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見習い魔法剣士の英雄譚  作者: 清水 悠燈
魔法界変革編
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-弓術士誕生-

 

 薄暗い実験室のような部屋に数人の白衣を着た科学者達とひとりの大人びた雰囲気を纏う少女がいた。

 その集団が目線を向けているのはベッドに横たわる少年と少女。

 少年はボロボロの衣服を着ており、身体は擦り傷だらけ。

 少女はもう原型を留めているのがギリギリだと言うほどに傷ついている。


「さぁ、まず再生から始めましょうか」


 そう言った大人びた少女、エレナは右手を掲げ、小さく魔法を詠唱した。

 すると、少年と少女の身体が『まるで時間が戻ったかのように』傷ひとつ無い姿になった。

 対象の時間を巻き戻す付与魔法『バックタイム』。

 傷が癒えた少年と少女が目を覚ます。


「こ、ここは……?」

「どこなの……?」


 意識を取り戻したばかりで朦朧としているのか、2人の目は焦点を確かとしていない。

 エレナは狂気的な笑みを浮かべて言った。


「ようこそ私達の組織、《背理教会》へ」


 唐突過ぎて何が起きているのかわかっていない少年と少女にエレナの言葉は続く。


「アナタたちは私達《背理教会》の実験体。いい?」

「実験体…………?」

「そうよ。アナタたちは私達の科学力と魔法力の証明となるの!」

「い、嫌ッ! 実験体なんて……嫌ッ!」

「お嬢ちゃーん。拒否権なんて無いのよ? 奴隷と変わりないの、アナタたちは」


 実験体、奴隷といった言葉に顔を青ざめる少年少女。

 逃げようとするも、両手両足はマジックメタルで作られた鎖によってベッドに縛り付けられている。


「大人しくして頂戴。すこーし痛いだけよ」


 そう言って、エレナと科学者達は『実験』を開始した。




 ───────────────────────




 場所は変わって魔法界のフラムの隠れ家。

 聞こえてくるのは風を切る音と金属音。


「この……ッ! すばしっこいんだよッ!」


 そう言ってセナは飛来する矢を愛剣の『魔法剣デュランダル』で斬り落としていく。

 その間にも四方八方から矢が飛来してくる。


(腕を上げたな……悠斗……!)


 そう、今隠れ家近くの森で行われているのはセナと悠斗の模擬戦なのだ。

 悠斗がフラムに弟子入りしてから約一ヶ月。

 凄まじい速度で魔法を習得していく悠斗に驚きを隠せなかったのは俺だけではなくフラムも同じだろう。

 しかも、悠斗が扱うのは杖ではない、『弓』だ。

 フラムが少数の職人達と共同で開発した魔法で扱う弓。

 その名も『魔法弓アポロン』。


「無駄な考え事は油断を生むぜ、セナッ!」

「く……ッ!」


 油断していた。

 一瞬の油断の内に五方向から矢が迫ってくる。

 しかも、高速で。

 これでは『バーサク』と『クイック』による迎撃も間に合わない。

 いや、だが……


「これなら……ッ!」


 瞬時に両足にだけ『クイック』を付与し、大きくジャンプした。

 迎撃出来ないのなら回避すればいい。

 なんとも簡単なことだった。

 5本の矢がさっきまで俺のいた場所で激突、爆発する。


「どうだッ!」


 勝ち誇った顔を浮かべる俺の目線の先に、アポロンを構える悠斗の姿が見えた。

 のせられたのだ。

 先ほど放った5本の矢は俺が上空に回避すると踏んだ上で放った囮。

 本命は上空で抵抗の出来ない俺を貫く次の一射。

 だけど、お前も甘いぞ悠斗ッ!

 これほどの余裕があれば迎撃が間に合う!


