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見習い魔法剣士の英雄譚  作者: 清水 悠燈
魔法界の危機編
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-今日もまた-

 実家に帰るのは何年ぶりだろう?

 10年くらいか。

 家を出てもうそんなになるのか。

 父と母はまだ生きているだろうか?

 まあ、あのしぶとい奴らはそう簡単には死なないだろう。

 妹はどうだろう?

 両親に愛情を注がれなかったオレにとって、妹だけが家族と呼べる存在だ。

 妹ラブ。

 シスコン? 褒め言葉だ。

 10年も経っているのだ、かなり成長しているはず。

 会うのが楽しみで仕方ない。

 ひょっとしたら彼氏なんかも出来ているかもしれない。

 どこぞの馬の骨なら切り刻んでやる。

 大阪行の電車に揺られ、窓から空をぼーっと眺めた。

 縦長の布袋をぐっと抱き寄せる。

 この中にはオレの唯一無二の相棒が入っている。

 家が家なのでこの道に進むのは生まれながらにして決まっていたようなものだ。

 妹もこの道に進んでいるのだろうか?

 オレより強かったら少し嫌だな。

 兄としての威厳が無くなってしまう。

 かっこいい兄でいなければ。

 ああ、早く妹に会いたい。

 再会を阻む物があれば全部斬り捨ててやる。

 いやダメだ、ここは日本。

 人殺しは犯罪の国だ。

 もうすぐ。

 もうすぐだ……




 実家に着いた時には既に深夜の1時を回っていた。

 眠気でフラフラしながらも、妹に会いたい一心でどうにか帰って来れた。


「ただいま」


 実家の玄関に入るなり小声で呟く。

 人はいるらしく、電気も付いているしテレビの音も聞こえた。

 10年前と何ら変わらない廊下を歩き、自分の部屋に入る。

 誰も掃除してくれなかったのかと思うほどホコリを被っていた。

 ため息を吐きながら荷物を隅へ固めておく。

 早く妹に会いたい。

 その一心でリビングへ向かう。

 オレの部屋は玄関からすぐ近くにあるが、リビングは2階にあるのだ。

 めんどくさい設計だが、今は気にならない。

 階段を勢いよく駆け上がり、リビングの扉を力強く開けた。


「ん? (きり)か。帰ったんか」

「あら、霧。おかえりなさい」

「ただいま親父、お袋」


 煎餅片手にテレビを見ている両親。

 これも10年前と変わらない。

 だが、1つだけ違うことがあった。


「あれ? 凜華は?」


 妹の凜華だけがいなかった。

 凜華の部屋の電気も付いていなかったし、風呂に入っている様子も無い。

 一体何処へ行ってしまったのだろうか?

 友達の家に泊まりに行っている可能性も無視出来ない。

 だが、オレの言葉を聞いた両親は深刻な表情を浮かべた。

 凜華の身に何かあったとでも言うのだろうか?

 もしそうならその原因をこの刀で叩き斬ってやる。


「そうか、お前には言っとらんかったな」

「何を……?」

「凜華はな、3年前から行方不明なんや」

「は……?」


 家族総出のドッキリか何かかと思った。

 だが、そうではなさそうだ。

 凜華が行方不明。

 それも3年も前から……

 普通に考えて生きている確率はほぼゼロに近い。

 それを聞いた瞬間、心の中で何かが折れた気がした。

 最愛の凜華がいない。

 やっと会えると思ったのに……


「凜華の手がかりは?」

「この紙だけや……『魔法界に行ってくる』とだけ書き残して消えおった。どう思う、霧よ」

「魔法界……そういうことか……」


 まさか実家でその単語を聞くことになるとは。

 異界の研究の為に家を出たんだ。

 これくらい分からないわけが無い。

 オレ達が暮らす『人間界』と裏返しのように存在する『魔法界』。

 凜華は確実にそこにいる。

 ならばオレも行くしかない。

 行って凜華を取り戻す。


「何か分かったんか……?」

「あぁ。ちょっと出掛けてくる」

「あ、あぁ。行ってらっしゃい」


 階段を駆け下り、自室から布袋だけを取り出して外へ出た。

 待ってろ凜華。

 お兄ちゃんがすぐに助けてやるからな……!




