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見習い魔法剣士の英雄譚  作者: 清水 悠燈
魔法界変革編
18/66

-覚醒-

 

「いったい何がどうなってる……?」


 俺はベルと共にラグナロクのいる方向へ走っていた。

 すると突然、陸やら空やらに大量の魔物が現れ、一瞬で姿を消した。

 その時降ってきた虹色の雨が建物も魔物も全てなかったことにしたのだ。

 これはきっとフラムの仕業だろう。

 こんな大技、フラム以外使えない。

 そんなことを考えていると、次は目指していたラグナロクに変化が起きた。

 突如バランスを崩し、地面を揺らしながら倒れたのだ。

 この魔力と剣気は凜華だろうか。

 ここしばらく戦っていないのに、全く衰えていない。

 むしろ魔力も剣気も増しているような気がする。

 一緒に並走しているベルに「大丈夫かな?」と目で合図を送ると、「きっと大丈夫だよ」とウインクをしながら伝えてくれた。

 こんな時でも可愛いのはずるいと思う。

 とりあえず、フラム達との合流だ。

 それに、捕縛されたティルも助けなければ。

 何をするにしても急がないと。

 そう考えながら、先程までラグナロクのいた所まで辿り着いた。

 そして目にしたのは……


「凜華ぁーッ!」

「ベ……ル……?」


 隠れ家で2番目の実力を持つ凜華が全身傷だらけで倒れ込んでいる姿だった。

 ベルが泣きながら凜華の元に走っていく。

 凜華お気に入りの動きやすさを重視した着物型の戦闘服も、見る影もない程ボロボロになっていた。


「嫌ッ! 死なないで凜華ッ!」

「何……言うとん……うちは……簡単には……死ね……へんで……?」

「喋らないで、お願いッ!」


 ベルは意識の朦朧としている凜華に『リカバリー』を繰り返し詠唱している。

 けれど、『リカバリー』も万能の治癒魔法ではない。

 瀕死に近い者に詠唱しても、それほどの効果を持たない。

 それに、既に長時間のヴァンパイア化をしているベルの魔力は残り少ない。

 とても治癒できる状況ではなかった。


「魔力が足りない……セナッ! もう少しだけ血をちょうだいッ!」

「ベル……これ以上は無駄だ……」

「そんなの……そんなのやってみないとわからないよッ!」

「お前の魔法じゃ無理だッ!」

「ッ! じゃあ……どうすればいいの?! 私に親友を見捨てろって言うの?! そんなのあんまりだよッ!」


 涙で顔をぐちゃぐちゃにしたベルが大声で叫ぶ。

 一生懸命なのはとても伝わってくるが、ここまでの怪我はベルや俺の魔法では助けられない。

 俺だって好きで凜華を見捨てたいんじゃない。

 今は一刻も早くフラムの助けを呼ぶべきなのだ。

 その為には恐らく、凜華をここまで痛みつけた元凶が立ち塞がるだろう。

 ベルと2人でならどうにかなると思ったが……仕方ない。


「ベルは凜華を見ててくれ。俺の血を吸ってくれても構わない。俺は元凶を潰してくる……」

「セナ……?」

「今のベルがいても足でまといだから」

「え……?」


 嘘だ。

