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見習い魔法剣士の英雄譚  作者: 清水 悠燈
魔法界変革編
16/66

-進撃-

 

「うーむ……これは流石に私でもしんどいか……」

「フラム様、全員準備が整いました」

「よし、全員集合。王都へ飛ぶぞ」

「「「はいッ!」」」


 王都に巨大な魔物が現れたという報告を受けて10分程度。

 フラム、ベル、悠斗、凜華の4人は、戦闘態勢を完璧に整えた。

 王直々の救援であったので、フラムも急ぐしかなかったようだ。


「俺も木の上から見たんだけどさ、何あれ? 倒せんの?」

「どうかなー……フラム様が焦ってるっていうことは、やばいかも……?」

「うち、あんまり戦いたくないんやけど……」

「ベルと違って、バトルメイドじゃない凜華はここにいていいんだぞー?」

「なッ!? うちの事バカにしとるな?! うちかて戦えるわッ!」

「どーだかー」


 悠斗と凜華がグチグチ言い合っているが、最近よくある事だ。

 私は冷蔵庫から瓶ミルクを取り出して一気飲みする。

 おいしい。

 というか今の会話の内容からして、悠斗は凜華の実力を知らないようだ。

 おそらく悠斗の中では、フラム様>セナ>私>自分>凜華といった順の実力だと思っているのだろう。

 戦況によるだろうが、本当はフラム様>凜華>セナ>私>悠斗の順だったりするのだが……

 そうでなければ、凜華1人で隠れ家を守らせたりするものか。

 まあ、今回の戦いでその実力を知る事だろう。

 そんなことを考えていると、フラムが杖を掲げた。

『テレポート』の準備が出来たみたいだ。

『テレポート』は個人の転送なら一瞬なのだが、3人以上になるとどうも複雑になるらしい。

 それを30秒で整えるフラム様はやっぱりバケモノだと思う。


「行くぞ、『テレポート』」



 ───────────────────────



「はぁ……はぁ……ッ!」


 こんなの嘘だ。

 さっきまで水槽に入っていたサイズと違いすぎる。

 その大きさは付近の建物がオモチャに見えるほど。

 高さにして15メートルはあるだろう。

 ゼェゼェと荒い息を整え、目の前を見る。

 やっと到着した王都は炎と悲鳴と叫び声で包まれ、地獄と化していた。

 そして、王の住む王城に進む巨体のバケモノ、ラグナロクがいた。

 俺のいる場所と王城は真逆の方向なので、ラグナロクの後ろ姿しか見えない。

 人型だが、身体の重みを支えきれないのか、四足歩行になっている。

 黒い身体に幾千もの魔法線が刻まれており、より一層禍々しさを漂わせていた。

 顔は見えないが、巨大な角が見える。

 倒さなきゃ……

 このバケモノは俺が倒さなきゃ……

 王が死ねば政治が狂う。

 そうなれば、統制の取れなくなった魔法界はあのバケモノに蹂躙され、滅びてしまう。

 勝機があるとするなら、まだ未完成という事か。

 知性が無ければいいのだが……

 まあ、あのエレナがその程度のもので満足するとは思えないので、微かな希望しかない。

 それでも、どんなバケモノでも倒さなければ……


「やっと追いついた……ッ!」


 やっとの思いで追いつく。

 既に建物の屋根の上から魔法使い達が攻撃を始めている。

 恐らく王に仕える王国軍魔法使いと街人を守ろうとする魔法使いが入り交じっていてろくな連携も取れていない。

 だが、ラグナロクには外傷ひとつ無い。

 並の魔法使いには興味はないと言った感じだ。

 それでも、稀に全身から魔法陣を生み出し、火系統の魔法を放っている。

 それがこの地獄を作っているのだろう。

 付近はもう火の海だ。


「怯むなッ! 水系統魔法用意ッ! ───放てッ!」


 王国軍魔法使いのリーダー格の男が叫ぶ。

 同時に付近にいた魔法使い達が水系統の魔法を一斉に放った。

