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見習い魔法剣士の英雄譚  作者: 清水 悠燈
魔法騎士団編
20/66

-新たな仲間-

 太陽の光が明るく照らす部屋。

 壁沿いに並べられた白銀のマジックメタル製の騎士鎧が眩く反射する。

 魔法界に王の勅令で新たに作られた組織《魔法騎士団》。

 ここはそんな新組織の拠点である。

 拠点と言っても、この無駄に広い一部屋だけだが。


「まずは自己紹介からいこうか」


 俺、騎士団長セナ・レイズは少し引き攣った笑みを浮かべて言った。

 目の前には魔法騎士団に入団を希望した6人。

 騎士団長用のテーブルを挟んで向かい合っている。

 俺の笑顔が引き攣ったのには理由がある。


「じゃあ俺から。セナ・レイズだ。一応、この魔法騎士団の団長をすることになってる……よろしく……」


 パチパチパチ……

 皆真顔過ぎて語尾の勢いが無くなってしまった。

 拍手も気持ちがこもっていなさ過ぎて悲しくなる。

 こんな空気の中で、どうやって満面の笑みを作れというのだ。

 そんな重い空気の中、1人の少年が手を挙げた。

 橙色の髪を逆立てたヤンチャそうな13歳の少年だ。

 確か名前はカルナ・グラン。

 グラン家は片手斧を2本使った斧術の名家だ。


「何かな?」

「正直あなたが強いと思えない。僕の方が絶対に強い」

「そ、それはわからないよ……?」

「いいや、僕の方が強い」


 少しイラッとしてしまった。

 もしかしたら俺は喧嘩を売られているのかもしれない。

 けれど、相手は明らかに俺より年下。

 優しい対応を心がけなければ……


「僕と決闘してください。あなたが勝てば僕はあなたに従います。けれど、僕が勝ったら……僕が団長になる。いいですか? まあ、あなた程度では僕に勝てると思いませんが?」

