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見習い魔法剣士の英雄譚  作者: 清水 悠燈
魔法界変革編
3/66

-最強の一撃-

 

「さてと、この2人、いい魔力持ってるじゃない。回収しようかしら」


 右眼に『魔力視』の魔法陣を輝かせるエレナ・フェレラルは2人の男女の身体に触れた。

 2人の身体は発光し始め、一瞬にして姿を消す。

 事前に登録した場所へ転移する転移魔法『ループ』。

 この魔法の強みは、消費魔力の少なさにある。

 ただ、唯一の欠点は転移場所の登録時に必要な魔力だけは多いという事だ。

 これに関しては数人の魔法使いで共同すれば解決する。

 2人の男女は難なく登録した場所へ転移されただろう。


「ふふ……おもしろい『作品』になればいいわね……」


 エレナの所属する組織が行っている『実験』には丁度いい。

 目的も達成したことだし、もう帰還しようか。

 そう思った瞬間、事は動いた。


「アナタ、意外とおもしろいのね……! いいわ、もう楽には死なせないわよ……!」


 エレナの目が少し、狂気の色に染まった。




 ───────────────────────




『ソウルブレイク』は確かに俺を貫いた。

 だが、俺は死んでいない。

 右手に握るデュランダルが淡く輝いているだけだ。


「なるほど……フラムのやつ、おもしろい工夫してやがるな……」


 デュランダルに仕掛けられていたのはある魔法。

 普通は鎧など身を守るものに付与されていることが多い、1度だけ物質に魔法の効果を無効化する効果を与える付与魔法『リカバリー』。

 俺の命は万が一のためにフラムが付与した魔法に救われたわけだ。

 投げられた痛みはまだ僅かに残るものの、戦えないほどではない。

 少しふらつきながらも立ち上がる。


「アナタ、意外とおもしろいのね……! いいわ、もう楽には死なせないわよ……!」

「ハッ! 望むところだ……! お前こそ楽に死ねると思うなよッ!」


 お互いが突撃する。

 恐ろしいのは俺が剣を使っているのに対して、エレナは素手で挑んでいるということ。

 だが、ここで容赦するほど俺はお人好しではない。



「所詮は威勢だけのガキがッ!」

「お前もガキだろうがッ!」


 俺の強化された速度に付いてくるエレナ。

 時々掠める剣を全く恐れずに反撃を繰り出してくる。

 だが、そもそも剣と拳ではリーチが違うのだ。

 ということは、必然的に接近さえすればいい。

 エレナが詠唱出来ないほどに息の詰まった戦いの中で遂にそれは起こった。

 俺の上段斬りにエレナが左腕を犠牲に防ごうとしたのだ。

 デュランダルがエレナの左腕を斬り落とした。

 斬り落としたはずだったが……

 デュランダルとエレナの左腕が火花を散らして鍔迫り合いをしていた。


「な……ッ!」

「ふふふッ! 驚いたかしら?」

「『マジックメタル』……てめぇ、自分の身体いじってやがんのか……ッ!」

「あら、材質まで分かるなんて、流石は勉強熱心と言うところね」

「ぬかしやがれッ!」


『マジックメタル』は流し込んだ魔力の量によって強度の変わる金属だ。

 希少性が高く値段も馬鹿にならない。

 だが、魔法使い3人全ての魔力を流し込めば付与魔法で強化された武器程度は軽く返すことの出来る優れものなのだ。

 それを身体の一部に置き換えているということは、エレナの組織は相当巨大だと考えるべきか。


「"荒れ狂え、刃の風"」

「くっ……そがぁ……ッ!」


 風と共に不可視の刃を射出する単対象攻撃魔法『エアスライサー』。

 触れるだけで手足が吹き飛ぶ切断力は危険だ。

『バーサク』と『クイック』を発動し、自分の付近をデュランダルで滅多切りにする。

 何回かの手応えを感じたということは斬り落とすことができたということ。


「乱暴ね……全く」

「はぁ……はぁ……」

「あら、もうお疲れかしら? じゃあ、おしまいね。"吹き飛びなさい"」

「ぐぁ……ッ!」


 魔法の酷使により疲れた身体に、無詠唱の魔法が襲いかかる。

 魔法式がわからないので魔法の正体はわからないが、突風で対象を吹き飛ばす単対象攻撃魔法『トルネード』だろう。

 暴風に飛ばされるままに10mも吹き飛ぶ。

 だが、奇跡は起こるものだ。


「やれやれ〜。お迎えが来たみたいよ?」

「なにが……」


 エレナが指さした上空には巨大な魔法陣が広がっていた。

 そこから漂う魔力濃度は明らかに異常。

 嫌な汗が頬を伝う。

 だが、その姿が現れたのを見て、一気に安堵した。


「エレナか。私の息子に散々してくれたみたいじゃないか」

「フラムじゃな〜い! 生きてたんだ?」

「王国の魔法使い共に殺られる私じゃないさ。さぁ、死んでもらおうか、エレナ」

「怖い怖〜い。でも、アナタに私は殺せないわよ?」

「フハハッ! やってみなければわからないさ」


 燃える炎のような赤い髪をかきあげ、自信満々に杖を握るフラム・レイズだ。

 同じく自信満々のエレナの発言にひとつ疑問が浮かぶ。

 確かにエレナの魔力量は多い。けれど、その程度ではフラムの半分にも満たないのだ。


「死ね、魔法使いの恥が」

「大胆な魔法ね……ッ!」


 フラムの無詠唱魔法が展開される。

