-目覚めた力-
不思議と力が湧いてくる。
きっと今なら何だって倒せる。
そんな気さえした。
目の前で白い煙を発生させながらタウラスが再生している。
『無限魔力放出』に『重力魔法』、『擬人化』だけでなく、『再生』も出来るとは、何とも言えないチートスペックだ。
でも、倒せないわけではない。
『無限魔力放出』に対抗する手段はひとつ。
タウラスの干渉力を上回ればいい。
今までタウラスに攻撃が通らなかったのは、『無限魔力放出』によりタウラスの周りに鎧のように魔法を打ち消す空間があったからだ。
けれど、打ち消せる魔法は自分より干渉力の低い魔法使いの魔法だけに限定される。
セイレーンを憑依したアナスタシアの攻撃が良い例だろう。
十二神獣であるタウラスを上回れるかと言われれば、普通は不可能だ。
それに、タウラスはマリーの魔法具『マジックミラー』で魔法を弾き返す事が出来る。
その2つをどうにかしなければ勝ち目は無い。
だが、俺は勝てる。
「"剣よ"」
デュランダルが輝き、俺に魔力を与える。
『ディバイン』を受けている今の俺は、恐らくタウラスの保有魔力を上回っている。
そして、『ディバイン』は魔法の範疇に無いためか、『マジックミラー』の効果を受けない。
それはマリーと対峙し、『リバース』を弾かれた時に確信を得ている。
時間が止まった世界でも口を動かせたのは『ディバイン』に強化された状態だったからだろう。
これで2つの難題をクリアした。
タウラスに攻撃は出来る。
だが、まだ問題がある。
『重力魔法』と『再生』だ。
『重力魔法』に限っては回避するしかない。
セイレーンですらダメージを受けたのだ。
『ディバイン』した俺がセイレーンを上回ったとしても恐らくダメージは受ける。
『魔力視』で避ける。
回避に専念しよう。
最後に『再生』だ。
これは『再生』の種類によって攻略法が変わってくる。
『ストック型』と『魔力回復型』ならひたすら倒せば残基も魔力も枯渇して再生出来なくなるだろう。
面倒くさいのは『不死型』だ。
残業も魔力も関係無く、ただただ死なない。
『不死型』の攻略には精神干渉魔法による封印が必要だ。
その他にも敵が魔物であれば『浄化』する事も出来る。
意外と弱点は多い。
だが、それが今回に限っては大問題だ。
俺は精神干渉魔法も浄化魔法も使えない。
『ストック型』か『魔力回復型』であることを祈るしかない。
これ以上考えても意味は無さそうだ。
ちょうどタウラスも再生を終えたように見える。
「もう斬っていいのか?」
「ウガァッ! 貴様は……貴様は壊すぞォォッ!」
復活そうそう元気な奴だ。
『ディバイン』に身体の主導権を奪われることもない。
今度こそ自分の手でタウラスを討つ。
怒りではなく2人から受け継いだ正義で。
デュランダルを強く握り地面を蹴る。
同時にタウラスも両手斧を振り回す。
「壊れろォォッ!」
「"覆え、氷壁"ッ!」
「チィッ!」
『アイスウォール』を詠唱し、タウラスのすぐ右に出来るだけ頑丈な氷柱を創り出す。
ガキンッと音がして両手斧が氷柱に食い込んだ。
氷柱はそのまま両手斧をも凍らしていく。
よし、上手くいった。
これで両手斧は完封した。
トドメを刺すッ!
「うおぉぉぉぉぉッ!」
「このォッ! 人間ッ! 貴様ァァァッ!」
タウラスが両手斧から手を離し、拳を振り被る。
俺はそれを回避し、懐へ潜り込んだ。
そして、タウラスの胸に深々くデュランダルを突き刺す。
だが、これだけではダメだ。
『再生』がある以上、タウラスは死なない。
考えろ。
タウラスを終わらせる方法を……
タウラスが死んでいるのも今だけだ。
心臓を貫いたくらいじゃ『再生』は早い。
考えろ考えろ考えろ。
いや、方法はある……!
天使は言っていた。
『その身を委ねなさい。私が力を貸しましょう』と。
何に委ねるのか。
大体想像はついた。
「頼むぞ……デュランダルッ!」
俺の頭の中の天使と悪魔の正体はデュランダルの意思だ。
デュランダルに宿る光と闇が俺に語りかけてきていたのだ。
ならば身を委ねる物はただ一つ。
デュランダルの『ディバイン』に身体の主導権を譲ればいい。
『主の願い、確かに聞き入れました……力を貸しましょう』
頭の中でスパークが弾けた。
同時にデュランダルも光を放つ。
そして、俺の体を光が包み込む。
身体の主導権が手放され、水中に浮かぶような感覚が全身に馴染んだ。
だが、次の瞬間には主導権が返ってくる。
いつの間にか俺の体を包んでいた光が純白の鎧になっていた。
『私は力を貸すと言いました。後は主の力で戦ってください』
なるほど、そういうことか。
それは都合が良い。
思う存分暴れていいわけだ。
ちょうどタウラスも2度目の『再生』を終えた。
「十二神獣のオレより上だと……? なんだァッ! なんだその魔力はァッ!」
「覚悟しろよタウラスッ! 今度こそトドメだッ!」
『重力魔法』で心臓を貫いていたデュランダルごと弾かれる。
やはり『ディバイン』でも『重力魔法』は防ぎきれないらしい。
だが、距離を取れたのは丁度いい。
今の実力がどれほどか、自分でも分からないのだ。
やりすぎて別の場所で『再生』されたらたまったものでは無い。
まずは様子見に一撃。
魔法は詠唱していない。
けれど、鎧の各部に魔法陣が刻まれていた。
「シッ!」
「な……う、腕がァァッ! 『再生』しないッ!?」
気付けば俺はタウラスの背後にいて、タウラスの右腕が宙に浮いていた。
そして、タウラスの腕が『再生』することは無かった。
タウラスの『再生』は『不死型』だったらしい。
これがデュランダルの本当の力。
力を抜いた一撃でこの威力とスピード。
その上『浄化』を付与している。
これじゃあどっちがチートスペックかわからないな……
「アァァァッ! 人間……ッ! ニンゲン……ッ!!」
「次で終わらせる……!」
タウラスは左腕で頭を抱え、叫び散らしている。
俺も今の実力の大体の力加減は分かった。
次の一撃で首を撥ねて心臓を貫く。
それで終わりだ。
地面を少し強めに蹴る。
それだけで瞬間移動もかくやという速度で前進した。
そのまま回転してタウラスの首を斬る。
「お前もここまでだッ!」
「十二神獣ノオレガッ! 人間風情ニッ!」
血飛沫と共にタウラスの首が空へ舞う。
俺は速度を殺さずにそのままデュランダルをタウラスの心臓に突き刺した。
ガクガクッとタウラスの体が痙攣し、力が抜ける。
倒したのだ。
ついに勝ったのだ。
「やった……ッ! やったんだ……ッ!」
タウラスの死体が魔力の粒子となって空へ溶けていくのを横目に、俺はその場に座り込んだ。
純白の鎧は消え、デュランダルも普段の姿に戻っている。
魔力は意識を保っているのがやっとなくらいほんの少しだけしか残っていなかった。
だが体は疲れに正直な様で、力が抜けていく。
一応は一安心。
後は悠斗達がどうにかしてくれるだろう。
俺はそのまま意識を落とした。
最後に俺を見て「はぁ……」とため息をつくティルの姿が映った。




