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見習い魔法剣士の英雄譚  作者: 清水 悠燈
魔法界変革編
12/66

-落雷の剣-

 魔法界最強の魔法使いの称号・王専属魔法使い。

 並外れた魔力量と魔力操作が出来る者だけが与えられる最強の証。

 そのひとり、ティル・フェレラル。

 雷系統魔法においては右に出るものはいない。

 もちろん、フラムにも使えないオリジナル魔法を多数習得している。


「わざわざオレから来てやったんだァ……少しは楽しませろよ……?」


 ティルの獣じみた目がギラリと輝く。

 次の瞬間、電気が弾け、俺の身体は隠れ家の外へと投げ出されていた。


「グハ……ッ!」

「「「セナァッ!」」」


 身体が痺れる。

 近くの木に激突した痛みが身体を駆け巡る。

 勝てる相手ではない……だが……!


「"掲げよ、約束の剣"」

「フハハッ! そんな物でオレが止められるとでも思ってんのかァ? 舐めんじゃねぇぞッ!」


『魔法剣デュランダル』を召喚。

『バーサク』と『クイック』を無詠唱で発動させる。

 周りの時間がスロウになり、身体がそれについてくる。


「"剣よ、吹雪け"ッ!」


 付与魔法『エンハンス』でデュランダルに冷気を纏わせる。

 ティルは未だに棒立ちだ。

 今から動いても遅い……!


「せりゃァァァッ!」

「弱ぇ……」

「な……ッ!」


 いつの間にか、鳩尾に鋭いパンチが刺さっていた。

『バーサク』で知覚できない……!?

