二重に施された罠
「会長が死ぬって!? そう言ってたのか!?」
風香は涙ながらに奈月からの電話の内容を語り、それを聞いた恭一は驚愕した。
「これってやっぱり宝玉のせいなのか?」
答えを求めてルキエナに視線を向ける。
「ええ……そういうことでしょうね」
ルキエナが眉をひそめてうなずく。
「宝玉が力を封じられる直前に、残った力を奈月殿に集中させて自殺に追い込もうとしておるのじゃ。宝玉の狙いは奈月殿じゃったか!」
ウアルフェが怒気を孕んだ声をあげる。
「そんな! 私のせいで奈月が死んじゃうの!? いや! 奈月!!」
風香が両手で顔を覆って泣き喚く
「すぐに会長を止めないと!」
恭一が動き出そうと立ち上がる。
「待て恭一、風香殿の父君の事はどうするのじゃ」
「そうだった……」
ウアルフェの言葉に恭一が苦しげな表情で座り直す。
「宝玉の力の残滓が奈月殿の心を絶望に染めて自殺させようと唆しておるんじゃろう。時間の経過と共に残滓は消えていくがその頃には奈月殿は命を絶ってしまうじゃろう。風香殿の父君もこのままでは助かる見込みはない。宝玉め! 忌々しい手を使いおって!!」
「でも、どちらかが死んでしまったとしても……」
恭一は泣きじゃくる風香に目を向ける。
奈月と父親のどちらかが宝玉の力のせいで死ぬ。
そうなれば風香は自分のせいで死なせてしまったと思うだろう。
風香の心は折り砕かれ、絶望して抜け殻のようになってしまうに違いない。
「ククク、マアイイ、ドウセ風香トイウ娘ハ抜ケ殻トナル」
宝玉の言葉が頭をよぎる。宝玉の狙いに気づき、恭一の心にふつふつと怒りがこみ上げてくる。
「そんなことさせるかよ!」
恭一は叫んで立ち上がる。
「うむ、恭一の言う通りじゃ。そうはさせぬぞ!」
キューブから出た強い光が床の一部を照射する。
床の上に手のひらに乗るくらいの水晶が出現した。
恭一は近寄って水晶を拾い上げて観察する。
水晶の中心が淡い薄紅色の光を放っている。
「これは<気与の水晶>ですか?」
ルキエナが水晶を見ながらウアルフェに尋ねた。
「うむ、その通りじゃ。恭一、それをルキエナに渡してくれ」
「ああ、わかった」
恭一は水晶をルキエナに手渡した。
「それを風香殿に使わせれば良い」
「そういうことですか! わかりました!」
ルキエナはウアルフェの言葉にうなずくと、泣いている風香に近づいた。
「風香さん、泣き止んでください。奈月さんも貴方のお父様も助けられるかもしれません」
ルキエナは泣いている風香に優しく声をかける。
「え?」
風香は泣き止んで顔を上げる。
「この水晶は気与の水晶。この水晶を持って強く念じた相手に自分の気力を分け与えることができる神具です。風香さんは先程私を見ながらお父様を助けて欲しいと祈ってらしたので『縁』ができています。ですからこの神具を貴方に渡すことがことができます。この水晶を持って病院に向かい、お父様に気力を分け与えてあげてください」
ルキエナは風香の手をとって水晶を託すと、恭一の方に振り向いた。
「恭一さん! 私達は奈月さんを助けましょう!」
「ああ! もちろんだ!」
恭一が気合のこもった声で応えた。
「涼原さん、会長の事は俺達に任せてくれ。必ず助けるから」
「はい、よろしくお願いします」
風香は恭一達に深々と頭を下げる。
「よし! 行くぞ! ルキエナ」
「はい! 恭一さん!」
(会長、俺らが行くまで無事でいて下さいよ。お願いですから)
恭一は奈月の無事を祈りながら、ルキエナと共に体育館を駆け出た。
風香は恭一達の後ろ姿に頭を下げ続けた。
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