おともだち
しづき。
女の子みたいな名前だけど、ちゃんとした男の子。
やわらかそーな髪。やや栗毛カナ?
目はクリクリと大きくて、はっきりと黒い。
おとなしい子。
照れ屋サン!
けいじ。
タンクトップの似合うバスケ野郎!
あだ名は「花のけいじ」。
話のおもしろいヤツ。
ムカツクほど綺麗な黒い、長い髪。
その髪、少しあたしに分けてほしい!
あたしらは、幼なじみ。
仲良し3人組っちゃあ、なんだけど。
近所の公園でいつも遊んでいたメンツで、小学校から一緒。
みんな近所に住んでいたし、なにかと集まって遊んでた。
中1になっても、なんとなく、いつもツルんでいた。
それがあたしらの、スタンダードだったんだよね。
でもさ。
いいかげん、中2にもなると、やっぱり女は女で固まるワケ。
色んなコトに目覚めてきたし、追っかけるタレントだって・・・。
だから、そぉゆー仲良し3人組も、いつの間にか無くなっちゃったんだ。
クラスはみんな一緒なんだけどね。
そんな日常の学校で。
「あーあ。なんか、イイ感じの彼氏、デキナイかなぁ?」
あたしは、女子更衣室だから言える独り言をゆってみた。
「・・・ウチのクラスで適トーにみつくろえばぁ?」
「・・・うーーーん。おらん!」
「まきあは、ジャニーズしか目に入ってナイんじゃない?」
「うっは! ・・・ある意味、当たってるといえよう」
「どんだけハードル高ぇんだよ、まきあー!」
キャッ、とかいってハシャいでいると。
あたしのツレが、急に真顔になった。
「ねぇ・・・まきあ」
「ん? なに?」
「けいじ・・・ってさ、好きなヤツいんの?」
「なんで?」
「幼なじみなら、なんか知ってるかと思ってさ・・・」
「あんた、まさか・・・?」
「うん・・・」
ツレが、なにげにいきなしカミングアウトぉ。
体育着に着替える手が止まるツレ。と、あたし。
よかったなぁ、けいじ! 幸せモノめ!
「まきあ・・・チカラになってよぉ・・・」
んー。真剣なんだなぁ。かわいいやつ。
「よしよし、ういやつじゃ! このまきあ様にまーかせなサーイ! 持ってる情報、YOUの為にプレゼンツーッ!」
「まきあ、アリガトーっ。マジ一生服従的~ッ!」
「・・・別に服従せんでもイイから、マックで100えん的なモノでもおごれ♪」
ういっす! と元気に答えるツレ。
「授業はじまるよ~?」
もう校庭に出る時間! ソッコーで着替えて、ツレとダッシュで校庭に向かった。
と、いうワケで。マック。放課後。
やっぱりプチパンケーキにダイエットコーラだぜ。これでなんと200えん♪
周りを気にして、あえて奥まった席に座るのは、暗黙の了解。
・・・でさー。
自信、あんまりないんだぁ。
大丈夫だよ、キミは結構イケテル方だから!
・・・でさぁ、でさぁ!
アイツのどこにホれたん?
えぇ? バスケやってて、超カッコイーじゃん。結構人気だよぉ?
ウッソ! マジ? まぁ悪くはナイけど、黒いロン毛がツボかぁ?
髪もキてるケド、ちょっとホソ目がカッコイイ。
性格もサッパリしてて、悪くナイよねー。
・・・でさ、でさ、でさぁ!
アイツんち、結構金持ちで。家とかイイ感じっつーか、ゴージャス?
えぇえ! 行ったコトあんの? ズリぃ!!
格ゲー対戦して、ボッコボコにしてやったら、マジ悔しがってんのー!
マジで?! あたしも格ゲー特訓スルっきゃないかも? まきあ、格ゲーの弟子にしてッツ!!
・・・んで。
どうやってキッカケつくろうか?
「ねえ、まきあ。そもそもアイツの好みって、どんなん・・・?」
「好み・・・?」
「ほらぁ、優しいオンナとか、強いオンナとか、好みのタイプさー?」
好みのタイプ・・・。
うわ・・・・・・知らねえ!!!