 そんな攻撃速度、ありなのかよ……

 また吹き飛んで木に激突する。

 意識が飛びそうになるが耐える。

 対抗する方法はひとつ。

 フラムの助けを待つだけだ。


「こんなモン使うには勿体ねぇが……」

「はぁ……はぁ……」

「"掲げよ、輪廻の剣"」

「な……」


 俺のデュランダル召喚に似た詠唱。

 まさかと思ったが、そのまさかだった。

 ティルの右手に握られていたのはデュランダルと似た形状の、しかし、片手剣のサイズではない。


「『魔法剣ガラティーン』だ。テメェのデュランダルの姉妹作の剣だ」

「そんな物が……」

「ハッ! 構えろよ雑魚が!」

「く……ッ!」


 もう一度『バーサク』と『クイック』を発動する。

 集中だ。

 さっきの攻撃は見えると油断していただけだ。

 集中すれば見切れる。

 それに、ティルの剣術は……わかる。


「シッ!」

「ぐぅ……ッ!」

「まだまだだなァ……1ヶ月でこの程度かァ?」

「こ……のぉ……ッ!」

「鍛え直しだァ……覚悟しろやァッ!」


 両手で握られていたガラティーンが振り下ろされる。

 身体を捻って寸のところで回避に成功する。

 だが、ティルの攻撃はそれだけでは終わらない。

 今度はガラティーンを蹴り上げ、勢いをつけての回し斬りが襲いかかる。

 これは大きく後ろに飛んで回避する。

 その際、胸が薄く斬られた。

 ジクジクと痛み出し、血も出ているがこれくらい気にしない。

 ティルがガラティーンを地面に刺し、左手で「かかってこい」と挑発してきた。

 反撃だ。やられた分をやり返してやる。


「"影と成す"ッ!」

「チッ! 『ファントム』か……」


 自分の存在を限りなく薄くすることによって、相手に認識させなくする阻害魔法であり、自己強化魔法『ファントム』。

『ファントム』の強みは見えなくなることだけでなく、阻害魔法の反面、自己強化魔法であるので、相手の干渉力の影響を受けず、誰にでも効果を持つ事だ。

 さらに、大剣のガラティーンを武器としているティルには、不意打ちは効果的である。


「ちょこまかとうぜェんだよォッ!」


 ティルが怒りに任せて身体を回転させる。

 確かに回し斬りを続けていれば近づかれることはない。

 だが、上は死角だ。


「シィッ!」

「ぐ……ッ! 上かァァッ!」


 幸いこの隠れ家付近は森。

『クイック』で強化された脚力なら木を蹴って登ることも可能だ。

 だが、流石は王専属魔法使い。

 反射神経も尋常ではない。

 まあ、知ってはいたが……


「まァ、わざわざ来てやった甲斐はあったみてェだなァ……」

「そりゃどうも……」


 お互い剣を構えたまま睨み合う。

 ふと緊張が解けたかと思うと、隠れ家の方向から気配が3つ。

 恐らく悠斗達だろう。


「セナァァッ!」


 悠斗が叫んだと同時に高速の光の矢がティルに放たれた。

 ティルは軽くガラティーンを動かしただけで防ぐ。

 だが、悠斗の攻撃はそれだけで終わりではなかった。

 ガラティーンに激突した矢が眩い光になって弾けたのだ。

 ティルの視界を奪う作戦か。

 俺の目もやられたが……


「やぁッ!」「せぇぃッ!」

「甘ェ……ッ!」

「「きゃぁッ!」」


 ベルと凜華がティルを挟み込むように攻撃した。

 しかし、ティルが無詠唱で発動した『プラズマ』で吹き飛ばされてしまう。

『プラズマ』は自身の身体に電撃を纏わせる自己強化魔法で、魔力を込めると放電することも出来る強力な魔法だ。

 一見簡単そうに見える魔法だが、これはティルにしか扱えないオリジナル魔法のひとつである。

 相手に長距離から高電圧の電撃を放つ単対象攻撃魔法『スパーク』を基本とした応用技。

 本来の長距離を捨て、短距離で全身から発動可能に組み替えた魔法がオリジナル魔法の『プラズマ』だ。

 もちろん直撃すればショックで心停止し、死に至る。

 ベルと凜華がそうならなかったのは、ティルが電圧を抑えたからだろう。

 それでも、しばらくは痺れで動けない。


「"穿て、一条の光"ッ!」

「これもぬるいなッ!」


 木の上にいた悠斗の必殺の一撃、単対象攻撃魔法『陽射・煌牙』が放たれる。

 ティルはその極細の光線の中心をガラティーンで捉え、切り裂いた。

 悠斗の一撃は完封されたのだ。


「バカな……ッ!」

「後衛が大声で叫ぶかよ。バカはテメェだ」


 ティルの左手から電撃が放たれ、木の上の悠斗に直撃する。

 真っ逆さまに落下する悠斗を助けるべく、『クイック』で駆け寄りキャッチした。

 完全に気を失っているが、死んではいない。

 恐らく単対象攻撃魔法『スパーク』だ。

 また加減している。


「あとはセナ、テメェだけだ」

「流石、優しいなティル」

「ヘッ! ぬかしてやがれ」


 そう言って、俺とティルの戦闘が再開された。

 高速で剣と剣がぶつかり合う。

 まだついていける速度だ。

 だが、まだ手を抜かれている。

 本気を出させてやる。


「うぉぉぉッ!」

「く……ッ! 小賢しいッ!」


 もっと、もっと速く!

『バーサク』じゃまだ遅い。『クイック』も遅すぎる。

 これではティルと渡り合えない。

 もっと速くならないと……!


「な……ッ! テメェが『覚醒』だと……!」


 見える。

 ティルの動きが全て見える。

 先が見える。

 ティルが口にした『覚醒』という単語の意味は分からないが、今の俺ならティルについていける。

 右手で握っているデュランダルが、俺の魔力の上昇に呼応して淡く光り出す。

 まだ……まだ速くなれる!


「はぁぁぁぁッ!」

「フハハッ! 腕を上げたじゃねぇかッ!」

「ティル……じゃなくて、師匠のおかげだよッ!」

「ヘッ! 嬉しいこと言ってくれるじゃねぇか、クソ弟子ッ!」


 1ヶ月、俺が剣術を学んでいたのはティルの元だ。

『剣術の師』というのはティル・フェレラルなのだ。

 ティルは魔法だけでなく、その剣術も高く評価されている超人。

 教えてもらうのにはとても苦労したが、ティルが根はいい人だということと、高速の剣術を知ることが出来た。

 俺の成長を師に見せる時だ!


「貰ったッ!」

「そうくるかッ!」


 今この瞬間がとても楽しいと思えた。

 だが、もう終わりだ。

 見えるのだ。勝利の一手も。

 そこを突くだけだ。


「な……ッ!」

「俺の勝ちだッ!」


 ガラティーンに思い切りデュランダルをぶつけ、ティルの姿勢を崩す。

 そこを見計らって足をかけた。

 流石のティルも、俺が子供じみた事をするとは思っていなかったようだ。

 予想通りに、見事に倒れてくれた。

 あとはティルの首にデュランダルを向けるだけ。


「フハ、フハハハハッ! オレが負けかッ!」

「あぁ。師匠の負けだ」

「いい勝負だったぜ。テメェの成長が見れたんだ、オレはもう帰る」

「あっさりしてるなぁ……」

「言っとけ」


 ティルは立ち上がり、ローブについた砂を払った。

 ティルがニカッと笑ったのだが、それが噂に聞くティルのイメージと違いすぎて吹き出してしまった。


「な、テメッ! 何がおもしれェんだッ!」

「いや、ティルもそんな顔するんだなって」

「バカにしやがって……じゃあな」


 ティルは『テレポート』を発動し、光に包まれる。

 ふと思い出した。

 言わねばならないことがあった。


「そうだ! エレナのこと……ッ!」


 言い終えたと同時にティルの姿が消えた。

 だが、これでいい。

 最後に口だけで「わかってる」と紡いでいたのだから。

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