-凄腕の鍛冶師-
草木がちっとも生えない崖と滝しかない場所で、俺はある物を探していた。
あの岩なんて丁度いいのではないだろうか。
俺はデュランダルを右手に、勢いよく岩に斬りかかった。
「シッ!」
予想通り岩が上下真っ二つに分断される。
これで終わるのはまだまだだ。
俺は岩を蹴り上げた。
自己強化魔法を一切使っていないから足が痛かったが気にしない。
宙に飛び上がった岩に幾度も斬撃を与える。
岩が木っ端微塵に砕け散った。
もちろん空中で砕けたわけだから無数の石となって降ってくる。
「うぉぉぉぉッ!」
これを自己強化魔法無しで回避する。
と言っても無理があった。
「痛っ!」
最初の10個までは回避出来たがそれ以降は全然ダメだ。
これではまだまだ強くなったとは言えない。
それにしても、もうこんなに暑い季節になったか。
汗が止まらない。
少し落ち込みつつ手で仰いでいると、滝の裏から見知った人物が現れた。
「また修行か、セナ? どうだ、私と手合わせしないか?」
「フラム……いつもいきなりだな……勝てる気がしないんだけど……」
「そう言うなよ。私だって手加減くらい出来る」
「はぁ……でも、やるからには全力で来いッ!」
「望むところだッ!」
俺が突撃を始めると同時に、氷の茨が目の前に現れる。
やはりとんでもない詠唱速度だ。
無詠唱でもこれだけ早く魔法を展開出来ない。
だがフラムのチートスペックは十分に知っている。
でも、負けを受け入れる俺じゃない。
突撃中にも関わらず、デュランダルを地面に突き刺す。
そして、突撃の勢いを殺さずに空中へジャンプ。
流石のフラムも少し驚いている。
これで終わりではない。
腰から『無限剣イカロス』を抜き取りフラムへ投げつける。
かなりの速度で投げたつもりだったのだが、フラムの杖『ケルベロス』に軽々と阻まれた。
まだだ。
フラムの背後を取れた。
一気に畳み掛ける。
自己強化魔法『クイック』『バーサク』を同時詠唱し、瞬間移動にも似た速さでフラムの懐へ潜る。
取った……!
魔法主体で戦う魔法使いはこの距離は対応出来ないはず。
いや、フラムがわざわざあんな隙だらけの陽動に引っかかるだろうか?
引っかかるわけがない。
俺は急いでフラムの側から離れた。
と同時に俺が先程までいた場所に土の針が何本も突き出た。
それもかなりの速度で。
「危な……下手したら死んでたぞ……」
「これくらいで死ぬのか、お前は。それにしても、さっきのはいい動きだった」
「そりゃどうも。でも……」
「ッ!」
「俺の勝ちかな?」
すっかり油断しきったフラムの首元に1本の短剣がスレスレに迫っていた。
俺が陽動としてイカロスを投げた時、後方にもう1本投げていたのだ。
それをイカロスに付与した魔法『コントロール』で方向を変え、現在の状況に至る。
我ながら裏の裏をかく見事な作戦だったと思う。
「アハハッ! いいなセナ! 強くなった! 私が教えられることももう少なそうだ」
「今のはフラムが油断したからだろ? 普段ならそうはいかないよ」
「謙遜するな。お前は強いぞ? 《背理教会》の幹部を3人も破ったんだ! おまけにマリーも。自信を持っていい」
フラムが俺を褒めるなんて珍しい。
明日槍でも降ってくるのではないだろうか。
たしかに3人も幹部を倒した功績は誇っていいだろう。
だが、これは俺だけで成したわけではない。
《魔法騎士団》全員の功績。
誇るべきは自分ではなく仲間達だ。
それと、このデュランダル。
幾度となく危機から俺を救ってくれた。
感謝しても足りないくらいだろう。
「そういえばセナ、お前はまだその剣の製作者と会ってなかったよな?」
「あ、あぁ。確かに。会ってみたいな……こんな凄い武器を作れるんだ。さぞかし有名な鍛冶師だろうなー!」
「何なら今から会ってくるといい。ついでにデュランダルのメンテナンスもしてもらえ。場所は……」
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ということで、唐突ながらデュランダルを作った鍛冶師の元へ出向くこととなった。
悠斗の『魔法弓アポロン』もベルの『魔法鎌ヴラド』も『無限剣イカロス』もその鍛冶師が作ってくれた物らしい。
俺が見てきただけでも尋常じゃない代物だ。
ワクワクが止まらない。
もし時間があったら錬金術を教えてもらおう。
魔力が少なくたって時間を掛ければ何か作れるはずだ。
かつてフラムが使っていた古代魔法専用武器『縛影』のように自分で魔法具を作れたら良いことだらけだと思う。
そんな事を考えながら歩いていると、ようやく指定された場所に到着した。
今回気がかりなのは、フラムに指定された鍛冶師の居場所が病院であるということだ。
まあ、不思議がっていても仕方ない。
百聞は一見にしかず、会ってから考えよう。
既に目の前にはその鍛冶師の病室の扉があった。
「一体どんな人が……」
やけに軽いスライド式扉を開け、中に入る。
そして、その鍛冶師の姿が……
「よぉ、あんたがフラムの言ってたガキか」
「こ、子供ぉぉッ!?」
身長は100センチくらい。
幼い雰囲気と長い耳、褐色の肌と灰色の長髪が特徴の女の子だった。
「ガキじゃねぇよ! もう25になるれっきとした大人だ!」
「えっと……ドワーフ……?」
「そういうことだ。珍しいもんか? 城下町じゃ珍しいか! だっはっはっ!」
推定30代の女ドワーフは豪快に笑った。
ドワーフとは魔法界に少数だけ存在する小人のような人種の1つだ。
ドワーフの大多数は土系統魔法に特出しており、鍛冶師や錬金術師になる者が多いらしい。
1部魔法使いによる差別がまだ風習として残っているため、王国にいるのは珍しい。
「で、デュランダルのメンテだっけか? ほら、早く寄越せよ」
「あ、はい……」
「ふむ……えらく雑に使ってくれたもんだ! 魔力線も切れかかってる……ちょっと時間掛かるぞ?」
「わ、分かりました……」
女ドワーフは何処からかハンマーを取り出し、おもむろにデュランダルに叩きつけた。
素人には何をしているか全く分からないが、細かい作業を行っているのだろう。
左目の魔眼の力『魔力視』で、叩かれたデュランダルとハンマーの間にいくつもの魔力の残滓が見て取れた。
ドワーフの顔も真剣そのものだ。
というか、病室でこんなことをしていいのだろうか?
それに、まだ名前も聞いてない。
すると、ドワーフは何かを思い出したかの様にいきなり手を止め俺を見た。
「あ、名乗り忘れてた! 私はドワーフ族のミーナ! ミーナ・クリスト。よろしくな! このハンマーが相棒の『魔法槌ヘパイストス』!」
「えっと、《魔法騎士団》団長のセナ・レイズ……です。よろしくお願いします……」
「おぉ? 団長様かぁ! 偉いさんだなー! それと、敬語はよしてくれよ! そういうの苦手なんだわ!」
「分かり……分かった」
女ドワーフ改めミーナはニカッとはにかみ、作業に戻った。
不思議な人だ。
色々雑そうな雰囲気を持っているのに、作業は精密かつ的確だなんて、どこかフラムに似ている。
それで意気投合したのか?
まあ、フラムに関連する事は謎が多くて考えるだけ無駄なのは昔からよく知っている。
ふと横目に見たミーナの顔が怪しく笑ったような気がしたが、きっと気のせいだろう。