数日後。
あたしは考えた。
直球勝負はまだ早い。
彼女の想いを伝えるのは、簡単だけど。
アセって、もしツレが撃沈した場合、目もあてらんないわよねー。
そ・こ・で。
「しづきーぃ?」
「・・・?」
自分を指差して、きょとんとする。
「ちよーっと、いいかなーっ?」
頭をナデナデしてみる。子供扱い的に。
「なっ・・・なに??」
やや、うるむ瞳。なんかおびえちょる。
コイツ、前世はゼッタイ草食系の動物ダワ。つーかウサギたん。
分からんもんで、こういうおびえるあたりが、結構女子の間でも人気だったりスルんだ。
いわゆる、ちょっとダケいぢめたくなるタイプ?
ノーマルなあたしでも、ちょっとソソられるわ。
ある意味、逸材かもね。
キュッ! キュッ! という運動靴の音。
だんだんだん! ドリブル。
「花のけいじ」は、アノ漫画のようにドリブルで敵の軍勢を割りながら、一人、駆けてゆく。
んー、ヤルねぇ!
この体育の時間を待っていたのサ!
けいじのヤツは試合してるから、アイツには聞こえナイ。
いつもツルんでる、同じ男のしづきなら何か知ってるハズだ。
観戦しているみんなは、試合に夢中だし、今のうちにそぉっと聞きだすコンタンです。
あたしって、サ・ク・シ。
「けいじってさーあ、どーゆーのが好みなのかしらん?」
「け・・・けいじ・・・?」
ワーッ!
ランニングシュートが決まった。
けいじだ。
ツレは、ぽーっと見とれている。
「ほらぁ、優しいオンナとか、強いオンナとかさ?」
「・・・ん。好み・・・」
人差し指の先を軽くかんで、考えてる様子。
「・・・でも、なんで・・・?」
「ともだちだろぉ? いいから、とりあえずおしえてよ?」
「・・・・・」
うるおった大きい目で、こっち見てるよ。
おいおい。いぢめないから、おせーてよ。
「けいじはぁ・・・」
うんうん。
「・・・けいじはぁ・・・」
うんうん!
「・・・好きなコ、いるよ」
えぇ?! マジっすか!
ちょっと驚き。
ワーッ!
また、けいじのランニングシュート。
「・・・知りたい?」
「そりゃあ、さっきからきいてんぢゃんさ?」
「・・・・・」
だから、こっち見てないで、はよゆえよ。
「・・・んねー、頼むよぉ。大事な友達が、知りたがってんだよぉ」
そう聞くとしづきは、ちょっと目線をはずして。
ブルッ・・・。
栗色めの髪をゆらして、ぎゅっと目をつむって、震えた。
「好きなコは・・・」
やっと、なんとか言おうとするしづき。
だ・・・誰なんだ?! 頑張って、言え!
「よぉ。まきあ!」
「あ・・・っ?」
「・・・どうしたんだ、しづきのヤツ? 赤くなって・・・」
「あっ、あんたこそ、試合は?!」
「今、終わったぜ?」
黒髪を指で整えつつ。
「ちょっ、別になんでもないんだケド・・・」
なになにーっ! 今けいじが来ちゃったら、聞けないじゃんさーーーッ!!
「な・・・何、ニラんでんだよ、おまえ・・・」
「なんでもナイの!」
「あ、まきあ。8×4(エイト・フォー)貸してくれよ?」
「知るかっ!!」
すごいねーっ。
さっすがけいじ。
いい香りのスプレーあるよ?
そんなクラスメイトの声を尻目に、その場を後にした。
けいじとそんな会話をしたもんだから。
ツレが、ちょいスネぎみなんだけど。
「あたしだって、超頑張ったんだよぉ?」
「うん・・・」
ちっ、しづきのヤツ、ほーんと使えないんだから!
チャッチャと2秒ぐらいで言えっちゅーの!
でも、まあ、好きなコがいるっていうのは、わかった。
ツレが伏し目がちに言う。
「それってさぁ・・・。まきあの事じゃ、ないよね?」
・・・はぃい?!!
