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見習い魔法剣士の英雄譚  作者: 清水 悠燈
魔法界変革編
11/66

-ひとときの休息-

 空気が一気に重々しくなる。

 きっとベルが今までに無いくらい真剣な顔をしているからだろう。

 そのプレッシャーに、フラムも少し驚いている。

 ベルがゆっくりと言葉を紡ぎ出す。


「私には……秘密があります……」


 ゴクリと喉を鳴らす。

 セナ自身、あまり長話を聞くのは好きではない。

 だが、相手がベルなら話は別だ。

 聞くしかないでしょ……!


「私は……魔法使いじゃない……の……」


 フラム以外の全員が「えっ?」と口にした。もちろん俺も。

 だが、それは仕方の無い反応だ。

 なぜなら、ベルにはしっかりと魔力を感じ取れる。

 悠斗や凜華のような、人間から魔法使いになった者は例外無く魔力量が普通の魔法使いに比べれば少ない。

 それでも悠斗が強力な魔法を行使できるのは魔法具のおかげだが。

 しかし、ベルは人間とは比べ物にならない魔力量を感じる。

 それも、常人の遥か上を行く感覚だ。

 それなのに、魔法使いじゃない?

 どういうことだ……?


「あっ! もちろん人間でもないよ!」


 ベルはオロオロとした様子で言う。かわいい。

 だが、魔法使いでも人間でもないとなると、いったい何が……?


