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見習い魔法剣士の英雄譚  作者: 清水 悠燈
魔法騎士団編
25/66

-十二神獣-

 

「『エンハンス』ッ!」

「『フレアドライブ』ッ!」

「真田流双剣術『紫電一閃』ッ!」


 俺の『魔法剣デュランダル』が魔法を斬る。

 カルナの『炎斧グレン』が爆発属性を付与された斧で敵を吹き飛ばす。

 凜華の魔力で作られた『飛刀紫電』が真田流双剣術によって剣舞と化す。

 比較的遠距離戦闘が得意な魔法使いにとっては、俺達は最悪に相性が悪いはずだ。

 それなのに……


「残念だ残念だ残念だッ! よもやこの程度とはッ! 聞けッ! 主も悲しんでおられるッ!」

「ぐぁ……ッ! この狂人がぁッ!」

「セナ・レイズ、まるで獣ですねぇ……それはダメですよ。えぇ、ダメだ。ダメだダメだダメだッ! それとも……仲間を殺せば本気になりますか? 主は貴方の本当の力を見たいと仰っているッ! 聞こえませんか? 聞こえないでしょうねぇ……私だけの主ですからッ!」

「二人とも下がれッ!」


 この男、何を言っているのかまるで分からない。

 言動は狂っているのに、俺達の攻撃は的確に防がれる。

 それに先程から攻撃に転じてこない。

 一体なんなんだこいつは。

 遊ばれているのか……?

 ふと、殺気が俺からズレた。

 同時にアルデバランの周りに爆発的な魔力の増加が見てとれた。

 今度こそ魔法が来る……ッ!


「少しは楽しませてくださいねッ!"教典の導。我が命は神の為に……ッ!」

「無詠唱じゃないッ!? 俺が止めなきゃッ!」

「団長は下がってくださいッ! 僕が止めますッ!」


 フラム程の魔法使いが無詠唱で行使出来ない魔法だ。

 並の防御では防ぐことが出来ないだろう。

 確かに防御の苦手な俺が出ても守れはしない。

 その点、氷系統と相性の良い火系統が得意なカルナなら何か策があるのかもしれない。

 カルナは俺と凜華の前に立ち、二本の斧を上へ投げた。


「"開け、焔獄の門。廻れ、業火の渦"ッ!」


 詠唱と同時に、両手にあった魔法陣から炎が吐き出され、グルグルと渦になった。

 炎の渦を作り出し、触れたもの全てを焼き尽くす単対象攻撃魔法『インフェルノ・ストーム』。

 普段は攻撃にも扱えるが、焼き尽くす対象には魔法も含まれる為防御にも扱える攻守万能の魔法だ。

 視界一面が真っ赤に染まる。

 カルナの全力なのか、凄まじい魔力を感じた。

 相殺、上手く行けばカウンターを狙えるチャンスだ。

 直後、アルデバランの魔法が発動した。


「目覚めよ、暴牛。星の枷から解き放たれん"ッ!」

「これは……ッ!」


 とんでもなく大きな魔法陣が俺達とアルデバランの間に展開される。

 渦巻く炎でよく見えないが、あれは攻撃魔法なんかじゃない。

 魔法陣からゆっくりと何かが現れる。


「カルナ、魔法を解除しろッ! あれは『召喚魔法』だッ!」

「な……ッ!」

「今更遅いですよッ! 紹介しましょうッ!」


 カルナの魔法が解除され、目の前にいたものの姿がはっきりとする。

 周囲にはとんでもなく低い温度なのか氷が浮いており、頭にある二本の角は凄まじく鋭利。

 何よりも巨大。

 頭の中央にはペンタグラムの宝石が埋まっていた。


「主が私の祈りに応えてくださった証ッ! 召喚獣最上位、十二神獣が一匹ッ! 牡牛座・タウラスでございますッ!」

「最上位……十二神獣……ッ!?」

「そうですともッ! 貴方方では中々お目にかかれない最強の召喚獣ですよッ!」


 数少ない召喚獣の中でも、ずば抜けて強力な十二匹。

 それが十二神獣と呼ばれる召喚獣なのだ。

 現在確認されているのは、天秤座と蠍座の二匹だけ。

 どちらも王国部隊の隊長クラスの魔法使いが所持している。

 まさか三匹目が目の前にいるとは……


「グモォォォォォッ!」

「おわ……ッ!」


 タウラスが地面を揺るがす程の叫び声を上げる。

 直後、辺りの温度が一気に下がった。

 酸素を吸うだけで喉が凍りそうになり、ジンジンと痛い。

 アルデバランはタウラスの庇護下にあるのか、平気な様子だ。


「ゲホッゲホッ! カルナ、頼むッ!」

「は、はいッ! "狂え、赤熱"ッ!」


 領域魔法『フレアフィールド』。

 指定した領域を火の海地獄にする魔法だ。

 タウラスの存在により極寒の地と化している今なら、暖かいくらいの温度になる。

 これで呼吸と寒さの問題は解決した。

 後はタウラスとアルデバランだ。


「カルナ、下がってろ。後は俺と凜華でやる」

「「了解」」

「小賢しいですねぇ……実に小賢しいッ! 無意味と知っていて何故に足掻くのですかッ!?」

「守る為だ……ッ!」

「守るッ!? 今このようにして私ごときに押されている貴方がッ!? あぁ……なんと無知なのでしょうか……ッ!」


 領域魔法を持続させるのにはかなりの集中力が必要になる。

 なので、戦わずに援護に徹する方が良いのだ。

 そして、あの狂人。

 十字剣を強く握り締めているのか、両手から血が耐えない。

 タウラスはアルデバランの指示を待っているのか、余裕の雰囲気を出している。

 勝てるのか……?


「貴方は知らないのですね……私達の神をッ! 究極の存在をッ!」

「それは背理教会のトップの事か……?」

「えぇそうともッ! と、貴方方無能の情報網では主の事など何も知りますまいッ!」

「煽ってるのか……ッ!」

「いえいえとんでもないッ! そうですねぇ……死ぬ前に一言教えてあげましょう……」

「死ぬ気は無いが……何だ?」

「今こうしている間にも、王都では大惨事になっていますよ」

「は……?」


 アルデバランがニッコリと微笑む。

 王都が……大惨事……?

 でも今目の前にはアルデバランが……


「ッ! 別の幹部……ッ!」

「ご名答ッ! どうなっているか、見に行くのが楽しみですねぇ……ッ!」

「カルナ、凜華、急いで撤退だッ!」

「でもどうするんやッ! スクロールなんか使ってる暇無いで!?」


 確かにそうだ。

 アルデバラン一人でも厄介なのに、十二神獣が一角タウラスもいるときた。

 なら、手は一つだ。

 俺が止める。

 俺なら止められる。


「俺が時間を稼ぐ。お前らはすぐ逃げろ」

「待ってくださいッ! それなら団長は! 団長はどうするんでふかッ!?」

「そうや! セナはどうするんやッ!」

「俺は大丈夫だ。ちゃんと策はある」


 二人は渋々納得したようにスクロールを用意する。

 そうだ、それでいい。

 団長として、みんなを守らなければならない。

 たとえこの命を削ろうとも……


「いくぞアルデバランッ!」

「やっとですか? 楽しませてくださいねッ! 私もタウラスも楽しいのが大好きですからッ!」

「言ってろッ! カルナ、凜華、今だッ!」

「させませんよッ! タウラスッ!」

「こっちのセリフだッ! "目覚めの刻は来た"ッ!」


 たった一言で、世界の時間が停止した。

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