「ナ・・・ナイと思うよ。たぶん」
あたしは仲良し3人組のアノ頃を思い出した。
公園で、よく遊んだアノ頃・・・。
・特撮的戦いゴッコ
主役:あたし
悪役:けいじ
主役に助けられる友人:しづき
・野球
ピッチャー:けいじ
バッター:あたし
外野:しづき
・お店やさんゴッコ
お店:しづき
値切る客:けいじ
強盗:あたし
・ちゃんばらゴッコ
修行中の剣士:しづき
さむらい:けいじ
戦国武将:あたし
・・・などなど。
「あんた・・・小さい頃からスサんでたのね・・・」
「ほっといてよ・・・」
「戦国武将て・・・どんな役希望してんのよ・・・」
まあ、ともかく。
こんなんだから、アイツの好きなコがあたしという説は、ナイと思う。
「アルと思います!」
テレビ。お笑い芸人が、そう言った。
家。夕食をすませて。
自分の部屋。窓辺でフト考え込む。
あると思います・・・かぁ。
・・・ナイ。ないよ。
ってか、そういう意識、全然ナイのに。
なんか、そう言われると、逆に気になるじゃん・・・。
そういえば、しづきの態度・・・。
もともと、しゃべる方じゃないケド、今日はなんかおかしかった・・・。
待てよ。
あそこまで、言うのに大変そうにして。
これは、何かアルね。
仮定。けいじが、あたしを好き。
まさか、しづきもあたしを好きとか。
いやいやねぇし。
ねーねー。
てか、なんかもう今さらスキとかキライとか。ナイし。
でも、好きって言われたらどぉしよう・・・。
えっ、待って。
最悪のシナリオとして。
どっちか選ばされたら?
「まきあ、好きだ!」
「まきあちゃん。好き・・・」
うはぁあああ。
仮定。発展形。
1、けいじをとる・・・ツレとしづきがドン底。
2、しづきをとる・・・けいじがドン底。ツレは多少ヘコむ。
3、どちらも選ばない・・・ツレもけいじもしづきも、気まず過ぎます。
どちらにしても、クラス中の反感を買うことマチガイなし?
てか、肝心のあたしは、どうしたいんだろう・・・?
たっ・・・頼む。
スキとかキライとか・・・。
ないコトにできませんかーぁ?!!
アレコレ考えるあたし。
でも結果が次の日にいきなりでるなんて。
もうちょっと、心の準備をさせてほしかった。
給食を食べてすぐ。
ツレが屋上へ来てという。
行ってみると。
そこには。
けいじ。
しづき。
ツレ。
その緊張感たら。
ツレがしづきを脅して、けいじの好きなコを聞き出して、直接本人に聞いたところ・・・。
そういう流れが、一発でわかってしまう程の、緊張感。
なんで、空気ダケで、こんなにイタイかなぁ・・・。
あたしには、昨日遅くまで考えた秘策があったんだケド。
「あー! 恋愛? いやほらだって、あたしまだ中2だし、興味、ぜんッぜんッナイわ~。やっぱ、トモダチが大切よぉ? ト・モ・ダ・チ☆」
とか、なんかのキッカケでゆって、けん制する作戦。
アルと思ったんだケド、もぅ一気にオジャン。ココ来た時点で。
朝一番で、ムリヤリにでも主張すべきだった。
まあそれでツレが止められるか、疑問だったケドさ・・・。
役者の揃った屋上。
ピリピリとしたままの、数分。
みんな、痛さに耐えるだけで精一杯なんだろうね。
「・・・ねえ。けいじの好きなコのコトさ・・・」
ついに口火をきるあたしのツレ。
もう本当にツレなのか疑問になってきた。
けいじも、まさかココでコクるんじゃないでしょうね?!
んで、しづきもコクるのか?
ツレはどうするツモリなのか?!
「あ・・・ああ。俺の好きなコ? かぁ・・・?」
もじもじするけいじ。なんかいつもとちがう。
しづきをふと見てみる。
目が合う。
彼は、ぱっと目をそらして、体育座りのまま、顔を伏せて。
かすかに震えている。
しづきぃ。一杯一杯だなぁ・・・。
「けいじ、ちょっとゆってみなよ・・・」
ツレはそう言うと、くるっとむこうを向いて、やっぱり軽く震えている。
「・・・えぇ? ココで言えってのか?」
「そうよ・・・。まきあも好きかも知れないでしょ?」
ぅをい!!!
「なっ・・・、なにが・・・っ!!」
後ろ向きのツレに向かって、反論しようにも、言葉が出ない!!
そんなコト言っちゃうかぁ?! あたしのツレよ!
キミの失恋が友情の証ってか?!
なに覚悟きめちゃってんのよぉ~!
しかもキューピットになろぉってか!!
