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見習い魔法剣士の英雄譚  作者: 清水 悠燈
魔法騎士団編
27/66

-忘れていたこと-

 

「はぁ……はぁ……ゲホッ!」


 激しく咳き込む。

 口を押さえていた手が血だらけになっていた。

 これも代償だろう。

 自己強化魔法『リバース』により、《背理教会》幹部アルデバランとその召喚獣タウラスはなんとか撃退した。

 一緒に戦っていたカルナと凜華もなんとか撤退出来たようだ。

 俺の全力を受けたアルデバランもしばらくは戦えないだろう。


「後……4回……ッ!」


 医者に告げられた回数は5回。

 そのうちの1回をこんなにも早く使ってしまった。

 でも、恐らくこれが最良の選択だ。

 俺はきっと間違っていない。

 スクロールを開き、王都をイメージする。


「『ループ』」


 身体が魔力に包まれた。

 この時の俺は気づかなかった。

 左目が見えていないことに。




 それに気づいたのは王都へ帰還し、一夜明かした次の朝だった。

 いつもより視界が狭い。

 そう思って右目だけを瞑った瞬間、世界が黒に染まったのだ。

 左目の視力が無い。

 右目ははっきり見えているのに。

 代償は寿命だけではないらしい。

 恐らく今後使う事に、このような障害を負ってしまうだろう。

 出来るだけ使用をしないようにしなければ……

 誰かを守る依然に自分の身を滅ぼしかねない。


「団長ッ! 無事ですか!?」「セナ、無事か!?」

「カルナと凜華か。そっちこそ無事で良かった……本当に」


 俺の部屋に入ってきたカルナと凜華が焦りながら心配してくれた。

 まあ、あの相手に1人で挑もうとしたのだから心配はされるのは仕方ない。

 だが、失明の事はなんと言おうか。

 あの戦いで失ったと知れば、2人は責任を感じてしまうだろう。

 それはあまり通りたくない道だ。


「団長? さっきからやけに左目を気にしてませんか?」

「そ、そんな事ないぞ。さて、全員集合させよう」

「それならいいんですが……」


 勘のいいカルナが俺の違和感に気づいたらしい。

 けれど、教える訳にはいかない。

 直後、俺の目の前に凜華の足が迫ってきた。

 見えていない左から。

 流石に焦ってしまう。

 いきなり危なすぎる。


「凜華、何のつもりだ? 危なかっただ……」

「やっぱり見えてへんよな?」

「は……?」

「左目ッ! 見えてへんやろって言ってるんやッ!」

「ッ!」


 もっと勘のいいやつが隣にいたことを忘れていた。

 メイドをしてきた凜華にとっては少しの変化は大きく見える。

 そんなプロメイドには俺の失明なんてわかりやすすぎたのかもしれない。


「それは……本当ですか、団長……?」

「あぁ……」

「僕達を逃がすために使ったあの魔法ですか!?」

「あぁ……」

「ならこれは僕らに負い目が……逃げることしか出来なかった僕に……ッ!」

「それは違うッ! 禁術を使ったのは俺の独断だッ! 人の覚悟を自分の物にしないでくれッ!」


 大声で怒鳴る。

 さすがのカルナも凜華も驚いて唖然としていた。

 いいんだこれで。

 二人が責任を感じなければそれで……


「セナ……うちら仲間なんやから……な……?」

「それは……ッ!」

「もっと頼ってくれても……不安とかぶつけてくれてもええんやで……?」

「でも……ッ!」

「団長、僕は新参者ですが、あなたと戦ってわかりました。あなたは強い。けれど、一人で背負いすぎている。そういう剣でした」


 そうか、そうなのか。

 この二人は……いや、魔法騎士団の皆は俺の味方なんだ。

 もっと心を開いて話してもいいんだ。

 どうしてこんなことを忘れていたのだろうか。

 人間も魔法使いも、個人で生きていくことなんて不可能なのに。

 誰しもが集団に属すことで世界は回っている。

 そうだ、俺は馬鹿だ。

 俺には心強い仲間たちがいる。


「ごめん……本当は、すごく不安だった……ッ! あと四回この魔法を使えば死ぬなんて……ッ! 左目も見えなくなって……ッ! 次行使すれば他の何かを失うんじゃないかって……すごく……怖いんだ……」

「セナ……よう言うてくれたな……でも、安心し。うちらがおる。うちらがセナの見えへんくなった左目の代わりになったる」

「そうですよッ! 僕らが団長の目になりますッ! だから、安心して戦いましょう、僕らには目標があるんですからッ!」

「凜華……カルナ……ありがとう……おかげで取り戻せた……ッ! 俺は……いや、俺たちはここで止まれないッ! 背理教会を消滅させるまでは立ち止まれないッ!」


 今の俺なら、俺たちならなんだって出来る、きっと。

 仲間が欠けない限り走り続けられる。

 ベルが、凜華が、カルナが、ステラが、アナスタシアが、悠斗が、日向が、響也が俺を支えてくれているのだから。

 進もう。

 やるべき事はある。

 まずは目の前の脅威、背理教会幹部・アルデバランとその召喚獣・タウラス。

 そして、この王都を襲うもう一人の教会幹部。

 ここで必ず全員仕留める。

 窓の外は炎に包まれていた。

 今この瞬間にも命が奪われているのだ。

 ぼーっとしてなんていられない。

 立って剣を取って戦うんだ。


「行こう、ベル達が心配だ」

「「了解、団長ッ!」」

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