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見習い魔法剣士の英雄譚  作者: 清水 悠燈
魔法騎士団編
22/66

-力の代償-

 

「はぁ……」


 三日前、騎士団全員で出掛けた帰りに俺は突然意識を失った。

 今もまだ病院のベッドの上だ。

 騎士団の皆も見舞いに来てくれたが、なんだか気分が冴えない。

 それに、かなりメンタルにきている。

 俺が倒れた理由。


「原因は……呪術の呪い……禁術の代償……」


 医者はそう言っていた。

 大体見当が付いてしまう。

 恐らく、自己強化魔法『リバース』。

 俺のオリジナル魔法だ。

 確かに、あんなに強力な魔法が無償で扱えるわけがない。

 大した魔力を持たない俺が、連続して『時間を止める』なんて不可能なのだ。

 消費魔力と現象が天秤で釣り合わない魔法は『禁術』と呼ばれる。

 物事は常に天秤上で釣り合う関係にあるという。

 禁術は現象の大きさ故に、消費魔力とは別の何かを天秤にかけるのだ。

 俺の『リバース』は魔力と命を天秤にかけて、時間を止めるという現象と釣り合わせている。

 医者には「後5回使えば命は無い」と言われた。

 まあ、立場が立場なので、使うなとは言われなかった。

 きっと使わなければならない時が来る。

 それでも4回以上使うなという忠告の意味を込めて。

 この事は既に皆に伝えてある。

 騎士団だけでなく、フラムとティルにも。


「後……5回……」


 もう一度口に出す。

 後がない、本当に。

 すると突然、病室の扉が開かれ、アナスタシアが入ってきた。

 今日は少しラフなワンピース姿だ。

 夕方の太陽がアナスタシアを寂しげに照らしている。


「セナ様! お体はもう大丈夫なんですか!?」

「あぁアナスタシアか。大丈夫。もう動ける」

「禁術の話は聞きましたよ? もう使わないでくださいね……?」

「それは……約束できない……」


 心配してくれるのは嬉しい。

 きっとフラムでも禁術を使うなと言うだろう。

 それでも使わなければならない時が来たら、俺は容赦なく詠唱する。

 それが最善だ、きっと。

 俺は何かを守るために戦っているのだから。


「フラム様に聞きましたよ? セナ様が守るために戦っていると」

「それがどうかしたか?」

「セナ様、私はですね……あなたをお慕いしております」

「は……え……?」


 アナスタシアはそう言って俺の寝ているベッドに乗りあがってきた。

 お慕いしているというのはつまり……


「私はセナ様が好きなんです! だから……」


 アナスタシアは仰向けに寝転がる俺を四つん這いで跨ぐ。

 その顔は真っ赤に染まっている。

 それに、この体勢は非常にまずい。

 四つん這いのアナスタシアのワンピースが少しはだけ、胸がかなり見えている。

 しかも下着をつけてない……


「ア、アナスタシア……?」

「私だけを守ってくれませんか……? ずっと……この先も……」

「それって……」

「小さい頃に仰ってたじゃないですか、お嫁さんにしてあげるって」


 どんどんアナスタシアの顔が俺の顔に近付いてくる。

 もう少しでお互いの唇が触れ合う。

 そんな距離まで顔が近づいたその時……


「セナー、果物持ってん来たんだけど食べ……る……?」

「あ、ベル……」「あ、ベルちゃん……」

「お、おおおおお邪魔しましたぁぁぁッ!」

「ち、違うんだベル! ベルーッ!」


 いきなり病室の扉が開かれたかと思うと、果物の入ったバスケットを抱えたベルがいた。

 ベルの目に入ったのは、俺とアナスタシアが唇を重ねようとしている瞬間だ。

 そりゃあ逃げ出すだろう。

 目を丸くしていたアナスタシアがクスクスと笑い出す。


「ふふ……逃げちゃいましたね」

「誤解を解きにいかないとなぁ……」

「いいじゃないですか、解かなくても」

「あのなぁ……」


 俺がため息をついた瞬間、さっきより近い距離にアナスタシアの顔があった。

 思わず息を呑む。

 アナスタシアは俺の唇に人差し指を添えて囁いた。


「もうしませんよ……っ」

「な……ッ!」

「あら、して欲しかったんですか?」

「ち、違うッ! もう帰れッ!」

「もー……いけずなんですから、セナ様は……」


 アナスタシアは可愛らしく頬を膨らませ、病室を出ていった。

 はーっと大きく息を吐く。

 正直危なかった。

 今でも頭の中でアナスタシアの言葉が残っている。


「私だけを……守って……かぁ……」

「ふむ。アナスタシアに言い寄られでもしたか、セナ」

「そうなんだよ……ってフラム?!」


 いつの間にか隣にフラムがいた。

 なんだこの病院は。

 人の出入りが激しすぎやしないか。

 一応病み上がりの俺に容赦なく客を通しやがって……

 フラムは珍しく私服だった。

 といっても、ジャージ姿だけど……

 女子力なんて欠片も無い。

 髪もボサボサだし。


「なんだ? 何か変か?」

「いや、相変わらずの女子力だなって……」

「失礼だな。私は魔法を使うのに服装は関係ないと思ってる」

「いや、何でもかんでも魔法を第一に置くのはどうなのさ……」

「それは私の勝手だ。放っておけ」


 よく俺を17歳まで育てられたな、この母親は……

 それにしても一体なんの用だろうか。

 もう外も暗くなってきている。

 何か急な用事かもしれない。


「で、どうしてここまで?」

「何だ? 母親が息子を心配してはいけないのか?」

「は、はぁ? フラムが俺をぉ? あははっ!」

「な、何がおかしい! 今までだってなぁ……!」


 ただただ心配だったらしい。

 確かに自分の息子が禁術に侵されているなんて聞けば心配になるに違いない。

 意外とフラムにも母親らしいところがあるようだ。

 母親歴約17年は伊達ではないらしい。


「はぁ……まあ、無事で何よりだ。何かあったらすぐ呼べ? 一瞬で駆けつける」

「あ、あぁ。ありがとうフラム」

「なに、母親として当然のことをしたまでさ」

「照れ隠しにカッコつけてんのか?」

「な……ッ! セナ……貴様、もっと傷を負いたいらしいなぁ……?」

「冗談だってー……おい……待てって! ここで『ファフニール・ブレス』はまずいってッ!」


 少し弄っただけなのに、危うくオーバーキルされるところだった。

 それに、病室では基本的に魔法は禁止だ。

 しかも、こういう立派な病室となると……

 ビーッビーッビーッビーッ! と、このようにけたたましいサイレンが鳴り響く。


「はぁ……」

「わ、私は帰るぞッ!」

「お、おい!? 逃げるなフラムッ!」

「『ループ』ッ!」

「おいぃぃぃぃッ!」


 ドタバタと看護師達が集まってくる。

 それを感じ取ったフラムは転移魔法で逃げやがった。

 どうして俺が怒られなきゃならないんだ……

 俺の病室に、40代くらいの看護婦が突入してくる。


「レイズ様、大丈夫ですか!?」

「あの……これは……その……」

「──病院で……」

「は、はい……!」

「あれだけ魔法を使うなと言ったでしょォォォッ!」

「ひ、ひぃぃぃぃッ! ごめんなさいッ!」


 それから10分間も説教を聞かされた。

 本当に今日はついてないな……

 退院は明日だというのに……

 明日からはピシッとしないと。


「よし、帰ったら修行だッ!」

「ここではやらないでくださいね?」

「はい……」

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