 けれど、効果は薄い。

 当たり前だ。

 恐らく王国軍の魔法使いといえど、保有魔力が中の上程度。

 このバケモノはその程度では傷ひとつ付かないだろう。

 なら、俺が行くしかない。


「全員水系統魔法で消火に当たってくれッ! こいつは俺が斬るッ!"掲げよ、約束の剣"ッ!」

「あ、あぁッ!」


 デュランダルを召喚し、ラグナロクに斬りかかる。

 迎撃に当たっていた他の魔法使い達は皆消火を始めてくれている。

『バーサク』と『クイック』を二重詠唱。

 デュランダルに『エンハンス』で水を纏わせる。

 いつものコンビネーションだ。

 エンハンスの属性を氷から水に変えたのはやはり相性の問題だ。

 恐らくラグナロクの身体は非常に高温だろう。

 氷属性では氷を植え付けてもすぐに蒸発させられる。

 かといって水属性も蒸発させられるかもしれないが、これは賭けだ。


「はぁぁぁッ!」


 建物に飛びかかり、その壁を蹴り上げて更に高く跳ぶ。

『クイック』で強化された脚力にものを言わせた荒業だ。

 そのままラグナロクの背中に飛び乗る。


「熱ッ……くない?」


 遠目から見たラグナロクの周りがユラユラと揺れていたので余程高温だと思ったのだが……

 全然熱くない。

 むしろ岩?で出来ている身体はひんやりと冷たい。

 この感触は知っている。


「これ、マジックメタルか……しかも最大強化……」


 この大きさで、全身最大強化のマジックメタルとなると破壊は難しい。

 というか、ほぼ不可能だ。

 そんなことを考えていたのが隙となった。

 気付けば俺を囲うように魔法陣がいくつも展開されていた。

 そのどれもが高濃度の魔力を帯びている。


「やば……ッ!」


『バリア』を詠唱し、障壁を全力展開する。

 それと同時にラグナロクに刻まれた魔力線がカッと光る。

 直後に凄まじい衝撃。

 障壁が紙のように簡単に吹き飛んだ。

 防げたのはせいぜい2発程度。

 残り全ての魔法が直撃した。

 その衝撃でラグナロクの上から投げ出される。

 着地をしようにも、全身が軋むような痛みに喘いでいて動けない。

 だが、着地のダメージは無かった。


「セナッ! 大丈夫?!」

「ベル……助かった……」

「喋らないで! すぐに治療するから!」


 この場にはいないはずのベルが吹き飛んできた俺を受け止めてくれた。

 ベルの着ているピタッとしたゴム製の黒スーツが予想よりも薄く、ベルの柔らかさと体温を伝えてくる。

 顔から火が出るような錯覚を覚える。

 こ、こんなところでときめいている場合ではない……!

 すると突然、ベルの顔がグッと近づく。


「な、何を……!」

「ちょっと……貰うね……」


 ベルは優しく微笑んで俺の首筋に噛み付いた。

 カプッ……チュー……

 ほんの数ミリリットル程度の血が吸われる。

 なるほど、吸血か。

 ベルの姿が少しだけ変化する。

 コウモリの様な羽に鋭利な爪と牙。

 瞳も銀色から血のような赤色に変わっている。


「これが……ヴァンパイア……」

「驚いた? すぐ治すからね……」


 これはあとから聞いた話だが、ベルのヴァンパイア化には2つの方法があるらしい。

 血を見た時に衝動的に発動するものと、他人から吸血することにより自らの意思で発動するものだ。

 前者は自分ではコントロール出来ないらしい。

 今回は自らの意思で俺の血を吸血した為、ヴァンパイア化出来たというわけだ。


「『リカバリー』……よし、これで大丈夫! フラム様達も来てるから、合流しよう!」

「ありがとう……わかった」


 フラムがいればなんとかなるはずだ。

 だって最強の魔法使いなんだから。

 そんな希望を持ってベルと共に走り出した。


「ここからが正念場だ……ッ!」

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