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第14話・集団は自分の都合のぶつかり合い

タキはさっきから上官に睨まれていた。


正確に言うと、タキが場にそぐわず浮いており、ジロジロ見てくる連中と気に入らなそうにしている連中が居て。

その中で取り分け、こちらを面白くなさそうに見ている上官が居た。



ツェンゾールの郊外に広い敷地面積を持って存在する軍施設、魔導局。

幾つもの部門が存在する重要拠点。




機体を損失した事で、資源調達編成群での任務を解かれたタキは、公都へ送り返された。



階級があるとは言え、元々は生体兵器訓練生としての教育中扱いのタキ。

また訓練の日々が来るかと思いながら教練隊へ到着した翌日、落ち着く暇もなく命令があるからそこへ行けと通達される。



何故か一緒に公都に帰還したムトラム曹長

(所属はどちらに?と聞くと、教練隊だと返されタキは苦笑い)と共に赴くと、要請された任務の前に技術開発部門の生体技術研究課に連れて来られた。


そこでタキに気付くと睨んできたのが、以前何度か共同で任務に着いた人間。



ビナ・マールマムーン中尉だった。


人造生体に対しての魔力伝導試験を指揮しているようで、タキと同じく十代後半なのだが、大人びた顔と豪華な貴族士官用の軍服が結構な存在感を出している。


顔見知りではあるが、自分はお気に召さないようだと感じ取ったタキは、邪魔にならないよう軽く挨拶を済ませると後ろへ下がった。



後は任務を済ませて戻ろうと思ったのだが。






綺麗な顔をしかめ、こちらに視線を飛ばしながら、手元を全く見ずに問題なく筆記をしている彼女。



(こっちを睨みながらよく手元で物を書けるよなあ…)


などと、タキが感心しながら周囲を見ていると、早くどっか行けと無言の圧力を感じ始めた。



手持ち無沙汰なので是非そうしたいのだが、タキをここに連れてきた彼女よりも上位の者がここを離れようとしてくれない。


更に問題はその上位の者が、何故かタキとビナの両者を絡ませようとしている事だった。



「―――リザード類は我がミトラウスのドラグーンの基本素体でな。

野生の個体でも時折同調性がいいのが居るのだがね…そう言えばタキ軍曹は先日、調達編成群に参加したそうじゃないか」


「はい」


「うんうん、君のような歳で立派に軍務をこなすなど、若者の鏡だな。

私は娘は居ないが、もしいたら、君のような若者を相手に選びたいね」


「…光栄です、少佐殿」


「ところで君は知性溢れる女性をどう思うかね?魔導技師等は?」



「は?はい…えー、国に取って欠かせない存在であるかと」


タキとのやり取りにうなずくと、今度はビナに話を振る。


「そう言えばマールマムーン中尉。

貴女は技師にもかかわらず生体魔導兵器の操縦士でもありましたな。

いや、お見事なものですな。才気溢れる、と言うものですな」


「恐れ入ります、少佐」



「お父上もよく戦功を立てられたそうですな。うんうん、正に武門のお家柄、我がミトラウスの誉れ。

そう言えばお父上も生体兵器に乗られたと…?」



「はい、今は後進を指導する職務にあります」



「うーむ素晴らしい、時を選ばぬ活躍ぶり…タキ軍曹聞いたかね?

