家族に捧げる乙女の祈り
涼英総合病院の手術室の前で、風香は気与の水晶を握り締め、手術室のドアを涙をこらえて見つめていた。
すぐそばで執事とボディーガードが控えて立っている。
執事もボディーガードも心配そうな表情を浮かべていた。
「お嬢様」
執事に声をかけられ風香が声の方に目を向ける。
「ずっと立っておられますが、お座りになられた方がよろしいかと」
執事に言われて時計を見ると、父親が手術室に運ばれてから一時間が経過している。
「じっと座ってなんていられないわ」
「ですがそのままではお体に障ります。手術は長時間かかるようですし、お嬢様まで倒れられては」
母親も病院に駆けつけてきたが、手術が始まった後すぐにショックのせいか倒れてしまい、病室に運ばれて休んでいる。
「そうね……わかったわ」
風香が手術室のそばに設置してある椅子に目を向けると、メイドが二人並んで座っていて、肩を寄せ合って泣いている。
風香はメイドから少し離れて座ると、手に持った水晶を握り締めた。
(お父様……お願い……頑張って」
父親を思って強く念じる。
(私の気力をあげるから)
自分の気力が届くように念じて水晶を握る力を強くする。
(本当にごめんなさいお父様)
自分が気力を奪ったせいでこうなったのだと後悔する。
厳格な父親だったが人望はあった。
部下に厳しく当たることも多いが、その中にも優しさがあり、公明な人だとよく執事に聞かされていた。
慕われていたからこそメイド達も泣いているのだろう。
会う度に厳しい言葉をかけられる事が多かったが、体調の事を気にかける言葉も多かった。
(ごめんなさい。ごめんなさい)
心の中で何度も父親に謝る。
風香の頬に一筋の涙が流れる。
(お願い、私の気力、お父様に届いて!)
強く念じていると水晶が熱を帯び始める。
握った手を開いて水晶を見てみると中心の光が少し強くなっている。
(気力が送られているんだわ!)
父親に気力が送られているのを実感して涙が溢れてくる。
涙を拭うと、再び水晶を握りしめて念じる。
(お願い! お父様頑張って!)
気力を分け与えているためか体が少しだるくなるのを感じる。
風香は歯を食いしばってこらえながら一心に念じ続ける。
(お父様!)
すると、風香に近づいてくる足音が聞こえた。
病院に到着した恭一達は、受付で風香の父親の手術が行われている場所を聞いて、そちらに向かって走り出した。
「病院ではお静かに」
と看護師に注意されて早歩きで移動する。
手術室が見えて進んでいくと、風香が手術室のすぐそばの椅子に座って、両手を前に組んで一心に念を送っている姿が見える。
「涼原さんだ。行こう」
「はい」
恭一達が風香に近づこうとすると、
「失礼ですが、貴方がたは?」
スーツを着た女性が立ちはだかってきた。
「えっと……俺達は……」
自分達の事をどう説明しようかと恭一が戸惑っていると、
「いいの、その人達は通してあげて」
足音に気づいて念じるのを中断した風香が許可する。
「わかりました」
風香の言葉を受けて、スーツの女性が恭一達を通す。
「ごめんなさい。ボディーガードなの」
「仕事だから仕方ないよ」
恭一がそう返して風香の隣に座る。ルキエナは座らずにすぐそばに立った。
「奈月さん、助けられたよ」
「ホント?」
風香が目を見開かせる。
「ああ、間一髪だったけどね」
「そう……ありがとう神楽屋君、奈月を助けてくれて」
「いやあ、ルキエナがサポートしてくれたから」
「そうですか、ルキエナ様ありがとうございます」
風香が深々と頭を下げた。
「いえいえ、それより風香さんこそ懸命に気力を送っていたみたいですね」
ルキエナは風香の手を取って優しく声をかける。
「随分頑張って念じてくれてたみたいですが、これ以上続けるとふうかさんに負担がかかりすぎます。後は私に任せてください」
ルキエナは手術室に向かって手をかざして気力を送った。
「これで風香さんのお父様の気力は戻ったはずです」
「そうか、あとは手術が成功すればいいんだけど……」
「お父様……死なないで……」
三人は手術室の扉をじっと見続けた。
それから一時間ほど経過して、手術室の扉が開く。
執刀医が出てきて、その場にいた全員が詰め掛ける。
「先生……手術の方は?」
風香が執刀医に尋ねる。
「ええ、手術は無事成功しました。貴方のお父さんは一命をとりとめましたよ」
集まっていた全員が安堵のため息を漏らす。
「それでは病室に運びますので」
手術室から風香の父親がストレッチャーで運び出される。
病室に運ばれていく父親を見て、風香が倒れそうになる。
「おっと」
そばにいた恭一が風香の体を支える。
「涼原さん、大丈夫?」
「ごめんなさい、安心したら力が抜けてしまって」
「よかったね、お父さんが助かって」
「ええ、本当に!」
風香が恭一に抱きついてきた。
抱きつかれた恭一は驚いたが、風香が泣いていることに気づくと彼女が泣き止むまで優しく頭を撫で続けた。
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