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見習い魔法剣士の英雄譚  作者: 清水 悠燈
魔法界変革編
1/66

-プロローグ-

 

 一般の人々が住む『人間界』の他に、別の世界があることを知っているだろうか?

『魔法界』。

 魔法を扱う魔法使いたちが、生まれ育つ世界。

 魔法使いは自らの身体に巡る『魔力』を魔法に変換する。

 存在するのは魔法使いだけではない。

 魔法使いと同様に、身体中に魔力を巡らせ蓄える、人間界でいうクマやイノシシのような姿をした『魔物』。

 魔物達は自らの身を守るため、獲物を狩るために低レベルながら魔法を駆使して戦う本能がある。


 そして、今から数十年前。

 魔法界を揺るがす発見がされた。

 それは、『人間界への転移』を可能とする魔法の発見。

 だが、発動に必要な魔力が多すぎるため、扱える魔法使いは魔法界に2人しかいない。

 その2人は、魔法界を支配する『王』の専属魔法使いとして雇われ、王の指示があった時のみ人間界への転移が行われる仕組みができた。


 時は流れ、ひとりの子供が『魔法界に』転移してきた。

 魔法を使えないはずの人間が転移魔法をつかったことに王国は揺らぐ。

 王の支配する王国の魔法使い達が子供を調べたが、微量な魔力しか感じられず、この子供はなんらかの形で魔法界にやってきたということになった。

 そして子供は王専属魔法使いのひとりに預けられ、育てられることになる。


 その子供の名前は『セナ』と名付けられた。

 これはセナが作り上げた英雄譚。




 ───────────────────────




 王国城の地下。ここはそんな場所にある魔法練習場と呼ばれる場所だ。


「おいセナ、そんなものか」


 地面に這いつくばり、ぜぇぜぇと息を荒らげている俺を見下しているのは俺の義理の母であり、師であり、王専属魔法使いのひとりにして最強の魔法使いと謳われるフラム・レイズ。


「だって師匠……本気で……かかって……くるからっ!」

「私はそんなひ弱に育てた覚えはないぞ馬鹿者」

「自分の……実力くらい……わかってるくせにっ……本気だすな……よ……」


 未だに息を荒らげている俺を冷めた目付きで見ながら、フラムは自らの、炎のように赤い髪をかきあげる。

 フラムは大人の妖艶な雰囲気と豊満な胸部、高身長でスタイルの良いまさに大人の女性というイメージだ。

 俺はこの世界では珍しい黒髪を少し長く伸ばしているが身長も顔も何もかも、髪以外は普通の17歳。

『魔法界に生まれた』ということ以外、小さい頃の記憶がない。

 そんな俺を見かねて育ててくれたのがフラムというわけだ。


「はやく木剣を拾え。教えて欲しいと言ったのはお前だろう」

「わかってるよ、それくらい!」


 なんとか息を整え、先ほど吹き飛んでいった木剣を拾い、右手で強く握る。

 少し遠くにいるフラムは、右手に背丈ほどの『杖』を持っていた。

 杖は魔法使いには必須の武器。

 魔法使用時の魔力運搬の効率化、消費魔力の軽減を行う性能があるからだ。

 杖には専門の職人がいて、職人によって様々な工夫がなされている。

 フラムの持つ、固有名を『ケルベロス』という杖は少し特殊な性能を持つ。

 まず、通常の杖も持つ『魔法使用時の魔力運搬の効率化』と『消費魔力の軽減』。

 そして、ケルベロスだけが持つ性能は『魔法の多段化』だ。

 1度の魔法詠唱でその魔法の効果を増やす。簡単に言うと、一口で何度も美味しい、だ。


「"炎を穿て、氷の礫よ"」

「また省略詠唱……! 少しは手加減しろって!」


 フラムが杖を振った瞬間、俺の周辺に魔法陣がいくつも浮かび上がった。

 そして、たった2言の詠唱で行われたとは思えない威力の魔法が起動する。

 慣れだけで、魔法を発動するのに必要な詠唱を無理矢理省略する『省略詠唱』で発動されたのは、標的を対象に貫通力のある氷の粒を高速で発射する、単対象攻撃魔法『フリーズ・バレッジ』。

