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第6話・やりたい事だけやる訳にいきません。

お元気でしょうか。


お父共私も元気です。


会いたいです。


何年会ってないでしょうか。


顔を見たいです。


タキはとても大事な子供です。

今年は会えるでしょうか。


楽しみに待ちます。


身体を大事に。

母から子へ。



代筆。

スォーン中央街アレーナ商店。










ミトラウス公国・南方。



深い森林とその中心を蛇の様に走る地割れ、長い年月がその亀裂を豊富な水の流れる谷へと変えた多くの生命が棲む一帯。



雨水が溜まる大小の陥没した地形。

地下水が湧き出る洞窟などが点在し、それらが地域全体の水量の維持に貢献していて、豊かさに繋がっている。



大きさの違う幾つもの植生が縦に横に階層を作り奥行きのある景色を生んでいた。



その森林地帯の木々の切れ間。



ミトラウス公国の生体魔導兵器、

ドラグーン改が三体存在して。


全長6メルには届くであろう彼らの足元で、3メル程度の大きさを持つトカゲに似た生物を数頭、大振りなダガーで解体している姿がそこにあった。



その解体作業をするドラグーン改の内1体が腹部にある防護装甲と開閉口を開いて、その体内から魔力回路を介し6メルの巨体を己の手足の様に動す2メルに満たない者の顔を覗かせる。



「2番機!解体手順は傍に付いてる上等兵に従えばいいんだ!さっさと進めろ!

冷蔵処理も有るんだぞ!分かっているのか!!」



顔を見せた途端に、近距離での通信装置からの声に負けず劣らず、ハッキリと聴こえる声量でそう怒鳴ったのは四十代のミトラウス公国軍少尉。



レェッケルンという生体魔導兵器乗りとしてベテランの軍人だ。



彼の言葉に反応して、少し離れた所で怖々といった感じでトカゲに刃物を入れていたドラグーン改から通信が入る。



《はい。申し訳ありません少尉殿。》



通信装置からレェッケルンに届くそれはまだ若い声だった。



「貴様は速成教育とは言え下士官だ!

足元で働く連中の大半より階級は上だと言う事を自覚しろ!

聞こえているな!タキ軍曹!!」



《はい、階級を自覚し速やかに任務を続行します。

御指導を有り難く思います》



「頼りになる下士官ってのは誰からも尊敬されるんだ、良くやってみせろ軍曹!!」




《了解しました。少尉殿。》



答えながらタキと呼ばれた若すぎる軍曹。



少年といって言いほど若い軍曹は通信装置を受信のみに【確実に】切り替えてから操縦席の中で悪態を【念の為に】心の中でだけついた。



(うるせえよ馬鹿たれ!

魔導兵器の素材になるってんだろ!?

大切だってのは分かってんだジジイ!

だからトカゲの上に乗ってる上等兵の指示に慎重に従ってんだろうが!

初めてだから確認しつつ進めてんだよ!

確かにてめぇより遅ぇがだったら尚更集中させろや!!)



いちいち周りに聴こえる様に肉声で怒鳴るんじゃねえと締め括り、少しもすっきりしない気持ちで仕事に戻る。




タキの目には──タキの乗るドラグーンの投影膜には。



数日前から偵察部隊が見つけておいてくれた群れ。


そこに味方部隊との連携で何体ずつかの少集団に分断をしてから、内一つの少集団を先程仕留めて倒したトカゲに似た大型の生物、アンクルリザードが映る。



支援、待機、交代要員と必要資材を用意させておいた位置へ、指示の元に追い込み現在に至る。



「・・・堅ぇし脂多くてぬめるし」



ドラグーン改のすぐ傍を含む周辺一帯には何十人もの支援要員、歩兵の姿が在ってそれぞれの仕事をこなしていた。



周辺の警戒、資材運搬、解体した生体部位の冷蔵処理。

稼動中のドラグーンへの指示、誘導、汚れにより切れ味が鈍化したダガーの清掃等々。



「・・・景色いい所で何で解剖仕事しなきゃならないんだよ」



解剖ではなく解体だが、単なる愚痴である為タキは言葉を考えていない。


生物を切り分ける慣れない光景。

しかも直接では無いとはいえ自分でやっている事もあり、気分は良くないのだ。





タキが臨時に組み込まれた彼らは、ミトラウス公国資源庁より出向する監督官指揮下の資源調達部隊に、軍部からの実戦部隊を加えた第68次資源調達特務編成群、第3行動部隊だ。




