夕暮れの邂逅
初投稿させていただきます。作品自体はある程度書きだめてあるのですが、手直ししながらの投稿となりますので、不定期連載となりそうです。申し訳ありません。それではよろしければご覧下さいませ。
「あー腹減ったな……」
そう呟きながら家路につく神楽屋恭一。
四月に無事に明涼高校に入学してから二年目に入り、クラス替えした自分のクラスにもようやく慣れ、ゴールデーンウィークも開けて五日目、やっと久々の休みに入るとほっとしながら、近くのコンビニで買った弁当のビニール袋を持ちなおし、いつものように近道するために、自宅近くにある公園を通り抜けようとすると非日常的な光景が広がっていた。
最初はマネキンが倒れているように見えた。
まさかこんな閑静な住宅街にある公園のど真ん中に人が倒れていうるとは夢にも思わなかったからだ。
近づいてみると髪の長い少女が倒れている。死んでいるのかと思ったが、僅かに指が動いた。
(生きてる)
そう気づくと恭一はすぐに少女に駆け寄った。
既に日も沈み、薄暗くなっていたので気づかなかったが、金髪で色も白く、いかにも外国人のようだ。元々英語の成績も芳しいとは言えず、どうしようかと一瞬戸惑ったが、持てる語学力をどうにか駆使しようと決意し彼女を抱き起こした。
顔を見ると息を呑む程の美少女で、年齢は自分と同じくらいに見える。目は閉じられていたが精巧な人形を思わせる整った鼻梁。形のいい唇。
思わず見とれてしまったが、慌てて我に返り、少女の体を揺らしながら声をかける。
「Hey! Hey!」
すると少女が目を開け、ほっとしながらも話しかける。
「Hey! Are you ok?」
「もうどうでもいいよ」
そんな日本語がふてくされた声で返ってきた。
途端に心配する気持ちも消え失せ、同時に少しばかりの苛立ちを覚える。
いっそのこと放置してしまおうかという考えが頭をよぎりつつ辺りを見回す。
すると、倒れている彼女の左手から五十センチ程離れた所に点滅して光るきみょうな立方体を見つけた。
少女の持ち物かと恭一が拾ってみると、
「聞こ――か? ――エナ。――をせよ」
突然声がする。
驚いて周囲を見回すが恭一と少女以外誰もいない。
「聞こえるか?ルキエナ。返事をせよ」
今度ははっきりと聞こえた。
よく見ると手に持っている先程まで点滅していたはずの立方体が、青白く輝き続けている。
「もしかしてコイツから声がするのか?」
恭一は注意深く立方体を観察しながら呟く。
「む?お主は誰じゃ?ルキエナではないのか?」
立方体が返事をする。どうやらこの立方体から声がするのに間違いないようだ。
「もしかして現地人か? 悪しき気配は伝わってこぬし……よし、そこの者よ、お主のそばに金髪の小娘はおらんかの? 居ったらそやつにこれを渡して欲しいのじゃが」
「金髪の小娘……もしかして?」
抱きかかえている少女を見る。
立方体を少女に握らせると、ぼーっとした表情で薄目を開けて焦点の合っていなかった瞳に精気が宿り、脱力して抱きかかえられるままになっていた身体に力が入り、少女が自力で起き上がった。
「うん? あれ?」
少女はしきりに自分の身体と周囲を確認しはじめた。
「ヤレヤレ、その様子だとうまくいってないようじゃな」
「申し訳ありません。ウアルフェ様」
立方体に向かって少女が謝った。
「回収したと報告が入って安心しておったら、急に警報が鳴り出すし、びっくりしたぞ。それで? 例のものは? 近くにあるのか?」
「へ? あれ!?」
少女が慌てて服や身の周りを探し始める。
服の胸元をはだけて中を見たりするので恭一としては非常に目のやり場に困った。
「すみません、落としたみたいです」
絶望に染まった表情で少女が立方体に告げる。
「そうか……回収した時に漏れ出た力にやられてしまったんじゃな。警報はそれで鳴ったのか。 あれほど回収時は注意せよと申したじゃろうが」
「申し訳ありません」
「まあ良い、こちらでももう一度調べてみる。一度通信を切るぞ。ああそれとな、お主が倒れているうちにそこに居る現地人の世話になったようだぞ。よく礼を言っておくように。それでは、後でな」
立方体から光が消えた。
その後少女の目が初めて恭一に向けられた。恭一も釣られて少女を見つめる。
目が離せなる紫色の瞳と美貌、背中にかかる位にまで伸ばした艶やかな金色の髪、不思議な光沢を放つシースルーのベールを腰の部分のリボンで縛った黄緑色のワンピースを着ていて、羽のついた妖精のようにも見える。
恭一がその姿に見とれていると彼女がハッとし表情を浮かべた後、恭一に頭を下げる。
「あの! ありがとうございました!」
「いえ、どういたしまして」
「申し遅れました。私ルキエナって言います」
「あ、どうも、俺は神楽屋恭一です」
「本当にありがとうございました。神楽屋さん」
ニコッと大輪の花が咲くようにルキエナが微笑む。
彼女いない歴=年齢の恭一にはその笑顔は眩しすぎて直視できず顔を背ける。
「お、応」
と応えるので精一杯だった。
「それで? なんかさっきの会話の感じだと後から連絡来るみたいだけど、待ち合わせ場所とか決まってるなら、もう暗くなってきたしそこまで送っていこうか?」
と恭一が尋ねると、
「えーっと」
と言いながらルキエナは視線を逸らした。
「ん?この近くじゃないのか? じゃあ駅まで送ってけばいいのか?」
と再び恭一が言い直して質問すると、
「え、えーっと」
少し悲しそうな顔をしながらルキエナが返答に窮していた。
嫌な予感をさせながら恭一は質問を再開する。
「なあ……」
「はい?」
「もしかして次の連絡があるまで行く宛がないとか言わないよな?」
「え、えーとはい、その通りです」
ルキエナが困ったように苦笑する。
「鞄とか持ってないようだけど現金は?」
「お金……持ってないです」
「ま、マジで?」
「はい……」
今度は落ち込んだ様子で返答するルキエナを見ながら恭一は考える。
このままルキエナと分かれると、彼女は行く宛のないまま一文無しで夜道を一人きりだ。
一方で恭一の家は両親共海外を飛び回る仕事についており、留守がちで一人暮らし同然だ。彼女一人泊めるくらい問題はない。
知り合ったばかりの女の子を泊めるという事以外は。
(でもほっとけないよな、やっぱり)
恭一はため息をつきながらそう結論づける。
「よかったらウチに来るか?俺以外誰もいないし今夜一晩泊めるくらいなら問題ないと思う」
「いいんですか!?」
ルキエナの顔がぱっと明るくなる。
「ああ、ルキエナさえよければ」
「ありがとうございます! 神楽屋さん!」
「俺のことは恭一でいいから」
恭一が照れながら顔を背けてそう言うと
「はい! 恭一さん!」
輝くような笑顔でルキエナが返事をした。
お読みいただきありがとうございます。