もぉ血ぃ、のぼりっぱなし!!
「そ・・・そうか・・・? じゃあ、言ってみるか・・・」
お、おいおい・・・。
なんだこの早鐘のような鼓動は!!
しづきもツレも顔が見えない姿勢で震えている。
この場を回避する方法ナシ!!
どっ、どーするあたし?!
逃げ出しちまおーか?!
「まきあ・・・。俺の好きなのは・・・」
屋上の風にそよぐ、黒い髪。
きっ、と見つめて、言葉を出そうと、鋭いまなざし。
「あっ・・・あ・・・」
逃げるかどうするかわからないあたしは、膝からガクガクしていた。
動けない。
けいじが、すぅーっと、ひと呼吸。
・・・来る!!
・・・きっと来る!!!
「・・・シドのマオ」
・・・・・?!
・・・へっ?
・・・あの、シドのヴォーカルの??
妙に静かな風がそよぐ、屋上。
「・・・っつーか、あれ男ぢゃんよお!!!」
ぅあぁーっはっはっは~!!
大爆笑。顔を伏せていた2人。
「え・・・嘘ぉ?! 俺、ムネの小せぇオンナかと思ってた!!!」
っあぁ~っはっはっは~!!
さらに大爆笑追加はいります。
「ばっ・・・!」
ばっ、きゃろーーーーーーッッツ!!!
あたしの声は、屋上にこだました。
笑いはピタッと止んだ。
こっちを見る3人。
・・・はっ?!
なに、マジギレしてんだあたしは?!
恐らく、あたし史上、こんなに真っ赤になったコトはナイ。
「けっ、けいじ!!」
「は・・・はい!」
たぶん、コイツもこんなに真っ赤になったコトはナイだろうな。
「・・・オマエは、そーやって、上っ面だけんトコがだめなんだよ!!」
「っ・・・!」
「女子ウケしてるバンドを知ってりゃ、ポイント上がるとか思ってんだろ?!」
「おっ、俺は別に・・・!」
「じゃなきゃあ、ブログでも見りゃあ、すぐ分かるものをよ?! テレビだって、よく出てんじゃん!!」
「・・・・・」
「女子ウケ狙ってっから、そこまで知識を追求できねえーんだよ! あまいんだよ!」
しゅんとする、けいじ。
「この、下心男っ!!」
あたし自身の照れ隠しに。
つい、ゆってしまった。勢いにまかせて。
ここまで言うこと、なかったよ。
わかっちゃ、いるんだ。
「しっ、しづきも、おしえてやればいーじゃんかよ!!」
ハッっとして、焦点を失う大きな瞳。黒さはグレーに。
「まきあ。ちょっとそこまで・・・」
「あんた、あんたがおしえてやればよかったんじゃんさ?! 笑いものにしないでさ?!」
「・・・なにマジギレしてんのよー?」
「あんた、けいじが好きなんじゃなかったの?!」
・・・!!!
凍りついた。
「・・・まっ・・・まきあ・・・!」
「・・・だったら、こんなコトしてないでさ・・・!」
たったったっ・・・!
ツレは全力で走るように逃げる!
バタン!!
屋上の出口の扉を無造作に開けて、去った。
午後の授業に・・・あたしのツレはいなかった。
下校時刻。
無言でしづきの腕を引っ張ったあたし。
「しづき・・・。あんた、マックつきあいなさいよ?」
「ぼ・・・僕、お金そんなにナイんだケド・・・」
「いいから・・・!」
無理に引っ張り出して、マックへ。
しづきは明らかにおびえている。
おそらくしづき史上、こんなに青くなったコトはナイだろうて。
さぁ、尋問を開始するわよーっ!
「はいコレ!」
「あ・・・ありがとぉ・・・?」
コーラをもらったしづき。
栗色の前髪に瞳を隠して、おびえつつも、不思議そうにしている。
「ききたいコトが、あんのよねー?」
びくっ!
きたっ、と言わんばかりなしづき。
わかりやすいわー。なんか知ってるねぇ?
