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見習い魔法剣士の英雄譚  作者: 清水 悠燈
魔法界変革編
15/66

-不動の牢獄-

 

「あれ……?」


 突然目が覚めた。

 しかし、まだ早朝だ。

 ベルは「おかしいなぁ……」と呟いてベッドから抜け出して、階段を降りてキッチンに向かった。

 普段はこんなに早起きすることなんてない。

 コップを食器棚から取り出し、冷蔵庫から取り出したミルクを入れて飲む。


「ぷはー! 美味しい」


 完全に独り言だが、よくしている。

 今ので誰も降りてこなければいいが。

 早起きと言えばセナだ。

 彼は隙あらば修行と言って森へ出ていく。

 時々近くの木々が氷漬けになってるのはセナが理由だ。


「ん……?」


 ふと、鼻につく臭いを感じた。

 鉄くさいようなあの臭い。


「どうして血の臭いが……?」


 ヴァンパイアの末裔であるベルは血の臭いに敏感だ。

 サメがプールに血を一滴入れてもその臭いに気づけるように、ベルの鼻はかなり広範囲で血の臭いを拾うことが出来る。

 そして、一度嗅いだり飲んだ血は覚えられる。

 この血の臭いは嗅いだことがある。


「セナ……? 大丈夫かな……?」


 ベッドから落ちて怪我でもしたのだろうか。

 血の量はおそらくその程度の少量だ。

 心配だし見に行くことにした。

 救急セットをちゃんと持って。

 魔法を使えないベルにとっては回復系統の魔法で擦り傷を治すことも出来ないので、手作業の治療もできるようになった。


「私の医術を見せてやろーっ! って言っても気にしないくらいの怪我だよねー……」


 階段を上がって少し奥にあるセナの部屋へ。

 とりあえず2回ノックする。


「セナー? 大丈夫ー?」


 返事がない。

 寝ているのだろうか?

