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助っ人の仕事最後の日

お待たせいたしました。仕事の方も落ち着いてきたので、更新を再開いたします。それではご覧下さい。

 自宅を出て高校へ向かう道中、外は五月晴れといった天気だったが、それに反し恭一は暗い表情のまま歩いていた。

 今日でルキエナが居なくなる。

 その言葉が恭一の中でずっと繰り返される。

 思い返せば、最初に公園でルキエナが倒れているのを見かけた時は、行く宛もなさそうで放っておけなかったから一晩くらい泊めてやろうというくらいの気持ちで連れ帰っただけだったのに。

 面倒な事になってきたと思いつつ、宝玉の回収を手伝う事を引き受け、ルキエナと苦楽を共にするうちに恭一にとって、ルキエナの存在が大きくなっていたようだ。


 (もう明日からはルキエナとこうやって一緒に学校に行くこともなくなるんだな」


 いつの間にかルキエナと一緒に登校することが恭一の中で当たり前になっていたんだと感じながらルキエナを見やる。


 「恭一さん……」


 ルキエナが寂しそうな表情で見つめ返してくる。

 ルキエナは顔を下に向けて一度表情を隠すと、再び顔を上げて笑顔を作った。


 「朝から湿っぽい顔しないで下さいよ。夜まで時間がありますし、せめて笑顔でお別れしたいですから、今日一日明るい顔でいて下さい」


 「ああ、わかった……」


 ルキエナに言われて恭一は胸につかえるものをグッとこらえて笑みを返した。


 「そういえば今日はルキエナの姿って俺以外の人に見えてるのか?昨日は体育館で風香さんにも姿が見えるようになってたけど」


 沈んだ気持ちをごまかすために恭一が話題を振る。


 「今日は恭一さん以外の人は私の姿と声は認識できませんよ。そうしないと高校の中に入れません。私部外者ですから」


 「言われてみれば確かに……」


 高校でもルキエナと一緒にいることに違和感がなくなっていたことに気づき、また気持ちが沈み、それが顔に出そうになる。

 恭一は拳を握り締めて明るい表情を保ったまま、次の話題に移る。


 「ウアルフェが宝玉に気力を奪われた人の記憶を改竄するって言ってたけど、どんな風に変わるんだろうな」


 「昨日学校では平常通りに授業が行われたということになっているでしょうね。ただ、生きるか死ぬかの瀬戸際になった事は取り消せない事になっているので、風香さんのお父様が事故に遭って病院に運ばれた事はそのままになっているでしょうし、奈月さんは誰にも知られずに屋上から飛び降りたところを、偶然通りかかった恭一さんが奇跡的に受け止めて助けたことになっているはずです」


 「え? じゃあ奈月さんを助けた後に頬にキスされた時の記憶は?」


 「そのまま残ってるでしょう。宝玉の力から解放された後に起こった事ですし」


 「マジか……」


 奈月が頬にキスしてきた時の感触が甦り、恭一は赤面した。

 


 校門に入り校舎に向かう途中、恭一達の少し先を二人並んで歩いている女生徒達の話し声が恭一の耳に入ってくる。


 「昨日の朝トラックに轢かれそうになったのを男の人に助けられたの」


 「嘘!? よく助かったわね! どんな人だったの?」


 「お礼を言ったんだけど、さっさと歩いて行っちゃったし気が動転してたから顔は憶えてないんだよね。でも颯爽と歩いて行く背中カッコよかったなあ。ウチの学校の制服着てたんだけど……」


 聞こえてきた内容に驚いた恭一が前を歩く女生徒の顔を見ると、昨日の朝登校途中に助けたサイドテールの少女だった。


 「命に関わる事は取り消せないって言ってたもんな」


 恭一がサイドテールの少女を見ながらルキエナに囁きかける。


 「ええ、顔を憶えていないことになってますね」


 「いや、なんか照れくさいしその方がいいよ」


 恭一は恥ずかしくなって早足で女生徒達を追い抜いて校舎に入った。

 


 教室に向かって廊下を歩いていると誰かが恭一の右腕を引っ張った。


 「おはよう、恭一」


 奈月が恭一の腕に抱きついてきた。


 「お、おはようございます、奈月さん」


 奈月の大きな胸に恭一の腕が埋もれていく。


 「どうしたんですか?いきなり抱きついてきたりして」


 「いや、命の恩人が目の前を歩いていたから、思わず抱きついてしまったんだ」


 奈月がいたずらっぽく笑う。


 (こっちは顔を憶えられたままなのね)


 恭一が天井を仰ぎ見る。


 「それじゃ、また放課後、生徒会室でな!」


 奈月はそういうと恭一の腕から手を離して歩き去った。

 取り残された恭一に、周囲の生徒達が嫉妬と好奇の視線を向ける。

 恭一はたまらず自分の教室へと走った。

 


