-落雷の剣-
魔法界最強の魔法使いの称号・王専属魔法使い。
並外れた魔力量と魔力操作が出来る者だけが与えられる最強の証。
そのひとり、ティル・フェレラル。
雷系統魔法においては右に出るものはいない。
もちろん、フラムにも使えないオリジナル魔法を多数習得している。
「わざわざオレから来てやったんだァ……少しは楽しませろよ……?」
ティルの獣じみた目がギラリと輝く。
次の瞬間、電気が弾け、俺の身体は隠れ家の外へと投げ出されていた。
「グハ……ッ!」
「「「セナァッ!」」」
身体が痺れる。
近くの木に激突した痛みが身体を駆け巡る。
勝てる相手ではない……だが……!
「"掲げよ、約束の剣"」
「フハハッ! そんな物でオレが止められるとでも思ってんのかァ? 舐めんじゃねぇぞッ!」
『魔法剣デュランダル』を召喚。
『バーサク』と『クイック』を無詠唱で発動させる。
周りの時間がスロウになり、身体がそれについてくる。
「"剣よ、吹雪け"ッ!」
付与魔法『エンハンス』でデュランダルに冷気を纏わせる。
ティルは未だに棒立ちだ。
今から動いても遅い……!
「せりゃァァァッ!」
「弱ぇ……」
「な……ッ!」
いつの間にか、鳩尾に鋭いパンチが刺さっていた。
『バーサク』で知覚できない……!?
そんな攻撃速度、ありなのかよ……
また吹き飛んで木に激突する。
意識が飛びそうになるが耐える。
対抗する方法はひとつ。
フラムの助けを待つだけだ。
「こんなモン使うには勿体ねぇが……」
「はぁ……はぁ……」
「"掲げよ、輪廻の剣"」
「な……」
俺のデュランダル召喚に似た詠唱。
まさかと思ったが、そのまさかだった。
ティルの右手に握られていたのはデュランダルと似た形状の、しかし、片手剣のサイズではない。
「『魔法剣ガラティーン』だ。テメェのデュランダルの姉妹作の剣だ」
「そんな物が……」
「ハッ! 構えろよ雑魚が!」
「く……ッ!」
もう一度『バーサク』と『クイック』を発動する。
集中だ。
さっきの攻撃は見えると油断していただけだ。
集中すれば見切れる。
それに、ティルの剣術は……わかる。
「シッ!」
「ぐぅ……ッ!」
「まだまだだなァ……1ヶ月でこの程度かァ?」
「こ……のぉ……ッ!」
「鍛え直しだァ……覚悟しろやァッ!」
両手で握られていたガラティーンが振り下ろされる。
身体を捻って寸のところで回避に成功する。
だが、ティルの攻撃はそれだけでは終わらない。
今度はガラティーンを蹴り上げ、勢いをつけての回し斬りが襲いかかる。
これは大きく後ろに飛んで回避する。
その際、胸が薄く斬られた。
ジクジクと痛み出し、血も出ているがこれくらい気にしない。
ティルがガラティーンを地面に刺し、左手で「かかってこい」と挑発してきた。
反撃だ。やられた分をやり返してやる。
「"影と成す"ッ!」
「チッ! 『ファントム』か……」
自分の存在を限りなく薄くすることによって、相手に認識させなくする阻害魔法であり、自己強化魔法『ファントム』。
『ファントム』の強みは見えなくなることだけでなく、阻害魔法の反面、自己強化魔法であるので、相手の干渉力の影響を受けず、誰にでも効果を持つ事だ。
さらに、大剣のガラティーンを武器としているティルには、不意打ちは効果的である。
「ちょこまかとうぜェんだよォッ!」
ティルが怒りに任せて身体を回転させる。
確かに回し斬りを続けていれば近づかれることはない。
だが、上は死角だ。
「シィッ!」
「ぐ……ッ! 上かァァッ!」
幸いこの隠れ家付近は森。
『クイック』で強化された脚力なら木を蹴って登ることも可能だ。
だが、流石は王専属魔法使い。
反射神経も尋常ではない。
まあ、知ってはいたが……
「まァ、わざわざ来てやった甲斐はあったみてェだなァ……」
「そりゃどうも……」
お互い剣を構えたまま睨み合う。
ふと緊張が解けたかと思うと、隠れ家の方向から気配が3つ。
恐らく悠斗達だろう。
「セナァァッ!」
悠斗が叫んだと同時に高速の光の矢がティルに放たれた。
ティルは軽くガラティーンを動かしただけで防ぐ。
だが、悠斗の攻撃はそれだけで終わりではなかった。
ガラティーンに激突した矢が眩い光になって弾けたのだ。
