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見習い魔法剣士の英雄譚  作者: 清水 悠燈
魔法界変革編
19/66

-終宴-

 《背理教会》幹部のエレナが起こした事件から、既に一週間が経った。

 隠れ家のメンバーは全員無事だ。

 ベルはかすり傷程度。

 フラムは魔法を使って自分で治したし、悠斗は魔力を吸われただけだったので簡単に治療できた。

 問題はエレナに倒された凜華だったが、病院の医者の努力と凜華自身の根気でなんとか一命を取り留めた。

 今はまだ入院中だが、「早くうちも修行したいー!」と病院ではしゃいで問題児扱いされている。

 まあ、元気なのは良いことだ。

 エレナに負けたフラムはグチグチと文句を言いながら、森に魔法で八つ当たりすることもあった。

 悠斗は「俺の活躍はどこだぁぁッ!」と叫びながら、毎日木で作った的に矢を放ちまくっている。

 ベルは回復魔法を覚えるため、一日中机とにらめっこ状態だ。

 俺はというと……


「"目覚めの刻は来た"……はダメか……まだイメージ出来てないな……」


 エレナとの戦いで何故か使えるようになった2つの魔法。

 名前はまだないが、俺のオリジナル魔法だ。

 その省略詠唱の練習をしていた。

 今は全然ダメだが、いつかは無詠唱で扱えるようになりたい。




 ところで話が変わるが、俺の剣術の師であるティルは生きていた。

 突然隠れ家に押しかけてきて、「オレのこと忘れてねェだろォなァ!?」と叫び散らしていったこともある。

 正直に言うと、完全に忘れていた。

 我ながら罰当たりなやつだ。

 命からがら地下から逃げ出せたのはティルだというのに。

 とまあ、平和な一週間を過ごした。

 だが昨日、事件が起きた。


「は? 王直々にセナに礼が言いたい? 正気か貴様」

「ご、ごめんなさい……ッ!」


 王城に住む王からセナに招待状が来たのだ。

 何故か配達に来た王の配下をビビらせているフラムがとても嫌な顔をしている。

 というのも、フラムはパーティーのような騒がしいのは苦手なのだ。

 さらに、王に仕える王専属魔法使いのくせに王が苦手ときた。

 最強の魔法使いであるフラムだが、弱点もあるのだ。

 ──と色々なことがあり、今に至る。



 ───────────────────────



「あぁ……やかましい……」

「フラム、もう少し目を輝かせろよ……完全に亡者の目だよ……」

「これでも輝かせているッ!」

「救いようがねえ……」


 当日、俺とフラムの2人だけで王城に訪れた。

 残りの3人は留守番だ。

 フラムはドレス、俺は燕尾服を着ている。

 正直動きにくくて嫌になる。

 俺へのお礼と聞いていたのに、何やらパーティーになってるし。

 色々ツッコミどころが多いが、フラム曰くこれが王らしい。

 とぼとぼと会場への道を歩いていく。

 もうすぐ始まるらしいが、始まる前からなんだかしんどい。

 しかも、王城も広いので会場までが遠い。

 やっとの思いで会場に到着する。


「セナ、心の準備はいいな? 扉開けるぞ? いいんだな?!」

「うるっせーよ! どれだけ王様が嫌いなんだよ!」

「会ったら後悔するからな……絶対に……ッ!」


 フラムがそろそろめんどくさい事になってきたので、扉に手をかける。

 こういう王城の扉というのは押すイメージがあるので手に力を入れた瞬間、そいつは現れた。


「やぁやぁ待ってたよー! 君がセナ君かな!? あれ……?」


 思い切り扉が開かれた。

 扉に手をかけていた俺は、そのまま前のめりに倒れる。

 現れた男は白い髭を生やし、赤いマントを羽織っており、サンタクロースのような老人だった。

 だが、やたらとテンションが高い。


「あーぁー! コケちゃって、もー! 大丈夫か? ワシ、治してやるぞ!」

「あ、いえ……大丈夫なんで……はい……結構です……」

「そんな謙遜しないでー? ワシも若い子と仲良くなりたいんじゃ!」


 正直とてもうるさい。

 フラムが苦手な理由がよくわかる気がした。

 いい歳した老人が俺の手を両手で握り、上下にブンブン振り回す。


「いやぁ、懐かしいねー! 昔はこーんなだったのに! こんなに大きくなってー! 今何歳?!」

「えっと……17ですけど……」

「もうそんなにか! ワシもうすぐ60で還暦!」

「え……あの……聞いてない……です……」

「もー! いけずだなーセナ君はー!」


 やだもう帰りたい。