 その後、何事もなくいつもどおりに授業が行われ、昼休みにルキエナが、


 「宝玉の影響が残っていないか念のために街を見てきます」


 と言って窓の外を飛び出していったが、放課後には戻ってきて、


 「問題ありませんでした」


 と恭一に報告して合流した。


 生徒会室に向かう途中、風香の姿が見えて恭一が声をかける。


 「風香さん!」


 その声に風香が立ち止まって振り返り、恭一が近寄る。


 「恭一君……」


 風香の表情に翳りが見える。


 「どうかした?」


 その様子が気にかかり恭一が尋ねる。


 「ええ、昨日私がしでかしてしまった事をみんなに謝ろうとしたのだけど、誰もその事を憶えていなくて、昨日の事は夢だったみたいに思えてきて……」


 風香が戸惑いの表情で答える。


 「ルキエナ達が気力を奪われた人達の記憶を別のものに書き換えたらしい。気力もきちんと回復させたらしいよ」


 「そうでしたの、女神様ですものね、お世話になりっぱなしで申し訳ありませんわ」


 恭一の説明に風香は納得したようだが、表情は優れないままだ。


 「まあ辛い体験だったから覚えていないほうがいいだろうし、風香さんだって宝玉に誘導されてただけなんだし、そんなに悩まないで」


 「ありがとう……恭一君」


 風香は涙を浮かべながら笑う。


 「お父さんの具合はどう?」


 「ええ、今朝目を覚ましたわ。その時に『お前には辛い思いをさせているな』って父が謝ってくれて……その時恭一君の言葉を思い出して『これからは辛い時には辛いって嫌なものは嫌って言おうと思います』って父に言ったの。そうしたら父が『お前の気持ちも考えるようにする』って約束してくれたの」


 風香が涙を流しながら語った。


 「そっか、よかったね」


 恭一が優しく笑って答える。


 「うん……恭一君のあの言葉のおかげ……」


 「そんな事ないよ。風香さんが勇気を出したからだよ。それより涙を拭いて。そのまま生徒会室に行ったらみんなに心配かけちゃうだろうし」


 「ええ……その通りね」


 風香はハンカチを取り出して涙を拭くと恭一に微笑みかける。


 「行きましょうか、恭一君」


 風香は恭一の手を取って歩き出した。


 「ちょっと!? 風香さん!?」


 風香の突然の行動に恭一が驚く。


 「ウフフ、こうしてお友達と手を繋ぐことに憧れていたの」


 嬉しそうに笑う風香を見て、恭一は手を離す事を躊躇い、風香と恭一は手を繋いだまま生徒会室へ向かった。

 


 「失礼します」


 風香と恭一が手をつないだまま生徒会室に入室した。


 「!?」


 それを見た桃花と千絵が愕然とする。


 「フフフ、その様子だと仲直りできたようだな」


 奈月が手を繋いでいる二人を見て笑う。


 「いよいよ明日は交流会だ、準備の総仕上げにとりかかるとしよう」


 奈月の号令と共に活動が開始する。


 (そっか、ということは今日で終わりか)


 奈月の言葉に、今日で助っ人の仕事が最後である事を思い出しながら、恭一は割り振られた作業を始めた。



 交流会の会場である体育館で、椅子を並べながら恭一は小声でルキエナを呼ぶ。


 「なあ、ルキエナ」


 「何ですか?恭一さん」


 「どうして風香さんの記憶は書き換えられてないんだ?」


 「風香さんの場合は私と関わった記憶がありますから、私がこの世界を離れる時に記憶が書き換えられるんです」


 「!?」


 ルキエナの言葉に恭一は思わず時計を見る。

 もう夕方で夜が近い。ルキエナとの別れの時が迫っている。


 (だめだ! 明るい顔のままでいるって約束したじゃないか!)


 恭一は歯を食いしばって平静な顔を保ち、会話を続ける。


 「まあ風香さんも宝玉に操られた被害者でもあるわけだし、憶えているのは辛いかもしれないしな」


 「おそらく、『病院に運ばれたお父様は手術が成功して一命をとりとめ、心配になって駆けつけた恭一さんに悩みを打ち明けて、相談に乗った恭一さんの助言を受けて、目を覚ましたお父様と和解した』という記憶になるかと」


 「なるほどな」


 ルキエナの説明を聞きながら、恭一は少し離れた所で椅子を並べている風香を見る。

 視線に気づいた風香が恭一に微笑んで小さく手を振ってきた。

 椅子の設置が完了してその日の活動は終わった。


 「準備期間中に私を含め体調を崩す者が続出してどうなることかと思ったが、みんなの尽力のおかげでどうにか無事に交流会を迎えられそうだ。本当にありがとう」


 奈月が感謝の言葉で締めくくり、解散となった。



 恭一が下駄箱で靴を履き替えていると、

 

 「恭一」


 奈月が声をかけてきた。


 「あ、奈月さん、お疲れ様です」


 恭一は奈月に頭を下げて返した。


 「今日までお疲れ様。君は一度も休むことなく参加してくれて大いに助けられた。本当に感謝している」


 「いえ、そんな、お役に立ててよかったです」


 「ところで……」


 奈月が言葉を切って恭一の腕に抱きつく。


 「今日で助っ人の仕事は終わりだが、先日君に話した会計監査の件、真剣に考えて見てくれ。私は君を本当に気に入っているんだ」


 「ちょっと奈月さん! わかりました! 考えておきますから離して下さいって!」


 恭一は腕が胸に包まれる本日二度目の感触にうろたえながら答える


 「フフフ、すまないな、風香と手を繋いでいたのを見て、少し嫉妬してしまったんだ」


 奈月は頬を赤くして笑い、恭一を解放した。


 「それじゃ私は帰るよ。君も気をつけて帰るんだぞ」


 「はい、さようなら奈月さん」


 恭一達は奈月の姿を見送った後、学校を出た。


お読みいただきありがとうございます。

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