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見習い魔法剣士の英雄譚  作者: 清水 悠燈
魔法騎士団編
28/66

-差し伸べる手-

 薄暗い王城の中を1人歩く。

 教会が撤退し、復興が始まっているらしい王都。

 右手には常に魔力を握っている。

 いつでもやれる……


「アナを……あの子さえいなかったら……」


 ベルは黒い戦闘服、騎士鎧の前の服を着て、闇に溶け込んでいた。

 目的は、恋敵であるアナスタシアの暗殺。

 もちろんバレればただでは済まない。

 なんといってもアナスタシアは王族の1人なのだから。

 もしかしたらこれは無駄な事なのかもしれない。

 けれど、深く考える前に何か黒い感情が私の中を埋めつくしてしまう。

 原因はあの少年の魔眼だろう。

 でも、それに抵抗出来ない程、私の深くまで黒い何かが住み着いているのだ。

 私はもう自分の行動を止めることが出来ない。

 私は大罪を犯し、死刑にされるだろう。

 セナ……助けて……

 心の中で強く願った。

 しかし、もうアナスタシアの部屋はもう目の前にあった。


「……やるんだ……」


 もう既に真夜中。

 王族であるアナスタシアは安全な王城の部屋で眠っているはずだ。

 寝首を搔く。

 本当に私は何をしているのだろうか……

 心の中ではそう考えながらも、身体は部屋の扉のドアノブに手をかけていた。

 そのまま扉をゆっくりと、音を消して押す。


「…………」


 部屋は暗闇。

 気配を消すことにだけ意識を集中する。

 そうして部屋の奥へ進んでいく。

 流石は王族、部屋は相当に広い。

 けれど、大体の場所はわかる。

 彼女の魔力は独特の『匂い』があるのだ。

 ヴァンパイアは特異な存在であるが故に、様々な異能が備わっていたとされる。

 そのひとつが『嗅覚強化』。

 ヴァンパイア=コウモリというイメージにより、嗅覚よりも聴力が発達していると思われがちだが、ヴァンパイアは暗闇の王だ。

 暗闇の中で必要な能力は全て備わっている。

 といっても、末裔であるベルにはその一部しか備わっていないが。

 その匂いを辿る。

 異能のひとつである『夜目』により、暗闇でもアナスタシアの姿がはっきりと映る。

 右手に『魔法鎌ヴラド』を召喚し、強く握りしめた。

 両手で握り直し、高く掲げる。

 狙いは正面。

 もう目の前にアナスタシアの匂いがする。


「……ッ!」


 思い切り、振り下ろす。

 少量の魔力を帯びたヴラドが赤い軌跡を残しながら弧を描く。

 そしてそのまま眠っているアナスタシアの首に……


「なん……で……ッ!」


 当たる寸前で阻まれた。

 それは見覚えのある『鎖』だった。


「ダメだよベルちゃん! わ、私が止めるからッ!」

「ひ、日向ちゃん……!? どうして……ッ!」

「私、決めたの! 救われたこの命を捧げる覚悟でアナスタシア様を守るッ! それが私と、私を救ってくれたフラム先生との契約ッ!」

「フラム様が……」


 パッと一斉に明かりが灯される。

 目の前にいたのは人間である日向。

 だが、突き出した両手には確かな魔力を感じる。

 現に空中に浮かぶ魔法陣からヴラドを拘束している鎖が繋ぎとめられていた。

 彼女も悠斗や凜華と同じ人間の魔法使いとなったのだ。

 もちろん、フラムの鬼のような鍛練によって。

 まさか日向に与えられた役目がアナスタシアの護衛とは……

 盲点だった。

 私にはもう捕まって刑に処されるしかない。


「こ……のぉ……ッ!」

「無駄だよ! "縛れ、絶縁の鎖"ッ!」

「あぐ……ぅッ!」


 そんなのは嫌だ。

 ヴラドを放し、素手で日向に立ち向かおうとするも、新たに射出された鎖によって縛り上げられてしまう。

 そうだ、このまま殺されればいい……それで洗脳に負けた私の罪は償える……

 洗脳以前に、少しでもこんな感情を持っていた私が悪いのだ。

 ベッドで眠っているフリをしていたアナスタシアが悲しそうな目で私を見る。

 やめて……そんな目で私を見ないで……ッ!

 けれど、心の叫びは届かない。

 私の心は分厚い壁に阻まれている。


「ベルちゃん……」

「や……ぁ……ぅ……」

「大丈夫ですよ……私は人の『心』が読めるって言ったじゃないですか……」

「ッ!」


 アナスタシアのただその一言だけで私を囲む檻にヒビが入った。

 本当にこの叫びが届いているのだろうか。

 微かに期待を抱いてしまう……さっきまで殺そうとしていた相手に……

 アナスタシアがスッと右手を自分の顔の前に近づける。


「精霊さん、彼女を枷から解放してあげて……?」


 そう呟いて息をフッと吹きかけた。

 何も見えていないが、とても良い『匂い』がする。

 それが私の周りを漂い始めた。

 次の瞬間、私の周りで何かが弾けた。


「ほら、一緒に戦いましょう?」

「アナちゃん……ッ!」


 恐らく、召喚術の類だろう。

 私にかけられていた洗脳は、跡形もなく吹き飛ばされた。

 その後アナスタシアは私に強く抱きついて泣いていた。

 私も「ごめんなさい」と何度も謝りながら泣いた。

 アナスタシアは本当に心が読めたのだ。

 見せかけの心の戯言ではなく、本当の心の叫びを。

 この件はアナスタシアによって無かったことになった。

 アナスタシアはこの事件のあとも変わらず仲良くしてくれたのだった。




 ───────────────────────




「へぇ……僕の魔眼の拘束から抜け出したのか…… 」


 再び戦場となり、戦火が広がる城下町でマガトは拘束していたベルの力が弱まったことを感じ取った。

 といっても、慣れた感覚だ。

 僕はまた裏切られたらしい。

 けれど……


「ますます……ますます欲しくなってきたな……ッ! ベルッ! 今度は魔眼を使わずとも君の心を奪ってみせるよッ!」


 城下町の監視塔の上で、マガトは大声で笑った。

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