 それが大量に飛んでくる。

 俺も負けじと魔法を展開した。

 幾度となく練習し、詠唱なしのイメージだけで発動できる唯一の魔法。

 俺の両目に魔法陣が浮かび上がる。

 周りの時間が止まったように感じるほど意識を高速化させる自己強化魔法『バーサク』。

 スロウになった世界で飛来する氷の粒を見極め、右手の木剣で叩き落としていく。

 この魔法の欠点は、高速化するのは意識だけで、身体は高速化する意識についてこれないということだ。

 この弱点を克服するには『クイック』という魔法も発動させないといけないのだが、魔法の多重詠唱はまだ俺にはできない。

 だから、出来るだけ効率よく腕を振るわなければならないのだが、俺にも魔力の限界がある。


「んぁ、やばっ!」

「はぁ……」


 100個ほど氷の粒を叩き落としたところで魔力が底をついた。

 高速化していた意識は一瞬にして元の速度に戻り、その直後に氷の粒を払いきれなくなって直撃する。

 フラムがすぐに魔法を止めてくれたおかげで少しのダメージで済んだのが幸い。

 見回すと、付近は氷漬けになっていた。

『フリーズ・バレッジ』はぶつかった対象を凍らせるという恐ろしい効果もあるのだ。

 木剣はその影響で既に原型を留めていなかった。


「今日はこの辺にしておくか。疲れただろう、飯の前に風呂に入ってくるといい」

「あ、あぁ。そうさせてもらうよ」


 フラムはそう言うと、杖を掲げ、詠唱なしで空間移動魔法『テレポート』を発動させ、俺ごと、とあるマンションの8階にあるフラムの住む部屋へ移動した。




 ───────────────────────




 温かなお風呂タイムを終え、パジャマに着替えて頭を拭きながらリビングに顔を出す。

 すると、真剣な顔で椅子に座るフラムがいた。


「そんな真面目な顔してどうしたんだよ」

「ん、あぁ、セナか。すまんな、色々あったんだ」

「その色々について、教えてくれないんだろ?」

「そうだな。ひとつだけ、お前に教えなければならないことはある」

「それは?」

「…………私は、お前を殺さないとならない」

「はぁ?」


 今、フラムはなんと言っただろうか。

 俺を殺さなければならない?

 何故だ。俺は何もしていない。

 フラムの顔を見ると、その頬に涙が伝っていた。


「すまない……王の……国の命令なんだ……」

「俺が……なにかしたのか……?」

「あぁ……お前は、ここにいてはならない存在なんだ」

「は、はぁ?」


 フラムは訳の分からないことを言って杖を取り出した。

 本当に訳がわからない。


「"閉ざせ、隔絶の門"」


 省略された魔法が発動した。

 世界が真っ暗になる。

 目の前に見えるのはフラムだけ。

 空間を隔絶し、外部からの影響を全て遮断する領域魔法『ゲート』。

 だが、なぜこの魔法を選んだのか。

 この魔法に殺傷力は皆無なのだ。

 そして、いつの間に服を着せられたんだ。


「これでやっと、真実を話せる」

「さっきから何を……」

「私たちの会話は全て、ティルにより盗聴されていたんだ。私が口を滑らせた瞬間、王に報告して殺すためにな」


 ティルとはもうひとりの王専属魔法使いのことだ。

 噂によると、ティルは自分より少し保有魔力の多いフラムに嫉妬しているらしい。


「話してやる。お前の記憶から抜けている、本当の過去を」

「俺の……過去……?」

「あぁ。セナ、お前は人間界生まれだ」

「ば、馬鹿言え! 俺は魔法界で生まれたって記憶だけは……! だけ……?」


 だけ…………そうか……そういうことか……

 少し前に噂で聞いた話がある。

 魔法界に人間界の子供が転移してきて、城に匿われていると。

『魔法界に生まれた』という記憶だけがあるのは……


「おおよそ予想出来たみたいだな。お前は記憶を消され、無理矢理『魔法界に生まれた』という記憶を埋め込まれたんだ」

「そんなことが……」

「ありえるんだ。お前はそれほど特異な存在だ。私はお前を殺したことにして、逃がすつもりなんだ」


 たしかにこの世界にいても殺されるだけだ。

 逃げるのは悪くない作戦。

 だけど、魔法使いが人間界へ行って問題にならないのだろうか。


「いいか、逃げろ。魔法のことは何も話すな」

「…………わかった」

「それとこれを。お前の魔力に呼応するように調節してある。何かあった時は迷わず使え」

「これは……」


 手渡されたのは鞘に入った剣だった。

 柄には『魔力線』と呼ばれる魔力をより効率よく通す為の特殊繊維が刻んである。

 自己強化魔法を主として戦う魔法使いの武器『魔法剣』か。


「『魔法剣デュランダル』。お前の得意な自己強化魔法と領域魔法の補助もしてくれるスグレモノだ。普段は魔力としてお前の身体の中を巡っているが、魔法式で呼び出せるようになっている。"掲げよ、約束の剣"。覚えておけよ」

「あぁ。ありがとう」


 受け取った瞬間、デュランダルが魔力になり拡散すると同時にゲートの隔離世界も解除された。

 目の前には先程までのリビングと、空間移動魔法の詠唱を行っているフラムの姿。

 足元には空色の魔法陣があった。


「"開け、異界の扉。翔べ、未来へ"」

「待ちやがれこのクソアマァァァッ!」

「あれは、ティルさん……!」

「こんなときに……」


 人間界への転移はとてつもなく集中力が必要だ。

 だから、今この場にいる男、ティル・フェレラルが妨害のために行動した場合は最悪の邪魔になる。


「てめぇ、王に逆らう気か! ざっけんじゃねぇぞッ!」

「ちっ……だが、もう魔法式は唱え終わった。後は転移するだけだ」

「クソがッ! ならこれで……ッ! "燃えよ、記憶の色紙"ッ!」

「貴様ッ!」


 ティルが俺目掛けて魔法を詠唱した。

 この魔法式は、対象の記憶を忘却させる精神作用魔法『メモリー・リリース』。

 それが俺に使われたということは……


「セナッ!? 正気を保て!」

「無理に決まってんだろぉがよぉッ! お前の弟子でも俺からしたら雑魚なんだからなぁッ!」

「もう転移が……」

「甘いんだよバァァァカッ!」


 俺はその場に力なく倒れ込む。

 頭が痛い。無理矢理何かを奪われたような感覚。

 目の前にいる2人は……


 いったい、誰なんだろうか…………

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