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見習い魔法剣士の英雄譚  作者: 清水 悠燈
魔法界変革編
14/66

-終焉-

 

「行ってきます……」


 まだ夜も明けない深夜の中、俺は軽鎧を着込み外へ出た。

 今度こそ決着をつける。

 まだ1日も経っていない。

 響也の仇を必ず取る。

 《背理教会》を絶対に許さない……!

 フラムの部屋から拝借した『テレポート』のスクロールを開いて魔力を流し込む。

 イメージするのは、前回戦闘を行った森林の中。

 俺の予想が間違っていなければ、教会の基地はその付近にある。




 目を開けると、そこは見覚えのある森の中だった。

 一部は未だに焼けている。

『テレポート』は問題なく成功だ。

 次は基地を見つけなければ。

 そう簡単に見つかるものでは無いだろうが、意識を集中させて魔力の流れを感じ取る。

 ほんの少しの魔力の歪みも見逃さない。

 30分ほど探し、ようやく一つの歪みを発見した。

 少し離れているがそう遠くない。

 ゆっくりと、魔力を可能な限り弱めて接近する。

 あと少しというところで、異常な魔力を感じた。

 しかも真上。


「な……ッ!」


 目の前に雷が落ちてきた。

 思っていた以上に小さな音で。

 そこには一人の男が立っていた。

 銀髪を逆立て、純白のローブを着た魔法使い。


「来てやったぞ、セナ」

「ティル……! ありがとう……ッ!」

「気にすんじゃねェ……元々処理しておきてェ案件だァ……」

「ここに魔力の歪みがある。魔力を流し込んだら開くと思うか?」

「んなもん……叩き壊すッ!」

「えぇ……」


 王専属魔法使いティル・フェレラル。

 彼がいれば百人力だ。

 期待が重いと愚痴られそうだな。

 叩き壊すと宣言したティルは、本当に魔力の歪みに拳を叩きつけた。

 すると、バチンッ!と電気が弾け、地面に魔法陣が現れた。


「予想通りかァ……」

「これは……?」

「『結界』だァ。認識阻害と魔力隠蔽系統だな」

「そういうことか……」

「行くぞ。奴らのアジトはこの真下だ」

「は……? 真下……? うぉ……ッ!?」


 魔法陣があった場所が穴になった。

 そのまま重力に従って落下する。

 下を見ても暗闇しかない。

 相当深いのだろう。

 まさかこんなところで死ぬのか?!

 一緒に落ちているティルは余裕の表情だ。

 少しだが、下に光が見えてきた。

 でも、このままでは地面に落ちた瞬間にぺちゃんこだ。


「ティル……ッ! 死ぬッ! 死ぬぅぅぅッ!」

「んだよ……るっせェなァ……」

「どうしてそんなに余裕なんだぁぁぁぁぁッ!」

「はァ……『ゼロ・グラビティ』」

「もわッ!」


 地面に激突する寸前、ティルの詠唱した付与魔法によって無事に着地できた。

 この魔法に救われたのは2回目だ。

 俺も覚えようかな。便利だし。

 周りを見渡す。


「なんだここ……」

「大層なもんじゃねェか」


 青白い電灯が薄暗く照らしている廊下。

 ギリギリ見えるくらいの明るさだ。

 いかにも怪しい。

 突然辺りが明るくなった。

 何かと思えばティルが発光していた。


「おわ……ッ!?」

「あんまり近づくなァ」

「なるほど……放電してるのか……」

「あァ」


 確かに明るくて助かるのだが、バチバチうるさいし何より危ない。

 下手したら死ぬだろこれ。

 ふと意識を集中し直すと、微かな魔力を感じた。

 流石になんの障害物もなくエレナの所へたどり着けるわけないか。


「ティル、魔力反応が結構ある」

「やっぱりテメェ、特異体質だなァ……」

「は? お前も魔力ぐらい感じるだろ?」

「何言ってんだ。魔法無しで魔力なんて探知出来るわけねェだろ」

「は……?」

「んなことァ後だァ。ちょっとばかし多いぞ」


 ずっと鍛錬した魔法使いは魔力探知程度はできると思っていた。

 まさか俺、おかしいのか……?

