支度しろ! 移動はフラムの『インスタント』を使う!」

「わかった!」

「師匠が! 師匠があー!」


 メイドのベル、弟子の悠斗が早急に準備を進める中、ただひとり、凜華だけがその場に棒立ちになっていた。

 その瞳には一種の決意の色がある。


「凜華も早く……ッ!」

「うちはここに残る」

「どうしてッ!」

「この隠れ家はフラム様の物や。ここを空っぽにするなんてこと、メイドとしてできやん」


 たしかにこの隠れ家が何らかの理由で無くなってしまうのは恐ろしいことになる。

 ひとりでも残しておく方が利口なのかもしれない。


「…………わかった。この隠れ家は任せたぞ凜華ッ!」

「任せときッ!」


 そう言って、凜華は外へ歩いていった。

 きっと大丈夫なはずだ。

 信じるしかない。

 一方でベルと悠斗は準備を終えた用でバッチリ戦闘用の服装に着替えていた。

 ふたりともとても身軽な装備だ。

 そんなことはともかく、今は急いでフラムの元へ。


「ふたりとも集まって」

「フラム様流石です。こんな時のために『インスタント』を用意しておくなんて」


『インスタント』とは魔法具である『マジックペーパー』に魔法陣を刻むことで、インスタントに少量の魔力を流し込むことで刻んでおいた魔法を使用できるという便利魔法具だ。


「感心するのは後だ! 行くぞ! 『ループ』ッ!」


 普段の俺には使えないはずの魔法が発動する。

 転移先は王都。

 急げば5分で病院につくはずだ。

 だが…………




 ───────────────────────




「ここは…………?」

「いったい何が…………」

「どこなんだよ…………?」


 俺、ベル、悠斗の順に驚愕する。

 これはまずいことになった。


「転移先が…………王都じゃない…………?」

「まさか……ッ!」

「師匠ッ!!」


 今いる場所は高い樹木に囲まれた森林の中だった。

 全て仕組まれていたのか……ッ!

 フラムに組織の情報をリークしたのも、インスタントをすり替えたのも……ッ!


「エレナァァァッ!!!」


 気づけば俺は叫んでいた。

 わかってしまったのだ、この場にあの悪魔がいることに。


「ベル、後方に下がれ。ここは俺とセナでやる」

「やだ、私もいく。そうじゃないと、付いてきた意味が無いから」

「まったく、たくましいね……ッ!」


 俺の後ろで悠斗とベルが戦闘態勢に入った。

 悠斗は『魔法弓アポロン』を。

 ベルは名称不明の巨大な『鎌』を。

 俺も短い詠唱と共に愛剣を召喚する。


「"掲げよ、約束の剣"ッ!」


 目の前に具現化する『魔法剣デュランダル』。

 フラムと職人に頼んでもう一度『リカバリー』を付与し直してもらった。

 なんだかんだで保険が無ければ戦えない自分が腹立たしいが、今はふたりも仲間がいる。

 これならエレナにだって負けない。


「あーら。随分と手厚いおもてなしじゃなーい?」

「エレナァァァッ!!! お前は……お前は殺すッ!!!」


 突然、目の前にエレナが現れる。

 何らかの転移魔法か。それとも別の魔法で隠れていただけなのか。

 だが、今はそんなこと…………どうでもいい。

 俺は憎悪に意識が奪われ、なんの連携も無しに飛び込んでしまった。

『クイック』を発動させて一気に斬りかかる。

 だが、エレナとて同じ策に負けるような魔法使いではない。


「甘いのよ。同じ策が私に通用するとでも思ってるのかしら」

「ぐぁ……ッ!」


 剣を振り上げた瞬間に、いつの間にか接近していたエレナに振り上げた腕を取られ勢いよく投げられた。

 俺は……何も学んでいない。

 学んだつもりでいて、全然だったのだ。

 前回のエレナとの戦いでも、俺はエレナの体術に負けたのに……


「ね? わかったでしょう? アナタじゃ私の相手には役不足なのよ」

「う……あぁ…………ッ!」

「そうそう! もっと壊れて頂戴ッ!」


 わかっていた。

 わかっていたさ…………ッ!


「シ……ッ!」

「な……ッ!?」


 エレナの頬に浅くだが傷を与えた。

 エレナの性格の悪さなんて、簡単にわかっていた……!


「油断しすぎなんだよッ!」

「あら、騙されたのね……この私が……アハッ! アハハハハッ!」


 そう、騙したのだ。

 俺が壊れたフリをすれば、エレナが挑発するだろうと思った。

 その間、エレナは隙だらけになる。

 これは前回の戦いでわかったこと。


「おもしろい……ッ! アナタ、本当におもしろいわッ!」

「抜かせッ!」

「危ないわね……でも、もっと面白くなるのはここからよ?」


 俺は一気に距離を詰め、『バーサク』と『クイック』を発動させつつ連続で攻撃する。

 エレナはフラムの攻撃で受けた傷が癒えていないのか、動きにキレがない。

 勝てる……!

 少し離れた所で悠斗とベルが「いつでもいける」と合図を出している。

 万が一にも俺がやられたとして、それでもまだふたりいる。

 負ける気がしない。


「うぉぉぉぉッ!」

「この……ッ!」


 だが、物事そんなに簡単にはいかないのが世界の理。

 気づくのが一瞬でも遅れていたら、死んでいた。

 小さくバックジャンプをした俺の鼻を掠めた弾丸によって。


「く……ッ!」

「もらったわ……」

「げほ……ッ!」


 その隙にエレナの拳が俺の腹部にめり込んだ。

 そのまま吐血しながら勢いよく吹っ飛ぶ。

 だが、それも束の間、吹き飛ぶ速度より速く飛来したエレナが蹴りを放ってきた。


「これはフラムにやられた分のおまけ。ってとこかしら」

「がふ……ッ!」


 俺はさらに加速して真後ろにあった巨大な木に激突した。

 あまりの威力に木に放射線状のヒビが入る。

 俺も危うく意識を失うところだった。

 意識はある。だが、肝心の身体が動かない。


「最期に遺す言葉は?」

「てめぇは絶対に殺す……ッ!」

「うふふッ! このシチュエーション、2回目なのよ? もう同じことなんて起こらないの。ちゃんと死んでね?」

「ハハッ! やなこった」

「死ね」


 最期の最期で満面の笑みで微笑む俺に、無表情になったエレナがトドメの一撃を振りかざした。

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