 ベッドに血が付いてしまってはいけないし返事が無いのではどうしようもないので扉を開ける。


「怪我したらちゃんと手当を……あれ……?」


 少し説教でもしてやろうと思ったが、扉の先には誰もいなかった。

 見渡せば、鎧掛けにセナの軽鎧が無い。

 もしかして……


「とりあえずフラム様に報告……かな……?」



 ───────────────────────



 作られた魔物、ラグナロク。

 目を凝らせば、禍々しい魔力を恐ろしいほど蓄えている。

 おそらく、俺とティルでは倒せない。

 それほどの圧力があった。

 隣にいるティルでさえ、目を見開いている。

 勘づいたのだ、あのバケモノの恐ろしさに。

 魔物は本来、空間に浮遊する微量の魔力を吸収しながら生きている。

 大型のものは魔法使いを喰らい、その魔力を丸々蓄える本能を持っており、魔法使いを喰らえば喰らうほど強くなるのだ。

 魔法使いを2人喰えば、魔法使い2人分の強さになるという計算。

 ということは、このバケモノは魔法使い1万人以上の強さである。

 流石の王専属魔法使いのティルやフラムであっても、個人で千人分がいいところだ。

 要するに、王専属魔法使いが十人分。

 不可能だ。

 このバケモノには勝てない。


「まだ未完成だからこの水槽に入っているけれど、破壊はできないわよ? この結界は魔法では破壊できないの」

「なるほどなァ……なら、テメェが『鍵』かァ……」

「流石ティル兄さん。そうよ、私を殺さないとこの結界は解けないわ」


 なるほど。

 通りでティルが無闇な魔法を撃たなかった訳だ。

 だが、その結界の鍵が目の前にあるのなら……


「なら、お前を殺すッ!」

「セナッ! やめとけッ!」


『ファントム』を詠唱し、エレナの背後に回る。

 小さくジャンプして一回転。

 その遠心力を利用した斬撃を首筋に狙いを澄ましてお見舞する。

 だがしかし……


「なんで……ッ!」


 デュランダルがエレナの首筋に触れる寸前で、俺の身体ごと固定された。

 どれだけ力を入れてもびくともしない。

 こんな魔法、俺は知らない。


「相変わらず単純ね。オリジナル魔法を使えるのは王専属魔法使いだけだと勘違いしてないかしら?」

「オリジナル……魔法……ッ!」

「阻害魔法『プリズン』。確か前に言ったわよね? テクニカルな魔法が得意だって。その境地がこの魔法よ」


 エレナが余裕の表情で俺を見る。

 ティルは何故か動かない。

 この魔法の詳細が分からない以上、無闇な手出しは出来ないのだろう。

 もしティルが捕縛され、あのバケモノに喰われでもしたら、それこそこの世の終わりだ。

 おそらくティルはそこまで考えて躊躇っている。


「はァ……」

「ため息なんて吐いて、降参かしら?」

「ヘッ……テメェもまだまだ甘ェ……ッ!」


 ティルが掲げた右手から五つの魔法陣が展開され、幾つもの電撃が放たれる。

 エレナはそれを軽々と避け、うっすらと笑った。

 そして、俺はその一瞬を捉えた。

 ティルの右手から浮き出ている魔法陣が、一瞬だけ雷系統本来の黄色から阻害魔法の黒色に変化した瞬間を。


「ティル……ッ!」

「分かってらァッ!」


 俺が叫んだよりも早くティルは動いていた。

 魔法陣が変色するより前に右手を引っ込め、左手で握ったガラティーンを自分と魔法陣の間に突き刺したのだ。

 ティルの身体は固定されなかった。


「本当に恐れ入ったわ……察しもいいのね、ティル兄さんは」

「阻害魔法『プリズン』か……おもしれェもん編み出したくせにふざけた事しやがって……」

「何言ってるのかしら? 私にとってはこれが正義よ。魔法界は一度作り直されるべきだわッ!」


 阻害魔法『プリズン』のロジックは複雑だがわかりやすい。

 魔法を詠唱する時に現れる魔法陣は魔力の放出口であり、魔法使いの身体と深く繋がっている。

『プリズン』はその魔法陣自体に干渉し、汚染することで相手の動きを封じる魔法のようだ。

 俺が止められた理由は、『クイック』の様な自己強化魔法は自分の体に魔法陣を纏わせているから、それを狙われたのだ。

 自己強化魔法は強力なものが多い分、欠点も多い。

 ようやく身体が動くようになったかと思えば、ティルが俺に『クリアキャスト』をかけてくれたらしい。

 本当に気の利く奴だ。


「でも、『プリズン』のロジックが分かったからといって対処出来るものではないのよ? 私に攻撃する度にあんなことをしていては傷一つ付けられないわ」

「んなこたァわかってる……」

「じゃあ降参する? どうせこの子が全てを消すのだし、見逃してあげてもいいわよ?」

「ちょっと本気だすぜェ……ッ!」


 またもエレナが余裕の笑みを浮かべる。

 その瞬間、ティルの足元が爆発したかのような爆音を響かせた。

 目でティルを追うと、既にガラティーンをエレナの首筋に叩きつけていた。

 エレナがゴミのように吹き飛び、水槽を守る結界に激突する。

 遅れてズバッと空気を斬る音が響いた。


「テメェ……身体に何か仕込んでるなァ……?」

「ゲホッ! ガフッ! 流石に……今のは……効いた……わ……」

「死んでねェだけ、テメェもバケモノだなァ……」


 いったい何が起こったのか。

『バーサク』をほぼ常時発動している俺でも目で追えなかった。

 これは以前ティルと戦闘を行った時のあの神速か。

 速すぎる。

 行動を始める初動すらも見えなかった。

 確実に前より速くなっている。

 ティルの神速の事を考えると、何故だか頭がズキリと痛む。


「ほぼ全身、最大強化マジックメタルを皮膚の下に埋めてるわ。けれど、今のでほとんどダメになったかしら……」

「降参して鍵を開けろ。そうしたら命だけは取らねェでやる」

「フフフ……アハハッ! ティル兄さんは本当にバカねッ!」

「な……ッ!?」


 命までは取らないと油断したティルに、エレナが容赦の無い魔法を行使した。

 ティルの真下に魔法陣が現れ、そこから這い出た黒い蔓がティルの身体を一瞬にして束縛する。

 それは響也の使用した自己強化魔法『リミットブレイク』と同様に、自らの魂を魔力に変換する禁術の類だった。

 阻害魔法『アブソリュートリィ・キャプチャー』。

 自らの魂を魔力に変換し、恨み、妬み、怒りなどの負の感情をも魔力に変換することで得た大量の魔力で大型の魔物を捕縛する禁術だ。

 これはいくら王専属魔法使いのティルといえど、簡単には突破できない。


「はぁ……はぁ……私の役目は……ここまでの……ようね……」

「セナ……ッ! 逃げろ……ッ!」

「でもティルは……ッ!」

「いいから逃げろォォォッ!」

「ッ!」

「残念な坊や……でも、これで……おしまい……『アンロック』……」


 ティルに従い、全力で逃げる。

 全速力で来た道を戻る。

 背後でパキャンッとガラスの割れた音がした。

 けれど、振り向かない。

 きっと俺は振り向いたら助けに行ってしまう。

 ティルが命懸けで逃がしたこの命を無駄にしてしまう。

 それだけはダメだ。

 俺はフラム達とラグナロクを倒さなければならない。

 きっともうすぐラグナロクが解放される。

 急げ急げ急げ急げ!


「はぁ……ッ! はぁ……ッ!」


 やっとの思いで地上に出た。

 肺に空気を取り込むべく、大きく息を吸った瞬間に気づいた。

 何かが焼ける臭いがする。


「あ……嘘だ……嘘だァァァッ!」


 森の中から見えた王都の城下町は、巨大な黒い生物によって火の海と化していた。

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