大きな声でタキに発破をかけて来た少尉は1番機に乗る操縦士であり。

階級、経験から【実質的な】この隊の指揮官に当たる。



本来の指揮官がいない事もタキは面白くなかった。





資源庁から群全体の指揮を取りに来ている上級監督官が一名。部隊監督官が3名。



彼等は2週間に渡り、各地にて主に生物を目標にした資源調達を行う部隊と共に動き。



【正式な】部隊指揮官として進捗を監査するのが仕事だが。



──文官としては国の財政、軍事力、動植物の分布調査や個体数調節による環境の保全、狩猟とも言える資源調達により生まれる不必要品の民間への売却等。


(必要量以上の皮、鱗、牙、肉。

不必要品の果実や鉱物、薪や建材としての木材、石材。等)


関係してくる部署が多い役職である為、評価を稼ぎやすい割に、実働においてはベテランの下級職員と学者、慣れている軍部の者に任せきりでも問題は少なく。



つまり楽な仕事の為、いつ頃からか権力が好物の上級貴族達の経歴に箔を付ける、丁度良いポストになってしまい。




それでいて退屈な仕事になりやすい監督官は、もはや赴任するやいなや緊急と言う名の皮をかぶせた視察業務(休暇)を作り出してしまうのが常態化しており。



その流れを受け、群においての指揮は軍部の人間が統率を肩代わりする事が多く──




(・・・くそ、上級貴族に顔を売る予定が・・・)



その結果、3つある部隊の内、タキが組み込まれたこの第3部隊はレッケェルン少尉と言う【平民階級からの叩き上げ】が統率を受け持っていた。



仕事だから馴れ合うつもりはないが、態度が強めな男のようで初日から不愉快な気分にさせられており、ストレスが溜まっている。



おかげでタキはやる気が上がらないのだ。



ただ投影膜には、年上の上等兵がダガーの刃に触れんばかりの近さで、角度や深さに指示をくれているのが映るのだから、さすがに手を抜く気は起きない。


気を取り直して作業に戻る事にした。



咳ばらいをしつつ

「あー、上等兵、引き続きよろしく頼む」など


下手に出るにも上から目線という矛盾に慣れない態度のタキだったが、上等兵はベテランらしくきっちり返事をしてくれた。





タキは魔導兵器を使ったり生体魔導兵器に搭乗するのは嫌いではない。



引き金を引くのは心が引き締まるし、大きな兵器に乗るのは逆に心が躍る部分もある。


言葉にするならば、好きに思える仕事、と言うのが適当な表現に当たる。





嫌いではないがしかし、今現在自分の置かれる状況をよく考えた場合は。


既に制御、運用に慣れつつある生体魔導兵器を行使しての任務、軍務を多くこなすより。



人脈を構築したり、世界情勢とは言わないまでもせめてミトラウス国内の事を幅広く、詳細に捉えられるように情報収集力を鍛えたり。


自分の味方になりそうな人材を探したりなど。


そういった方面に時間や手間を使いたいと考えているのが現状だ。




なのだが。




自分が受け持った分の解体を一段落させて機体を降り、休憩をしているタキに声がかかった。



「タキ軍曹、苦労だな」


「ムトラム曹長殿、・・・恐縮です」



彼から差し出された水を受け取り、タキは礼を述べる。



「・・・曹長殿は」



「もう少し砕けてくれないか軍曹、どうせなら年の近い者同士仲良くやろうと言っただろう?」


「・・・はい恐縮です」


気を遣い、話を振ろうとしたら尻を叩かれた。



「言ったろう?俺の任務は君の護衛だ。

中々上に期待されてるようだな。

将来有望な人間の役に立てるなんて光栄だよ」



君が出世したら自分に良い目を見せてくれよと、先日知り合ったばかりの曹長は笑った。



苦笑しながらタキは慎重に言葉を選ぶ。


彼からは、加護を受けているかどうかを聞かれていないのだ。



余計な事を聞かない人間なのか、既に知っているから聞く必要がないのか不明だった。



「有望など・・・自分の力不足を痛感するばかりです」



謙遜ではなく本気だ。



先日、特別訓練の名目で処理された状況において、半端なくおっかない目に会ったのと、強烈な睨みを効かされた事もあってタキは全体的に警戒心が増していた。



自身の能力は強力だ、万能だと思い上がっていたつもりはなかったが。

手強い相手は幾らでも居ると学んだ事が主な理由。



この曹長を監視と疑っているのもある。



「曹長殿こそ、その年で見事な階級かと。

ドラグーンにはお乗りにならないのですか?」


平民階層の出身だとしたら相当な物だと、タキは聞き返した。


「可もなく不可も無く、だな俺は、得意分野は他にある。

それに親がちょっとしたコネを持っててな、内緒だぞ」



安定して食いたいが為の軍属で、野心を持てるような力はないと彼は言った。



「では曹長殿は、どうやって自分を護衛してくださるのでしょうか?」



「かわいい女の子を紹介するからリフレッシュして、自分で自分の身を守ってくれ、というのは?・・・駄目かやっぱり」



「女の子ですか!