「『バーサク』『クイック』ッ!」


 発動と同時に矢が…………



 放たれなかった。


「え……? アガ……ッ!」


 背後に衝撃。

 全く訳の分からないまま落下を始める。

 これは想定外だ。

 魔法の強化を受けた脚力で跳ねたが故に、相当の高さから落ちている。

 これは最悪死んでしまう。


「『ゼロ・グラビティ』」


 魔法名と同時に落下速度が緩やかになる。

 聞こえたのは女性の声。

 そう。フラムだ。

『ゼロ・グラビティ』は対象にかかる重力を無効化する付与魔法。

 それによりなんとか助かった。


「無事かーセナー」

「なんとか……で、さっきのは何だよ」

「あー……さっきの言わなきゃダメか?」

「はぁ? 当たり前だろ」

「えー。どうしよっかなぁ! 師匠! 教えるべきですかね!」


 なんというか、悠斗がフラムに懐きすぎてやばい。

 フラムがすることをほとんど真似るし、手伝いも率先してこなす。

 助かる。助かるのだけれど、気持ち悪い……


「別に教える必要は無いな。相手に手の内を明かすなんてバカだろう?」

「そーすよね! だってよセナ!」

「フラム、お前なぁ……」

「なんで呼び捨てなんだよー! 義理でも母親だろ?!」

「いや、だってほら……」


 今更ながらに思う。

 確かにフラムは義理の母親だ。さらには師匠である。

 それなのに呼び捨てとは……


「いいんだ悠斗。こいつはこれで定着している。変えようものなら違和感があって仕方ないと思わないか?」

「そ、そうですよね! 師匠の言う通りっす!」


 この場はフラムの寛大な言葉に助けられた。

 それにしても……


「敷かれてるなぁ、悠斗」

「るっせぇわ!」


 模擬戦は終わった。

 正体不明の悠斗の魔法?弓術?によって。

 悠斗が敵に寝返ったらたまったものじゃないなこれは。

 だけどまあ、フラムにベッタリのこいつじゃあ、まず有り得ないか。

 そんなことを考えながら歩いていると、もうすっかり慣れた隠れ家に到着した。

 全て木で作られているというフラム自慢の一軒。

 これがまた隠れ家と呼ぶにしては大きすぎる。

 だが、問題はない。

 なぜかというと、最強の魔法使いであるフラムが『結界』を張っているからだ。

『結界』とは魔法や魔法具などで破壊されない限り一度の魔力消費で永久的に持続する領域魔法の一種。

 この隠れ家とその周辺を覆う結界は『森隠れ』という結界で、認識阻害の効果がある。

 もちろんフラムが作り出したのだからその効果は万全。

 フラム以外にわかるとすれば、もう一人の王専属魔法使いのティルくらいだろう。


「おい悠斗」

「なんでしょうか師匠!」

「お前今いくつ魔法を覚えた?」

「えーっと、ざっと30くらいですかね?」

「ふむ、わかった」

「は、はぁ!?」


 思わず驚愕してしまった。

 俺ですらまだ20も覚えていないのに……

 1日ひとつ覚えている調子じゃないか。

 バ、バケモノめ……


「セナ、お前負けてるんじゃないか?」

「ぐぬぬ……負けてるさ! 仕方ないだろ! 魔法の適性ないんだから!」

「え、まじ? セナーどやぁぁぁ?」

「う、うぜぇぇぇ!」


 模擬戦で負けたのも合わさってさらに悔しい。

 おのれ、今に見てろ……

 だが今はそれよりも、


「2人とも、夕食は出来てる。早く食べるぞ」

「「待ってました!!」」


 食事の時間だ。

 俺が人間界にいる間、なぜかフラムは料理の腕を上げたらしい。

 全く謎だがめちゃくちゃ美味い。

 だから、俺も悠斗も楽しみで仕方ないのだ。

 絶品の料理に満足していると、フラムが神妙な趣で話し出した。

 俺はその表情に見覚えがある。


「明日からしばらく2人に留守番を頼みたい」

「なんでだよ」

「遠出なら俺も付いていきます!」

「いや、いい。私ひとりで片付くことだ」


 その表情。俺を人間界へ飛ばした時と同じ、自己犠牲を考えている表情。


「そうか。エレナの組織の身元を掴んだってことか」

「……ッ! あぁ、そうだ。だからなんだ?」

「ひとりで勝てる規模なのかよ」

「はははっ! 私を誰だと思ってるんだセナ」


 いくらフラムでも、ひとりでは限界がある。

 だけど、俺が同行したところで……


「安心しろ。必ず帰ってくる。その時には2人にとっておきを教えてやろう」

「…………わかった」

「師匠……ッ!」

「大丈夫だ。任せておけ」


 翌日、行ってきますも言わずフラムは出かけた。

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