女の子同士でも
「ねえハルちゃん」
栗毛色の髪を頭の横で一つに結んだ亜智という少女は、自らの横に寝転ぶ少女の頭をポンポンとなでるように叩きながら声をかけた。
よれよれのシャツ一枚だけを纏っただけの、ハルちゃんと呼ばれた少女。名前はハルカといい、イギリス人と日本人のハーフである。
彼女はめんどくさいとも気怠げともとれるようにたった一言、答えた。
「ん~?」
ハルカのどちらともとれる返答を、返事をした。という己の都合の良いように解釈し、亜智は自分もハルカと正面から向き合うようにカーペットの上に横になった。
狭い六畳一間の部屋である。成人女性二人が横になったことでより窮屈に感じられた。
けれどそんなことを気にせずに亜智はハルカへと話しかけた。
「私、子供欲しい」
「ぶっ!」
亜智の唐突なカミングアウトにハルカは顔の大きさの半分ほどまで膨らませていたガムを思わず割ってしまう。
オレンジの香りが二人の間に漂った。
「いやいやいやいや、無理でしょ」
頬にへばりついたガムを手につかないように器用に指ではがしながら、ハルカは亜智からそっと視線を外す。
「なんでよ~」
亜智はハルカのきれいになった顔を両手で挟み込むように掴むと、無理やりにでもその目を自分と合わせようとハルカの額と自らの額をくっつける。
否応にでも、二人の視線は重なる。
「あたしら女同士じゃん」
至極もっともな理由をハルカは述べる。
「私たちならきっとできるよ~」
「いやいや無理言うなって」
「やるだけやろうよ~。だってさ、やればできるっていうじゃん」
教育的な文句を明らかに教育的でない使い方をして、亜智はハルカとの距離をゆっくりと詰めていく。
「……まあ、それくらいなら」
折れるハルカ。
「いえーい!」
亜智の勝利である。