「ぜぇ~んぶ、話してもらいましょうか?」
ひと息ついて、しづきは目をとじた。
そして親指のつめを噛みながら、静かに話し出した。
「まきあちゃんの心友が・・・僕に話があるって・・・」
もちろん、聞かれたのはけいじのこと。
どんなタイプが好みかって。
しづきは、けいじに聞いた。
で、答えはシドのマオ。
アイツが、あーゆー好みだった、なんてねー。
「・・・あいつ、ホモじゃないよねぇ?」
ふるふる。首を振るしづき。
「だとしたら、あんた、結構ヤヴァイかもよ?」
「そ、そんなコトは、ナイって・・・!!」
と、しづき史上、記録更新の青さになって全力否定した。
大きな目をまんまるくして。
「で・・・まきあちゃんの心友なんだケド・・・」
・・・あたしは、うかつだった!!!
迂闊、ウカツ、うかつ・・・!!
①情事にうといこと。
②うっかりしていること。
あたしの場合は①だー!!!
「好みのヒトをおしえたら、やっぱり最初は、ボクと同じで笑ってたんだけど・・・」
そう、あたしのツレは、ロングの髪に、ちょいフクヨカなタイプ。
デブじゃないぞ。ここ重要。
「そしたら、わたしなんて、タイプじゃないよねぇ? なんて、聞かれて・・・」
・・・そこだ!!!
あたしのツレは、そこで自信をなくしちゃったんだ・・・!
だから、この話は、けいじとツレとの「きっかけのひとつ」だったんだ!!
ああ、そうか・・・。うかつだった・・・。
普段、結構おとなしいアノ子が、あそこまでもっていくのって・・・。
すごい勇気なんだよ・・・。
でも「あまりの面白さ」が、けいじに関わることを後押ししたんだ・・・。
心友のあたしがいれば、ちょっとでも会話できるカモ・・・なんてさ!
「ボク・・・けいじに悪いと思ってるよ・・・」
しづきは目になみだをためて。続きを話す。
それで、ツレとしづきで一計案じた。
屋上でこの話をしようと。あたしも交えて。
きっと、まきあも大笑いするに違いないって、思っていたらしい。
だから、ツレはあたしに言わなかった・・・。
「明日・・・あやまるよ・・・」
しづきは、八重歯で唇を少し噛んで言った。
そうだなぁ・・・。
しづきは、悪くない。
あたしのツレも・・・。事情を聞けば、わからんでもナイ・・・。
けいじは・・・おまぬけ。
・・・あたしだ。
問題は。
別に、筋の通らない、悪いことを言ったつもりはナイ。
ナイけどさ。
前日の晩、あたしがカン違い的な仮定をして。
当日も、まだその瞬間まで、カン違いしてて。
わたしが、心友を考える余裕をなくして。
感情の昂ぶるままに、言ってしまったに過ぎない。
でも、なんか、好きなヒトを馬鹿にスルって、考えられなかったんだ。
だから、ついゆっちゃった・・・。
「しづき・・・。オマエはイイ奴だよ。あたしのツレの秘密をまもって、協力したんだから・・・」
「うん・・・。でも、けいじを笑ったし、心底、まきあちゃんの言う通り、下心的なって、バカにしてた・・・」
エライなぁ。しづきは。
正直でさ。
そういうの、キライじゃないよ。
「えっ・・・」
噛みすぎて深ヅメな親指を、舐めていた手が止まった。
あたしは、ツレとけいじに対して、どぉやって仲良しを取り戻そうか・・・。
家。
電話機をとる。
連絡網。アノ子の電話番号を押す。
「もしもし・・・」
明らかに、元気のない声。
そりゃそうだよ。
でも、電話口に出てくれた。
よかった。
説明するね。
好きとかじゃなく、いい? 好きとかじゃなくてよ?
あの前の晩、わたしがコクられると思ってたの。
うん、違うの。なんだか、そう思っちゃったの!
聞いて? 意識しただけ、なの。
だから、そういう事情も、しづきに聞くまでわからなかった。
それに、あたしだったら、好きなヒトを笑うなんて、ちょっと、考えられなかったの。
ううん、別に責めてるわけじゃなくて。
自然に、そう思っちゃったの。
だから、ちょっと怒っちゃったっていうか、そんなんじゃなくて。
「ジャニーズだけが、なんて言っておいてさ・・・。虚構と現実で、全然意識違うじゃん・・・!」
だっ、だから。
好きとかじゃナイの!
「キライでもないんでしょ・・・? 意識するって、それって、好きなんでしょ?」
それは幼なじみだから・・・!
