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見習い魔法剣士の英雄譚  作者: 清水 悠燈
魔法騎士団編
35/66

-遺してくれた物-

 どうして……?

 どうしてセナが死ななきゃいけないの……?


「はぁ。これで邪魔者はいなくなった。さあ、行こうかベル」


 マガトが私に手を差し伸べる。

 どの口がそんな事を言えるのだろうか。

 たった今私の大切な人を殺しておいて。


「僕を見て? さあ……」


 反射的に睨み返してしまう。

 だが、相手は魔眼使い。

 しかも洗脳系統の魔眼。

 気づくのが遅かった。

 私の意識は深い闇へ落ちて……


「誰が……お前なんかの……モノに……ッ!」

「僕の魔眼が効かない……ッ!?」


 そうはいくものか……ッ!

 私はもう間違えない。

 もう大切な人を傷つけたくない。

 こんな奴には負けたくないッ!


「ヴラドッ! こいつは私が……殺す……ッ!」

「なんだこの魔力……ッ!? これが……ヴァンパイアだというのか……ッ!?」


 本気を出してやる。

 あまりやりたくないけれど、全魔力で相手してやる。

 私の大事な……私達の大事な団長を殺したこいつは、絶対に許さない。

 腰から小さなナイフを取り出し、自分の右手首を斬る。

 もちろん血が吹き出た。

 そうだ。これでいい。

 そして、その血を舐める。


「『ブラッド・リバース』ッ!」


 バチンッと紅いスパークが弾けた。

 同時に牙と翼が生える。

 それはどれも普段の『ヴァンパイア化』した姿ではない。

 オリジナル魔法『ブラッド・リバース』。

 自身ともう一人特定の人 (まだ決めてない)の血を吸血することにより、通常の『ヴァンパイア化』よりも強力な『ヴァンパイア』になる奥の手だ。

 魔法というのは発動条件が難しければ難しいほど強力な効果を示すのが原則。

 上位魔法が長い詠唱を必要とするのはこれが理由だ。

 そして、今の私は本当の『ヴァンパイア』よりも強力な存在である。


「ヴラド……『両刃』……」


『魔法鎌ヴラド』の刃のある方向とは別の方向かつ持ち手の下側に魔力で作られた刃が現れた。

 上下にある刃は『ブラッド・リバース』の影響を受け、禍々しい魔力を放つ。

 これが『魔法鎌ヴラド』の真の姿『魔法鎌ヴラド・両刃』。

 だが、もちろん並の魔法ではない故、代償は必要だ。


「抑えて……私は……やれる……ぅッ!」

「それが君の全力か……いい……ッ! とてもいいッ! ますます欲しくなってきたッ! さあ、僕のモノに……ッ!」

「ならないって……言ってるでしょッ!」


 力任せにヴラドを振るう。

 その威力はとてつもなく、地面がひび割れ、暴風が吹き荒れた。

 もちろんマガトも吹き飛ぶ。


「ぐは……ッ! へぇ……『読めた』けど耐えきれるものじゃないか……」

「はぁ……はぁ……ッ! まだ……ッ!」

「体力の消費が激しそうだね……これじゃあ時間の問題か」


 そう、『ブラッド・リバース』は自己強化魔法に分類されるが、その効果は枠から外れている。

 それほど強力な魔法が『自身程度の血液』で発動できる時間は限られているのだ。

 しかも、この魔法は使用後の倦怠感が尋常ではない。

 それこそ、ピクリとも動けなくなる。

 だからあまり使いたくなかったのだ。

 マガトな『読心』の魔眼で致命傷は避けている。

 このままでは私が先に力尽きる。

 ならば、最後まで抗ってやる……ッ!


