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見習い魔法剣士の英雄譚  作者: 清水 悠燈
魔法界変革編
13/66

-そして死を知る-

 すっかり夕暮れ時の空の下、俺達は隠れ家に帰ることもせず木陰で木にもたれかかっていた。

 ずっと黙っていた悠斗が口を開いた。


「なぁ、俺らやられ損じゃねぇか?」

「気が合うね悠斗。私もそう思ってた」

「いや、うちなんてまだ活躍ゼロやで?!」


 そういえば悠斗達に剣術の師の名前を教えていなかった。

 そりゃあ助けに来るわな……

 あの王専属魔法使い相手にひとりで応戦すると思っていなかったのだろう。

 実はいうと、俺もいきなり吹き飛ばされると思わなかったが。


「その件については……ごめん。言わなかった俺が悪かった」


 一応誠意をこめて謝る。

 3人とも下手すれば命に関わる攻撃を受けたのだ。

 ティルがそんなヘマをするとは思わなかったけど。

 ちなみに、雷系統魔法の電圧変更は単純に聞こえるが難易度は鬼レベル。

 詠唱する術式をほぼ全部変更しなければならないからだ。

 そんな事を瞬発的に行えるのはティルが異常な反射神経を持っているからだ。

 もしかしたらティル自身も『覚醒』というものをしているのかもしれない。

 今ではもう朧気にしか思い出せなかったが、きっとあの時の俺ならエレナを圧倒できた。

 恐らくエレナは『覚醒』には至っていない。


「それとセナ。さっきのは何?」

「さっきのって?」

「あの速度。『クイック』と『バーサク』の二重詠唱でもあそこまでの速度はでないはずだよ? それに、あの王専属魔法使いのひとりと同等にやり合える速度なんて……」

「あれは……俺にもわからない。ただ、ティルは『覚醒』って言ってた」

「『覚醒』……ね……」


 ベルは朦朧とする意識の中で、俺とティルの戦闘を見ていたようだ。

 魔法を使えないベルは、それを補うために魔法についての勉強を人一倍している。

『バーサク』や『クイック』で加速される限界もおおよそ把握しているはずだ。

 そんなベルでも知らない『覚醒』。

 魔法なのか、それとも別の何かなのか。

 フラムが帰ったら聞こう。


「そろそろ戻ろうか。夜は視界が悪くなって迷うからな」

「あいよー」「はーい」「了解!」


 全員がゆっくりと立ち上がり隠れ家のある方向へ進む。

 みんなまだ痺れが残っているのか、ふらふらだったけれど。

 隠れ家に着く頃にはすっかり日は落ちていた。

 夜空に浮かぶ月が、今日はとても綺麗だと感じた。



 ───────────────────────



 フラムは翌朝に帰ってきた。

 どこまで薬を買いに行ったのやら。

 話によると、たまたま城下町に出ていた王に変装を看破され、城まで連れて行かれたらしい。

 王はフラムを殺すと思っていたのだが、歓迎ムードだったらしく、宴会に巻き込まれたのだとか。

 でもまあ、無事でよかった。

 フラムは隠れ家のリビングにあるソファに寝転がった。


「私はもう疲れた。何も見たくない……」

「フラム、お前が賑やかなのに苦手なのわかってるけどさ……」

「もう嫌だ……寝る」

「フラムーッ!」

「すぴー……すぴぴぴぴー……」


 フラムがここまで疲れているのは初めて見る。

 どんな性格してるんだ、王様は……

 とりあえず、風邪を引く可能性を考慮して布団をかけてやる。

 起きるまでそっとしておいてやろう。

 日向と響也の体調でも見に行ってやるか。

 階段を上り、2階へ。

 階段のすぐ左が響也の部屋で、右が日向の部屋だ。

 さて、どっちから行ったものか。


「響也、邪魔するぞ」

「あぁ、セナか。日向は大丈夫なのか?」

「自分の心配をしろよ……日向はまだ眠ってる」

「俺の身体はどうでもいいんだ……無事なら良かった……本当に」

「そうだな……」


 響也は染めた髪を弄っていた。

 その目はどこか寂しそうな雰囲気を纏っている。

 そういえば、響也は日向に片想いだっけ……

 流石はクラスのアイドルだ。