プツン。
ツー。ツー。
電話は切れた。
もう、彼女はツレじゃなくなった。
不信になると、こうも受け入れられなくなるんだ。人間て・・・。
それからしばらくして、アノ子も一応、ガッコーに出て来ては、いた。
もちろん、会話なんかないし、目もあわせない。
あたしは、頑張ったんだよ?
けいじにも、正直に話したよ?
しづきもあやまった。
そして、勝気なけいじにしては、めずらしく反省していたよ。
「まきあ。オマエの言う通りだよ。オレ、カッコ悪りかった・・・」
けいじも優しいヤツでさ。
あれからツレだったアノ子に気を使ってくれて。
あたしのコトをフォローしてくれたんだよ。
でもね。
アノ子にしたら、そういうのもヤなんだって。
幼なじみ3人でグルになって、わざとらしくて・・・。
食事もあまりしてない。痩せてきてる・・・。
疎外感・・・幼なじみゆえの、あるがままの正直さに嫉妬して。なのか・・・。
砂を噛むような時間が過ぎていく。
仲良し3人組みだけで、笑ってすごせない時間が・・・。
その、ただ過ぎ去るダケの、味気ない時間は、あたしには重かった。
ある時、徹底的に話そうと思い立って、アノ子に声をかけた。
「・・・なみ! ちょっといい? 話をさせてよ?!」
どんな修羅場になるかと思ったんだけど。
話してみると、力のない様子で、それでも話してくれた。
大事な話。
話が終わると、なみはわたしの心友に戻っていた。
なみは、やっぱり、寂しくて、切なくて。
羨ましかったんだって。
正直に、話してくれた。
なみと2人して泣いちゃったよ。
そんなことがあって、次の日。
「なんか、アノ子の気持ち。わかる・・・」
けいじとしづきに、なみが心友に戻った話をしたんだ。
しづきは、もらい泣きしそぉな様子で聞き入っていた。
けいじは、それからなにか考え込んでしまった。
なにを考え込んでいたのか。
それはさらに数日経ってから、分かった。
あたしと、なみは、心友に戻ったけど。
けいじ、しづきとの間に、なんとなーく、気まずさが残る。
もうすぐクリスマス。
気まずくても、無情にやってくるクリスマスだ。
そんな日、サンタさんは、ひと足先に。
よい子へのプレゼントを心友にくれた。
なんと、けいじが、なみに逆告白しちゃったんだ!!
しかも、クラスのみんなの前でさ!
かーっ、ヤるねぇ!!
恋のランニングシュートってか?!←
後でなみに話をきいたけど、本当に嬉しそうだった。
メリー・クリスマス! サンタ、グッジョーブ!
で、その放課後。
「まきあ。頼む! 聞いてくれ・・・」
「ん? どうしたの、心友のカレシどの?」
誰もイナイ屋上。
「俺、まきあが好き、なんだ・・・!」
・・・ぅをい!!!
「聞いてくれ! 悩んだんだぞ・・・本当に・・・!」
っはぁ?
あたしは言葉も出ない。
一日に2回コクるって、それどんなサンタよ??
なんだコイツは?的な目ビームをあびせた。
「そっ・・・! そんな目でオレを見るな・・・!」
オレだって、死ぬほど、悩んださ。
「悩んで・・・。でも、俺・・・、オマエの心友・・・てか、なみを・・・」
「なみが、どうしたの・・・?」
けいじは息をためて。
一気に言った。
「・・・かわいそう過ぎて、どーーーーにもできねーんだよぉ!!!」
言葉は虚空に吸われて。
響いて、消えた。
「まきあ・・・オマエが、好き・・・。でも、なんか、それで万が一、うまくいったとしても・・・」
また数瞬。そして、けいじはありったけ、叫んだ。
「・・・無理なんだよ!!! イテェんだよ、気持ちがよぉ!!!」
我慢できず。
泣くけいじ。
「・・・オレは・・・後悔したくねェんだよぉお!!!」
・・・なんか、泣いちゃった。
けいじに、つられて。
けいじの・・・何かに・・・触れて。
けいじに言ったよ。
けいじ。オマエ、カッコいいぞ。
そんなオマエは好きかも。
でも、一旦、彼女にコクったんだから。
「・・・死ぬまで、仕えろよ! 彼女のナイトとしてさ!」
手で顔をおおって泣くけいじが、こくこくとうなづく。
でもさ。