マールマムーン伯爵家の方々は、このミトラウスの大切な柱と讃えられるお家柄だよ、どうかね、そう思わないかね?」



「は…私では想像もつかない重責、ただ頭が下がる思いです」



命令で呼ばれ訳の分からない会話に付き合わされるタキと、仕事中に邪魔をされるビナ。


貴族の家系と言うだけで地位を手に入れているその少佐殿は、両名どころか周りの人間まで迷惑がっている事には気付かない。



タキに付かず離れず同行していたムトラム曹長は、その光景を退屈そうに見ていた。


「ヘタだねぇ…あの少佐…」







結局、昼食の時間まで喋り続けた貴族の少佐殿。

今度はタキとビナ、両名に一緒にお昼をどうかと言ってきた。


真面目な顔と申し訳なさそうな顔でビナが丁重に断り、タキは作法と階級を理由に丁重に断った。


途端に少佐は怒りだし「無礼な平民め」だの「せっかくの誘いを」だの、タキにだけわめき散らして何処かに行ってしまった。


ムトラムは笑いを堪えている。



タキは何となくあの男の性格が見えたが、一つだけ分からない。


「……呼ばれた理由は何だったんだ?」

まさか昼の供をさせる為に呼んだのではないだろう。



しかし

「……同行した方がよろしかったのでは?」


彼は将来身を立てそうな人間に目を付けるのが仕事だと、淡々としたビナの説明にタキは呆れつつ納得して、「作法に明るくないのは本当ですから」とだけ返した。



タキの反応を疑いの眼で見るビナは


「……あの程度の相手には乗らないか……当然かしらね」

などと口の中でつぶやいた。






納得いかないが、用件は無くなったらしいとタキ達は帰り支度を開始する。



「…よろしければ。私の方でお願いしたい事があるのですが、手をお貸し願えませんか?」


ビナが、許可はこちらで取っておきますので、と話を持ち出した。














≪ドラグーンへ、次は100メルの目標を狙撃してください。

小さな火力でどこまで維持できるかを調べたいので、威力は可能な限り弱める式でお願いします。

…ムトラム曹長、次はまた数を増やしますので可能な限り、同時に射撃をお願いします…撃った後にどの位で魔導器の熱が平常に戻るかを測定して下さい。射出しますよ≫




魔導局の敷地内にある射爆場。


そこに炎や雷。水や風、それぞれの基本的な武装で射撃をしているタキとムトラムの姿があった。



タキは練習機の簡易型ドラグーンで遠距離狙撃を繰り返し、ムトラムは複数目標の同時攻撃を担当。




ビナが依頼してきたのは試作発現機を登載した機体、魔導器の使用データ取得だった。



簡易型ドラグーンには試作発現機が一つだけ積まれていた。

それは現行機に比べると砲身が小さく短くなっており、質量が単純に減っている分がタキには心許なく感じられる。


しかしいざ試してみると、術式の起動は問題なく、軽く短い為に機体を振り回しやすい。

なにより熱の発生が抑えられている点が評価できた。



ムトラム曹長の使う魔導器は重歩兵用と言うべき大きさで、片腕を肩まで覆う形状…腕用の鎧とムトラムは評している。

こちらは純粋に使用者の攻撃力、防御力を上げるのが目標らしく、小型の発現機を3つ積んだ贅沢仕様だった。


ムトラムは「どんどん来ーい」などと打ち上げられる木片を撃ち落としている。



3時間ほどビナの要求通りに射撃を繰り返し、一旦休憩となったところで意見を求められた。






「4基?ドラグーンにあれを4つ積むって事?…失礼しました積むという事でしょうか、中尉殿」


ビナから試作型の発現機は、小型化軽量化で最大4つ積める計算になると言われたタキの反応がそれだった。



「ええ機体を少し大きくする必要があるけれど…お気に召しまして?」


「……いつ頃、4基搭載型が生産されますでしょうか…」


もしあれば先日の象さんはもうちょっと、何とかなったかもしれない。



タキの反応は満足のいく物だったのか、彼女は若干機嫌を良くする。

しかし返ってきた内容は


「バスターホエールの素材を使いますから現状では発現機を10基しか作れません。量産は難しい物があります」



年間に1~2体の死骸が揚がるだけ、しかも買い取り額が高い帝国側に流れるその名前を聞いて、タキより先にムトラムが顔をしかめる。

「そんな稀少な物がよく手に入りましたね…使用して問題なかったんですか?」



「ええ、当家で手に入れて私が試作した物ですので」


「……左様ですか。ちなみに生きてたんですか?」