 何を考えているかよくわからない響也でさえも虜にするとは。


「セナ、俺さ……めちゃくちゃ怖かったんだ……」

「ん……?」

「白衣を着た奴らが、意味のわからない呪文みたいなものを呟きながら俺の身体を弄ってたんだ……めちゃくちゃ怖かった……」

「それは……」

「気づいてるんだろ? 俺はもう間に合わないんだ……」

「でも……フラムならきっと……!」


 わかっていた。

 恐らく、俺とフラムは気づいている。

 響也の身体に仕込まれた物が何かを。


「カウントダウンは始まってる……いいか、セナ。もうすぐだ。だから、俺をこの世界の絶景に連れて行ってくれ」

「何言ってるんだ……響也……」

「今すぐ……頼む……」

「い、嫌だ……ッ! まだ可能性はゼロじゃないだろ?!」

「もう皆無だ」


 信じたくない。

 響也の身体に爆弾が埋め込まれているなんて。

 魔力起動式高火力寄生爆弾。

 宿主の魔力が急低下した時点でカウントダウンを開始し、一定時間後に爆発するという爆弾だ。

 響也のそれは、もう条件を満たしている。

 フラムとの交戦時に発動した自己強化魔法『リミットブレイク』。

 使用者の魂を魔力に変換する禁術。

 それをフラムに解除された時にカウントダウンは始まっていたのだ。

 もう対抗手段が無いこともわかっている。


「頼む、セナ……」

「チクショウ……チクショウ……ッ! 俺は……結局救えないのか……ッ!」


 悔しかった。

 何も出来ずに親友を見殺しにしてしまう自分が。

 駆け足でフラムの部屋に飛び込み、『ループ』のスクロールを抜き取り響也の元に戻る。


「ありがとう……」

「うぅ……『ループ』……ッ!」




 目の前の景色が真っ白になり、青空が広がった。

 王都からかなり離れた場所。

 隠れ家とは真逆の郊外にある湖だ。

 水鳥達が水面に浮かぶのを見ながら、俺と響也はほとりに立ち尽くした。


「綺麗だな……」

「あぁ……本当に綺麗だ……」

「ありがとうな、セナ。昔から絶景っていうのを見てみたかったんだ。最後に報われたよ……」


 ミステリアスなイメージのある響也らしい小さな夢だなと思った。

 響也は自分の胸をグッと握る。

 その目は先程の寂しさは消えており、決意の色に染まっていた。

 もうすぐか……


「悠斗と日向に謝っといてくれ……先に行くわって……」

「あぁ……」

「ずっと待ってるから、ゆっくり来いよってな……?」

「あぁ……ッ!」


 視界は既に涙でボヤけていた。

 声も嗚咽混じりで何を言っているのか自分でもわからない。

 響也が困ったような顔をして、俺の手に何かを握らせた。


「これ、お前に託すから。お前の力になれるように、みんなのそばに居るから」

「これは……」

「俺のナイフだ。無限に増えるんだぜ。かっけーだろ?」

「そぅっ……そうだな……」

「だから泣かないでくれよ……俺はもう悔いなんて無いからさ」


 もう何も言えなかった。

 涙でグシャグシャだ。

 響也が「離れてろ」と呟いて、俺を突き飛ばした。

 最後なのだ。


「響也……ッ!」

「セナ、ありがとうな。お前と悠斗達と、みんなと親友になれて良かった……本当に良かった……ッ!」

「行かないで……ッ!」

「じゃあな」


 響也はそう言って、倒れるように湖に落ちていった。

 俺は慌てて水面を覗きに行こうとする。

 だが、次の瞬間には、ドゴーンッ!と音とともに巨大な水柱が吹き上がった。


「響也ァァァァァァァッ!!」


 響也が死んだ。

 仲間の死を経験するのは初めてだ。

 涙が滝のように流れるのを気にせずに、湖に飛び込む。

 必死に、何かを探すように。


「ブハッ! ゼェ……ゼェ……ッ!」


 何も見つけられずに呼吸が限界を迎えた。

 時間はもう戻らない。

 俺に出来ることは、帰って報告することだけ。

 本当に、もう何も……

 結局俺は何も出来ないまま、響也のナイフを持って隠れ家に帰った。

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