幼なじみだから、じゃないよね。
今のけいじのようにさ。
正直に、言えるって、素敵だよね。
ありがとう、けいじ。
心友を。あたしを。想ってくれて。
「優しさ、忘れないよ」
握手した。
重い、重い握手。
けいじのたくましい手は、涙で濡れていた。
「じゃあ、ね・・・!」
「じゃあ、な・・・!」
あれから時が過ぎて。
中3になった。
受験が本格的になってきて。
なみとけいじは、うまくいってると思う。
羨ましいくらい。
でも、けいじとのあの握手が、あたしに寂しさを感じさせなかった。
あの2人は、そのうちHもするかもしれないケド・・・。
でも、あのけいじとの時間は、もしかしたら、それよりも、大事な時間だったのかも知れない。
そりゃ、結果として、彼とはともだちでしかナイけど。
魂が、交わるような時間を過ごした・・・ともだち。
・・・ま、ワカンナイけどさ。
ツレのなみは、気軽にノロケたりしない。
教室でイチャついたりもしない。
寂しさの痛みを、知っているからだと思う。
クラスのみんな、けいじを実は片思いしていた女子からも、その辺で納得している感があった。
「大人かもねーっ・・・」
みんなは、そう言うケド。
大人だからじゃないと思う。
逆に言えば、優しさこそ、大人なんじゃないのかな。
大人でも、優しさのない、下品なお子様カップルはいるしね。
とにかくあたしたちは、とっても安らかな時間を取り戻して。
普段のガッコー生活も。
受験の準備も。
本当に、楽しく過ごせた。
そんな、寒さもやわらいで、日差しが心地よい・・・4月のさなか。
桜も散って、新芽は新鮮な濃い緑。
帰り路の校庭。
「ねえ、まきあちゃん!」
しづきがニコニコと、自分から声をかけてきた。めずらしい。
「マック、つきあって?」
はぁ? ますますもって、めずらしい。
「おごるから・・・さ!」
おごるとな?!
めずらしさも、ここに極まったなぁ。
あたたかくなって、おかしくなったか?
「おいおい。どうしたんだよー、急にぃ」
しづきに手を引かれて、マックへ向かう。
ふっふーん。
この前、コーラおごってもらっちゃったからね。
やっぱり、お返しをしないと、さ。
「って、ソレいつの話だよぉ? 大金でもはいったの?」
うん。バイトみつかったんだ。
バ、バイトぉ? まだ早くね?
まぁ、勉強もするし、僕も、おこづかいほしいし。
よく働くトコあったよねぇ・・・?
近所の鉄工所のおじさんが、使ってくれてるんだ。
へぇ。力仕事なの?
うん。そう。
「それで、最初の給料もらったから、一番にごちそうしようと思ってさ」
「えっ・・・」
「・・・だめぇ?」
栗色の前髪に瞳を隠して。
赤くなって、そう言った。
あたしは満面の笑み。
「・・・いいよ! 最初の給料でごちそうしてくれるなんて、母さんうれしいよぉ♪」
「だっ・・・誰が母さんかっ・・・!」
そんなこんなで店に入る。
あたしは遠慮せずに、フィレオ・フィッシュバリューセット(L・L)を頼んだ。
嬉しそうに、同じものを食べるしづき。
にこにこしているしづきは、日なたの猫みたいで、なんとなくポカポカだ。
「でもさ・・・しづき」
「なぁに?」
「百万が一、キミがあたしの彼になろうとしているのなら・・・」
ゴフッ・・・!
しづきは急にのどが締め付けられたように、むせた。
「・・・けいじより、優しくないと、ダメなんだぞ?」
「・・・は、はいっ。頑張ります・・・!」
あたしは、にこーっとして。
「ん~、その返答だと好感度60ってトコかね?」
「それは・・・どのへんの・・・ポジションなんだろう・・・?」
「そうさねぇ。好感度80でキスしたげる♪」
「えぇ~・・・っ!」
そこまで考えもしない、純なしづきはシビれた様子。
「ここで、アップルパイを追加してくれると、好感度+18なんだけどなぁ・・・?」
「はぁっ・・・! ぼ・・・ぼく、買ってきます・・・!」
そそくさと席を立つしづき。
・・・でもしづき。その行動だけじゃ、好感度+3ぐらいだぞ・・・♪
レジに並ぶ彼を見ながら、あたしは微笑んだ。
おわり