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見習い魔法剣士の英雄譚  作者: 清水 悠燈
魔法騎士団編
32/66

-十二神獣の本領-

 やはりアルデバランはタウラス無しでも相当に強い。

 単純に保有魔力量が違いすぎる。

 干渉力も俺より強い。

 そこそこの魔力しかない俺ではタイマンはきつい。


「く……ッ!」

「先程までの威勢は何処へ行きましたか? 不思議ですねーッ! 貴方の様な『人間』は己が弱さを知らず立ち向かうッ! なんと無様で、なんと愚かしいッ!」

「どうして……ッ!」


 突風に吹き飛ばされる。

 なぜ……なぜアルデバランは俺が『人間』だと知っている……?

 エレナでさえも知らなかったはずだ。

 知っているのはフラムやティル、騎士団の数人だけなのに。


「お前は何者だッ!」

「私……私ですか……私はアルデバラン。主の啓示により魔法界を凍結させ、破滅に導く……『人間』ですッ!」

「なん……だと……ッ!?」


 人間がこの保有魔力……?

 冗談に決まっている。

 フラムと同レベルの魔法使いが人間……?

 ありえない、そんなこと……


「信じていないようですねぇ……仕方ありません。これでどうですかぁ?」


 アルデバランが目深く被っていたローブのフードを捲り上げた。

 現れた顔は、黒髪黒目の痩せ細った男だった。

 その容姿は正しく人間。

 魔法界に黒髪黒目なんて生まれない。

 ならば、こいつは本当に……


「分かったでしょうッ! 私は神に選ばれた人間なのだとッ!」

「領域魔法……!?」

「『アイスピラー・ゾーン』ッ!」

「この……ッ!」


 俺の足下を中心に巨大な魔法陣が展開された。

 そして、一斉に鋭利な氷の針が突き出される。

 指定範囲に氷の針を生成し、敵を貫く高位領域魔法『アイスピラー・ゾーン』。

 術者の実力が高ければ高いほど針が細くなり、鋭さが増す。

 もちろん数も増える。


「ぐぁ……ッ!」


 この数は防げない。

 自己強化魔法『バリア』を展開するが、1秒も持たずに破壊され、俺の身体をいくつもの針が貫いた。

 腕、腹、太ももなど、計11箇所。

 早く抜かなければ……

 この魔法の恐ろしさは、貫いてからなのだ。


「う……あぁぁぁッ!」

「いい声で叫びますねぇ! いかがなものでしょうか、氷に蝕まれる気分とは……?」


『アイスピラー・ゾーン』により生成された氷の針に貫かれれば、貫かれた箇所から氷が侵食し始める。

 身体の肉を氷が抉りながら突き進むのだ。

 尋常ではない痛みが身体を駆け巡る。


「さあ、氷の中で死になさいッ! そこらの魔法使い達のようにッ!」


 ふと、『死』が脳裏を掠める。

 このまま死ぬのか……?

 ダメだ死ねない。

 俺にはまだまだやる事がある。

 俺は《背理教会》を壊滅させ、"本当の両親を探す"んだ……ッ!


「……ッ!」

「な、なんですか……ッ!?」


 キィーンと澄んだ音が辺りに響き渡った。

 同時に、俺を貫き蝕んでいた氷が砕け散る。

 そして、凍土すらも平原に戻った。


「『バックタイム』……? 『リセットゾーン』ですか……? 実に……実に小賢しいッ!」


 アルデバランの予想は惜しいが、間違いだ。

 頭がなんだかボーッとする。

 けれど、身体は勝手に動き出す。


「"剣よ、我が祈りに応えよ"」


 針に穿たれ穴だらけだった身体が再生していく。

 まるで何事も無かったかのように。

 そして、右手に握るデュランダルが眩いくらいの光を放つ。

 これがオリジナル魔法『ディバイン』。


「小賢しい……小賢しい……ッ! いでよ、タウラスッ! 彼を殺せッ!」

「グモォォォォッ!!」


 無詠唱で召喚された十二神獣が一角、牡牛座・タウラスが怒声を響かせる。

 その威圧感はやはり凄まじい。

 タウラスの召喚に合わせ、アルデバランの背後にいた水色のローブの魔法使い達も、俺を囲む様に陣形をとった。


「やりなさい……ッ!」


 アルデバランの合図と共にタウラスが突進を始め、魔法使い達が詠唱を始める。

 だが、遅すぎる。

 キィーン。

 澄んだ音が再び響き、俺以外の世界を灰色に染めた。

 オリジナル魔法『リバース』。

 時間が停止した世界で、俺はデュランダルを横薙ぎに振った。

 世界が色を取り戻す。

 そして、血飛沫が舞った。

 その血の持ち主は、水色のローブの魔法使い達。


「なん……ですか……? なんですかその力は……ッ!」


 アルデバランが叫ぶ。

 そういえばエレナも同じような事を言っていた。

 だが、アルデバランは一度この魔法を体験しているはずだ。

 もう一度世界が色を失う。

 今度はタウラス。

 先に主を殺してしまえば、召喚獣は暴走してしまうからだ。

 厄介だが、さすがの十二神獣も停止した時間の中では何も出来まい。


「シ……ッ!」


 高速移動からの斬撃を放つ。

 デュランダルがタウラスの腹部に沈んでいく。

 これはやれる……ッ!

 そう思った矢先、デュランダルが止まった。

 そして、世界も色を取り戻す。


「なぁんて……2度も同じ魔法にはやられませんよ……ッ! それに……ッ!」

「どうして動かない……ッ!」

「タウラスの固有性能は『無限魔力放出』ッ! 少し光速や音速を超えた程度の斬撃、全て押し返すに決まっているでしょうッ!」


 直後、凄まじい勢いで吹き飛ばされる。

 固有性能というのは時間が止まっていても発動するというのか。

 そして、アルデバランの魔力放出が強力なのも、契約しているタウラスの庇護下にあるからか。

『ディバイン』と『リバース』を使って勝てないのなら、もうどうすることも出来ないではないか。

 せめて……せめてアルデバランを……ッ!


「タウラスッ!」

「グモォォォォッ!!」

「ぐぁ……!?」


 俺がデュランダルを構えた瞬間、タウラスが咆哮を放った。

 同時に、身体が地面に押し付けられた。

『オーバーグラビティ』……!?

 いや、そんなヤワな魔法ではない。

 これは……


「タウラスのもう一つの固有性能『加重』ッ! 普通の魔法使いならば平らになってもおかしくありませんが……貴方はやはり中々強固だッ!」

「ぐ……あ……ぁ……ッ!」

「何をしても無駄です。それこそ、このタウラスの干渉力に勝たなければ……ッ!」


 呼吸が出来ない。

 今にも身体が押しつぶされそうだ。

 圧倒的過ぎるまでスペック。

 これが十二神獣の力。

 アルデバランさえ殺せば、理性を失ってどうにかなるかもしれないのに。

 その瞬間、スコーンッと心地よい音が響いた。

 タウラスの横からだ。


「は……? 主よ……主に栄光……あれ……」


 アルデバランの額に魔力の込められた矢が突き刺さっていた。

 それも、深々と。


「ナイスショーット……」


 俺はついついそう呟いてしまった。

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