表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
見習い魔法剣士の英雄譚  作者: 清水 悠燈
魔法騎士団編
41/66

-王都騒乱-

 

「あら、さっきぶりね。やっぱり人数が少ない内に叩くべきと思ってね?」


 王都の中央、その上空に錬金術師マリーはいた。

 その周囲には飛行型の魔物が100はいる。

 先程の報告によると、王都は既にゴーレムに囲まれているらしい。

 袋の中のネズミといった状況だ。

 だが、この程度恐ろしくない。

 以前のラグナロクの方が数倍は士気を下げた。

 今回は相手もこちらも物量戦。

 士気が高い方が勝つ。

 現在こちら側には王専属魔法使いのティルがいる。

 彼は今囲んでいるゴーレム達を一掃しているだろう。

 その余裕があってか、王都に残っている魔法使い達の士気は高い。

 この状況を把握しているであろうマリーが余裕の笑みを浮かべているのは、何か策があるということだ。

 まずはその策を暴く。


「悠斗、なるべく高い建物の屋上から上の魔物を頼む。凜華は『瞑想』開始。俺が援護するッ! 他の魔法使い達はティルと合流してゴーレムを叩けッ!」

「「了解ッ!」」


 デュランダルを呼び出して強く握る。

 オリジナル魔法は今回は使わない、意地でもだ。

 まだ王都の中心部にゴーレムは到達していない。

 だが、空中にいた魔物が何匹か地上に降り立っている。

 俺達の役目は上の魔物達だ。

 時間を稼いで、凜華に一気に屠ってもらう。

 全力の凜華なら100匹程度恐れるに足らない。

 俺がやる事は、マリーが行うであろう妨害の阻止。

 魔法具を使ってくるであろうが、怯んではいけない。

 地下戦闘で使われたあの魔法を弾く魔法具。

 あれには特に注意しなければ。


「小賢しいわね……まあいいわ。セナ、私と遊びましょう!」

「あぁッ! 初めからそのつもりだよッ!」


 腰に備えてある『無限剣イカロス』を4本抜き取り、『エンチャント』で氷属性を付与して投げる。

 もちろんこれだけで終わらせない。

 すかさず4本抜き取り、同じ工程を経て投げる。

 これを幾度となく繰り返す。

 5回繰り返すのに要した時間は3秒。

 一番初めに投げたイカロスはあえて遅めに投げてあるので、20本ものイカロスが同時にマリーへ迫る。

 マリーが瞬時に魔力障壁を展開するが、そうすることも予想済みだ。


「"貫け"ッ!」


 投擲されたイカロス達がその動きを一瞬にして変えた。

 そして、20本のイカロスがマリーを囲むように並んで射出される。

 魔力障壁というものは、範囲を狭めれば狭めるほど強固になる反面、範囲を広げるほど脆くなる。

 全方位からの攻撃は流石に無傷では防げない。


「チッ!」


 俺だって何も学ばなかった訳では無い。

 5本で足りないのなら何本でも投げてやる。

 イカロスを防ぎきれなかったマリーは既に満身創痍。

 態度の割に意外と呆気ない。

 だが、今油断して何かされるのは面倒だ。

 オーバーキルになるが仕方ない。

 イカロスを更に10本投げる。


「"貫け"」

「容赦……無いわね……」

「しぶといと思ったからな……ッ!」

「ご名答よ……見るがいいわッ!」


 マリーが取り出したのは水晶のような球体。

 だが、不意打ちに備えて『魔力視』を常時発動させている俺には分かる。

 あの球体にはフラムと同レベルの魔力が閉じ込められている。

 否、あれはフラムの魔力だ。

 秘密兵器はフラムの膨大な魔力を全て封じ込めたあの球体なのか。

 球体が取り出された瞬間、イカロスが全て魔力に還った。

 球体に収まりきらない魔力を封じ込めているからか、近くに魔力を全て追い出している。

 あれがある限り、魔法は意味をなさない。

 かと言ってあれを壊せば膨大な魔力が溢れ、大惨事になりかねない。

 魔法無しでこの数の魔物を相手にしろというのか……


「お互い魔法が使えないなら、まだ武器がある俺達に分があるぞッ!」

「いつ誰が『私が魔法を使えない』と言ったかしら?」

「まさか……ッ! 凜華ッ逃げろッ!」

「『ファフニール・ブレス』ッ!」


 球体から熱線が放たれる。