 フラムを最強たらしめる、フラムだけしか使えないオリジナル魔法の魔法陣が3つ、エレナを囲むように現れた。

 流石のエレナも同様を隠せないようだ。


「予想以上だったわ……誤算ね……」

「それは良かった。存分に焼かれてくれ。『ファフニール・ブレス』ッ!」


 そして、魔法陣から青色の炎が放たれた。

 放たれる炎は業火にして触れたものを瞬時に溶かす。最強の単対象攻撃魔法『ファフニール・ブレス』。

 それが3つ。

 単対象攻撃魔法にしては広い範囲に効果を及ぼすこの魔法がそれだけ放たれれば生きていられるはずがない。

 付近にいた俺でさえ即座に自己強化魔法『バリア』を使わなければ業火の余波で死んでいた。


「ふぅ。やりすぎたか」

「フラム……助かった……」

「あぁ。『魔力検知』にお前とエレナが引っかかった時は焦ったぞ。記憶は戻ったみたいだな」

「あ、あぁ。それはなんとか」

「よかった。だが、魔法を使った痕跡があるな……」

「そりゃ俺も魔法使いだぞ?」

「いや、違う。さっきの瞬間だ。ちっ……逃げられたか」


 フラムの無詠唱よりも速く魔法を展開するなんて、エレナは相当な手練れなのだろう。

 転移魔法はそんなに速く展開出来るはずはないのだが……


「まぁ、『魔法具』だろうな。お前の魔法剣みたいなものさ」

「なるほどな……」

「また見つけて殺せばいい。それよりだ、帰るぞセナ」

「帰るってどこにだよ」

「魔法界以外どこにある。私の隠れ家ならバレないさ」


 そう言って『空間転移』の魔法陣を展開するフラム。

 だが、辺りを見回せばそこは地獄だ。

 帰る前にひとつやることが。否、やってもらうことがある。


「フラム、帰る前にここの時間、戻せるか?」

「あぁ。そうだな。それくらいはしてもいい価値はありそうだ」

「どういうことだよ……?」

「私は人間なんかのために魔法は使わん。だが、お前が今こうして自ら頼むのなら、まあいいだろうということだ」

「人間なんかって……フラム、お前は……ッ!」


 フラムはどこか蔑んだような視線を荒れた学校に向けるとそう言った。

 元来、魔法使いは人間を嫌う。

 それは人間が圧倒的に劣っているからだ。

 例に漏れずフラムもそういう偏見を持っているらしい。

 それが、少し悔しかった。

 ほんの短い間だけだったが、記憶の掠れた俺を優しく包み込んでくれた友達をバカにされているような気がしてならない。


「嘆いても私の価値観は変わらない。今回だけ、特別だ」

「俺だって……人間だ……」

「ッ! お前は魔法使いだ」

「違うッ! フラムが一番わかってるはずだろ!?」

「"変遷せよ。巻戻れ。刃向かえ。世界の理を"」

「う……ッ!」


 フラムが誤魔化す様に魔法を唱えた。

 指定した範囲の時間を数時間程度巻き戻すことのできる領域魔法『リセットゾーン』。

 魔法陣から時計の針が現れて、逆方向に回転する。

 それと同時に倒壊した校舎が、崩れた地面が嘘のように再生していく。

 あっという間に事件の起こる前に戻った。


「帰るぞ、セナ」

「あぁ……」


 フラムがゲートを開き、帰るように促してきたその時。


「セナ……待ってくれ……!」

「悠斗……?」

「全部見てた……お前が何も無いところから剣を取り出すところ。周りを氷だらけにしたところ。その女の人が、炎を出したところ。全部!」

「セナ、こいつの記憶を消すぞ?」

「待ってくれフラム! 話は終わってないだろ」


 氷漬けになっていたはずの悠斗が必死で訴えてきた。

 フラムの『リセットゾーン』で俺の『フリージング』も無かったことにされたからだろう。

『リセットゾーン』の効果は領域にしか働かない。だから、悠斗の記憶はなかったことには出来ないのだ。


「俺も……俺も連れて行ってくれッ!」

「は? 何言ってんだよ悠斗。お前は人間界(コッチ)の人間だろ!」

「それでもだ……! 俺に、魔法を教えて欲しい……ッ!」

「悠斗と言ったか。その理由は何だ?」


 フラムが冷ややかな目で悠斗に聞いた。

 フラムは魔法使いであり、魔法学の研究者でもある。

 本人曰く、おもしろいものには興味が湧いて仕方がないらしい。


「響也と日向が居ないんだ……あいつに、連れて行かれた……」


 朦朧とした意識の中で見た、連れて行かれた二人の影。

 それは親友の響也とクラスメイトの日向だったのか。


「だからなんだ?」

「もう何も……失いたくないんだ……大切なものを……ッ!」

「くっははははははっ! 最高に面白いな悠斗とやら!」

「は、はぁ?」


 フラムが珍しく声を上げて笑った。

 悠斗は涙目で唖然としている。

 それもそうだろう。さっきまでの殺気は嘘のようなのだから。


「良いだろう! 教えてやろう。魔法を!」

「ほ、ほんとか!?」

「だが、魔法の道は険しい。ましてやお前はただの人間だ。そう簡単にはモノにできんぞ?」

「わかってる! それでも……頼む!」

「それでこそおもしろい! では、来るといい」


 フラムはそう言ってゲートを潜った。

 悠斗が目を輝かせながら続く。

 おいてけぼりだった俺は何がなんやらといった状態で続いた。

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