 黙っていても、一方的に話されて耳が痛い。

 王の側近の男が額に汗をかいている。

 多分、王の暴れっぷりに焦っているのだろうか。


「王、そろそろ時間ですので……」

「ん? もうそんな時間か!? わかったわかった! よし、セナ君とフラム、入って入って!」

「あ……はい……」「はぁ……」


 何故か背後に回った王が俺とフラムの背中を押して扉の向こうへ連れていく。

 あーもうめんどくさい。

 もっと真面目な王を想像していた自分がバカバカしくなってくる。

 パーティーの会場はとても広い空間になっており、既にたくさんの魔法使い達がいた。

 ワイワイと話し声が重なり、賑やかな雰囲気だ。

 俺はパーティーに出席した事がないので、こういうのは少し憧れていた。

 王はともかく、今日は楽しめるかもしれない。


「王、準備の方を。招待客の皆様がお待ちなので……」

「あー、ちょっと待っといてくれ! もうすぐ始めるからの!」


 さっきから自由奔放な王。

 それに仕えてる魔法使い達はさぞ重労働だろうな……

 とまあ、一応これでも王なので仕事はちゃんとするようだ。

 もういい歳なのに元気よく走っていく。

 やっと王の束縛から解放されたフラムが大きなため息をこぼした。


「はぁ……セナ、今のうちに帰るか……」

「何言ってんだよフラム……」

「私は適当に食べ物を取って隅にいるぞ……」

「どうしたらこの短時間でこんなにやつれるんだ……」


 そう言って隅へ消えていくフラム。

 フラムの周りに漂う負のオーラがやばい。

 しばらく料理を食べながら、会場をうろつく。

 すると、見知った人を見つけた。


「あァ? なんだセナか……」

「ティル! お前も来てたのか!」

「オレも王専属魔法使いだからなァ……フラムも来てやがんのかァ?」

「あー……フラムならそこ……」

「うわァ……予想通りだなァ……」

「フラムは任せた」

「おいッ!」


 ティルをグッとフラムの方に押し出して逃げる。

 病みフラムはティルに任せよう。

 ティルの事だから上手くやれるとは思っていないが……

 すると、会場の奥にある舞台の幕がゆっくりと開かれていく。

 周りの客人達が拍手を始めるので、俺も拍手をする。

 幕の奥には王が立っていた。


「今日は集まってくれてありがとう! パーティーということになっているけど、今日はこの世界を守ってくれたヒーローを讃えようと思ってる! セナ・レイズ! 上がってきたまえ!」

「え……」

「ほらほら早く!」


 言われるがままに舞台に上がる。

 舞台から会場を見渡すと実に多くの魔法使い達がいた。

 戦闘以外でこんなに集まっているのを俺は見たことがない。


「もう皆知ってると思うけど、彼は《背理教会》の幹部と思われるエレナ・フェレラルと、彼女が生み出したとされる魔物・ラグナロクを討伐してくれた! あ、ラグナロクはフラムのメイドが? まあ、なんでもいいよ! とにかくありがとう!」


 なんとも雑だ。

 会場に集まった魔法使いがドッと笑う。

 俺はこんな気楽な世界に住んでいたのか……

 王の話は続く。


「今回の成果を踏まえ、セナ・レイズ、君に今度新しく作られる《魔法騎士団》の団長を頼みたいと思う。いいかの?」

「え……ッ!」

「嫌ならいいんじゃ。だが、君だけが頼みの綱なんじゃよ」

「わかりました……王の頼みとあらば、聞かない訳にはいかないから」

「そうか! 助かるよ! ありがとう!」


 フラムとティルは王専属魔法使いという重要な役割を持っている。

 その責任を背負いながら戦ってきた。

 何か責任を負いながら戦うことで、単純な戦闘力とは違う力を身につけられる。

 フラムは昔、俺にそう教えた。

 一瞬驚いてしまったが、これは大きなチャンスだ。

 客人達の大歓声が会場を包み込む。

 王は俺の返事に心から喜んでいる。

 俺はこの日から、新しく作られる《魔法騎士団》の団長になった。



 ───────────────────────



 大歓声が響く会場の中、水色の髪を腰まで伸ばし、淡い青色のドレスに身を包んだ少女がいた。


「やっぱり無事だったんですね……セナ様……」


 少女はそう呟きながら、少し涙を流す。

 少女にとって、セナは本当に大切な存在なのだ。


「約束……覚えていますかね……?」


 ポツリと意味深な言葉を残してパーティーの客人達に紛れた。

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