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見習い魔法剣士の英雄譚  作者: 清水 悠燈
魔法界変革編
17/66

-紫電の剣技-

 

「なかなかしぶといな……」

「師匠! こいつダメージ入ってますかッ?!」

「いや、わからん。とりあえずは凜華の『瞑想』を待て」

「りょ、了解ですッ! ……何なんだよいきなり『瞑想』って」


 状況はあまり良くない。

 フラムが手数で抑えているが、いつ敵が動き出すか分からない。

 凜華はラグナロクを目にしたと同時に「うちのこと守ってや!」と言って『瞑想』しだした。

 イマイチ凜華の実力を知らない悠斗は不安で仕方なかった。

 先程から『魔法弓アポロン』でバケモノの手や足を狙ってバランスを崩そうとしているが、びくともしない。


「悠斗、来るぞ……ッ!」

「え……? うっそん……」


 ラグナロクが動き出した。

 空中に大量の魔法陣を出現させる。

 どれも不気味な感じしかしない。

 しかし、魔法陣から魔法は放たれなかった。

 代わりに、浮遊する魔物達が溢れ出てきた。


「どれも高ランクの魔物ばかりだな……悠斗、凜華の守りに専念して下がってろ。私が終わらせる」

「は、はいッ!」


 魔法陣からは留まることなく魔物が出現し続けている。

 そのため、陸にも空にも魔物が波のように押し寄せていた。

 流石のフラムでもこの数は捌ききれないだろう。

 けれど、フラムの実力は自分の師匠として過大評価している悠斗の予想の更に上を行く。


「クハハ……誰の許可を得てここに蔓延っている? ここは王の治める土地。王に歯向かう虫けら共は王専属魔法使いの私が罰してやろう……というのは建前だが……」


 フラムはそう言って杖『ケルベロス』を掲げた。

 次の瞬間、王都の空一面が魔法陣で覆われた。

 その数およそ千個。

 他の魔法使い達が唖然として見上げている。

 虹色に輝く魔法陣が空気を圧倒した。


「私の息子と遊んでくれたそうじゃないか? これはそのお礼だ。受け取るといい、『カタストロフィー』ッ!」


 魔法陣が一際強く輝く。

 そして、極光の雨が王都に降り注がれた。

 視界が潰れる程の眩しさ。

 目を開けた時には何一つ残っていなかった。

 残っているのは魔法使い達とラグナロクのみ。

 建物も魔物も、全てが灰にすらならず消えていったのだ。

 どんな魔法でも傷一つ付かなかったバケモノですらボロボロになっている。

 ほぼ全属性系統の魔法を編み合わせ、収縮して広範囲にビームとして射出する領域魔法『カタストロフィー』。

 もちろんフラムにしか使えないオリジナル魔法で、広範囲に絶対的な殲滅力を持つ必殺技だ。

 魔力消費も尋常ではないが、フラムの保有魔力は底なしなので問題ない。


「ふぅ……派手にやりすぎたか。ストレス発さ…………王都を守るつもりがさら地にしてしまうとは……」


 フラムは炎のような赤い髪の毛を手で掻き上げため息をこぼす。

 最強の名に相応しい、圧倒的火力。

 流石のラグナロクですら戸惑うような素振りを見せている。

 背中など全身を穿たれた事により動くことすらままならないようにも見える。


「もう終わりですかッ?! 顔面に大穴空けてやるッ!」

「待て。下手に煽るな。───そろそろいいだろう」

「ん?」


 悠斗がアポロンを構えて挑発しているが、相手はそれに応えるほど頭は良くないようだ。

 フラムは『瞑想』を続けている凜華を指さして言った。


「凜華、時間だ。あのバケモノを完膚なきまでに叩き潰せ」

「すーぅ……了解ッ!」


 座禅を組んでいた凜華が息を深く吸って立ち上がった。

 腕を横に広げ、再び目を瞑る。

 すると、人間の悠斗でもわかるほど濃密な魔力が凜華の手に集まり始めた。


「え……もしかして、最弱は俺だったりする……?」

「はぁ……凜華は私の次に強いぞ? 修行してる長さが違うんだ。あんまり図に乗るな、悠斗」

「は、はぁい……」


 集まった魔力は徐々に刀の形をとる。

 そうして作られた刀は4本。

 どれも異常な魔力を有している完全な魔力の塊だ。

 凜華はその内の2本を握った。

 そして、ゆっくりと半身の構えを取る。


真田(さなだ)流双剣術皆伝、真田凜華……参りますッ!」


 凜華は高らかに名乗りを上げ、その姿をかき消した。



 ───────────────────────



 真田流とは、人間界で無類の強さを誇った真田家が生み出した究極の剣術。

 そして、長く続く家系の中でも、数人しか皆伝まで至る者が居なかったのが双剣術だ。

 両腕に力の差はあってはならず、川のような流れる動作、何よりカミソリのように鋭い太刀筋が必要とされる極意。

 凜華は真田家の直系であり、真田流双剣術の皆伝である。

 その実力は人間界だけでなく、魔法界で過ごすようになってからも衰えるどころか成長し続けている。

 人間にしては異常な魔力を保有しており、双剣術に魔法を並行して扱うことで、更に強くなった。