ティルの視界を奪う作戦か。
俺の目もやられたが……
「やぁッ!」「せぇぃッ!」
「甘ェ……ッ!」
「「きゃぁッ!」」
ベルと凜華がティルを挟み込むように攻撃した。
しかし、ティルが無詠唱で発動した『プラズマ』で吹き飛ばされてしまう。
『プラズマ』は自身の身体に電撃を纏わせる自己強化魔法で、魔力を込めると放電することも出来る強力な魔法だ。
一見簡単そうに見える魔法だが、これはティルにしか扱えないオリジナル魔法のひとつである。
相手に長距離から高電圧の電撃を放つ単対象攻撃魔法『スパーク』を基本とした応用技。
本来の長距離を捨て、短距離で全身から発動可能に組み替えた魔法がオリジナル魔法の『プラズマ』だ。
もちろん直撃すればショックで心停止し、死に至る。
ベルと凜華がそうならなかったのは、ティルが電圧を抑えたからだろう。
それでも、しばらくは痺れで動けない。
「"穿て、一条の光"ッ!」
「これもぬるいなッ!」
木の上にいた悠斗の必殺の一撃、単対象攻撃魔法『陽射・煌牙』が放たれる。
ティルはその極細の光線の中心をガラティーンで捉え、切り裂いた。
悠斗の一撃は完封されたのだ。
「バカな……ッ!」
「後衛が大声で叫ぶかよ。バカはテメェだ」
ティルの左手から電撃が放たれ、木の上の悠斗に直撃する。
真っ逆さまに落下する悠斗を助けるべく、『クイック』で駆け寄りキャッチした。
完全に気を失っているが、死んではいない。
恐らく単対象攻撃魔法『スパーク』だ。
また加減している。
「あとはセナ、テメェだけだ」
「流石、優しいなティル」
「ヘッ! ぬかしてやがれ」
そう言って、俺とティルの戦闘が再開された。
高速で剣と剣がぶつかり合う。
まだついていける速度だ。
だが、まだ手を抜かれている。
本気を出させてやる。
「うぉぉぉッ!」
「く……ッ! 小賢しいッ!」
もっと、もっと速く!
『バーサク』じゃまだ遅い。『クイック』も遅すぎる。
これではティルと渡り合えない。
もっと速くならないと……!
「な……ッ! テメェが『覚醒』だと……!」
見える。
ティルの動きが全て見える。
先が見える。
ティルが口にした『覚醒』という単語の意味は分からないが、今の俺ならティルについていける。
右手で握っているデュランダルが、俺の魔力の上昇に呼応して淡く光り出す。
まだ……まだ速くなれる!
「はぁぁぁぁッ!」
「フハハッ! 腕を上げたじゃねぇかッ!」
「ティル……じゃなくて、師匠のおかげだよッ!」
「ヘッ! 嬉しいこと言ってくれるじゃねぇか、クソ弟子ッ!」
1ヶ月、俺が剣術を学んでいたのはティルの元だ。
『剣術の師』というのはティル・フェレラルなのだ。
ティルは魔法だけでなく、その剣術も高く評価されている超人。
教えてもらうのにはとても苦労したが、ティルが根はいい人だということと、高速の剣術を知ることが出来た。
俺の成長を師に見せる時だ!
「貰ったッ!」
「そうくるかッ!」
今この瞬間がとても楽しいと思えた。
だが、もう終わりだ。
見えるのだ。勝利の一手も。
そこを突くだけだ。
「な……ッ!」
「俺の勝ちだッ!」
ガラティーンに思い切りデュランダルをぶつけ、ティルの姿勢を崩す。
そこを見計らって足をかけた。
流石のティルも、俺が子供じみた事をするとは思っていなかったようだ。
予想通りに、見事に倒れてくれた。
あとはティルの首にデュランダルを向けるだけ。
「フハ、フハハハハッ! オレが負けかッ!」
「あぁ。師匠の負けだ」
「いい勝負だったぜ。テメェの成長が見れたんだ、オレはもう帰る」
「あっさりしてるなぁ……」
「言っとけ」
ティルは立ち上がり、ローブについた砂を払った。
ティルがニカッと笑ったのだが、それが噂に聞くティルのイメージと違いすぎて吹き出してしまった。
「な、テメッ! 何がおもしれェんだッ!」
「いや、ティルもそんな顔するんだなって」
「バカにしやがって……じゃあな」
ティルは『テレポート』を発動し、光に包まれる。
ふと思い出した。
言わねばならないことがあった。
「そうだ! エレナのこと……ッ!」
言い終えたと同時にティルの姿が消えた。
だが、これでいい。
最後に口だけで「わかってる」と紡いでいたのだから。




