-凍土-
「はぁ……フラムの言ってた事が今ならわかる気がする……」
「団長、気にしないで。不意打ちならボクも勝てない」
「そこじゃねぇんだよなぁ……」
「……?」
宝石魔法の恐ろしさを体で覚えてしまった。
あんなに近距離であの破壊力を見てしまえばトラウマにしかならない。
火と氷と雷とその他諸々。
あんなもの、同時に見るものではない。本当に。
「セナ、大丈夫!?」「セナ様、大丈夫ですか!?」「セナー、いけるー?」
と、魔法騎士団のみんながいつの間にか心配して集まってくれていた。
しかし……
「あ、ありがとうみんな。あれ? 悠斗は?」
「あー、悠斗? 悠斗はな、もっと強くなる! とか言うてどっか行ったで。任務すっぽかして遊びに行くとかありえへんでなー」
「あのチャラ男の権化みたいな悠斗が……? それ本気か、凜華?」
「ほんまですー!」
悠斗だけがいなかった。
まさかあの悠斗が修行を?
ないないないない。
絶対にありえない。
あいつがやる気になる理由はもう無いはずだ。
同じ人間の日向と響也は取り返した。
響也は死んでしまったが……
あの二人を救うために武器を取った悠斗にとって、これ以上戦う理由なんてないのだ。
正直、俺は戦って欲しくない。
まあ、ただのサボりの言い訳だろう。
帰ったらひどく叱りつけてやろう。
なんだか腹立つし。
まだ魔法騎士団は始まったばかりだというのに、もうメンバーが欠けているなんて。
だが、全くもって悠斗らしい。
「まあ、悠斗だもんなぁ……気がついたら帰ってそうだから大丈夫だな」
「せやなー! あ、せや、なんかセナに連絡来とったで」
「ん? 連絡?」
「そうや。『北部の田舎村が一夜にして姿を消した。恐らくは《背理教会》の仕業だ。調査を頼みたい』やとさー。行くんやろ?」
「村が……一夜で……まあ、頼まれたのなら行くしかないな」
「じゃっ、みんな準備やー! 初任務、行くでーッ!」
「「「「おー!」」」」
皆がやる気なのはいいのだが、気がかりが。
たった一夜で村一個を破壊できる魔法ならいくつもある。
フラムの『カタストロフィー』やティルの『メルトサンダー』などがわかりやすい例だろう。
だが、『姿を消した』というのはなんなのだろうか。
領域魔法で破壊されたのなら『破壊された』と報告すればいいのに……
何か恐ろしい魔法が行使された気がする。
考えすぎかもしれないが……
ふと、先程の召喚獣を思い出した。
スノーバイソンは氷系統魔法にかなり適性がないと召喚できない。
俺も、魔法では『バーサク』などの無系統魔法と『フリージング』などの氷系統魔法が他の系統より突出して適性がある。
基本的にどの魔法使いも二つか三つに適性が分かれるらしい。
だが、稀に一つの系統にだけ異常に特化した魔法使いがいる。
そういう魔法使いは凡人には扱えないような強力な魔法を行使できる。
フラムは火系統に特化しているので『ファフニール・ブレス』などの超強力な火系統魔法が扱える。
といってもフラムは例外的に、どの系統も群を抜いて適性があるのだが。
ティルはフラムと同じようにどの系統も尋常ではない適性があるのだが、中でも雷系統の魔法に尖っている。
恐らく今回村を消し去った犯人は氷系統に特化しているようだ。
なら、村全体を凍結させ、領域魔法『アイスブレイク』か何かで粉々にしたのか。
それなら目立たずに『姿を消した』という表現に当てはまる。
それにしてもこれが初任務になるのか。
一切気を抜かないでいこう。
相手は下手すればフラムやティルと同格の敵だ……
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「凍土だね……」 「凍土だな……」「凍土ですね……」
歩く度にザクザクと足元で氷が砕ける。
いくらこの村が北にあるといえど、こんな秋真っ只中に凍結することはまずありえない。
目を凝らせば僅かに魔力が見える。
魔法を行使した残り香のようなものだ。
村は跡形も無かった。
それ以前に、地図上にあるはずの場所に村が無い。
所々赤い氷が落ちている。
恐らくはここに住んでいた魔法使い達の血液が凍結したものだろう。
