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穏やかな夕食

 

 「ただいま」 


 「お邪魔します」


 玄関で靴を脱いで廊下に上がり、壁にあるスイッチを入れて電気をつけ、恭一は改めてルキエナの全身を見る。

 公園の地面の上に倒れていたせいか、服や腕など所々が土で汚れていた。


 「あ、玄関で靴脱いでくれ」


 「ああ!すみません……」


 慌ててルキエナが靴を脱ぐ。


 「うーん、やっぱそのままの格好でうろつかれると部屋も汚れるしルキエナもそんな土ついたままじゃたまらないだろ? シャワー浴びてこいよ。ついでにその服も洗濯するし、あーでも着替えをどうするか?」


 恭一が腕を組んで考え込む。 

 ふと脳内にルキエナが何もつけずに自分のYシャツ一枚でベッドに座る姿、全裸にエプロン一枚でキッチンに立ちこちらに振り返る姿を妄想してしまう。


 (イカンイカン、何考えてんだ俺。欲求不満か?)


 頭を軽く振って妄想を追い出す。


 「それじゃお袋の服貸してやるよ。パジャマでいいか?」


 「いいんですか?あ、でも確かにこのままじゃお部屋を汚しちゃいますね。お言葉に甘えさせて頂きます」


 ルキエナがペコリと頭を下げる。


 「んじゃ風呂場に案内するからついてきて」

 

 恭一はルキエナを風呂場に連れて行く。そのついでに、


 「ここはトイレ、ここはキッチン」


 と間取りを説明していく。


 「こっちがリビング、風呂から上がったらここで待ってて。風呂はこっちだ」


 脱衣所に入り、恭一は洗濯カゴを左手に持ちながら、


 「脱いだ服はこのカゴに入れてくれ。お袋のパジャマと入れ替えておくからそれを着てくれればいいから――っておい! まだ脱ぐなって! 俺が居るだろ!」


 「あ、えへへ……」


 脱ごうとして服の裾を持ったままごまかすように笑うルキエナを見て恭一は、


 (なんか世間知らずというか羞恥心がないというか、本当に大丈夫かコイツ。放っておくとふわふわとどこかに飛んでいっちまいそうな感じがするんだが)


 と不安に駆られた。

 そしてため息をつきながら、


 「まあいいや、じゃあ替えの服とってくるから、その間入っときな。あー俺がここを出てからだからな?」


 「はい、わかりました」

 本当に理解してるのか怪しいほわんとしたルキエナの笑顔に見送られ、納得いかない顔で左手で頭を掻きながら脱衣所を出て、その扉を閉めた。

 母親の寝室に入り、タンスからパジャマと取り出した後、部屋にあるベッドを見やり、


 (まあ、もし泊める事になったらこの部屋で寝てもらえばいいか)


 と軽く方針を決めた。

 母親のパジャマを持ったままノックをして、


 「入るぞー」


 と一声かけて脱衣所に入り、


 「じゃあ、この服は洗濯するから。パジャマ、カゴに入れとくからな」


 「はい、わかりました。」


 洗濯カゴを覗くと公園で光っていた立方体が服の上に置かれている。


 (これ何なんだ?さっき喋ってたしケータイか?)


 恭一は首を傾げながらパジャマを洗濯カゴに入れてその上に立方体をそっと置き、ルキエナの服を持って脱衣所を出た。

 服を洗濯機に入れて、キッチンで電子レンジに焼肉弁当を入れてスイッチを押し、冷蔵庫にプリンアラモードとロールケーキを入れてミネラルウォーターを取り出して左手に持ったまま、一息いれようとリビングに向かった。

 リビングに入ると突然視界に肌色の大きな物体が入る。


 「!?」


 そこにはずぶ濡れで全裸のルキエナの姿が。


 「オマエ何やってんだ!?」


 恭一の叫び声にビクッとなったルキエナが、


 「あの、体を拭くタオルがどこにあるのかわからなくて」


 少し声を震わせながら答える。

 それを聞いた恭一が顔をしかめながら、右手を額に当てて、


 「あーそっか、すまん。教えてなかったな。取りに行くから脱衣所に戻ってくれ。つか手で隠せる所は隠して欲しい」


 「え? キャ!」


 今更ながら両手で身体を隠すルキエナ。

 恭一は必死に彼女の体を見ないようにしながら脱衣所に連れて行き、そこにある洗面台の脇の棚からタオルを取り出してルキエナに渡すと逃げるようにリビングに戻った。


 「だー! 失敗した!」


 自己嫌悪に陥り、恭一が呟く。同時にナイスプレイと喜ぶ自分もいて更に自己嫌悪。

 うなだれている恭一の背中に、


 「あ、あの……」


 ルキエナが声をかけ、恭一が振り返る。


 「あの、お風呂ありがとうございました」


 「あ、ああ。んじゃ俺もシャワー浴びてくるわ。テレビつけとくからよかったら見てて待っててくれ」


 早口でまくし立て、テレビの電源をいれると駆け足で風呂場に向かった。

 恭一は風呂場で頭を冷やすため冷水シャワーを浴びる。


 「うーむ、良いプロポーションしてたなあ――ってだめだ! 煩悩退散! 煩悩退散! うおっ寒!」


 本格的に体が冷えてきたので、素直に温水に戻して体の汚れを落とす。

 体を拭き、着替えてリビングに戻ってくるとルキエナがソファに浅く腰掛けてテレビを見ている。

 どうやらニュースを見ているようだ。


 『今日、午後三時頃、宝天市の路上で五百メートルの範囲で、十代から三十代の男女五人が倒れているのを付近の住民が発見し、警察と救急に通報してきました。警察の発表によりますと、被害者は命に別状はないものの、呼びかけても反応のない意識混濁の状態であり原因も不明で――』


 「うわ、なんだよこれ、うちの近所じゃないか。物騒だな」


 ニュースを聞いた恭一が感想を言いつつルキエナを見ると、


 「……」


 悲しそうな顔で画面を見ている。


 「ん? どうした? 知り合いが巻き込まれたとか?」


 「あ、いえ!そんなことはないんですけど」


 「ふーん」


 慌てて否定しているルキエナを見つめて恭一が考え込む。


 (なんかワケありなのか? まあいいや、言いたくなさそうだし)


 追求するのをやめ、話題を変えることにした。


 「んじゃ、メシにするか」


 ルキエナを食堂のテーブルに座らせて、彼女の分のカルボナーラパスタ弁当を温めて、彼女の前に置き、対面に座る。


 「それじゃ、いただきます」


 「いただきます」


 夕食を食べ始めると

 「美味しいですねこれ」


 ルキエナが実においしそうに食べる。


 「そりゃよかった。デザートも買ってきたし楽しみだな?」


 「はい、そうですね」


 嬉しそうに微笑んでから再び食べ始めるルキエナをみながら恭一は、こうやって誰かと夕飯を食べるのが久しぶりだったことに気づく。


 (なんかこういうのも悪くないな)


 少し微笑みながら恭一も再び弁当を食べ始める。それから食後のデザートを食べ終わるまで二人は穏やかな時間を過ごした。

お読みいただきありがとうございます。

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