-十二神獣の本領-
やはりアルデバランはタウラス無しでも相当に強い。
単純に保有魔力量が違いすぎる。
干渉力も俺より強い。
そこそこの魔力しかない俺ではタイマンはきつい。
「く……ッ!」
「先程までの威勢は何処へ行きましたか? 不思議ですねーッ! 貴方の様な『人間』は己が弱さを知らず立ち向かうッ! なんと無様で、なんと愚かしいッ!」
「どうして……ッ!」
突風に吹き飛ばされる。
なぜ……なぜアルデバランは俺が『人間』だと知っている……?
エレナでさえも知らなかったはずだ。
知っているのはフラムやティル、騎士団の数人だけなのに。
「お前は何者だッ!」
「私……私ですか……私はアルデバラン。主の啓示により魔法界を凍結させ、破滅に導く……『人間』ですッ!」
「なん……だと……ッ!?」
人間がこの保有魔力……?
冗談に決まっている。
フラムと同レベルの魔法使いが人間……?
ありえない、そんなこと……
「信じていないようですねぇ……仕方ありません。これでどうですかぁ?」
アルデバランが目深く被っていたローブのフードを捲り上げた。
現れた顔は、黒髪黒目の痩せ細った男だった。
その容姿は正しく人間。
魔法界に黒髪黒目なんて生まれない。
ならば、こいつは本当に……
「分かったでしょうッ! 私は神に選ばれた人間なのだとッ!」
「領域魔法……!?」
「『アイスピラー・ゾーン』ッ!」
「この……ッ!」
俺の足下を中心に巨大な魔法陣が展開された。
そして、一斉に鋭利な氷の針が突き出される。
指定範囲に氷の針を生成し、敵を貫く高位領域魔法『アイスピラー・ゾーン』。
術者の実力が高ければ高いほど針が細くなり、鋭さが増す。
もちろん数も増える。
「ぐぁ……ッ!」
この数は防げない。
自己強化魔法『バリア』を展開するが、1秒も持たずに破壊され、俺の身体をいくつもの針が貫いた。
腕、腹、太ももなど、計11箇所。
早く抜かなければ……
この魔法の恐ろしさは、貫いてからなのだ。
「う……あぁぁぁッ!」
「いい声で叫びますねぇ! いかがなものでしょうか、氷に蝕まれる気分とは……?」
『アイスピラー・ゾーン』により生成された氷の針に貫かれれば、貫かれた箇所から氷が侵食し始める。
身体の肉を氷が抉りながら突き進むのだ。
尋常ではない痛みが身体を駆け巡る。
「さあ、氷の中で死になさいッ! そこらの魔法使い達のようにッ!」
ふと、『死』が脳裏を掠める。
このまま死ぬのか……?
ダメだ死ねない。
俺にはまだまだやる事がある。
俺は《背理教会》を壊滅させ、"本当の両親を探す"んだ……ッ!
「……ッ!」
「な、なんですか……ッ!?」
キィーンと澄んだ音が辺りに響き渡った。
同時に、俺を貫き蝕んでいた氷が砕け散る。
そして、凍土すらも平原に戻った。
「『バックタイム』……? 『リセットゾーン』ですか……? 実に……実に小賢しいッ!」
アルデバランの予想は惜しいが、間違いだ。
頭がなんだかボーッとする。
けれど、身体は勝手に動き出す。
「"剣よ、我が祈りに応えよ"」
針に穿たれ穴だらけだった身体が再生していく。
まるで何事も無かったかのように。
そして、右手に握るデュランダルが眩いくらいの光を放つ。
これがオリジナル魔法『ディバイン』。
「小賢しい……小賢しい……ッ! いでよ、タウラスッ! 彼を殺せッ!」
「グモォォォォッ!!」
無詠唱で召喚された十二神獣が一角、牡牛座・タウラスが怒声を響かせる。
その威圧感はやはり凄まじい。
タウラスの召喚に合わせ、アルデバランの背後にいた水色のローブの魔法使い達も、俺を囲む様に陣形をとった。
「やりなさい……ッ!」
アルデバランの合図と共にタウラスが突進を始め、魔法使い達が詠唱を始める。
だが、遅すぎる。
キィーン。
澄んだ音が再び響き、俺以外の世界を灰色に染めた。
オリジナル魔法『リバース』。
時間が停止した世界で、俺はデュランダルを横薙ぎに振った。
世界が色を取り戻す。
そして、血飛沫が舞った。
その血の持ち主は、水色のローブの魔法使い達。
「なん……ですか……? なんですかその力は……ッ!」
アルデバランが叫ぶ。
そういえばエレナも同じような事を言っていた。
だが、アルデバランは一度この魔法を体験しているはずだ。
もう一度世界が色を失う。
今度はタウラス。
先に主を殺してしまえば、召喚獣は暴走してしまうからだ。
厄介だが、さすがの十二神獣も停止した時間の中では何も出来まい。
「シ……ッ!」
高速移動からの斬撃を放つ。
デュランダルがタウラスの腹部に沈んでいく。
これはやれる……ッ!
そう思った矢先、デュランダルが止まった。
そして、世界も色を取り戻す。
「なぁんて……2度も同じ魔法にはやられませんよ……ッ! それに……ッ!」
「どうして動かない……ッ!」
「タウラスの固有性能は『無限魔力放出』ッ! 少し光速や音速を超えた程度の斬撃、全て押し返すに決まっているでしょうッ!」
直後、凄まじい勢いで吹き飛ばされる。
固有性能というのは時間が止まっていても発動するというのか。
そして、アルデバランの魔力放出が強力なのも、契約しているタウラスの庇護下にあるからか。
『ディバイン』と『リバース』を使って勝てないのなら、もうどうすることも出来ないではないか。
せめて……せめてアルデバランを……ッ!
「タウラスッ!」
「グモォォォォッ!!」
「ぐぁ……!?」
俺がデュランダルを構えた瞬間、タウラスが咆哮を放った。
同時に、身体が地面に押し付けられた。
『オーバーグラビティ』……!?
いや、そんなヤワな魔法ではない。
これは……
「タウラスのもう一つの固有性能『加重』ッ! 普通の魔法使いならば平らになってもおかしくありませんが……貴方はやはり中々強固だッ!」
「ぐ……あ……ぁ……ッ!」
「何をしても無駄です。それこそ、このタウラスの干渉力に勝たなければ……ッ!」
呼吸が出来ない。
今にも身体が押しつぶされそうだ。
圧倒的過ぎるまでスペック。
これが十二神獣の力。
アルデバランさえ殺せば、理性を失ってどうにかなるかもしれないのに。
その瞬間、スコーンッと心地よい音が響いた。
タウラスの横からだ。
「は……? 主よ……主に栄光……あれ……」
アルデバランの額に魔力の込められた矢が突き刺さっていた。
それも、深々と。
「ナイスショーット……」
俺はついついそう呟いてしまった。




