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両親への想い

 病院に戻った風香は父親の病室で、静かに眠る父親に寄り添っていた。

 頭には包帯が巻かれていて痛々しい。


 「お父様……」


 風香が父親にそっと呟く。


 「お父様……ごめんなさい」


 自分のしでかした事への後悔の念が押し寄せる。

 風香は父親の手を握って、眠っている父親の顔をじっと見続けた。

 どのくらいそうしていただろうか。

 病室の扉を開く音が聞こえる。


 「お嬢様」


 執事が病室に入ってきた。


 「お嬢様、そろそろ夜も更けて参りました」


 執事に言われて窓の外をみると、外はすっかり暗くなり、月が昇っている。


 「今宵は奥様もこちらで休まれるようです。付き添い用の宿泊室を手配致しました。お嬢様はそちらでお休み下さい」


 「そう、わかったわ」


 執事に促され、風香は父親のそばを離れる。

 病室を出る直前、父親の方に振り返り、


 「お休みなさい、お父様」


 と告げて退室した。


 宿泊室に向かう途中、母親が休んでいる病室に立ち寄る。

 母親は安らかな顔で眠っていた。


 「先程までは起きていらして、旦那様とお嬢様の事をたいそう気にかけておいででしたが、お休みいただくようにお願い致しました」


 「そうだったの……心配かけてごめんなさい、お母様」


 風香は母親の顔をじっと見つめる。


 「お休みなさい、お母様」


 風香はそっと病室を出て、宿泊室に向かった。

   

 宿泊室に到着し、執事が退室してベッドに横になったがなかなか寝付けず、風香は天井を見ていた。

 頭の中に宝玉の言葉に耳を貸してからの出来事が次々と浮かんでくる。


 (お父様、お母様、それに学校のみんなにひどいことをしてしまったわ)


 とんでもないことをしてしまったという自分への嫌悪感が再び襲ってくる。

 それと同時に宝玉を使おうとまで自分を追い込んだ言葉が頭の中に響く。


 『高校の方はどうだ? 学業をおろそかにしてないだろうな?』


 『風香なら大丈夫よ、私たちに似て優秀な子ですもの』


 『涼原の次代を担う者として恥じる事のないようにな』


 風香はたまらず飛び起きた。


 「やめて! 聞きたくない!」


 両手で耳をふさぎ、頭を左右に振って浮かんできた言葉を追い出そうとした。


 「お父様の怪我が治ったら……」


 周囲の期待と、涼原グループの次期総帥という言葉が強くのしかかる日々に逆戻りになる不安が風香の心に広がっていく。


 「……」


 陰鬱な気持ちになってうつむいているとふと恭一の言っていた言葉が浮かんできた。


 『困ったときは助けてって言えばいいし、嫌なものは嫌ってはっきり言えばいいんじゃないかな? 他人にどう見られているかより、自分がどうしたいかを考えようよ。俺でよかったらいつでも力貸すからさ』


 不安な思いが解きほぐしされ、心が穏やかになっていく。


 「恭一君……」


 そっと微笑み、恭一の名を呼んだ。


 「すぐには無理かもしれないけど、少しずつ自分のしたい事を考えてみるわ。困った時は助けてね、恭一君」


 風香はそう呟いて横になるとすぐに眠りについた。

  


 コンコン


 扉をノックする音が聞こえて、風香が目を覚ます。


 「少し待って下さる?」


 扉に向かって返事をし、ベッドから起き上がった。窓の外を見ると朝になっていた。

 鏡をみて身支度を整える。


 「どうぞ」


 「失礼致します」


 風香が入室を許可すると執事が入ってきた。


 「お嬢様、旦那様が目を覚まされました」


 「お父様が!? 今すぐ向かいましょう!!」


 風香は執事に連れられ、父親の病室に急行した。

 父親の病室に入るとベッドに横たわっている父親が目を開けている。

 母親も病室にいて、ベッドのそばの椅子に腰かけ、風香の方に顔を向けた。

 父親が風香の方に目を向ける。


 「お父様!」


 風香は父親の元に駆け寄った。


 「風香か……」


 父親が右手をゆっくりと上げ、その手を風香が両手でしっかりと握る。


 「ずっとお前の声が聞こえていた気がする」


 「え!?」


 風香は驚きの声をあげた。


 「暗闇の中で『お父様、お願い、頑張って』という風香の声が響いていたよ」


 (もしかして)


 風香は気与の水晶で気力を送っている時に何度も頑張ってと念じていた事を思い出す。風香の念も父親に届いていたようだ。


 「目が覚めた時お前が大事な存在であると改めて思い知ったよ……」


 「お父様……」


 「思えばお前には辛い思いをさせているな。涼原の次期総帥にふさわしくあるように厳しく躾けてきた。なんとしてもお前に継がせるんだという私の思いを押し付けてしまっている」


 「お父様……私……」


 父親の言葉に風香の目から涙がこぼれる。父親の目にも涙が浮かんでいた。


 「そうね、貴方はとても頑張っていたのに、いつの間にか私達の子だからそれが当然のように思うようになってしまったわ。本当にごめんなさい」


 母親が風香の肩に手を置いて涙まじりに謝る。


 「厳しく接してしまってすまなかった。お前がどうしてもというのなら、次期総帥の座は分家に譲っても構わないし、無理に分家に嫁がなくても良いからな。父としてお前の幸せを守りたい」


 「ええ、私も貴方の幸せを願っているわ。風香」


 「お父様……お母様……」


 両親に暖かい言葉をかけられ、風香の心の中で喜びと戸惑いの気持ちがごちゃ混ぜになる。


 (私のしたい事って何だろう?)


 恭一に言われた言葉を思い出しながら風香は考える。

 自分の事を涙を流しながら見つめている両親の姿を見て、考えがまとまってくる。


 (お父様もお母様もちゃんと私のことを見てくれてる。それなら私もお父様たちの期待に答えてあげたい!)


 「お父様、お母様、私これからも次期総帥を目指して頑張りますわ」


 風香が決意のこもった目で答える。


 「そうか……ありがとう」


 風香の言葉に父親が涙声で感謝した。


 「でも、これからは辛い時はつらいって、嫌なものは嫌って言おうと思います」


 「ああ……もちろんだ。お前の気持ちも考えるようにしよう」


 「ええ、そうね」


 親子三人で涙を吹きながら笑い合い、暖かな空気に包まれた。

お読みいただきありがとうございます。

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