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見習い魔法剣士の英雄譚  作者: 清水 悠燈
魔法騎士団編
23/66

-召喚-

 氷。氷。氷。

 見渡す限りの凍土。

 その中央には一人の男の魔法使いが。

 それ以外、何一つ心臓の動く生き物はいない。

 黒色のローブを目深く被り、右手には小さな十字剣を持っている。


「世界は理不尽……そして残酷ッ! 皆さんはそう思いませんか……?」


 もちろん返答する者はいない。

 彼がいる場所はとある田舎村。

 周りには氷漬けになった村人達が。

 その数、大人が五十人。子供が三十人。

 氷漬けになった村人達の表情はどれも悲痛に歪んでいる。


「いやはや……誰も返事をしてくれないのですか……?」


 男は首を傾げ、不敵に微笑む。

 そして、両手で十字剣を握りしめ、高く掲げた。

 握りしめる両手から血が滴る。


「おぉ神よ……ッ!」


 男は叫び、さらに十字剣を握る手に力を加える。

 ブシャッと音とともに手から血が吹き出した。

 それでも男の笑いは止まらない。

 血がべったりと付着した十字剣が青白い魔力を帯び始めた。


「見えますよ……見えますとも……ッ! これが主の啓示ッ! 私のなすべき使命なのですねッ!」


 グワッと身体を反らし、腕を大きく広げる。

 右手に握ったままの十字剣が魔力を解放した。

 パキンッと、凍土が一瞬にして砕け散る。

 もちろん、氷漬けになっていた魔法使いも粉々だ。

 凍土を対象に、全ての氷を粉砕する領域魔法『アイスブレイク』。

 用途は限られるが、氷系統の魔法を主力とする魔法使いにとっては強力な魔法と言える。

 何故なら砕かれた氷が魔力を帯びるので、そのまま別の魔法へ連続した攻撃ができるからだ。

 男は身体を戻し、天を仰ぎながら宣言した。


「セナ・レイズ……主の命により、あなたを殺しますッ! 行きましょう、我が僕達よッ!」


 ボンッと音を合図に、男の周囲に巨大な影が舞い降りた。

 散った氷を変換して発動した『召喚魔法』だ。

 白色の体毛を持つ四足歩行のバケモノ。

 だが、それは魔物ではない。

 契約者に従い、召喚に応じて現れる『召喚獣』である。

 名称は『スノーバイソン』。

 数十種類しかいない召喚獣の中でも強力な一種。

 一匹で魔法使い十人分の強さを持つ。

 男は狂乱じみた笑顔を浮かべながら歩いて行く。

 目指すのは王都。

 その中にある『魔法騎士団』の拠点へ。

 彼の信仰する主が、セナを殺せと囁いている。

 ならば殺さねばならない。

 聞けば同胞のエレナもその男に殺されたそうだ。

 尚更殺さねばならない。

 そうさ、主の命だ。

 殺さねば。殺さねば。殺さねば。

 さあ、セナ・レイズを殺そう。

 殺そう。殺そう。殺そう。

 主の啓示は絶対だ。

 殺す。殺す。殺す。殺す。ころす。ころす。ころす。ころす。コロス。コロス。コロス。

 ───コロシテヤル。



 ───────────────────────



「シッ!」

「病み上がりなのに精が出るね、セナ」

「ん……ベルか。三日も休んだら鈍るからな……」

「そんなに気を張らなくても、みんなセナが強いのは認めてくれてるよ?」

「そうかもしれないけど、エレナはあくまで幹部だった。きっと今の俺じゃリーダーを倒せないから……」


 病院から退院して一時間。

 看護婦さんに「あまり運動しないように」と言われたが、魔法騎士団拠点の近くにある修練場で剣を振っていた。

 タオルを渡しながら自分の汗を拭うベル。

 自分も修行終わりなのか、秋なのにノンスリーブのピンクのシャツを着ていて、汗びっしょりだ。

 今日もかわいい。

 まあ、小さめの胸が寂しいことになっているが……


「今変なこと考えたでしょ……? ダメだよ? アナちゃんがいるんだから」

「考えて……って、アナスタシアは関係ないだろ!? 昨日のあれは違うんだってッ!」

「ふーん……違うんだ……そっかそっか……良かった……」

「ん……? そっかそっかの後、何か言ったか?」

「いや、何も言ってないよ!」

「そうか? ならいいんだけど……」


 最近よく思っていることを当てられる。

 何か顔に出ているのか。

 それとも、そういう魔法が流行っているのだろうか。