 その実力は、あのフラムでさえ近付かれたら勝てないというほどだ。


「久しぶりに暴れたるでーッ!」


 真田流走破術『疾走』。

 身体が風になり、風に乗るというイメージだけで高速移動を可能とする極意。

 これは魔法ではなく、ただの技術である。

 だが、その速度は『クイック』を使ったセナよりも速い。

 既に目の前には巨大なバケモノが迫っていた。

 しかし、凜華の目に恐れは無い。

 むしろ興奮しか無かった。

 この硬さを斬れるのか、斬れないのか。

 でも、凜華は信じている。

 己が刀の斬れ味を。

 どんなものでも両断してくれる鋭さを。


「真田流双剣術……『鏡花水月』ッ!」


 二刀を縦横無尽に振り回す。

 一太刀毎に確実に、深々くラグナロクの身体を抉っていく。

 ほんの一瞬で巨体の右腕を斬り飛ばした。


「次ッ!」


 空中に浮遊する残りの二刀に意識を傾け、剣術を想像する。

 何にも握られていないはずの二刀が、突如として神速で振るわれだした。

 凜華のオリジナル魔法『表裏一体』。

 自己強化魔法の一種で、意識の力で物を動かすことが出来る。

 凄まじい集中力を必要とするのだが、凜華はそれを難なくこなしてみせている。

 続く一瞬で左腕と右脚を叩き潰した。

 一瞬の出来事にラグナロクが暴走を始める。

 そこらかしこに魔法陣を出現させ、魔法を乱射する。


「く……ッ!」


 真田流双剣術は完全な攻撃の型。

 それ故に防御力は皆無だ。

 実態のある魔法は刀で斬り伏せられるが、炎や雷となるとそうはいかない。

 だから、少なからずダメージを受けてしまう。

 けれど、少しの怪我を気にしている程度では到底真田流双剣術は極められない。


「最後やッ!」


 痛いと感じてしまう痛覚をシャットダウンする。

 もう乱戦になれば力ずくだ。

 けれど、演舞のように、されど落ち着いた心を忘れない。

 セナやティルの剣術を『武』と表すなら、凜華の剣術は『静』だ。

 どんなものが立ち塞がろうとも、冷静に対処し敵を斬る。

 幼い時からそう習ってきた。


「はぁぁぁッ!」


 両手と意識で握る4本の刀を流れるように振り、最後の左脚を斬り飛ばした。

 まだ体力は持つ。

 ただ巨体なだけで歩けもしないバケモノなど相手ではない。

 これ以上怪我人が出る前に倒してやる。


「真田流双剣術奥義……『紫電一閃』ッ!」


 凜華の4本の刀が紫色の電撃を帯び、無数に振るわれた。

 ズバババッ!と風を斬る音が響く。

 ラグナロクの巨体が木っ端微塵に斬り裂かれた。

 遠くで悠斗が唖然と見ている。

 少しはカッコつけられただろうか。


「うっそぉ……凜華ってほんとに強いんだ……」

「そうだな。あいつは私が初めて人間界に訪れた時に出会ったんだ。まさか私が殺されかけるとは思ってもみなかったさ」

「し、師匠が殺されかけた!?」

「そうさ。まあ、その後色々あって魔法界に連れ去ってやった!」

「連れ去ったって……」

「その話はまた後にしよう。まだ奴がいるだろ?」

「ん……?」


 突如、ラグナロクの近くの地面が隆起する。

 そして、その場所から溶岩の柱が吹き出た。


「な、何ッ?!」

「派手な登場だな。だが、すぐ終わるさ」


 溶岩の柱によって生み出された穴から一人の少女が飛び上がってきた。

 銀髪は砂煙で薄汚れており、身体の至る所から金属が剥き出しになっている。

 その見た目はもう魔法使いではなかった。

 まさに機械だ。

 その機械の正面には刀の切っ先を向けている凜華がいる。


「はぁ……余興は終わったかしら?」

「あんたがエレナか? よくもこんなことしてくれたな……」

「見た目は若いのにでかい口を叩くのね、人間」

「ッ! 関係ないやろッ! 今ここで対峙してるっていうことは、うちらは平等に敵同士やッ!」

「アハハッ! 平等ですって? 私達のような優れた種である魔法使いが、無能の人間と? 笑わせないでくれるかしら?」

「あんたなぁ……ッ!」

「なら、見せてあげるわ。魔法使いと人間の差をッ!」


 凜華に挑発をしながら、大きく手を掲げた。

 同時にエレナの足元に巨大な魔法陣が展開される。

 そして、凜華の後ろにも。


「まさかあんた……このバケモノと一体化しようとしとるんかッ!」

「あら、よく分かったわね? けれど、もう遅いわ。『シンセシス・レボリューション』」


 暗闇がエレナとラグナロクを覆った。

 禍々しい魔力が目の前で爆発的に増加している。

 凜華は浮遊している刀で攻撃を試してみるが、黒色の魔力に触れた瞬間、刀自体が霧散した。


「魔力が吸われてる……ッ!」

「ウフフフッ……アハハハハッ! 私が究極の魔法使いになるのッ! 私がこの魔法界を作り直すッ!」


 暗闇が晴れた。

 そして、目の前にいたのは……


「本番はここからよ……?」


 ラグナロクの全魔力を無理矢理取り込むことによって、歴代最多量の保有魔力を手に入れたエレナの姿だった。

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