「生きている個体が捕まれば苦労はしません……南で漁民が確保していた個体から一部を買い取れただけです」


そりゃそうだとムトラムは肩をすくめる。


ピンとこないタキは

「…稀少なんですか?中尉殿、軍曹殿」等と聞いてみる


「ご存じないの?軍曹」


「あぁ~、とタキ軍曹。

南に貿易港と湾があるんだが、水上戦機のテンタクラーをまともに使う部隊はそこしかない。

で。このテンタクラーはドラグーンと大体同レベルの戦力と計算している」


このテンタクラーを、体当たりと尻尾のひっぱたきで軽く10体は潰してくるのがバスターホエールだとムトラムは説明してくれた。


「割りに合いませんね…」


「だろう?…欲しいか?肉が美味いらしいぞ」


冗談ぽく言ったムトラムにタキは、苦笑して諦めますと返した。




「それで曹長は、使用した装備はいかがでしたか」


タキへの説明を待ってくれたビナに軽く謝罪しつつ、ムトラムは答える。


「重い、の一言に尽きますね。

運用次第ではこれを装備した歩兵2~3人で人造生体1機を撃破可能と見込みます。精鋭が、ですよ。

しかし消耗が多く使う人間を選ぶ物になっていますな。

一級拠点都市に集中配備して、防御戦にという所かと」



「野戦での使用を前提に考えたのですが…」

ビナの顔が曇る。

彼女は、歩兵の打たれ弱さを改善するのが目的だと食い下がったが、ムトラムは遠慮しない。



「持ち歩くだけで疲れます、数を揃えるなら輸送速度も行軍速度も周りの枷になりますね。

繰り返しますが防御用としては水準以上です、欲しがる連中は居ると思いますよ」


使う連中の何割かが、野戦に流用を出来るレベルだろうと締めくくる。



ビナは面白くなさそうな、傷付いたような顔をする。


「…曹長は実…演習のご経験が?総合評価は…?」


「…?15の時に志願いたしまして、帝国との演習は年に3、4度は。総合評価はBです」


精鋭だ。

思わぬベテランぷりにタキが驚くが、ムトラムは便利に使われているだけだと笑った。



ビナは息をつくと、もう少し付き合うように言ってくる。


それは技術研究の為と言うよりは、個人的な興味が強く出ている物だった。









きりの良いところで、終了となり宿舎に帰る途中でムトラムが飲んでいこうと言い出した。


真っ直ぐ帰ろうと主張するタキに対し、「曹長様だぞ。一杯だけ、ちょっとだけ、いいじゃんいいじゃんなーいいじゃんいいじゃん」と駄々をこねだし、適当な店に引っ張り込まれる。


タキは苦戦の末にアルコールを口にせず、ムトラムを自力歩行が可能な状態で連れ出す事に成功した。


ご機嫌なムトラムに肩を貸すタキ。



そのまましばらく歩いていると不意に


「ガラスヤはありがとな…」


「………曹長もでしたか」


ゴッツ大尉の指揮下で走り回ったとムトラムは言い出した。


「ドラグーンが踏ん張ってくれたお陰で大分死なずに済んだからなあ。だからありがとう~」


「…いえ、自分は何も」



「すごかったよなあ、ドラグーン隊は。あそこまで戦えるなんてな」


「自分は逃げ回っていただけですよ、お礼は他の方にどうぞ」


タキは頭を撫でられ軽い調子で返すが、内面は話に集中していた。


この話題は迂闊な事を言えない。




「あれ…お前が助けてくれたんじゃないかと思っている…」


「………」


タキは、不自然でない程度に沈黙。次いで「そうですよ」と答えにやりとする。


ムトラムも、にやりとした。


二人で「くくくくく」などと笑う。


「やっぱりお前か?」


「ええ」


「やっぱりお前なんだな?」


「ええ」


「どうやったんだ」


タキはあらかじめ手順を決めてあったと説明する。


「いよいよとなったら全員で分担して逃げようって、味方は少尉と曹長が、壁はもう一人の曹長と軍曹が」


「そうか………ん?……お前は……?」



「自分は自分を運ぶので精一杯でしたよ」


胸を張るタキ。


「なるほどなあ……ってお前は何もしてねえじゃねえか~このこの」


「いたたっ!すみませんすみません!調子乗りました」


表向きの説明をきちんとこなした。



「だから曹長殿は自分にい~っぱい、恩にきてくださいね」


「ばかやろ~」










二日後、タキはイダンクイユと再会、挨拶もそこそこにまた新しい任務を受ける。


帝国への使節団、それに護衛を兼ねた参加者として同行せよと。


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