「いいよ……買ってやるよその喧嘩ッ!」


 流石に怒った。

 カルナも流石に言い過ぎではないだろうか。

 団長の威厳にかけて、負けるわけにはいかない。

 決闘は、拠点のある建物の外にある庭で行われることになった。

 ルールは初撃を当てるか、降参させた方の勝ち。

 故意に相手を傷つける攻撃は禁止、というものだ。

 至って簡単でシンプルな決闘。

 それ故、単純な実力が競われる。

 既にお互い30メートル離れ、武器を構えて向き合っていた。


「いつでも来てくれて構わないぞ?」

「では、遠慮なく……」


 余裕の素振りを見せながら、『魔法剣デュランダル』を構える。

 片手斧には見えない大振りの斧を2本構えたカルナが不敵に笑って突撃してくる。

 俺が斧のリーチに入るまで、わずか1秒。

 中々の速度だ。

 だが……


「もらった……ッ!」

「"目覚めの刻は来た"」


 カルナの斧が炎を帯びて振るわれる。

 これをまともに受ければ怪我では済まないかもしれない。

 それに対し、俺は小声で魔法を詠唱しただけだ。

 しかし、俺にとってはそれだけの詠唱で充分だった。

 斧が俺に触れる瞬間に、周りの動きが完全に停止する。

 時間を止めたように見えるが、これは俺の脳を超加速して時間が止まって見えるくらいになっているのだ。

 さらに身体もその超加速に付いてくる。

 これが俺にしか使えないオリジナル魔法、自己強化魔法『リバース』だ。

 それにより、時の止まったカルナの背後に回り、デュランダルの柄頭で背中を叩く。

 次の瞬間には時間が動き出し、柄頭で打たれたカルナが地面に叩きつけられた。


「がふ……ッ!」

「はぁ……これで満足か?」

「そんな……」

「約束通り、俺に従えよ、カルナ」


 カルナは悔しそうに地面を叩いた。



 ───────────────────────



「で、自己紹介の続きなんだけど……」


 まあ、分かっていたけれどそんな空気では無い。

 カルナは下を向いたまま病んでいる。

 だが、無駄に楽しそうに俺を見る輩が3人。

 どれも見知った顔だが……


「んじゃ! 俺は野口悠斗(のぐちはると)! 名前から見ても分かるように、人間界から来た人間だ! でも、差別が無いようによろしくー!」


 相変わらずのチャラさ全開なのが親友の悠斗。

 魔法のセンスはそこそこで、『魔法弓アポロン』での遠距離戦闘が得意な後衛型だ。


「うちは真田凜華(さなだりんか)! 悠斗に同じく人間や! 喋り方が変なんは故郷の訛りやから許してなー!」


 人間界の関西弁という方言が特徴的な元気っ子がフラムのメイドの凜華。

 俺と同じく自己強化魔法が得意で、『真田流双剣術』という剣術の皆伝。

 刀での近接戦闘が得意な前衛型だ。


「えっと……私はベル。苗字は無いの。ヴァンパイアの末裔……です」


 少し引っ込み思案で天然なのがベル。

 ベルは絶滅したはずのヴァンパイアの末裔であり、吸血によってヴァンパイアになることが出来る。

 込める魔力によって長さが変化する『魔法鎌ヴラド』を使ったトリッキーな戦闘が得意な中距離型のオールラウンダーだ。


「じ、自己紹介ありがとう。後の2人もお願いしていいかな?」


 念の為3人に感謝しておく。

 問題はさっきから無口な少女2人だ。

 すると、2人の内の1人が前に一歩進み出た。


「ボクはステラ。ステラ・クォーツ。近接戦闘は苦手だけど、魔法は自信がある。あんまり人との馴れ合いは得意じゃない。以上」


 夜空のような暗い青色の髪をセミロングし、そこそこ豊満な胸を両手で抑えているステラは淡々と述べた。

 一人称が『ボク』というのに驚いたが、凜華の『うち』も変なのでよく考えれば驚くことでもない。

 クォーツ家は宝石魔法と呼ばれる特殊な魔法の大家だ。

 フラムは「宝石魔法の使い手が相手なら、土下座して走って逃げろ」と言っていたので、結構怖い。

 人との馴れ合いが得意じゃないというのは、要するにコミュ障という事だろうか。

 まあ、それならこれから仲良くなっていけばいいと思う。

 そして、残ったのは最後の一人。

 水色の髪をポニーテールにまとめ、胸はだいぶある少女。

 恐らくここにいる女子の中で一番ある。

 どこかで見覚えがあるような気がするが、気のせいだろうか。


「あの……セナ様……」

「様……?」

「えっと……その……私の事、覚えていませんか……?」

「へ……?」


 少女の声はとてもか細かった。

 本当にこの子に魔法騎士団の団員が務まるのかと疑うレベルで。

 だが、俺と面識があるようだ。

 なんとなく見覚えがあるのだが、思い出せない。


「やっぱり……思い出せませんか……?」

「んー……なんだか……ごめん……?」

「酷いです……」

「え……? なんて……?」

「私の夢を叶えてあげると言ってくださったのに、酷いですッ!」


 少女が泣き顔で俺の肩を掴んで揺さぶる。

 夢を叶えてあげる?

 そんなこと言った覚えが……


「あ……アナスタシアかッ?!」

「ッ! そうですッ! アナスタシアですッ!」

「全然雰囲気が違うから気付かなかったッ!」

「そんなに変わってませんよセナ様!」


 そうだ、アナスタシアだ。

 記憶の中のアナスタシアとかなり違うが、よくよく考えればとても似ている。

 俺とアナスタシアが盛り上がっている中、話についていけてない5人が冷たい目で俺達を見ていた。


「セナ……その女の子……誰……?」

「べ、ベル……! そんな怖い目をしないでくれッ!」

「べ、別にしてないよッ! 誰か気になっただけだからッ!」


 ベルが顔を真っ赤にしてそっぽ向く。

 何故だ。

 女心というものは本当に難しい。

 とりあえず、アナスタシアの紹介をしないと……


「えっと……この子はアナスタシア・レティーナ。今の王の孫だ」

「「「「「えーッ!?」」」」」


 そう、アナスタシアは、あのバカうるさい老人の孫なのだ。

 その事に、病んでいたカルナも含め、全員が驚く。

 確かに初めは俺も驚いたが、長く一緒に過ごすと慣れてくる。


「で、俺が幼い頃、フラムと王城で育てられていた時に出会って、それからずっと一緒にいた仲なんだ。と言っても、15歳までだけど……」

「セナ様ったらー……私達、婚約の約束もしてたじゃないですかー!」

「お前ッ! それは言わない約束だろッ!?」

「「え……ッ!」」

「待て、ベルと凜華! 子供の冗談だろ?! 頼むから鎌と刀を下げてくれッ!」


 何故か鎌と刀を向けるベルと凜華を懸命に静止させた。

 アナスタシアは昔から祖父に似ておしゃべりな所がある。

 それがとんでもない修羅場を引き起こしているが、天然なアナスタシアは気付かない。

 そんなこんなでワイワイと暴れたが、無事全員の自己紹介を終えた。

 少々不安だが、ここから俺と魔法騎士団の仲間達の戦いが新たに始まる。

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