進撃の幼馴染み
「このままだと俺の分の飯しか買ってないからコンビニに行こう。」
「コンビニですか?わかりました」
ルキエナの分の食事を買うために二人は公園を出てコンビニに向かう。
「実はコンビニって行ったことないんです。ワクワクしますね!」
ルキエナがはしゃぎ出す。
その様子を見ながら恭一が、
(え! コンビニ行ったことないってどこの田舎だ? それともお金持ちのお嬢様かなんかでコンビニに行く必要がなかったとか?)
と内心で驚く。
「そっか。でも近所だし知り合いがいるかもしれないから、あまりはしゃがないようにしてくれよ?」
「あ、そうですね。気をつけます」
「ほっ本当に大丈夫か?」
不安を抱きつつルキエナを連れて恭一はコンビニの店内に入る。
しかし、ルキエナは騒ぐどころか、
「うわあ……」
と声を上げたまま立ち尽くして店内を見渡し続けている。
どうやら品揃えの豊富さに圧倒されているようだ。
「ほら、あまり入口で突っ立ってると他のお客さんの邪魔になるから」
「はい。お弁当ですね? 恭一さんの持っている白い袋の中の物と同じ種類を買うんですか?」
「ん? 焼肉弁当か? いや、他にも色々メニューがあるから、よく見て決めればいいよ」
二人は弁当・惣菜のコーナーに向かった。
ルキエナはカルボナーラパスタ弁当を買うことに決めた。
「んじゃ、会計済ませて帰るか……ん? どうした?」
「……」
ルキエナがスイーツのコーナーで立ち止まって動かない。視線の先を追うとプリンアラモードを見ているようだ。
恭一はため息をつきながら、プリンアラモードを手に取って買い物カゴに入れる。
「え? あの?」
「欲しいんだろ? まあこのくらいなら問題ない。ただルキエナだけだと不公平だから俺もロールケーキ買うよ」
と言ってロールケーキもカゴに入れた。
それをあっけにとられて見ていたルキエナが、
「はい!」
と微笑みながら答えた。恭一はその笑顔から視線を外す。相変わらずルキエナの笑顔を直視し続けることができない。
視線を背けるついでになんとなく店の入口を見ていると、ある人物が入ってくるのを目撃する。
「げ!」
思わずそう声を漏らして、相手の視界から逃れようと腰を落として棚の後ろに隠れる。
「どうかしたんですか?」
小声で質問してくるルキエナに答えず恭一はその人物を目で追う。
「まずい、近所の知り合いだ」
入ってきた人物の名前は真田見晴、恭一の同級生で近所に住む少女だ。
いわゆる幼な馴染みというやつである。
見晴は入口で店内を見渡した後、雑誌の置いてあるコーナーへと歩いて行く。
「チャンス! 今の内だ!」
恭一達は素早く会計を済ませ、パスタをレンジで温めるのを断り、足早でコンビニを出て行く。
コンビニの駐車場まで出て、ほっと一息つこうとした瞬間、
「キョー?」
後ろから声をかけられた。
恐る恐る恭一が振り返る。
目の前に赤いTシャツに、デニムのショートパンツ姿で、サンダルを履いたショートカットの髪型の少女が立っている。
「よ、よう見晴。買い物か?」
「うん、ちょっと牛乳切らしちゃって。キョーは?」
「ああ、俺は夕飯買って帰るところだ」
「ふーん……で? そちらの女の子は?」
見晴が猫を思わせるその目でチロリとルキエナを見る。
「えーっと……」
恭一は不思議そうにこちらを見て小首を傾げるルキエナを見つめながら必死に言い訳を考えた。
「この子はお袋の海外の友達の娘さんでルキエナさんって言うんだ。この子の親御さんと一緒にこっちに旅行に来ててさ。しばらくうちに泊める事になったんだ。ルキエナ、こいつは俺の幼馴染で真田見晴」
「ルキエナです。よろしくお願いします」
ルキエナはおじぎをした後、笑顔を見晴に向けた。
見晴はその姿をほんのり頬を赤く染めて見とれた後、不機嫌そうに鼻を鳴らして恭一達から顔を背けた。
「ふーん、そうなんだ。真田見晴よ。よろしく」
と見晴が返す。
「ああ、そうなんだ。じゃあ俺らは帰るから。お前も遅くなる前に帰れよ。ご両親が心配するから。ルキエナ、急ごう俺ハラ減っちゃったよ」
恭一はこれ以上余計な追求をされる事を恐れて早口に会話を切り上げると踵を返して足早に立ち去ろうとした。
「ああ! キョー!?」
見晴が呼び止めるが、さらに歩く速度を上げて距離をとる。
「ええ? 恭一さん? それじゃ見晴さん。失礼します。」
置いていかれたルキエナが見晴におじぎをして、駆け足で恭一を追いかける。
「どうしたんですか? 恭一さん、いきなり早歩きで立ち去って」
追いついたルキエナが恭一に尋ねる。
「ああ、アイツはガキの頃から俺が少しでも女の子と話してると近づいてきてさ。すっげー機嫌悪そうにするからおっかなくて」
「そ、そうなんですか」
二人で会話しながら、恭一は背中に視線を感じている。
距離を開けながらも、見晴が付いてきていてこちらを監視しているようだ。
背中に冷や汗をかきながら恭一はルキエナを連れて自宅に入った。
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