 それに、最後に呟いたように聞こえたのだが、ベルは何も言っていないという。

 女心は難しいな。


「じゃ、じゃあ私、先に戻ってるから!」

「あ、あぁ……そこ、段差あるから気をつけてな」

「ん、え……? ほぎゃッ!」

「な……ッ! 言わんこっちゃないッ!」


 何故かテンパって逃げていくベル。

 いつもの修練場と色々違うので段差に注意するように言ったのだが、見事にずっこけた。

 それもすごい声で顔面から。

 起き上がったベルは涙目のまま一瞬俺の方を見てから、また逃げ出していった。

 かわいい。

 修練場が静まり返る。

 とりあえず、修行の続きをしよう。

 剣を振っている間は無心になれる。

 ひたすらに集中できるのだ。


「……ッ!」


 二十分程藁人形に竹刀を叩きつけていた。

 すると突然、とてつもない殺気が俺を貫いた。

 それも一つではない。

 少なくとも三つ。

 これは魔法使いの殺気ではない。

 恐らく魔獣の類の放つ殺気だ。


「誰だ……ッ!」


 威嚇として魔力を放ちながら叫ぶ。

 修練場には俺以外誰もいない。

 意識を集中させる。

 その瞬間、目の前に魔力の塊が飛んでくるのが見えた。

 バコンッと木製の修練場の壁が破壊され、白毛の魔物が突撃してくる。


「"掲げよ、約束の剣"ッ! どわッ!?」


 応戦しようと『魔法剣デュランダル』を召喚する。

 しかし、突如右から現れた同様の魔物の攻撃を直撃してしまった。

 身体からゴキッと嫌な音が響き、無様に修練場の端まで転がっていく。


「や……ば……ッ!」


 確実に脇腹の骨をやった。

 無詠唱で自己強化魔法『リジェネレーション』を発動し、身体を徐々に癒す。

 いつの間にか一匹増えて三匹になっている。

 粉砕骨折でもしていたのか、まだ上手く呼吸ができない。

 白毛の牛の様な魔物が前足で地面を蹴って威嚇している。

 あれは恐らく『召喚獣スノーバイソン』。

 一匹で魔法使い十人分が三匹で三十人分か……

 まだ鈍っている俺には少しきついかもしれない。


「「「グルォォォォォォッ!」」」

「息ピッタリだな牛野郎共……ッ!」


 よし、完治。

 デュランダルを握り、低い姿勢から思い切り地面を蹴る。

 同時に自己強化魔法『バーサク』と『クイック』で脳と体を強化。

 スノーバイソンの一匹も丁度突撃を開始したようで、お互い高速でぶつかり合う。

 ズガァァンッと爆音と共に凄まじい衝撃が修練場を震わせた。

 俺の腕に尋常じゃない不可がかかる。

 非常にまずい。

『リジェネレーション』の効果が継続されているおかげで、腕へのダメージが回復し続けている。

 まだ耐えられる。

 他の二匹が動き出す前に反撃だ。


「"剣よ、弾け"ッ!」


 剣に衝撃を生成できる効果を付与する付与魔法『エンハンス』。

 全力でスノーバイソンの角に押し込む。

 グワァンと空間が歪む様な感じがした後、スノーバイソンが勢いよく吹き飛ぶ。

 そのスノーバイソンはサラサラと魔力の粒子になって空気中へ溶けていく。

 やっと一匹だ。

 まだこんなに手強いのが二匹いる。

 気合を入れ直したその直後、空から魔法が降ってきた。


「"落ちよ、輝く彗星ッ!」


 キラキラと輝く宝石が空からいくつも降ってくる。

 赤い宝石が火を放ち、水色の宝石が氷を産み、黄色の宝石が雷を呼ぶ。

 隕石のような魔法を受けた二匹のスノーバイソンはたちまち魔力の粒子となった。

 単対象攻撃魔法『メテオ』。

 通常は超高濃度の魔力を敵に高速でぶつける魔法だ。

 もちろん高威力を発揮する。

 だが、今のは違う。

 クォーツ家に伝わる宝石魔法。

 その真髄は既存の魔法を特殊な能力を持つ宝石で更に強化して発動する事にある。

 この宝石に魔力を通すことで宝石魔法が成り立つのだが、これがまたとんでもなく難しい。

 それを簡単にこなし、今目の前の敵を屠ったのが魔法騎士団の団員であり、セミロングの髪をたなびかせる少女、ステラ・クォーツである。


「団長、大丈夫?」

「す、すげぇ……」


 ステラは少し心配そうに俺を見ている。

 俺はそんなステラにただただ呆然としているだけだった。

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