 ベルにはここに残って欲しかった。

 ベルと凜華のお互いのために。

 困惑した表情を浮かべているが、もうこれ以上余裕はない。


「吸うなら早く」

「う、うん……じゃあ……」

「な、何を……ッ! うぐっ……」


 俺はベルに背を向けていたので、ベルが後ろから抱きついてくるとは思わなかった。

 そのままベルの牙が首に刺さる。

 一度経験した吸血される感覚。

 少しの脱力感を感じるが、そんなもの無視する。


「ありがとう……セナ……」

「凜華を助けろよ……」


 感謝されたということは、俺の考えは全部読まれていたようだ。

 これではなんの格好もつかない。

 まあ、いいか。

 ベルの顔を見ることなく走り出す。

 目指すのは先程から感じる禍々しい魔力。

 きっとそこに奴はいる。

 絶対に倒さねば……





 何だこの地獄は。

 今まで見た地獄のような風景の中でも、群を抜いて地獄らしかった。

 見渡す限り、倒れた魔法使いばかり。

 その中には、微かに息をしている悠斗もいた。

 大半は魔力が吸い尽くされている。

 フラムの『カタストロフィー』によって平らとなった地面には、炎が広がっていた。

 見る限り、魔力反応は巨大なもの2つと、今にも消えそうなものが多数。

 呆然としながら前へ進む。

 すると、爆発音が響いた。


「フラム……ッ!」


 あのフラムが負けるとは思っていない。

 けれど、フラムとは別の魔力反応。

 その強大さと禍々しさが、俺を不安へと追い込んでいた。

 再び爆発音が響く。

 その元凶がやっと視界に移り込んだ。


「嘘だろ……?」


 エレナとフラム。

 お互い魔力障壁を展開しつつ、魔法の応戦をしている。

 けれど、明らかにフラムが押されていた。

 顔や髪は汚れ、服は所々焦げている。

 それなのに、エレナは無傷な上に嘲笑を浮かべている。


「セナ……逃げろ……ッ!」

「アハハッ! 逃がさないわよ? アナタの後に殺してあげるから」

「この……ッ!」

「ウフフフフ……アハハハハハッ!」


 フラムの杖、ケルベロスの性能により、上空に巨大な3つの魔法陣が展開される。

 現在最も強力な単対象攻撃魔法『ファフニール・ブレス』。

 超高温の熱線がエレナに降り注ぐ。

 前回の戦闘では為す術もなく撤退させられていた魔法だ。

 それなのに……


「その程度かしら?」


 エレナが掲げた右手から高濃度の魔力障壁が展開される。

 フラムの必殺技は完全に阻まれた。

 近くで見ればわかる。

 あのフラムでさえエレナとの保有魔力の差が十分の一にも満たない。

 圧倒的過ぎる。

 こんなやつ、俺はおろかフラムでも勝てるわけがない。

 でも、戦わなければ魔法界が消されてしまう。


「"掲げよ、約束の剣"……」

「セナッ! よせッ!」


 なら戦うんだ。

 俺が時間を稼げば、きっとフラムがどうにかしてくれる。

『魔法剣デュランダル』を握りしめ、グッと右足を引く。

 ティルの魔力反応は未だに感じられない。

 もしかしたら死んでいるかもしれない。

 仇を打つ……ッ!