 ───────────────────────




「へくちっ! 何や? 誰かうちの噂しとんか?」

「大丈夫か、凜華? 風邪なら悪化する前にちゃんと休んどけよ。いざと言う時に体調崩されたら困るのは俺達だからな?」

「悠斗は保護者かッ! そんな重症ちゃうわ!」


 今日も《魔法騎士団》は平和だ。

 俺こと《魔法騎士団》団長セナ・レイズは王国から渡された資料に目を通していた。

 もちろん魔法界も平和である。

 完璧な平和とは言い難いのは、《背理教会》という魔法使い集団にいつ襲われるか分からない恐怖があるからだ。

 それでもましにはなっている。

 俺達が幹部を倒してきた実績が安心を与えているのだろう。


「ちょ、ちょっとー! そっちは違うって!」

「あんまり……分からない……」

「団長はこっち! ちゃんと挨拶して!」


 来客だろうか。

 片方の声には聞き覚えがある。

 同じ《魔法騎士団》所属の魔法使いベルだ。

 もう1人、俺の悪口を言っている方にも聞き覚えはある。

 その2人が団員がグダグダくつろいでいる部屋の扉をノックして入ってきた。


「えっと……よろしく……?」

「よろしくお願いしますでしょ! 礼儀は大切だよ!?」

「ベルはうるさいなぁ……僕はこれでも真面目に……」


 顔を見て思い出した。

 もう1人は元《背理教会》幹部マナト・グラフェスだ。

 幹部と言っても既に俺に敗北し、フラムによって記憶を削除、操作された。

 ほとんどの記憶が残っていないため、ベルが面倒を見ることになっている。

 ベルも世話焼きなもので、苦労しながらも頑張っているようだ。

 今日は何の用だろうか?

 俺がそう思うと同時にマナトが喋り出した。


「えっと……団に……入れて欲しい……そのために……来た……」

「マナトが《魔法騎士団》に……? ベル、許可は取ってあるのか?」

「一応……ね? でも王様は最終決定は団長に委ねるって」

「なるほど……いいよマナト。一緒に真の平和を取り戻そう」

「取り戻す……!」


 マナトは俺より年下ではあるのだが、記憶の無い今のマナトは幼稚園児のような感じた。

 なんというか、かわいい。

 とりあえず渡された入団書にハンコを押す。

 彼は今こそ可愛らしいが、敵として出会った時は最悪の敵だった。

『魔眼』という特殊な目により、行動の先読みと洗脳の2つの能力を持っていたのだ。

 何とか倒した時にはホッとした。

 でも、今は生きていてくれて良かったと思っている。

 マナトが《背理教会》に所属していたのは親が原因なのだ。

 マナトの母である錬金術師マリー・グラフェスは《背理教会》のメンバーにしてフラムの親友でもあった。

 マリーからの洗脳教育でもあったのだろう。

 かつてのマナトは狂気に満ち溢れていた。

 今のマナトも『魔眼』と多量の魔力を持っているが、ベルの躾がよく、悪い事は考えていない。

 これもこれで良いことなのだ。

 心配なのは記憶が戻った時に再び敵対するかどうか……

 まあ、今は難しく考えることではない。

 現在の《魔法騎士団》のメンバーはしばらく活動を控えると言ったステラを除いて、俺、悠斗、凜華、ベル、マナトの5人。

 少人数でも精鋭ばかりだ。

 残る2人の幹部とトップを倒すには十分な戦力と言えるだろう。


「よし、みんな集合! 今日も1日仕事に励もうッ!」

「「「「おーッ!」」」」


 またいつも通りの日常が始まった。

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