 寸のところで凜華を抱き抱えて回避することが出来た。

 それにしても盲点だった。

 こちらが魔法を使えなくても、マリーはあの球体を通してなら魔法を使えるのだ。

 しかも、魔力はフラムの物。

 今の『ファフニール・ブレス』の様なオリジナル魔法を使い放題だ。

 熱線が通過した場所は溶けており、凄まじい温度を放っている。

 運が良かったのか、王都の隅で撃たれたので被害はそれほど大きくない。

 だが……


「こ、こんなやつに勝てるのか……?」「無理に決まってんだろッ!」「ば、化け物……ッ!」「逃げろーッ!」


 声の主は王都の魔法使い達。

 別に王都にダメージを与える必要は無かったのだ。

 ただ士気を下げることさえ出来ればそれで良かったのか。

 王城には恐らく王がいる。

 そこに被害を与えるわけにはいかない。

 それに、王城の近くにはベルやフラム達がいる病院もある。

 ここで食い止めなければ……どれだけ無茶でもだ。


「本当に落ちたものね……魔法使いは……」

「まだ全員逃げた訳じゃない……俺達《魔法騎士団》がお前を止めるぞ……ッ!」

「あぁ、王城? それならもうすぐ終わるわよ?」

「は……?」


 同時に背後、王城から爆発音が響いた。

 敵襲……?

 ありえない。

 こっちには索敵が得意な悠斗がいる。


「悠斗ッ!」

「魔力反応は無い! 多分ヤバいやつだッ!」

「アハハッ! いいざまね……一応行かせないわよ? 王城へ行きたければ私を殺すことねッ!」


 王城へ攻めているのは恐らく自己強化魔法『ステルス』により、極限まで魔力を隠した魔法使いだ。

 それも悠斗が気づかないとなれば、完璧に魔力を隠せる実力者ということになる。

 とんだバケモノがまだ敵にはいたらしい。

 王城の近くにはカルナとステラがいる。

 今はあの2人に任せよう。

 俺達は一刻も早くマリーを倒さねば……


「セナ、いつでもいけるで……」

「まだ待機だ。俺が囮になって隙を作るから、出来たら一気に叩け」

「わかった……!」


 球体が魔法を打ち消す範囲は先程より狭くなっている。

 恐らく魔力を消費すればするほど打ち消す範囲も狭くなるという仕様だろう。

『ファフニール・ブレス』はかなりの魔力を消費する。

 今の範囲なら凜華が全力でやれば周りの魔物を瞬殺出来るはずだ。

 それに賭けるしかない。


「いくぞ……ッ!」


 デュランダルを体の後ろへ引き絞り、足に力を込める。

 そして、思い切り空中に飛ぶ。

 一瞬だけ『クイック』が発動したおかげでマリーの眼前まで跳躍出来た。

 一撃だ。

 倒せなくてもいい。

 マリーを怯ませる程度の威力があれば十分だ。


「はぁッ!」

「ウフフッ! 全部分かってるわよ?」


 デュランダルが描く軌道上に球体が割って入ってきた。

 そして、凄まじい濃度の魔力障壁を展開する。

 魔法が使えない現状、俺にこの魔力障壁は突破出来ない。

 だが……


「凜華ァーッ!」

「任せとき! 『表裏一体』! 真田流双剣術……『飛燕』ッ!」


 この魔力障壁を展開したことによって球体の魔力は更に減少した。

 そうなれば、魔法を打ち消す範囲は小さくならざるを得ない。

 そこで凜華のオリジナル魔法『表裏一体』だ。

 魔力と意識の力で刀を振るうとても強力な魔法。

 そして、『表裏一体』で作り出される2本の腕は目視できる範囲ならどこにでも生み出せる。

 魔法を打ち消す領域がある以上、そこには作らない。

『表裏一体』が狙うのは領域の外の魔物達だ。

 領域の中は生身の凜華が殺ればいい。


「侮っていたわ……面白いじゃない、真田凜華」

「それはどうも! 敵に褒められても嬉しくないけどな!」


 思惑通り、100といた魔物全ての魔力反応が無くなっていた。

 流石は凜華。

 人間離れした魔力と実力があってこそなせる絶技だ。


「よし、後はお前を倒して王城を救うだけだッ! 凜華、悠斗、いけるな!」

「「もちろんッ!」」


 球体の残り魔力もそれほど残っていないだろう。

 形勢は逆転した。

 この3人なら勝てる。

 ここからが本番だ……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