4. 出た!怪しい美人秘書
二話続けて投稿します。
少し進展。
頼んだよ、と息子に声を掛けるおかみに向かって小さく会釈をして、真理亜はおとなしく助手席に座った。
運転席の、ごつい体格の男にも軽く会釈をする。
「すみません、よろしくお願いします」
男は根っからのシチリア男といった感じで、よく日に焼けた浅黒い肌と黒髪が真理亜に父親を連想させた。
「ああ…お嬢さん、アントニオさんの娘だって?」
「はい。マリアです…よろしく」
「俺はサンドロだ…うちの店に寄ってもらって良かった。この島では、女一人で出歩いちゃいけませんぜ。たとえ昼でも、日本の国みたいに安全なところばかりじゃあ、ない」
「…ええ。ありがとう」
それきり話は続かなかったが、車は坂道を走って、ものの十分で館に着いた。
荷物を降ろしてお礼を言うと、雑貨屋の息子は大したことじゃない、と軽く手を振って帰って行った。
荷物を持って扉の前に立つと、呼び鈴を鳴らす前に扉が開いた。
「サンドロ!玄関に来るなんてどうしたの?今日の注文分は全部揃ってたわよ!…あら」
きつい口調とともに現れたのは、使用人というよりは『秘書』のような雰囲気を持った女だった。美人だが、冷たい…人を値踏みするような目つきをしている。
「あなた、誰?」
こいつキライ!と真理亜は直感した。
初対面で、客かもしれない人間に向かって言う言葉じゃないわ!
「わたしは真理亜よ、マリア・サクラダ。アルベルト・ティツィアーニの姪です。あなたこそ、誰?」
どうやら向こうもわたしが気に食わないみたいね、と思ったが、このテの相手には妙に闘争心が湧く。
きれいに整えられた眉が、ひくっと動いたが、相手はとりあえず、とってつけたような愛想笑いを浮かべる。
「まあ、社長の!わたしは、秘書のディアナ・トマシーナですわ。どうぞ、よろしく」
よろしく、とか言いながら、お互い握手をしようと手をさし出しもしなかった。
ふん、やる気十分と見たわ!受けて立とうじゃないの!
「それで、中に入れてはくださらないの?わたしは、テレザ大伯母さまのお見舞いに来たんですけど」
「まあ、それは失礼しました。どうぞお入りになって…でも、お見舞いというよりは、ご旅行のような格好ですこと。お花もお持ちではございませんのね?」
う、痛いところを突かれたわ。
「…ええ、急いで来たもので。お花屋さんがどこにあるかも知りませんし」
それきり険悪な雰囲気のままで黙って歩いてゆく。
荷物は持って歩くには相当重かったが、置いてゆくわけにもいかず、また、秘書も預かろうとは決して言わなかった。
『いちいち頭に来ちゃうったら、ないわ…ヴィーが言ってたのは、絶対こいつよ!…ん?ってことは、夜中もここにいるのかしら?秘書って、普通は会社にいるもんじゃないの?』
入り口から二階の奥までかなり歩いて、ようやく秘書嬢は部屋の前で止まった。
軽く、ノックをすると、中からくぐもった声がした。
「おはいり」
「失礼します。マリア・サクラダとおっしゃるお嬢さんが、お見舞いに見えました」
「…マリア?」
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