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見習い魔法剣士の英雄譚  作者: 清水 悠燈
魔法騎士団編
29/66

-錬金術-

 星がとても綺麗な夜だった。


「ただいま。帰ったよ母さん」

「あら、おかえりなさいマガト」

「うん。ごめんね、あのヴァンパイアの女の子逃がしちゃった」

「気にしないでいいのよ。あなたの『魔眼』はまだまだ強くなるわ」


 ヴァンパイアの少女・ベルかけた魔眼が解除された日、《背理教会》幹部のマガト・グラフェスはいつも通り自分の家に帰った。

 もちろん家には母がいる。

 父親は僕が産まれる前に他界しているらしい。

 母も魔法使いであるが、『錬金術』を専攻している錬金術師である。

 錬金術というのは物体に属性を付与する付与魔法『エンチャント』を始め、様々な付与魔法を駆使して物体に特殊な性能を与える魔法の分野のひとつだ。

 杖を作る『鍛冶師』達が扱うのも錬金術であり、錬金術は普通、武器の作成や『スクロール』などの魔法具の作成に使われている。

 だが、僕の母、マリー・グラフェスは違う。

 彼女が錬金術で創り出す物は『魔眼』だ。

 僕の魔眼も生まれつきのものでは無い。

 両眼ともに母が創った魔眼なのだ。


「母さん、次は何をしたらいいかな?」

「マガトは何がしたいかしら?」

「そうだなぁ……僕はベルを僕のモノにしたいなぁ……」

「うふふ……素敵じゃない。自由に動いていいわよ」

「ありがとう母さん」


 もちろんマリーも《背理教会》の1人。

 錬金術により自分の身体の時間を凍結させているマリーは、実年齢は30代だが、見た目は20歳と言われても信じるほどに若々しい。

 茶髪をポニーテールにし、『魔力視』を付与された眼鏡をかけているので、知的な学生にしか見えない。

 まあ、素敵な母親だ。

 思い出したくないのは『手術』の時だが……


「今日はもう遅いわ。寝なさい」

「うん。わかった。おやすみ母さん」

「おやすみマガト」


 とりあえず、次の目標が決まった。

 ヴァンパイアのベルを僕のモノにする。

 とても魅力的な子だ。

 心から欲しい。

 全部僕色に染めてやるんだ。

 夕飯は済ませてあるので、入浴を終え、自室のベッドに潜り込んで考えた。

 僕の『眼』は、僕と彼女の再会を予言している。

 もう一度会える。

 今度こそ、もっと深い心の闇に漬け込んで洗脳してやる。




 ───────────────────────




 魔法騎士団の会議室には、団員全員が珍しく揃っていた。

 久々に見る悠斗の顔つきは出会った当初とは全く違っている。

 この短期間で誰とどんな修行をしたんだろうか。

 気になるが、それよりも先に成さねばならぬ事がある。


「みんな、集まってくれてありがとう。今日は今後の活動について知らせるために呼んだんだ」


 ピシッと緊張感が走る。

 7人の集中力が上がる。


「今やるべき事は《背理教会》の幹部2人の討伐。十二神獣の一角、タウラスを従えるアルデバランと、『読心』と『洗脳』の魔眼を持ったマガトだ」


 俺が実際に戦ったアルデバランは、フラムに匹敵する魔法使いだ。

 その上、最強の召喚獣である十二神獣の牡牛座・タウラスと契約している。

 正直勝ち目は無い。

 フラムに助けを求めても、アルデバランの相手で手一杯だろう。

 その隙にタウラスにやられてしまう。

 かと言って、俺が加戦しようにも、魔法を連発するフラムの邪魔になりかねない。

 頼りになるとすればティルか。

 ティルは俺と同じ近接戦闘が得意なので、俺がいても足を引っ張る事は無いだろう。

 けれど、大掛かりな魔法無しでアルデバランに勝てるかといえば、それはノーだ。

 少なくとも数回は大型魔法の使用を踏まえて作戦を練るべきだろう。

 とりあえず厄介すぎるアルデバランの件は保留。

 一応、攻略は可能であるとされるマガトからだ。

『読心』と『洗脳』の魔眼。

 どちらも面倒くさい上に、最悪の組み合わせだ。

 どんな意地汚い産まれ方したらそのような魔眼を持てるのか。

 だが、対処する作戦はある。

 騎士団のみんなには言わないが……


「恐らく、アルデバランが先に動き出す。もし本当にそうなった場合、俺が1人で相手をする」

「セナ、また1人で行くんか? うちらの1人でも連れて行けば変わらんの?」

「場合によっては邪魔になるんだ……」

「なら、俺が行くよ、セナ」

「悠斗……? 大丈夫なのか?」

「しばらく留守にしてたんだ。もちろん実力は前より上がったよ」


 また1人で行動しようとしてしまう癖が出てしまった。

 けれど、片眼の失明から気を使ってくれている凜華がそれを止めてくれる。

 さらに、悠斗が同行を名乗り出る。

『リバース』を使うと、周りが邪魔になるかもしれないが、遠距離からの攻撃を得意とする悠斗なら問題無いかもしれない。

 それに、人間界にいた頃から仲の良かった悠斗なら、上手く連携をとる自信がある。


「じゃあ、俺と悠斗でアルデバランを相手取る。残りの5人でマガトを相手してくれ」

「「「「「「了解ッ!」」」」」」

「襲撃があるまで各自待機。その時が来たらいつでも行けるように万全の準備をしておくように」


 全員が真面目な顔で敬礼をとる。

 騎士団の団長といっても、みんな仲の良い友達と思っている俺にとって、敬礼はあまり好ましくないのだが、みんな俺を困らせるためにやっている。多分。

 だが、作戦はある。

 この命を削ってでもアルデバランとマガトを倒さねばならない。

 始まる。

 恐らくエレナの時よりも激しい戦いが。

 俺も準備を整えなければ……


 こうして、また1日、カウントダウンが進む。

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