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見習い魔法剣士の英雄譚  作者: 清水 悠燈
魔法騎士団編
30/66

-元大親友と夢の魔法-

 草花が揺れる大草原に魔法使いが2人。

 そして、上空に広がる巨大な魔法陣達。

 どれも上位魔法の魔法陣だ。

 さらに火、水、風、土、光、闇などほぼ全属性の魔法である。

 まさに圧倒的な火力。

 けれど、対峙する魔法使いは怯みもせず、余裕の表情を浮かべている。


「あら、少し腕が落ちたかしら?」

「戯け。お前を焼くくらいならこの程度で十分なんだよ」

「うふふ……舐められたものね、私も。久しぶりに会ったというのに、再会の照れ隠しかしら? ね、フラム?」

「笑わせるなよマリー。《背理教会》なんかに堕ちたお前に慈悲も容赦も、再会の喜びも無いさ」


 直後、魔法陣から色とりどりの魔法が放たれた。

 どれも必殺の威力が宿る大技だ。

 今の魔法界にこの上位魔法の雨を防ぎきれる魔法使いは存在しない。


「呼び出されて来てみればこれとはな……呆気ないものだな、マリー」


 フラムとマリーは幼い頃からの大親友である。

 フラムが王専属魔法使いになるまでは……

 昔はよく模擬戦をしたものだが、まさか錬金術師になって《背理教会》なんぞに堕ちるとは。

 元親友として、情けない。

 だがまあ、フラムには敵にかける情など微塵も無いのだ。

 先程まで緑が広がっていた草原は跡形もない。

 燃え上がる場所や凍りついた場所、大きな穴が穿たれた場所もある。

 この中で生き延びているとすれば、バケモノの類だ。

 しかし、さすがは昔のフラムが認めただけはある。


「はぁ……バケモノめ……」

「実験は成功よ……ッ! あなたの魔法でも、私の『魔法具』の効力を上回れないッ!」

「『無効化』か『吸収』……『反射』の可能性もあるか……一体何を作ったんだバカ錬金術師」

「うふふ……ッ!」


 煙の中から現れたマリーは、無傷だった。

 不気味に光った眼鏡にも砂煙ひとつ付いていない。

 完封されたようだ。

 それにしても、面白いものを錬成したらしい。

 数十種類の魔法を防ぎきれる魔法具か……

 それとも何か特殊な手順を踏んでいるのかもしれない。

 マリーと模擬戦をしていた頃を思い出す。

 いつもいつも目新しい性能を備えた魔法具や杖で、フラムを驚かせてくれた。

 少し懐かしくなるが、今のマリーはただの敵だ。

 流石に上位魔法を受け続けられる魔法具は存在しない。

 たとえ性能が『無効化』『吸収』『反射』だとしても、限界があるのだ。

 ならば、少し本気を出してもいいだろう。

 フラムは右手に握る杖を高々と掲げた。


「これはどうだ? 『ファフニール・ブレス』ッ!」


 フラムの杖『ケルベロス』の固有性能である『魔法の多段化』により、炎のような魔法陣が3つ上空に現れる。

 凄まじい魔力濃度のフラムの切り札の1つ。

 杖を振り下ろした瞬間、全てを焼き尽くす熱線がマリーに向かって一直線に放たれた。

 だが、フラムのオリジナル魔法でさえもマリーの目の前で消滅してしまう。


「どうかしら?」

「アハハ……ッ! 最高だなマリーッ! 久々に本気が出せそうで嬉しいよ……ッ!」

「勝つのは私よ、フラムッ! 本当の殺し合いを始めましょうッ!」


 こうして、緑豊かな大草原は戦場へと変わった。




 ───────────────────────




 場所は変わって王都の城下町。

 フラムによって再建された商店街では、相変わらず賑やかな商人達で溢れている。

 最近気付いたことがある。

 わざわざ王都に集う鍛冶師達が作ってくれた騎士鎧を俺とカルナ以外、誰も付けていないのだ。

 確かに目立って仕方ないかもしれないが、もったいない。


「はぁ……」


 それにしても、片眼が見えないのはなんとも不便だ。

 フラムに会えば治してもらえるだろうか?

 そういえば最近フラムに会っていない。

 彼女は王専属魔法使いだから、やはり忙しいのかもしれない。

 しばらく不便な生活が続くのか……

 考えるだけでも嫌になる。

 それに、いつ《背理教会》が攻めてくるかもわからないのだ。

 恐らく満足に戦えないだろう。

 困った、本当に。


「見えないのは……きついなぁ……」


 ポツリと呟く。

 アルデバランが従える十二神獣・タウラスの事を考えるだけでも憂鬱なのに、本当にメンタルにくる。

 頭を抱えたくなるが、一応外出中なので堪えた。


「ひゃっ! ごめんなさいっ!」

「おわっ! 大丈夫!?」


 すると突然、フードを被った少女が俺に激突してきた。

 その衝撃で少女の持っていた鞄から、大量の紙が舞い上がる。

 慌てて『クイック』を発動し、少女を抱きかかえて転倒を防ぐ。

 大人しそうな雰囲気に、魔法界では珍しい眼鏡をかけていた。


「は、はわわ……ッ! 本当にごめんなさいッ!」

「き、気にしないでいいよ。紙、拾うの手伝うから」


 散らばった紙の1枚を拾い上げる。

 何が書かれているのか、少し気になって見てしまう。

 少女の見た目から、恐らく年齢は12歳程。

 書いてあるものも知れていると思ったが、とんでもない物が記されていた。


「君は一体……」

「ご、ごめんなさいッ! し、失礼しましたッ!」

「あ、ちょっと待って……ッ!」


 質問しようとした瞬間、勢いよく紙を取られ、そのまま逃げられてしまった。

 俺の声は全く届かないのか、呼び止めても振り向く様子もなく走っていく。

 だが、本当に驚いた。


「あの見た目……あの年齢で……?」


 紙に書かれていた内容、それは不可能とされていた『蘇生魔法』についてのレポートだった。

『蘇生魔法』とは、文字通り人を蘇らせる魔法だ。

 必要とする魔力依然に、何ひとつ、詠唱すら発見することが出来なかった、まさに奇跡。

 あのフラムでさえ、「『蘇生魔法』は夢の話だ」と言っていた。

 ほんの一瞬見ただけだが、少女が書いたと思われるレポートには、詠唱と必要な魔力、その効果まで書かれていた。

 彼女は見つけてしまったのだろう。

 禁断の魔法、夢の魔法である『再生魔法』を。

 まさに異才。

 本当におもしろそうな子だと思った。


 けれど、この時の俺は、いずれこの魔法が魔法界を揺るがすとは思いも考えもしていなかった。

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