「シィッ!」

「邪魔よ」

「え……ゲホッ!」

「雑魚は黙って見ていなさい」


『クイック』『バーサク』『エンハンス』の3つの魔法を詠唱し、斬り込む。

 全力の一撃。

 けれど、気づけば腹にエレナの左手が突き刺さっていた。

 身体が突撃の勢いを余し、くの字に折れ曲がる。

 そして、吹き飛んだ。

 何十メートルも飛び、地面を激しく転がる。

 口の中から血の味がし、内臓を損傷したのか呼吸をうまく行えない。


「"こ……の身……を……癒……せ"」


 やっとの思いで『リジェネレーション』を省略詠唱する。

 徐々に回復していくが、しばらくは動けないだろう。

 フラムのために一瞬の隙も作れなかった。

 これでは足でまといだ。

 そんなのは……嫌だ……

 悔しがりながら目を開くと、響也が俺に託したナイフが転がっていた。

 すると突然、頭に直接呼びかけるような声が聞こえだす。

 それは、紛れもなく死んだはずの親友、響也の声。


『セナ、お前は何のために剣を握り、戦ってきた?』

「守るべきものが出来たときに、守る為だ……」

『今お前があいつを止めないと、お前は何も守れないぞ?』

「でも……俺にはあいつを止められない……」

『誰がお前一人で戦えって言った? お前の中には俺がいる。悠斗も。日向も。皆いるだろ?』

「そうだな……俺には……皆がいる」

『行ってこい。背中は俺が押してやる』

「あぁ……ッ!」


 きっとこの響也は俺が妄想した偽物だ。

 けれど、本物でもある。

 響也は俺の中にいるのだ。

 ゆっくりと、ふらつきながら立ち上がる。

 傷はまだ癒えていない。

 けれど、もう少しで完治するだろう。

 身体中から魔力が溢れ出てくる。

 今なら何も怖くない。

 何が目の前に立ち塞がろうとも、斬り拓ける。


「"剣よ、我が祈りに応えよ"」


 こんな詠唱、俺は知らない。

 けれど、いつの間にか自分の口が紡いでいた。

 デュランダルに刻まれた魔力線が詠唱に呼応して光を放つ。


「"戦場を駆けよ、目覚めの刻は来た"」


 視界いっぱいに魔法陣が広がった。

 そして、両足にも。

 視界がどんどんクリアになり、周りの時間が停止する。

 身体は羽のように軽く感じる。

 一歩踏み出す。

 それだけで何十メートルも移動し、目の前にはエレナがいた。

 その表情は嘲笑のまま動かない。

 ゆっくりとデュランダルを後ろに引き、構える。

 今、俺の意識は限界まで研ぎ澄まされている。


「さっきのお返しだ」


 デュランダルを横薙ぎに振るう。

 狙いはエレナの腹。

 デュランダルが的確にエレナの腹に触れた瞬間、停止していた時間が動き出した。


「な……グハッ!」


 一瞬、俺と目が合ったエレナの目が驚愕の色に染まる。

 エレナは身体をくの字に折り曲げ、勢いを殺すことなく吹き飛んだ。

 斬り裂けなかったのは、魔力強化とマジックメタルのせいだろう。

 だが、まだ終わらせない。

 再度時間が止まる。

 吹き飛んでいる最中のエレナの真後ろに移動し、デュランダルの柄頭を鳩尾に叩き込んだ。

 またも時間が動き出す。


「ゲホッ!」


 エレナが叩きつけられた地面に放射線状の亀裂が入る。

 吐血しながら倒れ込んだエレナの顔の真横にデュランダルを突き刺す。

 いつでも殺せるという意味を込めてだ。


「何……なのよ……何よその力はッ!」

「お前には一生かけても手に入れられない力だ」


 俺はデュランダルを抜き取り、エレナの首筋に当てた。

 さっきの2回の攻撃は手を抜いている。

 今本気で突き刺せば、魔力強化もマジックメタルも簡単には貫ける。


「嫌……こんな所で私は終われないのよッ!」


 最後の悪足掻きか、エレナが無詠唱の魔法を連発する。

 この至近距離だ。

 流石に回避はできない。

 けれど……


「終わりか?」

「何よ……何なのよッ!」


 俺の周りには障壁が張られていた。

 それも、とびきり強固な。

 エレナの魔法は一撃たりとも俺に触れなかった。

 恐怖で狂ったエレナが両手を突き出して詠唱する。

 精神干渉魔法『ソウルブレイク』。

 この魔法は障壁を無視して効果を出せる。

 全く動かない俺を見て、決まったと思ったエレナの顔に笑みが浮かぶ。

 だが、今の俺の精神に、狂ったエレナの魔法が干渉出来る訳がない。


「まだ……死にたくないッ! 嫌よ……ッ!」

「お前が殺してきた奴らも、みんなそう思ってるよ」


 必死に叫ぶエレナに冷たく返答し、その身体を宙に蹴り上げた。

 そのままデュランダルを高く高く掲げる。


「嫌……嫌ぁッ!」

「まず……響也の分ッ!」


 思い切り振り下ろす。

 ズガッ!と音と共にエレナが地面に叩きつけられ、跳ね上がる。

 そこにすかさずもう一太刀。


「これは日向の分ッ!」


 横薙ぎに振るわれたデュランダルがエレナを吹き飛ばす。

 吹き飛ぶエレナの先に移動し、もう一撃。


「これは凜華の分ッ!」


 斬り上げられたエレナが上空へ飛んで行く。

 これで最後だ。

 跳躍し、空中にいるエレナにデュランダルを全力で振り下ろした。


「これはお前に殺された皆の分ッ!」


 ズシャッ!と肉を断つ音が響き、エレナが遥か上空から地上に叩きつけられた。

 魔力反応は無い。

 もう死んでいる。

 斬り裂かれた断面から大量の血と共に、吸い取られた魔力が零れ落ちていく。

 この魔力はもう元の持ち主に帰ることは無い。

 ただ空に霧散し、空気に溶け込んでいくだけ。




 夕焼けの下、魔法使いが約三百人死んだ。

 ラグナロクが喰らったとされる一万人も合わせ、約一万三百人。

 負傷者は千人を超える。

 それでも、《背理教会》幹部のエレナはトドメを刺された。

 この日、戦いは終わった。

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