凄まじい惨状だ。
「うっ……セナ、これ……」
「な……ッ!」
ベルが指さした先にあったのは、子供の首が氷漬けになったものだった。
その子の表情は悲痛に歪んでいる。
ベルだけでなく他のみんなも口を押さえていた。
とても耐えられるものじゃない。
こんな事をした魔法使いは、どんな気持ちで魔法を行使したのだろうか。
考えるだけ無駄だ。
常人の行う事じゃない。
「私……こんなことをしたやつを許せないよ……何の罪もない子供達を……」
「わかってる……絶対に見つけて捕まえよう……ッ!」
結局、証拠らしい証拠は何一つ無かった。
子供の首を証拠として提出なんて出来るはずもなく、俺達は穴を掘って埋めてあげた。
上への報告は『特に何も無かった』でいいか。
そんなことを考えながら『ループ』のスクロールを広げる。
その瞬間、感じた事のある殺気が俺を貫いた。
「は……ッ!」
「ん? どうしたの、セナ?」
「伏せろッ!」
「え……きゃぁッ!」
大声で叫んで伏せさせる。
直後、氷の塊が勢いよく飛んできた。
一瞬で『バーサク』を発動し、目を凝らす。
俺の横をゆっくりと氷の塊が通過する。
凄まじい魔力が宿っていた。
恐れていた事態が起こってしまった。
魔力濃度がフラムレベルだ。
正面には目深くローブを被り、右手には十字剣を握っている男がいた。
「あれを避けますかぁ……ッ! しかも全員ッ! あぁ素晴らしいですねッ!」
「誰だ……ッ!」
「私ですか……? 私は《背理教会》幹部、アルデバランと申します」
「やっぱりか……ッ!」
俺以外の騎士団達は各々武器を構えて待機している。
魔力濃度がフラムレベルということは、干渉力も高いだろう。
なら、力ずくでねじ伏せる。
それに、アルデバランは細身で格闘戦は苦手そうだ。
近接特化が4人もいれば勝てない相手ではない。
「カルナ、いくぞッ!」
「はいッ!」
デュランダルを召喚し、『炎斧グレン』を二本構えるカルナを呼ぶ。
凜華は『瞑想』に入っており、今は戦えない。
ベルとアナスタシアはその護衛に回っており、ステラは俺達の後ろからアルデバランの隙を狙っている。
ここに悠斗が加われば完璧なのだが、いない者を求めても仕方ない。
それに、多勢に無勢。
アルデバラン一人でこの数を相手にとるのは難しいだろう。
それこそフラムじゃなければ。
フラムじゃなければ……?
ゾクッと嫌な予感が背筋を凍らせる。
だが俺とカルナはアルデバランの目の前まで接近していた。
「甘いですねぇ……」
「やば……ッ!」
アルデバランの口が不敵に歪む。
直後、極寒の冷気が俺とカルナを包み込んだ。
炎を纏うカルナのグレンですらも鎮火され、凍りついている。
顔以外全てが凍っていた。
動けない。
顔が凍っていないおかげで呼吸と視界は確保出来ているのが幸いか。
カルナも俺と同じ状況のようだ。
圧倒的な干渉力。
恐らく魔法は使っていない。
ただ強引に魔力をぶつけられたのだ。
「みんな、逃げろ……ッ!」
「えぇえぇ。逃げてもらっても構いませんよ」
「なに……?」
「ですから……私の狙いはセナ・レイズ、貴方だけなのですから」
「そういう……ことかッ!」
こいつは端から俺しか狙っていないらしい。
それなら話は簡単だ。
タイマンの喧嘩、買ってやろうじゃないか。
魔力を全身に回し、思い切り力を込める。
体内で爆発的に増加した魔力が溢れ出ることにより、体を固める氷を一気に吹き飛ばした。
力任せだ。
「ふむふむ……本気で来なければ私には勝てませんよ?」
「あぁ……わかってるさッ! みんなは先に逃げてろ! 出来ればティルかフラムを呼んできてくれ!」
「「「了解!」」」
魔力を炎に変えるのことで自力で氷から逃れたカルナと、『瞑想』を終えた凜華が武器を構える。
ベル、ステラ、アナスタシアの三人は報告要員として王都へ帰還させた。
突然、アルデバランが十字剣を天に掲げたまま大声で叫んだ。
「主よッ! あなたの命を成す私に祝福をッ! 我が魔法はあなたの為にッ!」
「カルナ、凜華、充分気をつけろよ……あくまで狙いは俺だ。危なくなったら下がれ……いくぞッ!」
「「了解ッ!」」




