-支える-
近くで大きな魔力が消えた。
同時にとても嫌な気がする。
「……?」
「よそ見している暇があるのかしら?」
「く……ッ!」
ダメだ。
正直近づく隙すらない。
先程の凜華の攻撃でマリー以外の魔物達は始末出来た。
けれど、肝心のマリーは傷一つ負っていない。
奪ったフラムの魔力で回復までしている。
だが、その奪った魔力もそろそろ尽きる。
魔法を打ち消すことが出来なければ勝てるはずだ。
「悠斗ッ!」
「おうッ! "穿て、一条の光"ッ!」
「無駄よ。武器を使っても魔法は魔法。意味をなさないわ」
悠斗の『陽射・煌牙』でもダメか。
思った以上に難敵だ。
場合によっては使わないと決めたオリジナル魔法の行使が必要になってくるかもしれない。
いや、それはダメだ。
悠斗と凜華が支えてくれると言ってくれたんだ。
その思い、無駄にはできない。
「面白みが無いわ……潰れてみるのはどう?」
マリーがそう言っただけで球体が発光する。
一瞬にして魔法を組み立てたのだ。
いくつもの巨大な岩石が俺達の頭上に現れる。
それも、回避出来ないように見事な配置で。
土系統多対象攻撃魔法『ロックレイン』。
俺達を圧殺するつもりだ。
「"覆え、氷壁"ッ!」
急いで防御の為の魔法を詠唱する。
氷系統領域魔法『アイスウォール』。
詠唱の通り氷壁を生み出す魔法だ。
囲う様にも覆う様にも生み出せるので汎用性も高い。
強度は術者の魔力依存なので、俺の場合あまり期待出来ない。
だが、この一瞬の隙があればどうとでもなる。
「凜華ッ!」
「任せときッ! 真田流双剣術……『夜桜』ッ!」
凜華の『瞑想』の効果はまだ続いている。
一度の瞬きの間に100回の斬撃を放つ超速の攻撃。
流石のフラムの魔力でも、これを耐えられる魔法を放つことは出来ない。
そして、この魔法でマリーは更に魔力を消費した。
球体に閉じ込めたフラムの魔力を。
『魔力視』でたしかに捉えた。
あの魔法を打ち消す程の魔力はもう残ってはいない。
今なら魔法を使っても大丈夫だ。
「今だッ!」
「「おうッ!」」
「チッ……"土の剛腕よ"」
俺達の行動が予想外だったのか、マリーが焦りの表情を浮かべて魔法を詠唱した。
土系統単対象攻撃魔法『ゴーレムフィスト』。
膨大な魔力で作られた土の拳で対象を攻撃する魔法で、かなりのダメージを与えられる。
しかしその攻撃力の反面、拳の速度は遅い。
だから、当たることはなかなか無いのだが……
「あなた、左目見ててないんでしょう? 避けられないわよねッ!」
「? ……しまったッ!」
左目を失明している俺は左側が完全な死角なのだ。
なので、マリーが焦って放ったこの魔法は今の俺の弱点を的確に突いていた。
防げない……ッ!
常に左側は警戒しているはずだったが、やっと訪れた好機に警戒を解いてしまった。
その結果がこれだ。
すぐに防御しても戦闘に復帰出来ないのは確実。
どうにかしなければ……
けれど、どうしようも出来ない……!
諦めかけた次の瞬間、『ゴーレムフィスト』が粉々に砕かれる。
その原因は明らかだった。
「うちらは言ったやろ……?」
「ちゃんと支えてやるってなッ!」
「凜華ッ! 悠斗ッ!」
「チッ! 小賢しいッ!」
凜華と悠斗は本気で俺を支えようとしてくれている。
オリジナル魔法で自分を傷つけてほしくないがために。
なら、それに乗ると決めた俺が諦めていいわけが無い。
建物の壁を思い切り蹴り、高く高く飛び上がった。
マリーはすぐ目の前にいる。
「くらえぇぇッ!」
「このっ……あぁぁぁぁッ!」
デュランダルが無防備なマリーの腹部を勢いよく凪いだ。
血と内臓が飛び散る。
俺が着地したと同時に、べチャリと生々しい音を立ててマリーが落下した。
死んではいないが、もう動けはしない。
「セナッ! ナイス一撃だったぜ! 流石だなッ!」
「セナー! 今の良かったで! 無事で何よりやー」
「あぁ。2人ともありがとな」
なんとかマリーを倒すことは出来た。
残るは王城を襲撃している敵だけだ。
俺達が王城へ向かおうとしたその時、瀕死のマリーが口を開いた。
「もう……遅いわ……彼に……『マジック……ミラー』を……持たせて……あるもの……あなた……達では……勝て……ない……わ……」
「『マジックミラー』……ッ!」
そうか、そういうことか。
マリーはここで倒される気でいたのだ。
敵の本命はマリーではなく、王城を襲撃している方。
このままではまずい。
急いで向かわなければ。
『マジックミラー』を知らないカルナ達の身が危ない。
魔法を弾き返すなんて、初見殺しにも程があるというのに……!
「凜華、悠斗、急ぐぞッ! 凜華は少しでもいいから『瞑想』をしておいてッ!」
「分かった!」「了解や!」
頼む間に合ってくれ。
全員無事でいてくれ……ッ!




