4月28日 クラウン・トラッシュ
4月28日、天候晴れ。
4月28日の夕暮れ。夕陽が教室の中に差し込むその頃、僕、天塚柊人は書類を見ていた。眼鏡をかけているけれども、これはあくまでも気分作りのためにかけているのだが。
「なぁ、天塚部長。オレはどうしてこんな所で待たされてんだ? 新入生と言うくくりでいやー、万里の奴も対象に入るはずだぜ?」
と、雰囲気に耐え切れなくなったのか、風華さんがそう言う。まぁ、それも当然か。彼女が苦手に思うだろうと思って、この格好にしたのだから。言わば、彼女のためにこの格好にしたと言っても過言ではないのだから。
「その格好、そしてこのシチュ。オレはあんまり好きじゃあ……」
「君の好き嫌いは聞いてないよ、朝比奈風華さん。と言うよりも、苦手に思うからこそこの格好にしたと言っても良いくらいなんだから」
「てめえ、それはどう言う……」
その言葉を答えさせる前に、僕は1本指を立てて口を閉じさせる。その意図をくみ取ったのか、風華さんは文句の声を閉じた。それを見て、うんうんと頷く僕。
「そうそう、僕の予想通りだね。とは言っても、話を聞いた時から、そう初めから分かっていた事だけれども」
「だから何を……」
「君は不良のように振る舞っているが、実質はそうではない。不良の振りをしているだけだよ」
それに対して、風華さんは何も返さず、ただただ黙ってこちらをじっと見ていた。僕はそんな風華さんに対して言葉を続ける。
「不良の持ち味である暴力と言う行為が通じない、いや世間的に使ってはいけないとされる先生。しかも、相手の方は気が弱そうで、暴力で応戦しようとしているタイプの人間じゃなければなおさらだ。先生と言うのは、不良としてふるまう君にとって、扱いづらい強敵に見えるだろう。
―――――――と、君の話を聞いた僕はそう考える。君はそれを計算していた」
「…………」
「けれども可笑しいんだよ。先生に対抗するほどの会話力を今すぐにでも手に入れたいと思っている君が、この部活に入って長期的に会話力を養おうと考えている。その時点で可笑しいんだ。君の行動は不良としては矛盾している」
他にも色々とある。
文句を言いながらも蓮華の差し出したお茶をちゃんと持った所とか、それに今の1本指を見せて話を止めるよう催促した所とか。彼女が本気になれば、断る事だって出来るはずなのだ。なにせ、2つとも強制行為では無く、あくまでも流れ的な行為であるから。
本当の不良だったらこうはいかない。僕は本物の不良、縁を知っている。彼女が憑いた時の水鏡栗花落はハチャメチャだ。
自分が伝えたい事はまっすぐ伝える。やりたい事はやる。自分がうっとうしいと思った事は、例え善意の行動だとしても受け取らない。
不良とはそう言う物なのだ。
「まぁ、最もそう言った行動をする不良も居るには居る。世間体を気にして、先生や社会的な評価を外側だけ厚くしようとする不良もね。見かけだけは、優等生を演じつつ、裏でこそこそ暴力行為に走るなんてのも、日常茶飯事だ」
「…………」
「けれども、君はそうじゃない。
君が所属している1年生のクラスのゴミ出し、それに毎朝何故か違う花が活けられている花瓶。
―――――――それをやっているのは、君だろ? 不良の朝比奈風華さん」
「…………」
沈黙。つまりは、事実上の肯定か。
「朝比奈風華さん。君は道化だ。不良を演じようとしている、普通の高校1年生の女子生徒だ。けれども、優等生を演じるならともかく、不良を演じるのは果たしてどう言う意味があるんだ?」
―――――――良ければ聞かせて欲しい。
僕は不良の皮が剥がれかけている、朝比奈風華さんにそう聞くのであった。