「やぁ……ぁぁッ!」

「な……ッ! この施設ごと潰す気か……ッ!?」

「私一人であなたを殺せるのなら安い対価だよ……ッ!」

「面白い……面白いよベルッ! だけどね……」


 この地下に存在する建物ごと破壊すればマガトでも死は避けられない。

 自分も死ぬかもしれないが、この危険な魔法使いを地上に放つよりはマシだ。

 けれど、私はマガトを下に見すぎていた。

 正確には、マガトの魔力を。


「"吹き荒れろ豪嵐"ッ!」


 ズバァンッと激しい音の正体は風。

 風系統上位単対象攻撃魔法『スクランブルハリケーン』。

 ただひたすらに強力な竜巻を発生させ、全てを巻き込んで粉々に粉砕する強力な魔法だ。

 それにより、衝撃波すらも取り込まれ、粉砕された。


「う……そ……」

「僕を甘く見すぎたね……? 僕は風系統魔法なら王専属魔法使いとも対等に戦えるんだよ。それに……」

「この……ッ!」

「そろそろ限界だろう……?」


 身体から一気に力が抜ける。

『ブラッド・リバース』の制限時間が切れたのだ。

 動けない私に勝ち目はもちろん無い。

 セナと共に殺されてしまうのか。

 連れ去られて洗脳されるよりは、その方がマシだ。

 なら死んでやろうと思うが、その魔力すら残っていない。


「セナ……ごめん……」

「あはは……あはははッ! やったよ母さんッ! 僕は目的を果たせたんだ……ッ!」


 読み違えた。

 私達はマガトという少年の実力を読み違えたのだ。

 この少年はアルデバランよりも危険だ。

 高笑いを続けるマガト。

 その魔力がグングンと増加しているように感じる。

 この臭いは……嫌な臭いだ……


「さあ今度こそ行こうかッ! 僕のモノだ……ベルは僕のモノだッ!」

「うるせぇ……」

「え……? あが……ッ!」


 低い声が響いたと同時に、マガトの胸からナイフが生えた。

 マガトが吐血する。

 驚く程に正確に心臓を貫いていた。


「どうして……生きて……る……?」

「甘かったのはお前なんだよ」


 バタリとその場に倒れるマガト。

 死んでいた。

 そしてその傍らに立っていたのは男。

 右手に3本のナイフを握っている男だった。


「ベル、大丈夫か?」

「セナ……!」


 正真正銘、セナ・レイズだ。




 ───────────────────────




『無限剣イカロス』。

 それは死んだ響也が最後に俺に託した短剣をフラム御用達の鍛冶屋が作り直した短剣である。

 固有性能は『無限増殖』と『幻惑魔法』。

 前者は鞘からイカロスを抜き取ると、新たにイカロスが鞘に現れるというもの。

『無限剣』の名の通り、無限にイカロスを生み出せる。

 後者は相手の脳に干渉し、実際とは違う映像を見せる魔法である。

 範囲内にいる全員が対象故、味方も巻き込んでしまうのが玉に瑕だが、十分に強力だ。

 例えば、今回の様に……


「どうして……生きて……る……?」

「甘かったのはお前なんだよ」


 マガトが俺に魔眼を使って洗脳するのはお見通しだった。

 だから、魔眼を使う寸前に『幻惑魔法』を発動させた。

 マガトとベルには、魔眼の洗脳によって、俺が自分で自分の首を斬った様に見えただろう。

 だが、もちろんそれは幻覚。

 ベルが奥の手を使ったのは予想外だったが、マガトは倒すことが出来た。


「ベル、大丈夫か?」

「セナ……! 生きてたんだね……!」

「おかげさまでな。よし、ここで安静にしてろ? 後は俺が始末してくるから」

「うん……ごめんね……?」

「いや、ベルはよくやったよ」


 ベルの頭をわしゃわしゃと撫でてやる。

 とても幸せそうな顔をするベルがなんだか愛らしい。

 いや、そういう考えをするのは後だ。

 俺達の目的はまだ半分しか達成されていない。

 フラム……無事でいてくれよ……!

 駆け出した。

 急いでフラムの元へ向かう。

 マガトがいたのだ、フラムも本当に捕まっているに違いないのだ。

 死んでるはずはない。

 微かだがフラムの魔力の痕跡が見えるからだ。

 それを追えば……




 そして辿り着いた先にフラムはいた。

 血だらけで意識を失った状態で。

 しかも、鎖で両手両足を縛られ、ぶら下げられている。


「ようこそセナ・レイズ。フラムの息子……」


 そこにいたのは白衣を着た茶髪でメガネの女性だった。

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