-自分の力で-
残ったカルナとステラは気づけば『ゴール』と書かれた看板の下にいた。
「ステラ、これ本当にゴールか?」
「そうじゃない……? カルナにも、『ゴール』って読めるよね?」
「あぁ……うん……読める」
呆気なくないか?
確かに魔物はいた。
いたけれど、それほど強くなかった。
強かったかもしれないが、ステラがサクサクと倒していたのでよくわからないのだ。
「ボクが強いからだね」
「『宝石魔法』か……」
「で、これでいいの? 他の皆がゴールするまで待てってことかな」
「そういうことじゃないか? でも、何もしないのもなぁ……」
僕の予想なら、恐らくマリーという錬金術師は俺とステラには興味が無いのだ。
試して情報を得るまでもない。
僕もステラも有名な家の生まれだから、使う魔法も大凡は把握出来てしまう。
「このままじゃダメだよな……」
「カルナもそう考えてた? ボクも、このままじゃダメだと思う……」
「ステラも? ステラは十分に強いじゃないか」
「ううん。『宝石魔法』はクォーツ家だけの特別な魔法だけど、強力な分弱点は多いんだ。例えば、手持ちの宝石が尽きたら何も出来ない、とかね」
なるほど。
宝石を媒介にして魔法を扱う以上、その媒介が無くなると戦えないわけだ。
先程の戦闘で見た限り、宝石はそこそこ大きい。
親指と人差し指で丸を作ったくらいの大きさ。
それを大量には持ち歩けないだろう。
「しかも、この宝石高いんだよ……かなり……」
「まあ、宝石だもんな」
「石でも出来るんだけど……まあ、お察しの通りかな」
宝石の質によって魔法の威力が変わるらしい。
基本は色で属性が分けられる。
赤色なら火系統。
青色なら水系統。
黄色なら雷系統。
橙色なら土系統。
大体そんな感じだ。
他にも色々あるらしいが、秘密だそうだ。
「そういえばステラ、お前結構喋るようになったな」
「ん……確かにそうかも……多分、みんなのおかげだよ」
「いい事じゃないか。僕も強くなって皆と仲良くなりたいよ」
何はともあれ、残りの4人も無事にクリアしてくれ……!
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徐々に接近していた禍々しい魔力が目視出来る距離にまで近づいていた。
マリーが作ったゴーレムだろうか。
恐らく俺よりも多くの魔力を持っている。
といっても、俺は人間だから魔力は平均より少ないのだが……
「へぇ……おもしろそうやん」
「デケェなぁ……5メートル弱ってとこか」
「『瞑想』終了。 いつでもやれるで悠斗!」
「オッケー、行くぞ!」
だが、それで負ける訳ではない。
俺には『魔法弓アポロン』がある。
どこぞの鍛冶屋が作ったこの弓は、魔力が少ない俺の為に『消費魔力減少』の固有性能をもっているのだ。
この恩恵のおかげで、団長クラスの魔法使いと同等に魔法でやり合える。
一方で凜華は異常な魔力を持つ希少な人間だ。
その魔力は、フラムが作った『魔力抑制アミュレット』が無ければ暴走する程に多い。
暴走してしまう理由をかつて凜華は「器に見合ってないから」と言っていた。
凜華の中に宿る魔力は恐らく人間が手にしていい物ではないのだ。
「『表裏一体』ッ!」
紫色の雷、まさに紫電が凜華を包む。
そして現れたのは、4本の刀を操る鬼だった。
俺はただそれを傍観することしか出来ない。
俺が1射でも撃てば、凜華の剣舞の邪魔にしかならないからだ。
ずっと見ていられるくらい美しい戦いだ。
「真田流双剣術『紫電一閃』ッ!」
本当に一瞬だった。
巨大なゴーレムはさっきまで存在していたことが嘘のように砂と化す。
圧倒的。
その一言でしか言い表せない。
これが隠れ家2番目の実力。
修行を経て、さらに強くなった自信はあった。
それこそ、凜華にも勝てると思っていた。
だが、改めて凜華の戦闘を見て思った。
思ってしまった。
「格が……違う……」
『気配遮断』『広範囲索敵』『超遠距離攻撃』。
どれも極めたつもりでいた。
でも、これだけじゃダメなのだ。
次、大切な何かが失われるかもしれない時、今の俺では何も出来ない。
昔の俺と何一つ変わらない。
「もっと……もっと強くならないと……」
「悠斗? 顔色悪いけどいける?」
「いや、大丈夫。任せてごめんなー」
「ええよええよー。今の状況やったらうちの方が相性良かったからなー」
凜華は俺の肩をポンポンと叩いて先へ進んで行った。
俺も作り笑いを浮かべてついて行く。
すると突然、俺の真下に穴が空いた。
不自然なくらい丸く暗い穴だ。
もちろん俺は抵抗出来ずに落ちていく。
「悠斗ッ!!」
「ゴールを目指せッ! 俺は大丈夫だ……ッ!」
「わかった……!」
一瞬にして視界が真っ暗に染まる。
四方八方どこを見ても暗闇。
立つことは出来るので地面があるのは確かだ。
それでも、全方位黒色では平衡感覚が狂いそうになる。
「どうにかして脱出しないと……」
試しに1射放つ。
魔力で作られた矢は明るく照らしてくれているが、見渡す限りどこも暗闇だった。
これは本格的にまずいかもしれない。
ゲームでいう詰みだ。
すると突然、背後に殺気を感じた。
「ッ!」
「あら、流石の索敵力ね。気配は消してたつもりなのだけど」
「お前は……錬金術師か……ッ!」
「ご名答よ」
「敵が俺に何の用だよ」
かなりの距離があったはずだったが、いつの間にか目の前にそいつはいた。
魔法を使った感じはしない。
かといって、高速移動が出来るほど鍛えている様子は無く、華奢という方が合っている。
何らかの魔法具か……
「ねぇあなた、強くなりたいんでしょ? なら、私の所へ来ない?」
「何を言って……」
「私の魔法具ならあなたをフラムより強い魔法使いに出来るわ。どう? 悪くない話でしょ?」
マリーが右手を伸ばす。
了承ならこの手を握れということだろうか。
こんな誘惑、考えるまでもなく断る。
けれど、どんどん思考がボーッとしていく。
俺は強くなりたい。
みんなの足を引っ張りたくない。
もう誰も失いたくない。
強くなるためならどんな手段だって構わない。
俺の右手がゆっくりとマリーの差し出した手に近づいて……
「違う……ッ!」
「あら、私の魔法具が効かない……」
「強くなりたいさ! けど、それは自分の力でなるもんだッ! 俺は俺の力で強くなるッ! もう誰も失わない為にッ!」
左腰に念の為に付けておいた剣を抜き取り一閃。
剣は見事にマリーの首を凪いだ。
「素敵ね……また会いましょう」
剣の風圧でマリーの身体が煙となって消えていった。
幻影の一種だったのか……
煙が晴れるのとほぼ同じタイミングで暗闇が一気に晴れた。
広がっていたのは砂漠。
戻ってきたのだ。
「悠斗ッ! よかった、無事やったん! こっちやで!」
「凜華……ゴール出来たんだな」
「当たり前や! うちを誰や思ってんの〜」
凜華の横には『ゴール』と書かれた看板があった。
どうにか足を引っ張らずに済んだのかもしれない。
俺達の役目は終わった。
後は残りのメンバーの成功を祈るしかない。
「頑張れよ……セナ……!」
セナとアナスタシアの危機を知らずに……




