飛翔への誘惑
渡り廊下に出ると外はいつの間にか雨が降っていた。
「勢いよく出てきたけど、会長どこにいるんだ?」
恭一は会長の行き先に心当たりがないことに気づき、焦り始めた。
「宝玉の残滓の気配を探ってみます」
ルキエナは目を閉じて精神を集中させる。
「すぐ近くに居るようです。高校の中ですね。高い所に反応があります」
ルキエナはそう言って目を開けた。
「高い所か……」
恭一は渡り廊下を移動しながら校舎の上の方に目を向けた。
「ん?」
校舎の屋上に人影が見える。
「あれ……もしかして……」
目をこらしてよくみると奈月が屋上のフェンスの外側に立っているのがわかった。
奈月は雨に打たれながら屋上の端に立って遥か下の地面をぼんやりとみていた。
「サア、飛ンデ楽ニナリマショウ」
心の中のもう一人の自分がそっと囁く。
「飛べば……楽になるのか?」
「アンタヨリモ風香ノ方ガズット生徒会長ニフサワシイジャナイ。何度トナクソウ思ッテキタハズ」
「……」
「今回ノ交流会ノ準備ダッテソウ、肝心ナ時ニアンタハ休ンダケド風香ハ休マカッタジャナイ。アンタ会長ノ自覚アルワケ?」
「それは……」
「アンタミタイナ役立タズ死ンダッテ誰モ困ラナイ。ムシロ風香ガ代ワリニ会長ニナルカラ喜バレルワ。サッキアンタ自分デ風香ニ電話シテタジャナイノ」
「ああ……そうだな」
奈月は手に持っているケータイを見つめる。
「フフフ、モウコレデアナタハ誰カラモ必要トサレナイ」
「私は誰からも必要とされない……」
涙が頬をつたう。
心に絶望感が広がっていく。
「飛ビナサイ。ソウスレバ楽ニナレル」
「ここを飛べば……」
「飛ビナサイ。ソウスレバ風香ト自分ヲ比ベテミジメナ思イヲスルコトモナクナル」
「飛べば……嫌な思いをしなくてすむ……」
飛んでしまおうという気持ちが段々強くなってくる。
「でも……落ちたら痛くないのかな?」
落ちた後の自分を想像して怖くなり、フェンスの方に後ずさった。
「大丈夫、痛イノハ一瞬ダケ、スグニ何モ感ジナイ安ラカナ場所ニ逝ける」
「安らかな場所……」
「ソレニ体ガ痛イコトヨリ、心ガ傷ツクコトノ方ガズットツライハズ」
「心の傷……うん……辛い……」
「飛ビナサイ」
何も考えられなくなってきて屋上の端に向かって足を前に進める。
「飛ベ」
屋上の端に立ってどんどん体重を前に預けて倒れていく。
「くそ! ここから間に合うのか!?」
今にも飛び降りそうな奈月の元へ恭一が全速力で走る。
「ルキエナ! 身体強化の加護ってこれ以上強くできないのか!?」
恭一がルキエナに叫ぶ。
「わかりました! 更に強くします!」
ルキエナが恭一に手をかざして加護を強化した。
恭一は自分の体がさらに軽くなったように感じた。
「もう中の階段を使っても間に合わない! 非常階段を駆け上がるぞ!」
恭一は上履きのまま校庭に出て、非常階段を目指しひた走る。
「うおおおお! 会長おおーー!!」
恭一の目に屋上の端でどんどん前に倒れる奈月の姿が映った。
「!?」
「そう……これで楽になれる……」
呟きながら奈月はどんどん前に体重をかける。
「ククク……ソウダソレデイイ」
屋上から足が離れる直前、心の中のもう一人の自分の声が消え、急に意識がはっきりしてくる。
「いや!? 待って!?」
奈月が踏みとどまろうとするがもう間に合わない。
奈月の体が屋上から落ちていく。
ぐんぐん地面が近づいてくる。
自分の身にもたらされる激痛と死を予感して心の底から恐怖する。
(いや! このまま私死んじゃうの!? お願い! 誰か助けて!!)
奈月は心の中で悲鳴をあげて助けを求めるが恐怖のあまり声が出ない。
「誰……か……」
消え入りそうな声をあげている奈月に、
「会長おおおおお!!」
という雄叫びが聞こえてきた。
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