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見習い魔法剣士の英雄譚  作者: 清水 悠燈
魔法騎士団編
33/66

-信仰の怨念-

 

「ヘッドショーット……」


 トウナ村からかなり離れた森林の、一際大きな木の上に射手はいた。

『魔法弓アポロン』を片手に、右眼には何やらスコープのようなものが付いている。

 セナが頼んだ伝言はしっかりと悠斗に伝わった。

 けれど、普通の攻撃では気づかれてしまう。

 だから今回は、1km先から撃ってみた。

 結果、見事にアルデバランの脳天貫いたのだ。

 我ながら上出来だと思う。

 ここ何日かの修行はキツかったが、本当に役に立っている。

 もちろんさっきの矢は錬金術師に『スルー』という魔法を付与してもらった特別製だ。

『スルー』とは単純な名前の割に、かなり上位の付与魔法である。

『スルー』を付与された対象は、ありとあらゆる魔法、呪い等の影響を受けなくなるのだ。

 だからこの矢は、仮にアルデバランが超強力な結界を張っていようが、どれだけ魔力放出を行おうがお構い無しに貫く。

 この矢も優秀なのだが、更に優秀なのは右眼に付いているこのスコープ。

 固有名称を『イーグル・アイ』という。

 これは、最長2kmまでの範囲をはっきりと捉えるように出来る優れものだ。

 ただし、所有者の脳に密接にリンクしているため、扱うにはかなりの鍛練が必要となる。

 数日の修行は、ほとんどが『イーグル・アイ』の練習だった。

 だが、こうしてしっかりとあつかえるようになったのだ。

 これぞ後方支援の究極だと自負している。


「後はあのデカブツ……十二神獣のタウラスだっけか……」


『スルー』を付与してある矢は製造できる魔法使いが限られているせいか、稀少で残りが少ない。

 ここからは魔法での戦闘だ。

 今の俺の実力を、我らが団長様に思い知らせてやる。


「いくぜぇ……ッ!」


 俺は勢いよくアポロンの弦を引きながら詠唱を開始する。




 ───────────────────────




「馬鹿な……主に祝福された……この……私が……」


 ドサッと音を立ててアルデバランが仰向けに倒れる。

 脳天を思い切り貫かれているのにどうして喋れるのか。

 アルデバランの目は未だにギョロギョロと動き続けている。


「あぁ……主よ……私の……神よ……何故……何故……ッ!」


 正直無言で聞いているしかないような不気味さがあった。

 何か恐ろしい気分にしかなれない。


「私を……貴方を愛した私を……裏切るのですか……ッ! 嘘だ……嘘だ嘘だ嘘だウソだウソだウソだウソダウソダウソダァァァ……ッ!」

「……ッ!?」


 ブチュッと気持ちの悪い音と共に、アルデバランが『溶けた』。

 それは黒いドブの様なモノに変化し、呆然と見つめる俺に迫って来た。

 回避しようにも、身体が言うことを聞かない。

 呪い……!?

 そして、黒いドブが俺の影に到達し……潜り込んだ。


「な……ッ!」


 完全に動けなくなった。

 考えることしか出来ない。

 ならば考えろ。

 この状況を打破する方法を。

 もしこれが呪いなら、解呪魔法が必要になる。

 けれど、呪い使いですら少数なのに、解呪魔法はそれを上回るマニアックな魔法故、使える呪い使いは少ない。

 もうひとつの方法も多分ダメだ。

 術者を殺すという方法があるが、アルデバランは既に死んでいるはず。

 万事休すといったところか……

 足下に魔力で作られた矢が突き刺さる。

 悠斗の単対象攻撃魔法『対魔矢』。

 フラムが作り上げた悠斗のオリジナル魔法で、簡単に言えば阻害魔法『クリアキャスト』の攻撃バージョン。

 相手の干渉力が自分より少し強い程度なら、難なく無効化出来る強力な魔法だ。

 だが、呪いには効果が無い。

 すると、今度は動かなかった身体が勝手に動き出した。

 嘘だろ……!?

 右手にはデュランダルが握られている。

 左手を後ろに突き出す。

 その先には暴走するはずのタウラスが。

 だがタウラスは暴走せず、俺の指示で動きを止めた。

 こいつ……中身がアルデバランだと分かって……!?

 召喚獣との契約は魂で結ぶものだと聞いたことがある。

 なるほど、これが魂での契約の利点か。

 それにしても、まずいぞ……

 悠斗は俺の様子がおかしい事に既に気がついているだろう。

 先程から何度も矢を撃ってきているが、全てアルデバランが操る俺のデュランダルに弾かれている。

 このまま接近されては、さすがの悠斗も相性が悪い。

 俺が団長として、止めなければ……


「と……ま……れ……ぇ……ッ!」


 呪いなんかに負けてたまるか……ッ!

 頼むぞ……デュランダル……ッ!


「"剣よ……我が……祈りに……応え……よ……"ッ!」


 少し前に考えていた事。

 "デュランダルが俺に魔法をかけている"

 先程の『ディバイン』でそれは確証を持てた。

 身体が勝手に、ベストな動きを弾き出していたからだ。

 なら、『ディバイン』は自己強化魔法なんて枠に囚われない新しい種類の魔法と呼べるのではないか?

 これは偉大な発見かもしれない。


「う……おぉ……ッ!」


 デュランダルが神々しく輝く。

『ディバイン』が発動したのだ。

 すると突然、俺の影から黒い塊が吹き飛んだ。

 同時に俺の身体の拘束が解ける。

 が、俺の身体は現在デュランダルが制御している真っ最中。

 さっきから俺の身体はキグルミの様に着回されている気がする。

 俺の身体が勝手に動き、凍土でのたうち回る黒いドブにデュランダルを勢いよく突き立てた。

 ザシュッと切れ味の良い音と共に、黒いドブが光の粒子となって消えていく。


「解呪魔法……!?」


 どうやら口は自由に動かせるらしい。

 それにしても、あの黒いドブはアルデバランが死に際に遺した怨念、いわば呪いの塊だ。

 それを浄化するとは、『エンハンス』で光属性を纏わせていた……? いや、『エンハンス』で纏わせられる光属性ではあれほど高濃度な呪いは浄化出来ないはず……

 一体何なんだこの剣は……

 とりあえず、アルデバランは完全に討伐した。

 これで目的の半分は達成したのだ。


「おーいッ! 無事か、セナッ!?」

「悠斗ッ! 無事だッ! 援護ありがとう」

「なぁに! 任せとけよッ! 師匠に褒められるのが楽しみだぜッ!」


 後方支援をしてくれた悠斗と合流出来た。

 左眼が見えていないのに、健闘したはずだ。

 すると、ふと違和感を覚えた。

 何だろう?

 何か忘れてはいけない事を忘れている気がする。

 何か他に討伐対象がいた気が……

 いや、いたなら悠斗が援護してくれているはずだ。

 この場所にはアルデバランと数人の魔法使い『しか』いなかった。

 俺と悠斗はその違和感を無かったことにして王都へ帰還した。

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