ー2ー
(落ち着け……落ち着け、大助!)
大助は右手の親指の爪を人差し指で擦りながら、状況を把握しようとした。
物心ついた時から、親指の爪を人差し指で擦ると何故か落ち着く癖が、大助にはあった。
(よし……、先ずはトイレに戻ろう)
トイレに戻ればなんとかなる、そう思った大助は岩を丹念に調べた。手で触り、目で見て確かめた。
岩は高さ約2メートル。岩の周り1周約8メートル。それほど凹凸もなく、青白くのっぺりした岩だ。
……勿論、ドアなど何処にもない。
それでも大助は、岩肌を叩いてみたり、側にあった石で擦ってみたり、その石をぶつけてみたり、色々試してみた。
2時間くらい経過しただろうか。
(……)
大助は呆然として、へたりと岩の前に座り込んだ。
自分はただトイレから出ただけだ。なのに目の前には草原。後ろには岩。空には数羽、鳥が飛んでいる。
(……ここ、どこ?)
気づくと涙が出ていた。見知らぬ場所にたった1人。帰るにも、どう帰っていいのかわからない。どうしていいかもわからない。
「……天誠ぁ……天飛ぉ……さゆりぃ」
2人の息子と最愛の妻の名を呼ぶ。
朝、3人に見送られて家を出た。いつもと同じように「いってきます」「いってらっしゃい」の言葉を交わして。下の息子は「ぱぁぱ」と言いながら、にっこり笑っていた……。
(なんで?)
いつも通りだったはずなのに、何故こんなことになってるのか。
(……帰りたいよぉ)
大助は家族を想って泣き続けた。
2人の息子の名前は、天誠=てんま、天飛=たかとです。