「ッ!」

「セナは……分かったみたいだね……」

「ベル、お前は……亜人の類なのか……?」


 俺の発言に、ベルが寂しそうに微笑む。

 正解らしい。

 その反応に、みんなが目を見開く。


「そうだよ……私、ヴァンパイアの末裔なの……」


 そう言ってニコッと笑うベル。

 口には鋭く尖った犬歯があった。

 八重歯というには少し鋭利すぎる気がする。

 なるほど。絶滅したとされているヴァンパイアの末裔か。


「今まで黙っていてごめん……なさい……!」


 勢いよく頭を下げるベル。

 みんな唖然としているが、怒っている者はもちろん、誰一人いない。


「そんなこと気にしないでいいだろ。俺達は人種がどうのこうの以前に仲間なんだから」


 思っていたことをそのまま口にする。

 少しかっこつけてしまった気もするが……

 ベルが顔を上げる。

 その目は驚きと感動が入り交じっていた。


「本当に……? 私は……血を吸うバケモノなんだよ……?」

「何言うてるん! そんなんで嫌うほどうちらは酷くないで?!」

「そうだよ! 俺だってただの人間だぜ? 魔法使いからしたら俺だって亜人でバケモノだ」

「みんな……」


 凜華と悠斗がポンッとベルの肩を叩く。

 ベルは泣きながら「ありがとう……ありがとう……」と呟いていた。


「とまぁ、こんなものか。言っただろう、ベル。私の弟子とメイドはバカしかいないんだ。お前も含めてな」

「はい……フラム様……ありがとうございます……」


 フラムは微笑みながら手を振った。

 なんだかんだで優しいのだ。

 その日はそれでお開きとなった。

 ベルが泣き疲れ、そのまま寝てしまったからだ。

 みんな、それぞれ秘密がある。

 それを黙っているのは人の勝手だし、嫌なら仕方ない。

 けれど、それを伝えられる勇気は尊い。

 俺は最近よく思うことがある。

 フラムはきっと俺に隠し事をしている。

 何か重大なことだ。

 恐らく、俺が感づくまで教える気はないだろう。

 知りたい……けれど、想像がつかない……


「難しいな……」




 ───────────────────────




「そういえば、海行ってない。夏に学校潰されたから海行ってない……海水浴したいッ!」


 翌日、もうお昼になるというのに、隠れ家でダラダラと過ごしていた悠斗が叫んだ。

 同じく俺もダラダラとしている。

 魔法の酷使が身体を疲労の境地に立たせているのだ。

 もう立ちたくない。

 本当は布団からも出たくなかった。


「しばらく何もなさそうだし、行ってきたらどうかなー?」

「え、ベルちゃん。一緒する?」

「いえ、もちろんおひとりでどうぞ」

「ひっでぇ……」


 ほんわかした笑顔で酷いことを言うベル。

 今日は珍しくベルと凜華のメイドーズは私服だ。

 フラムが「メイドの事はしばらく忘れて楽にしているといい」と言ったのが今朝の事。

 しばらく戦闘服とメイド服しか着ていなかったらしく、とても喜んでいた。

 ベルはレースの付いた白いワンピースに麦わら帽子。

 凜華はクロップドTシャツと呼ばれるおへその出た少し大人なTシャツに、ショートジーンズだ。

 2人ともすっかり夏スタイル。

 だが、残念な事に夏はもう終わる……


「悠斗、そんなに暇だったら響也と日向でも見てきてやればどうだ? 響也は元気そうだぞ」

「はっ! 響也を海に誘おう……ッ!」

「馬鹿かお前は……」


 一応けが人なのだから、もう少し優しくしてやればいいのに……

 けれど、悠斗にそんな慈悲は無いらしい。

 時々「よくも背中に刺しやがって……」と意味不明なことを呟いているが。

 そんなことよりも、響也も日向も助けられてよかった。

 響也はお札さえ貼られていれば無害なのだが、問題は日向だ。

 未だに昏睡状態。

 今はフラムが治療に専念している。

 フラムがいるんだ。

 きっと良い方向には進むだろう。


「悠斗ー? うち喉乾いたから何か飲み物取ってきてくれへーん?」

「なんでだよ?! メイド辞めた途端、人使い荒くねぇか?!」

「ええからええから。はよ取ってきてやー」

「腑に落ちねぇ!!」


 凜華は最近、悠斗をこき使う。

 まあ、いいのだが。

 仲がいい証拠だと考えよう。

 正直、凜華ってメイドに向いてない。


「ちょっ! セナ?! 今うちがメイドに向いてないって思ったやろ?!」

「ギクッ! そ、そんなわけないだろ!」

「今ギクッ! 言うたやん?! 言い訳が確信犯やん!!」


 凜華が涙目でテーブルをバンバンと叩き出す。

 大阪に住んでいる人間は何故だかツッコミというのが上手らしい。

 悠斗がそう言っていたのだが、凜華を見ればなるほど納得である。

 ふと、気になったことを思い出した。


「そういえば凜華」

「な、なんよ!」

「お前、俺達が戦ってる間、ここにいたよな?」

「そ、そうやで?」

「凜華、お前戦ってないだろ?」

「ギクゥ!」


 戦いが始まる前、凜華はこの隠れ家のもしものためにここに残った。

 でもまあ、襲撃されることは無かっただろう。

 それなのに帰った時寝ていたと……


「「「じーー」」」

「ひぅっ! は、働くから許してー!」


 俺と悠斗、ベルの3人からジト目で見つめられた凜華は焦ってキッチンへと消えていった。

 変な性格のやつばかりだな……

 俺も人のことを言えないが。

 今日はこのまま一日中ダラダラと過ごしてしまいそうだ。

 人間界ではもうすぐ9月になるだろう。

 時間が流れるのは早いものだ。

 ぼーっとそんなことを考えていると、隠れ家の2階からフラムが降りてきた。


「おいお前ら。薬が無いから私は王都に薬を買いに行く。留守は任せたぞ」

「「はーい!」」

「「了解です!」」

「なんなんだその団結力は……まあ、いい。では、行ってくる」

「「いってらっしゃーい!」」

「「いってらっしゃいませ」」


 フラムはそのまま『テレポート』で王都へ行った。

 確かに謎の団結力だった。

 俺と悠斗が喜んでいるのには理由がある。


「よし、セナ! やるぞ!」

「あぁ! もちろんだ!」


 フラムがいないのなら、禁止されている修行が出来る!

 隠れ家を飛び出し、少し離れた場所へ向かう。

 だが……


「おい馬鹿ども」

「「ひぃっ!?」」

「お前らならそうすると思ってな。そんなに修行がしたいか?」

「「したいです!」」

「なら私が相手をしてやろう。『ファフニール……」

「「ぎゃぁぁぁッ! ごめんなさい!!」」

「ならとっとと帰れ」

「「はい!!」」


 まさか待ち伏せされているとは。

 まさか『ファフニール・ブレス』を詠唱し出すとは。

 殺されるところだった。

 死ぬかと思った。

 俺と悠斗はダッシュで隠れ家に戻り、ガクガクと震える。

 ドタバタとうるさい俺達に、ベルが近寄ってきた。


「な、何してるの……」

「フラムに殺されかけた……」「師匠に殺されかけた……」

「禁止されてることしようとするからだよ……もうトラウマじゃない……」

「「ガクガクガクガク」」

「これはもうダメかな……」


 ベルは呆れたように凜華の仕事を手伝いに行った。

 凜華は今もキッチンをピカピカにしている途中だ。

 なんだかベルだけとても大人な気がするな……


「よし、立ち直った」

「はやっ!?」


 俺も大人にならないと。

 いつまでも誰かに頼っているようでは、見習いのままじゃないか。

 そう決意した立ち上がった。

 次の瞬間、ズガーンッ!と大きな音を立てて隠れ家に雷が落ちた。

 見上げると、隠れ家の天井に大きな穴が空いていた。


「「ひゃぁぁぁッ!?」」

「な、なんだってんだこれ!」

「ただの雷じゃない……魔力の塊だ……ッ!」


 もちろん自然に落ちる雷に魔力など無い。

 ということは、何者かが魔法を使ったのだ。

 一瞬フラムかと思ったが、フラムはこの隠れ家を気にいっているから壊しはしない。

 だとしたら、敵か。


「はァ……」

「いつのまに……ッ!」


 声が聞こえたのは雷が落ちた真下。

 なるほど。雷が落ちたのではなく、雷を纏った敵が落ちてきたのか。

 そして、その見た目に見覚えがあった。

 ファーの付いた純白のローブに獣のような獰猛な笑みを浮かべる男。

 バチバチと未だに電気が身体の周りで弾けている。

 こいつは……ッ!


「王専属魔法使い……ティル・フェレラル……ッ!」

「久しぶりじゃねぇか……セナ・レイズ……ッ!」


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