 廊下を歩き、広間に出た。

 警戒しつつ真ん中に進むと、いつの間にか囲まれていた。

 数は50くらい。

 ティルがいるからどうにかはなるだろう。


「テメェも戦えよ。テメェがいるせいで放電できねェんだからよォ」

「わ、わかった。"掲げよ、約束の剣"」

「"掲げよ、輪廻の剣"」


 デュランダルを構え、じっと待つ。

 魔力は続々と近づいている。

 だが、姿が見えない。

 嫌な予感がする。


「セナァッ! 『ホロウ』だッ! 伏せとけよォォォッ!」

「あ、あぁッ!」


『ホロウ』は魔物の一種で、死んだ魔法使いの無念が魔力を帯びて霊体化した存在だ。

 故に魔力の塊で、実体を持たない。

 要するに、物理攻撃は意味を持たないのだ。

 と言っても、『エンハンス』などの付与魔法の影響を受けたものは攻撃できる。

 まあ、ティルがわざわざ魔法を付与した剣で大勢を相手するなんて面倒なことする訳ないが。


「失せろ雑魚どもォォォッ!」


 バチンッ!と電気が弾けたかと思うと、視界が真っ白になった。

 すぐ隣でとんでもない魔力が、それこそフラムにも劣らない量の魔力が放出される。

 全力の付与魔法『バリア』を詠唱した瞬間に雷が激突した。

 広間全体が雷に包まれる。

 雷系統の超上位領域魔法『メルトサンダー』。

 その電撃に触れたものは、一瞬で焼かれ、あるいは穿たれる。

 周りの魔力反応が一斉にして失せた。

 俺が無事だったのは、ティルが俺付近に当たってしまう電撃の電圧を低くしてくれたからだ。

 恐ろしく精密で難度の高い技術だ。

 ただえさえ高難度の電圧変更を、領域の一部だけに行うという技は、もはや神業とも言える。

 一般の魔法使いが行っても丸1日かかるような超上位魔法を、電圧コントロールで一瞬にして詠唱してみせる実力。

 これが王専属魔法使い。


「さ、流石だな……」

「いや、フラムならテメェの場所に雷は落とさなかった」

「それでもだ。流石王専属魔法使いだ」

「ヘッ! 言ってやがれ」


 先を進む。

 進むにつれて嫌な魔力を感じるようになってきた。

 ティルが魔力探知をしても、そんな雰囲気は感じられないと言っていたが、俺にはわかる。

 何か恐ろしいものがある。

 道中、何体かのホロウと遭遇したが、ティルが難なく処理して見せた。

 かなり巨大な地下空間だが、そろそろ最深部か。

 歩いてきた方向と時間的に、王都の真下に当たる。

 さらに歩くと目の前に一際眩しい部屋が見えた。


「セナ、構えろ」

「あ、あぁ……」


 ティルに言われた通りデュランダルを構える。

 ティルは右手でガラティーンを地面に刺し、左手の上に魔法陣を浮かせている。

 臨戦態勢だ。


「いつでもやれるぞ」

「あァ……行くぞッ!」


 慎重にその部屋に侵入する。

 中はどの部屋よりも広かった。

 何よりも目を引いたのが、部屋の中央にそびえ立つ巨大な円柱型の水槽だ。

 中を満たす液体は透明でなく、緑色の液体で満ちていた。

 そして、蠢く生物が……


「これは……?」

「オレにもわからねェ……」


 真っ黒な巨体。

 その体には幾千もの魔力線が走っている。

 見るからにバケモノだ。


「ティル……こいつは災害級の魔物じゃねぇか……?」

「あァ……これはやべェ……ッ!」


 ティルがそう言って左手の魔方陣を水槽に向けた。

 魔法陣から電撃が放たれる。

 単対象攻撃魔法『スパーク』。

 超強力な電撃が水槽に直撃する。

 その寸前で結界によって阻まれた。


「残念ー! この結界は魔法じゃ破壊できないわよ?」


 腰まで伸びた銀髪をふわりと浮かせ、右手に赤い宝石の付いた杖を持った少女、エレナが挑発するような様子で言った。

 目の前にエレナがいる。

 学校を破壊し、日向と響也の身体をいじり、響也を死なせた仇が目の前に……ッ!


「エレナァァァァァァッ!」

「あら、またアナタなの? そろそろ飽きたわ」

「よくも……よくも響也をォォォッ!」


 デュランダルを構え、『バーサク』と『クイック』を二重詠唱。

 突撃する。

 高速で剣を振るう。

 だが、エレナは的確に必要最小限の物理障壁を発生させ、防いでいく。


「このォォォッ!」

「ぐ……ッ! 腕を上げたじゃない……ッ!」

「お前のせいで……お前のせいで響也はァァァッ!」

「響也……? あぁ、あの坊やね。傑作だったでしょう? フラムと交戦することは想定外だったから、惜しいことしたわ」


 物理障壁にデュランダルを叩きつけて接近する。

 こいつは絶対に殺さなければならない。


「お前は……響也達を道具としか思ってないのか……ッ!」

「アハハッ! 当たり前じゃないッ!」

「エレナァァァッ!」


 いったい何のために響也は死ななければならなかったのだ。

 こいつは俺が殺らないとダメなんだ。

 響也の仇は、俺が討つんだ。


「その変にしとけェ……」


 呟いたティルの放った電撃が、バチンッ!と音を立てて俺とエレナの間で弾けた。

 ティルが珍しく暗い表情をしている。

 いったい何があったのか。

 頭の中が徐々に冷静に戻っていく。

 正直助かった。

 あのままでは前回の二の舞だ。


「あら、ティル兄さんじゃない。お元気で?」

「オレはテメェと喋りたくてここに来たんじゃねェ……」

「それは残念。では、どうして? と、聞くまでもないかしら」

「あァ……その前にひとつ。テメェに質問がある」

「何かしら? ティル兄さんの質問なら答えなければならないわね」


 エレナはニコニコと笑顔で対応している。

 一方のティルは付近に恐ろしい量の魔力を拡散させていた。

 怒ってる……?


「何人殺した……? このバケモノを作るために何人の魔法使いを殺したッ!」


 ティルが今までにない程の大声で怒鳴った。

 殺した? このバケモノを作るために?

 まさか……ッ!


「流石ティル兄さん。よくコイツが魔法使いの命で作られているとわかったわね……」

「答えろ……ッ!」


 エレナはもう一度ニコッと笑い、水槽の目の前に立って手を広げた。


「紹介するわ! この子は『ラグナロク』ッ! 教会が全勢力を掲げて作った最高傑作ッ! 世界を終焉に導く悪魔ッ! ざっと1万人以上の魔法使いを食ってるわッ!」


 水槽で眠るラグナロクの魔力線が強く光った。

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