是非とも、よろしくお願いしたい所なのですが、若輩の私は自己研鑽で手一杯でして」



「むさ苦しい俺より、女の子にくっついてもらう方がいいだろう」



「ムトラム曹長殿は格好がよろしいと思いますよ」


人間関係を円滑にする軽い褒め言葉で返すタキ。


「お世辞でも嬉しいねえ、・・・はっ?

まさか俺を狙っているのか?」


「そこで、はい、等と答える訳にいかないのですが・・・」



そりゃそうだ、と曹長は笑った。


砕けた話し方だが、どこか品を感じさせる曹長の雰囲気に引きずられるように。

タキも失礼にならない程度で、くすりと笑みを浮かべて答えた。



(・・・わかんねえな、この曹長。

あの少佐の寄越した監視か、違うのか。

・・・知り合ったばかりでこの態度は大したもんだが・・・)



自分と年齢が三つ四つしか違わないように見えるのに、上司、部下としてではなく、人として仲良くやろうと努力して来ているのが分かるのだ。



それが軍人として良いか悪いかは疑問が残るが、余裕を感じさせる態度は頼りになりそうな風格がある。


(配置は偶然か、画策されたものかは別として・・・縁を繋いでおいて損はないか・・・?)



態度、口調共に軽いが、当然それだけの男ではないのだろうと、タキは彼を。


公国軍曹長ムトラム・クルスと名乗った男を評価した。








「手紙?俺・・・私にか二等兵?」



普段デスクワークを担当する官僚は2週間連続の野営には不向きだ。


その為に編成群は数日ごとに手頃な位置にある都市等に駐屯する事になる。



ミトラウス公国、重要拠点都市の一つアイロニィラウス。



面倒な手続きやら雑務やらを片付けて。


下士官、一般兵士用に借り上げられた宿で久しぶりの風呂を堪能。



食堂にて、ムトラム曹長、一回りは歳の離れた他の軍曹達と、地理やら生態系についての無難な会話をしつつ。



カリカリに焼いてもらった豚肉のソーセージと、付け合わせのチーズをつまんでいたタキの元に。

郵便物を持ったほぼ同年齢であろう二等兵が、声をかけてきたのだった。



「はっ!明日にすべきかと思いましたが、お急ぎかと思い、お持ちいたしました!」



「わかったわかった静かに、気を遣わせて申し訳な・・・済まないな。

あー、配達が終わった後、私の名前でワインと肉でも持ってけ、行ってよし」




「はっ!有難うございます!失礼いたします!」



ガチガチの二等兵が微妙な敬礼をやってしまい、タキの隣に座る軍曹が指導を食らわせようとしたのを宥めて、二等兵を下がらせる。



教育上良くないとは思ったが、久しぶりに酒を飲んでいる上官達がたむろする中に、郵便物を届ける役をさせられる彼を気の毒に思えてならなかった。



「・・・甘やかすのは為にならんぞ」


「私の顔を立てて頂き有難うございました軍曹殿、申し訳ありません。

今日は大目に見てやって下さい」



軽く睨んできた軍曹に同年代の誼みという事でと、タキは頭を下げた。







割り当てられた部屋に戻り、手紙を読んでみれば母親からのメッセージ。




面倒な・・・それが正直な感想だ。



口だけは回った日本の馬鹿な親と違い、こちらの両親はまあ・・・まともだった。



貧しいながらも必死で働き、食わせてくれたのには感謝の一言に尽きる。



父からは畑や大工仕事を、母からは裁縫や家事、簡単な計算等を。


釣りもやったし、山菜取りも習った、わがままを聞いてくれて学校へ行かせてくれたのにも頭が下がる。



幸せと言える。


少なくとも不幸だと思わずに育つ事が出来た位には。



・・・出来るならば、ずっと彼らの側で、静かに生活して行くのも悪くないかもと思える位には幸せだった。





ただ残念ながら、それを叶えるにはタキの両親は善良すぎた。




タキが少しずつ、この世界の一般常識や社会構造が見え始めるとそれを悪用したり、

出し抜いての利益を得ようとする行動などを、両親は許さなかった。




幼少期が終わりに近づくにつれ、両親からの自分に対する態度に、嫌悪感や戸惑いを感じられるようになるとタキは逃げるように家を出た。




以来会っていない。




上手く軍に拾われ、結構な対価を親に渡す事が出来たのが孝行だろう。




離れてみれば一人息子が居ないのが寂しいのか、手紙を送って寄越すようになった。



(・・・会えないよなあ・・・)


・・・タキにも未練はあるが、彼らに嫌悪感を持たれてしまうのはキツイ物がある。




(・・・甘えを断ち切って仕事をさせる為の工夫でもあったのか・・・善性、悪性ってのは)




だとしたら上手い物だと、タキは自分に加護を与えている神を、糞ったれだと評価した。




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