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見習い魔法剣士の英雄譚  作者: 清水 悠燈
魔法騎士団編
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-心の炎-

 セナ達がマリーと戦闘を行っている間、カルナとステラの目の前にも敵はいた。

 筋肉隆々で両手両刃斧を武器とするくせに、異常に肌が白い背高の男。


「もっとだ……もっと……壊させろ……ッ!」

「ここを通すわけには行かないッ! 通りたいなら僕らを倒してからだッ!」


 威勢よく言ってみたものの、かなりまずい。

 地下戦闘の後、ほんの少しの休憩しか取っていないので魔力か少々心許ないのだ。

 それに、拠点にも戻っていない。

 だから、ステラは長くは戦えない。

 宝石魔法に必要な宝石を補充していないのが仇となった。

 それでも、ここを通してはいけない。

 どれほど強い敵であろうと、守り抜かなければならない。

 なぜなら、僕らの背後にある建物は病院だからだ。

 今もたくさんの魔法使い達が眠っている。

 その中には同じ《魔法騎士団》のベル、そして王専属魔法使いのフラム様も。

 何より団長に任されたのだ。

 僕らがやらなければ……


「ステラ、下がってて。僕が様子見に戦うから」

「分かった……」


 相手の雰囲気を見れば分かる。

 只者ではない。

 並の魔法使いなら悠斗の索敵に探知されて迎撃されるだろう。

 もし悠斗の迎撃から逃げられた運のいい雑魚ならまだしも、こいつは強い。

 恐らく今ここにいる全員よりも保有魔力が多いだろう。

 でなければ、こんなにも長く『魔力放出』を行えるわけがない。


「でも、やるんだ……ッ!」

「壊す……壊す……全部壊すッ!」


 斧を両手に握り、全力で正面攻撃を仕掛ける。

 2本の攻撃は敵の両手斧の柄に直撃した。

 柄を折る程度の威力は十分にある。

 だが、軽々と弾かれた。

 敵の武器、かなり強力な物だ。

 そして、

 すぐさま反撃が来る。

 大振りの叩き落とし。

 やはり大きな武器であるので、そのモーションは遅い。


「シ……ッ!」

「ウガァァァッ!」

「なに……!」


 それなのにこの威力。

 受け止めた僕の身体が地面に押し付けられる。

 足元には放射線状のヒビが広がっていた。

 それに、斧を握る両手が引きちぎれそうだ。

 とんでもない馬鹿力。


「負けない……負けられないんだ……ッ!」

「壊すッ! 壊すッ! 壊すッ!」


 挫けてはダメだ。

 勝つんだ。

 勝って守らなければ……

 その為に騎士になったんだろ……!


「う……ぁぁぁッ!」


 僕はグラン家の一人なのだ。

 負けていい戦いなんてあるはずが無い。

 強さを証明しなければ……

 かつて己の弱さで妹を失ったように、これ以上目の前で誰かを死なせる訳にはいかないんだ……ッ!


「弱いッ! 失せろッ! オレは……壊すッ!」

「失せない……ッ! 通さないと……言っただろッ!」

「邪魔だァァァッ!」


 ガクンッと身体の力が一気に抜けた。

 目の前の男は先程まで両手斧を叩きつけている姿勢だったはず。

 それなのに、今は横に振り切っている。

 そして、僕の視界には地面が近づいていた。

 理解するのに少し時間がかかった。

 だが、その答えはすぐに出る。

 倒れた僕の傍らに僕の斧『グレン』が突き刺さったからのが見えたのだ。

 それも、僕の腕と一緒に……


「カルナ……ッ!」

「ステラ……逃げ……て……」


 血が止まらない。

 両腕だけではない。

 身体も斧で深く抉られた様だ。

 口からも血が止まらない。

 なんとなく分かる。

 もうすぐ死ぬんだ……僕……


「壊す……全て……壊す……ッ!」


 敵は既にステラの目の前にいる。

 いくらステラが強くても、近距離戦闘で奴に勝てるわけがない。

 逃げろ……ッ!

 そう叫びたくても声の代わりに大量の血を吐き出す。

 また何も出来ずに誰かが殺される瞬間を見届けるのか……?

 昔妹と迷った山で魔物に遭遇した時のように……?

 負傷して動けない中、妹が殺されるのを見届けるしか出来なかったように……?

 僕は何一つ変わっていないのか。

 いいや、変わった。

 あれから、目の前で失わない様に鍛えてきた。

 魔法だっていくつも覚えた。

 どれももう二度と妹の様な無残な死に方をさせないために……ッ!


「近……寄る……な……」

「まだ、生きてる……次は、殺すッ!」

「ステラに……近寄るなッ!」

「グォ……ッ!」


 この命が果ててもいい。

 それでもステラは僕が守る。

 負けられないんだ……ッ!

 尋常ではない殺気が辺りに立ち込める。

 敵が放っている魔力だろう。

 だけど、もう怖くない。

 腕が無かろうと、もうすぐ死のうと関係無い。

 今までの努力を無駄にすることだけはグラン家の誇りにかけて許せないッ!

 両腕の傷口から炎が吹き出た。

 その炎はすぐに手の形をとる。

 炎の両腕でグレンを強く握りしめた。


「壊す……壊ス……コワスッ!」

「うぉぉぉぉ……ッ!」


 男が突撃を始めた瞬間、僕の身体に尋常じゃない重さが加わる。

 恐らく重力魔法の類いだろう。

 だが、そんなものには屈しない。

 気合で弾く。

 今度は僕の番だ……ッ!

 一瞬にして完成した魔法は誰も知らないカルナだけの魔法、オリジナル魔法となった。

 精神干渉魔法『メンタルフレア』。

 物理的な炎ではない。

 精神を直接焼き尽くす恐らく最上位の魔法。

 どれだけ頑丈で、どれだけ力が強くても精神への直接攻撃は防げない。


「ウ……ガァァァァッ!」

「ステラ……みんなを……避難……させ……て……」

「カルナッ! しっかりして! ダメだよッ! こんな所で死ぬなんて……ッ!」


 男はその場で発狂して動かなくなった。

 精神攻撃が成功したのだ。

 心が死ねば身体は動かない。

 朦朧とする意識の中、懸命に治癒魔法を唱えるステラが見えた。

 これだけ出血しているのだ、もう間に合わない事くらいステラも分かっているはずだ。

 それでもこうしてしまう気持ちを、僕はよく分かる。

 妹が死んだ時、僕も同じ行動をしたのだから……


「ステラ……皆を……守って……あげ……て……」

「嘘だ……嫌だよカルナ……ッ! ボクの目の前で死なないでッ!?」


 再び口を開こうと思うが、身体が言うことを聞かない。

 もう長くは持たないな……

 死を目の前にして恐怖もある。

 けれど、安心感もあった。

 許されることではないけれど、兄は最後に誰かを守れたと妹に伝えられる。

 僕はただ、それだけで良いと思えた。


「カルナ……? カルナ……ッ! いやぁぁぁッ!」


 ステラが泣き叫ぶ中、カルナは妹の元へと旅立った。

 けれど、これで終わるほど世界は甘くない。

 カルナの躯を抱き寄せるステラの背後で、巨大な影が動いた。

 それは本来、動くはずのないものだ。


「コワ……ス……ッ! コワスコワスコワスコワスコワスコワスッ!」


 一帯が濃密な殺気に包まれた。

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